演奏

TEXT & PHOTO:桂伸也

80年代、Yngwie Malmsteenを発端としてブームが始まった超絶ギタリスト。ムーヴメント。その後へヴィ・メタル音楽の一時衰退と共に、その進攻は成りを潜めたかに見えたが、元々が高い音楽性を追求した現れともいえるその姿勢は崩れず、今も多くの新しいミュージシャンが、ひっきりなしに登場している。その超絶テクニック派の第一人者として君臨している、日本を代表するギタリストの一人、Kelly SIMONZ(Guitar)[以下Kelly]。常にその動向は、レベルの高いコアなファンを中心に注目を浴び続けている彼だが、この日「頭でイメージした音を歌とギターで表現するLIVE」と題した、一風変わったタイトルのイベントが企画された。果たして、彼の「頭でイメージするもの」とはどのようなものなのか?そしてその「表現」した結果とは…?
 

 
hana
 

第一部 ~Ks アコースティックSection~

 
コンセプト・ステージということもあり、ロックのライブのように、「行くぞ!」という掛け声は無く、静かにステージに現れ、アコースティック・ギターを手にするKelly。様々なテーマを用意したこの日のステージを楽しんでもらう為の配慮が感じられる。淡々と準備を進めながらも、ジョークを交えたアットホームな会話が更に会場の雰囲気を和ませる。
 
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「あと2~3年で『題名のない音楽会』に出られたらと思うのですが、どなたかそういう太いパイプをお持ちの方がいらしたら、紹介していただければと思うのですが…」そんな冗談が嘘のような美しさを醸し出す、彼のギターと声。Kellyといえば、どうしてもその超絶ギターのイメージを持ってしまうが、ハイトーンの伸びやかな声で歌っている姿からは、“彼に出来ないことは無いのか?”という錯覚すら覚える。その完成度の高い演奏と、ユニークなMCのギャップがユニークであり、彼ならではの楽しさや魅力を感じる。

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3曲を演奏した後で、カホンにYosuke(Drums)を入れる。カホン一つでKellyの演奏を盛り上げ、歌は益々味わい深く響き渡る。締めはサビの「Ride the Wind,Ride the Storm」というフレーズが印象的な、被災した福島に送った歌「Ride the Storm」、そしてあのWhitesnakeの名曲「Fool For Your Loving」へ。意外性を多く含んだボサノバのリズムでの演奏。しかもそのコードはJazzyなドミナント・モーションを含んだ構成で、このあたりも彼のロックに留まらない引き出しの大きさを感じさせる。
 
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第二部 ~頭でイメージした音を表現するSection~

 
引き続いたセクションは「頭でイメージした音を表現するSection」。第一部が曲をオーソドックスにプレイする形態だったのに対し、今回のイベントの趣旨ともいえる、「頭でイメージした音」をプレイするフェーズに突入する。そのオープニングとしてまずフリージャム。自ら弾いたバッキングをループさせ、その音にか本、ギターを合わせてプレイするというスタイル。少ない人数でのセッションで非常に効果を発揮するスタイルだが、ここでハプニング。バッキングをループさせるマシンの不調か、うまくループできない。エフェクトペダルを操作しながら様々な試行をするKelly。が、そこにはまったくあわて動じる様子は無く、相変わらずのマイペースなトークは、フロアの観客を和ませていた。また、この試行錯誤する様はまるで、ライブステージではなく “Kelly SIMONZ” という一ミュージシャンが、音を作り上げているスタジオの様子を垣間見ているようでもあり、このセクションのテーマでもある「頭でイメージした音を表現する」という様子の一編を暗に示している様にも見えて非常に興味深い。

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ようやくセッティングの再確認が終わり、プレイへ。アクシデントとは裏腹に、ツボにはまった彼の力量の深さを感じさせる凄まじいまでのプレイを披露し、いつしか何もいわなくても、フロアでは自然に手拍子が現れる。続いて「頭でイメージする」ターゲットとして取り上げたのが、ヴォーカルのヴォイス。先ほどの第一部でも見せた伸びやかなヴォイスのベースとして取り上げたのはJourneySteve Perry、一部のラストでも聴かせたWhitesnakeDavid Coverdale、更には意外なところで安全地帯玉置浩二と、ヴォーカルにもバックグラウンドの広さを見せる。どの歌もKellyならではの歌を載せた演奏だが、その真にはこれらリスペクトするアーティストの歌心を彼なりに吸収した成果を感じさせ、彼の考える「頭でイメージする」ものが単純な何かの模倣でないことを証明した。最後の演奏、「EXILEに歌ってほしい」と、ジョーク交じりに彼が語ったオリジナル曲「Forever Of The Moment」では、またそれまでの演奏では見られなかったソウルフルな雰囲気を演出。その無限に広がる彼の可能性に、改めてフロアの観衆は、ただステージに見入るばかりだ。

