演奏

人間椅子ワンマンツアー

TEXT & PHOTO:鈴木亮介

人間椅子。その唯一無二の世界観は「文芸ロック」と評され、バンド結成から早四半世紀を迎えた今日でも色あせることはない。むしろ、近年は人間椅子結成時に生まれたのでは?というくらい若い20代の男女から、とりわけ熱烈な支持を集めている。小室ファミリー全盛の時代に青春を過ごし、純文学よりケータイ小説、図書館よりカラオケ、ゲーセンが流行ったこの世代が、なぜ人間椅子にハマるのか。その理由を探るべく、まさにその世代、27歳のフクヘンこと私スズキが今回、人間椅子のツアーに初参戦した。

 
 

12月19日、東京。クリスマスを前ににぎわう渋谷の街に、彼らの巨大看板はひときわ異彩を放っていた。そして、80年代バンドブームを謳歌した世代はもちろんのこと、その一回り下と思われる若年層も、列を作って開場を待っている。これだけ幅広い年代を虜にする人間椅子おそるべし、である。受付の扉が開き、入場が始まると、5分もしないうちに最前列が熱心なファンによって陣取られた。
 
 


 


さあいよいよ開演!和装の和嶋慎治(Vocal&Guitar)、白塗り・袈裟姿の鈴木研一(Vocal&Bass)、派手なシャツに身を包んだナカジマノブ(Drums)がそれぞれ定位置につき、新譜『此岸礼讃』より「阿呆陀羅経」で、今宵のショウが開幕!歌詞の通り、まぶたの「炎がメラメラ」になり、「羯諦(ぎゃてい)!羯諦!羯諦!」(=直訳すると、「Let’s go!!行こうぜ!!」)と頭を振る、オーディエンス。早くもノリノリだ。
 
 


 


「今日は月曜日という最悪な曜日にライブをしてしまいまして、申し訳ありません…」そんな鈴木研一のMCに、ワッと湧き立つ観客。「(2曲目に)聴き慣れない曲をやってしまいましたが、これは「鬼」というかなり前の曲でありまして、まぁボクが北朝鮮について歌った曲で…」と続け、笑いを誘った。ちなみにこの日は金正日死亡がトップニュースになった日だ。人間椅子のライブは、味のあるMCも魅力の一つだ。時にほのぼの脱力系、時に説話チック。何と言うか、穏やかな世界史の先生が生徒たちに講和してくれているような、そんな安心感が、20代を惹きつけているのかもしれない。
 
 


 


「今年は一年中冬みたいな年だった。色んなことがある。でもその中にあって、全く素晴らしい春、新しい春を迎える。それは自分次第で変わる。…そんなことを歌にしてみたんです。」和嶋慎治のMCに続いて披露されたのは、ニューアルバムより「春の匂いは涅槃の薫り」。雪の中からふきのとうが芽を出すような、パワフルな前奏のギターリフが心に染みる。4曲目は「泣げば山がらもっこ来る」と新譜からの選曲。
そして、先般亡くなった立川談志への哀悼を込めて…和嶋慎治が渾身の落語を披露。そのまま、「品川心中」へと続く。さらに、早いテンポの「ギラギラした世界」で湧き立つ!
 
 


 


「今昔聖」から「踊る一寸法師」へ。情念の噴出したかのような即興演奏に合わせ、鈴木研一が鬼気迫るパフォーマンスを繰り出す!拍手がいつまでも鳴り止まない。
そして、彼らのルーツであるBLACK SABBATHが再結成したことにちなんで披露されたのは、リスペクトソング「サバス・スラッシュ・サバス」そして「Into The Void」のカバー!ビッグネームと言えども、どう考えても20代は通っていないはずの道だ。ギター青年ならともかく、客席には若い女性のグループが多い。それでもこれだけ皆が拳を挙げ一体感が生まれているのは、ただただ純粋に、「かっこいい音楽」を愛するがゆえであろう。
 
 


 


新旧織り交ぜた選曲に、都度歓喜するオーディエンス。メンバー3名も波に乗り勢いづいている様子で、それは和嶋慎治のこんなMCからも垣間見える。「人間椅子はもう20枚アルバムを出していまして、ノブ君が入ってから5枚。B’zさんと同じ頃にデビューしまして、アルバム枚数では僕らの方が多いんです!」そしてファーストアルバムから「人間失格」をチョイス!往年のファンから「懐かしい~」とため息がもれる。
 
 


 

 
「楽しいでしょ!俺もめちゃめちゃ楽しい!」満面の笑みで語る、ナカジマノブ。普段はトーク控え目だが、今宵は「いっぱい喋ろうかな」と宣言。なんとこの日、出番間近にも関わらず自分の衣装が届かず、パンツだけでステージに出る…という夢を見たのだとか。そんな夢の中で、「俺に合わせてくれたのか、ちゃんはふんどし一丁、そして和嶋君は裸にたすきだけだったんだよ!」夢の中でもとことん仲良しな3人!会場からは黄色い悲鳴が飛び交う。続いて「俺が歌っちゃってもいいですか~?!」ハイテンションなMCに匹敵するくらい陽気なドラムロールで「猿の船団」を披露!さらに、ロックンロールテイストの強い「青い衝動」!ラストは「悪魔と接吻」、そして看板曲「針の山」!

 


 


あっという間に全曲終了。これほど観客が一体となって、拳を高々と挙げ、同じリズムで乗り、怒涛のように笑うライブがあったろうか。今まで「一体感」という言葉を自分は軽々しく使い過ぎていたのではないか、と思えるほどの一体感、連帯感を感じるライブであった。
鳴りやまないアンコールの拍手の中、ほんの少し間を置いて、メンバー再登場!和嶋慎治はTシャツ姿に、そして鈴木研一は白装束に。「人面瘡」「恐怖!!ふじつぼ人間」の2曲を披露。そして二度目のアンコールは「相剋の家」。まるで映画のクライマックスのようなサラウンドに、うっすら泪さえ浮かぶ。
 
 


 

 
人間椅子の持つ唯一無二の世界観。それは、往年のロックサウンドを彷彿とさせる楽曲もさることながら、彼らの文学的ともいえる詞によるところも大きいだろう。今宵、最後の曲がなぜ「相剋の家」だったのか、しばらく考えを巡らせてみた。激動の2011年の締めくくり。そして、次の年へ。思えば今回のツアータイトルは「冬来たりなば春遠からじ」だ。
 
生きている 生きてはいない
生きよかな 生きるのよそうかな

 
冬の次には、必ず春は来る。表現者として四半世紀走り続けてきた、彼らの言葉は重い。そして、説得力がある。
前を向き、走ろう。そんな気持ちが沸々とたぎり始めた。
 


 

◆人間椅子 公式サイト
http://ningen-isu.com/
 


ニューアルバム
『此岸礼讃』発売中!


 
◆セットリスト
M01. 阿呆陀羅経
M02. 鬼
M03. 春の匂いは涅槃の薫り
M04. 泣げば山がらもっこ来る
M05. 品川心中
M06. ギラギラした世界
M07. 今昔聖
M08. 踊る一寸法師
M09. サバス・スラッシュ・サバス
  ~ Into The Void
M10. 見知らぬ世界
M11. 人間失格
M12. 猿の船団
M13. 青い衝動
M14. 悪魔と接吻
M15. 針の山
 
-encore 1-
M16. 人面瘡
M17. 恐怖!!ふじつぼ人間
-encore 2-
M18. 相剋の家