演奏

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TEXT:桂伸也 PHOTO:桂伸也、栗林啓

 
今回紹介するTRUMPは9人組のファンクロックバンド。ドラム、パーカッションにギターと鍵盤、さらには豪華な管楽器隊と、本格的なアンサンブルを構成したグループだ。自らのスタイルをファンクロックと称する彼らのサウンドは、跳ねた16ビートが主体の、いわゆる「大人のロック」といったゴージャスな雰囲気が魅力。結成は2009年、本数こそ少ないがワンマンライブでの活動を主体とし、結成時からすでに本格派を目指した活動を繰り広げている。
 
残念ながら先ごろ活動休止が報じられた彼らだが、そのクオリティの高さを誇るサウンドとアンサンブルを待ち望む声も多い。近々活動再開とのうわさもあり、彼らの活動再開が望まれる理由を検証する意味で、改めて昨年11月に新宿Gramsteinで行われたワンマンライブで彼らが見せたプレイの模様を振り返ってみよう。
 
◆メンバーリスト:
Emmy(Vocal)、amagon(Trumpet)、(Alto Sax)、TARO(Tenor Sax)、Genius(Guitar)、Ryo-ske(Bass)、MA-KUN(Keyboards)、King(Drums)、美穂(Percussion)

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この夜会場となったGramsteinは着席による観覧で、盛大な手拍子や歓声よりも、酒や食事を合わせて楽しむようなリラックスした雰囲気。そんな中でTRUMPのメンバーは現れた。MA-KUNがオープニングで鳴らしたオルガンによるなめらかなイントロ音は、その会場のアットホームな空気をさらにゆったりとしたものにするのにピッタリだった。そしてRyo-skeによる前説が行われるといよいよステージはスタート。オープニングは「Cry for the Moon」。Ryo-ske、King、美穂による穏やかな16ビートのリズムの中、ハーモニーを作るGeniusMA-KUN、そしてさりげなく入ってくる3管のハーモニー。Kingの打ち出すリズムは、なめらかなハーモニーの中でタイトなリズムを作り出し、彼らのスタイルのロックという部分を強く表現しているようだった。
 
そんなアンサンブルの中で、ゆっくり響いたEmmyの声。しっかりと抜けてくるはっきりした声であるが、無理にソウルっぽさを意識しない真っ直ぐな声。それがリズムの中ではっきりと描かれた絵のように見えた。彼女の歌をはじめ個々のサウンドのバックグラウンドはそれぞれ個性を持ちながらも、しっかりとしたハーモニーが形成されているところがTRUMPの魅力だ。Emmyのヴォーカルに続くように、amagonの歌うようなソロが、曲の印象をさらに強めていく。
 
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Emmyが歌の中で作り上げる抑揚感に合わせ、要所で出てくる3管のハーモニーが秀逸なサウンドを作り出した。amagonを中心にTAROとしっかりしたサウンドを出すメンツがそろっているだけに、このアンサンブルはまるで定規で測ったようにピッタリと合わさり、かつ歌うような印象を聴くものに与えてくれる。そしてEmmyの歌に続くソロではプレイヤーそれぞれの歌心を盛り込んだメロディを朗々と歌い上げた。バリバリのチョーキングが盛り上げるロックギターソロもロックの魅力ではあるが、彼らのようになめらかに響かせるソロも、心地よくライブを楽しむ要因の一つとなる。
 
出だしの「Cry for the Moon」「Trace」では、どちらかというとスムーズ・ジャズのようにゆったりとした空気の中で哀愁味を作り上げていたが、続いた「Over」ではファンクロックを自称するバンドの本分とばかりに跳ねたリズム感を見せた。弾むようなRyo-skeのベースラインに合わせて深い味わいを作り出すGeniusのギター。どっしりとしたKingのリズムの上で奥行きと彩(いろどり)を作る美穂のパーカッション。一見、種々のパートが存在するため、ハーモニー重視とも見られるサウンド構成は、実はリズムに並々ならぬこだわりがあると見られた。その中でもソウルになり過ぎないEmmyの歌は、不思議とよく抜けて聴くものの耳に飛び込む。弾むようなリズム感と澄んだようなメロディが、会場に程よい心地よさを充満させていった。
 