第三部 ~クラッシックSection~

 
そしていよいよギターをストラトキャスターに持ち替え、彼のプレイの真骨頂ともいえるエレクトリックのセクションへ。ここではクラッシックのナンバーとしてあまりにも有名なものを厳選し、ギターで彼が表現できるイメージを最大限に表したセクションとなる。幻想的、牧歌的な「アヴェ・マリア」、Smetanaの原曲のイメージそのままに、広大な川の流れを表したような「モルダウ」荘厳かつスケールの大きさを感じさせる「威風堂々」、そして移り変わる季節をイメージし、メロディに感じる哀愁感やダイナミズムを絶妙に変化させる「四季」と、取っ付き難いイメージがあるクラッシックの名曲をロックに、そしてキャッチーなイメージとして見事に演奏し切る。
 
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最後は名匠Beethovenの「悲愴」へ。ここでドラムに再度Yosukeが登場、更に自由なイマジネーションを働かせながらも、一音にまで気を込める集中力の高い壮絶なプレイでフロアを沸かせた。このセクションでは、曲の本意を理解し、いかに料理すべきかというKellyの手腕が発揮された、見事なサウンドが、またしても「頭でイメージする」部分を強く現したかのようだった。
 
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第四部 ~頭でイメージしたふひと~

 
続く第四部ではまた趣向を変え、Kellyの弟子の中でも秘蔵っ子といえるふひと(Guitar)が登場し、Kellyがベースを弾くという貴重なステージに。見るからにまだ若いふひとは、Kellyに勝らぬとも劣らない超絶テクニックと、その若さからは想像も出来ないようなギターでの歌心を披露し、フロアの観衆を沸かせる。
 
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このセクションでは、ふひとのファンタジックなセンスに驚愕させられるとともに、単に「頭でイメージする」ということを第一者であるKellyだけでなく、第三者であるふひとというプレイヤーを登場させることにより、更にイメージしたものを具現化するというポリシーを強調したようにも見えた。
 
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第五部 ~Full Band Section~

 
いよいよステージは佳境に入り、本日のテーマともいえる集大成的な部分に入る。バンドとしてベースに、Kellyが絶対的な信頼を寄せるKobby(Bass)が登場、フルバンド形式で“超絶!!”という面だけでなく、ロックであること、そして彼の音楽である結晶を披露する運びとなった。
 
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ブルージーなメロディを歌いながら、熱いギターを聴かせる「Time」から、クラシカル・ギター・スタイルの頂点ともいえる程の異次元サウンドを聴かせる「OPUS#1」へ。息をつく間もないほどに続く音列の構成にただ仰天する観衆。壮絶なプレイは、短いこの日のイベントの中で十分過ぎる程の、彼の音楽に対する世界観を映し出し、音楽の可能性自体を広く感じさせた。そしてアンコール。更にヒートアップした「Silent Scream」より、最後には「デスペラード」を、エレキギター一本で歌うというまた貴重なステージに。この移り変わりの激しい曲構成の中でも、彼の歌が際立たせられるという、計算し尽くされたこの日のイベントは、こうして幕を閉じた。
 
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hana
 

ギタリストとして、そしてミュージシャン、コンポーザーと様々な面で多彩な活躍をするアーティストとして、この日新たな挑戦を行ったKelly SIMONZ。この日の進行は、途中で起きたハプニング等も含め、ポリシーに従いながらも音楽を楽しめる、有意義なライブとなった。通常では見られないイベントの為、出たとこ勝負の実験的な箇所もあれど、それらの不確定部分すら「頭でイメージしたものを表現する」プロセスの一部として認識できるものと見ることが出来る。更にそのプレイで見せた彼ならではの流麗な演奏は、果てしない彼の世界観を実現する要素として必要なものであることを、改めて認識することができるだろう。

次に作り出す、彼の新たな世界はどのようなものか?その頭にどのようなイメージを浮かべ、そしてどのように現していくのか?アーティスト、Kelly SIMONZに対する興味は尽きない。引き続き、その動向を追っていきたい。