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4曲目の「ユートピア」をプレイし終えると、Emmyがこの日を迎えた感謝の思いをフロアに伝えた。そしてGenius美穂、そしてEmmyの3人のみとなり、Sixpence None The Richerの「Kiss Me」を、アコースティックという雰囲気そのままにプレイする。ここにはファンクという雰囲気はなかったものの、広大なアメリカンロックを感じさせるピュアな空気を醸し出し、TRUMPの別の一面を見せた。さらにボサノヴァ的雰囲気の「More than Lemonade」と、彩り豊かな素敵な時間を演出していった。
 
続いてGeniusのループエフェクターを使ったソロタイム。MA-KUNと作り出すハーモニーの中でも感じられるのだが、彼のギターはそのものズバリのロックというよりはジャジ―な、繊細な雰囲気を感じさせる。そんな特徴から、他の楽器の音とバッティングせずグル―ヴィーなサウンドを聴かせる良いポジショニングができることに長けている。ここで聴かせた単音のソロでも単純なアドリブに落ち着かず、コードトーンを堅実に追いメロディを大切にしたサウンドを聴かせた。続いてインストナンバーの「ルーシーは魚の夢を見る」へ。柔らかなホーンのメロディと、切なさすら感じるMA-KUNのピアノソロ、そしてGeniusのギターソロがボサノヴァのリズムに程よく溶け込み、グル―ヴィーな雰囲気を会場の中に作り出した。
 
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そしてEmmyもステージに戻りいよいよ後半。和やかな雰囲気の中、ソウルフルな「ドロップ」で再びステージの流れは進んだ。前半より少し跳ね具合が強くなったそのグルーヴに、観衆も思わず体も動き出しそうな雰囲気、いよいよ「ファンクロック」バンドとしての本領発揮といったところだろうか。情感たっぷりのEmmyの歌に絡むのサックスソロ、そしてamagonのトランペットソロが抜群にオシャレでカッコいい。
 
前半とは違う、躍動感溢れる空気が会場に満ちる。このリズムになると本領発揮とばかりにRyo-skeがその存在を前に出し始めた。エレクトリックアップライトベースとエレキベースを曲によって使い分ける、マルチなセンスを持った彼だが、やはりファンキーな16分の走り出すようなリズムになると彼のベースラインは一層輝きを増すようにその音に存在感を見せていった。そして彼のベースラインに乗り、バンド全体の音がグルーヴを増した。
 
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いよいよステージはクライマックスへ。Jamiroquaiのナンバー「deeper underground」で、この日一番のファンキーでロックなノリを醸し出すと会場はもうTRUMP一色に塗りつぶされた。リズムはグルーヴを保ちながらも個々の音はますますの張りと輝きを見せ始めた。体全体が動き出しそうな気持ちの良いリズム。あくまで裏方に徹していたGeniusのギターのカッティングも鋭く、そして弾むようにリズムを刻んでいった。その音に触発されて、さらにサウンドに彩を与えていくホーンのハーモニー。
 
情感豊かに響くEmmyのヴォイス。そこにはファンクな部分よりどちらかというとロックなセンスとスピリッツが見える。その彼女のストレートな表現をさらにホーンが盛り上げていった。そしてエンディング。楽しさが溢れる「Fragment of my Self」で会場をしっかりと乗せ、この日のステージを見事に締めくくった。
 
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◆ 公式サイト:
http://tokyo-trump.com/

◆セットリスト:
M01. Cry for the Moon
M02. Trace
M03. Over
M04. ユートピア
M05. Kiss Me
M06. More than Lemonade
M07. ルーシーは魚の夢を見る
M08. ドロップ
M09. 白い朝
M10. On Wednesday
M11. deeper underground
M12. Never be the same
M13. キャメル
M14. Fragment of my Self

あっという間の時間だった。ロックという一つのイメージだけでTRUMPのステージ観戦に臨むと、「ロックとは違う音楽ではないか」という雰囲気を感じるかもしれない。しかし、改めてそのサウンドに注意深く耳を傾けてみれば、その音楽性や趣向の広さには誰もがどこかで琴線に触れるような魅力を感じるに違いない。まるでトランプの絵柄のようにバラエティな個性を持った彼らは、ロックというベースの中で様々なスタイルを持っている。それは「こうでなければならない」という固定概念を崩し去った、もっと柔軟なポリシーのようにも見える。この日のステージは、それを深く感じたステージだった。その素敵なサウンドが再び披露されることを、今はただ信じ見守りたい。