演奏

lead_art

TEXT:菅野美咲


木下理樹(Vocal & Guitar)と戸高賢史(Guitar)から成るオルタナティブ・ロックバンド、ART-SCHOOL。2000年に結成し、同年9月に1stアルバム『SONIC DEAD KIDS』をリリース。美しく純度の高いポップな曲調と轟音ギター、そして木下理樹のあどけなく危なげなボーカルで表現する独特の“うた”の世界観を全国のオーディエンスに印象づける。2005年6月にはレーベルを移籍し、ライブで披露され続けてきた 「何もねえ!」を連呼する強烈なインパクトの人気曲『あと10秒で』をリリース。同年10月にはエンジニアにTony Dooganを迎え、 グラスゴーでの初海外レコーディングとなる3rdアルバム『PARADISE LOST』をリリース。 メンバーも「最高傑作」と口を揃えるART-SCHOOLの代表作となる。2010年には結成10周年を祝う「ART-SCHOOL 10th ANNIVERSARY KINOSHITA NIGHT SPECIAL」を初の日比谷野音にて開催した。

メンバーの脱退を経て、2012年からはサポートメンバーに中尾憲太郎(Bass)、藤田勇(Drums/MO’SOME TONEBENDER)を加え、キューンミュージックへ移籍。同年8月には3年ぶりとなるオリジナルフルアルバム『BABY ACID BABY』をリリースした。絶えず進化を続けるART-SCHOOLの魅力に迫るべく、2012年秋に開催されたツアーのファイナルとなる新木場公演、さらには自身初となる台湾公演をレポートしたい。

9月から始まったART-SCHOOLのツアー「BABY ACID BABY TOUR 2012」 のジャパンファイナルが新木場STUDIO COASTで迎えられた。新体制となって1年、ツアー25本目の集大成は前体制でのラストライブと同じ会場、サポートメンバーは中尾憲太郎(Bass)とMO’SOME TONEBENDER藤田勇(Drums)。
 
19:00ジャスト、暗転。待ちわびた1音は中尾憲太郎のベーススタートの「BABY ACID BABY」。ツアータイトルとダブルネームのその1音にフロアの興奮が一気に凝縮され、張り詰めていた空気が大きく振動する。3曲目にしてキラーチューン「水の中のナイフ」ではイントロから既に沸点。熱を帯びた戸高賢史のギターサウンドにドラムとベースの重力が加わり、木下理樹のかわいた声がオーディエンスを蒸発させる。間奏の度に木下理樹はマイクを離れ、その瞬間に4人が放出するエネルギーをかみしめていく。そしてオールハンズアップなフロアにシルバーナイフのようなロックを投げかけ、覚醒の宣戦布告を容赦なくたたきつけていく。
 
「こんばんは。まだ、台湾公演を控えていますが、日本のツアーファイナル、ぜひ、楽しんで帰ってください」と言葉を選ぶように慎重に述べると、「左ききのキキ」「DIVA」「イディオット」と挑発し、フロアは感情が爆発したようにダイブで応える。続く「FLOWERS」で木下理樹はハンドクラップをうながし、フロントマンとして鋭利なサウンドをリードする。
 
しかし、MCでは一変、咳払いも出来ない空気が張り詰め、木下理樹はどんな言葉を残すのかという緊張が継続。その緊迫感に耐えられないと言わんばかりに木下理樹を照らしていたライトがフェードアウトし、自身も「え…なんで…」と戸惑い、苦笑い。フロアからの「頑張れー!」という励ましの声に混じって「きのこー!」というからかいがとびかえば、再度ライトアップされた木下理樹に拍手が送られる。「あ、こんばんは……きのこっていうな。…えー、ちょっと静かな曲を4曲くらいやります。静かっていってもですね、燃えている感情があるので…」なんて、自身でも収拾がつきそうにないMCをぶったぎるようにしてドラムカウント、「クロエ」。そして「ちょっと懐かしい曲なんですけど」からの「LOVE/HATE」にオーディエンスは圧倒され、ART-SCHOOLが魅せる美しいストーリーに立ちつくす。
 
「皆さんもどんどん自己責任でダイブ、モッシュ、ありとあらゆる危険な行為をやってください。こっからあげる曲しかやんないんで、ねぇ」という宣言通り、そこからは4人もフロアも制御不能。「Love will found you, in the end」「MISS WORLD」と耳鳴りが止まらないロックを浴びせ、「WISH LIST」「ロリータ キルズ ミー」では今日いちのダイバーで溢れ返る。そして「We’re So Beautiful」で完全勝利ともいえる本編を締めくくった。
 
20:40、アンコールを求めるハンズクラップに木下理樹は片手をあげて応える。ツアーを共にしたゲスト、全国各地のオーディエンス、スタッフ、そしてかつてのメンバーで現在のサポートドラム桜井雄一に感謝を述べ、「まだいけますか?」と確信犯のように問いかける。目まいをおこしそうな「I hate myself」「スカーレット」と続き、さらに「あと10秒で」を披露。「なんもねえ」というネガティブなワードのリフレインに反比例するように、新木場のオーディエンスは前向きにうなずきあい、そしてダブルアンコールへ。木下理樹はいつもの手順でフライングVを肩にかける。そして、問いかけた。「もし僕がダイブしたら、支えてくれますか?」。
 
オーディエンスのアンサーは「イエス」でも「ノー」でもなく「かかってこい」。これは単なるダイブの予告でもなければ一時的な問いかけでもない。これまでART-SCHOOLの進んできた方向の確認と共有、その確信を持って「車輪の下」の間奏で身を投げるようにしてフロアに飛び込んだ。ART-SCHOOLのネクストステージを暗示する夜だった。
 

◆2012.11.09@新木場 セットリスト
M01. BABY ACID BABY
M02. SHAME
M03. 水の中のナイフ
M04. Negative
M05. サッドマシーン
M06. CRYSTAL
M07. WHITE NOISE CANDY
M08. INA-TAI(BREATHLESS)
M09. Chelsea Says
M10. JUNKY’S LAST KISS
M11. 左ききのキキ
M12. DIVA
M13. イディオット
M14. FLOWERS
M15. クロエ

M16. LOVE/ HATE
M17. Pictures
M18. Love will found you, in the end
M19. MISS WORLD
M20. BOY MEETS GIRL
M21. WISH LIST
M22. ロリータ キルズ ミー
M23. UNDER THE SKIN
M24. FADE TO BLACK
M25. We’re So Beautiful
-encore-
M26. I hate myself
M27. スカーレット
M28. あと10秒で
M29. 車輪の下

そんなネクストステージを予感させた新木場から1週間、その期待は台湾で実現する。思えばその時からこうなることは決まっていたのだ。真のファイナルでツアー26本目の舞台はTHE WALL TAIPEI。自身初の海外公演でツアーの完結を迎え、未知で未完の手ごたえを切り拓いて見せた。
 
THE WALL TAIPEIは後方が段差になっており、フロア頭上にはシルバーのミラーボール。ジャパンファイナルが行われた新木場STUDIO COASTになんとなく似ている構造だ。そしてライブハウスに続く階段は開場前から長蛇の列で、ファンはツアーTシャツをばっちりと着こなす。「BABY ACID BABY」とプリントされたトートバッグもよく目立つが、飛び交う言葉はオール北京語。ここは台湾なのだ。
 
20:00開演、日本時間21:00。ステージカーテンの向こう側には現地ゲスト、透明雑誌。2012年には日本でメジャーデビューを果たし、台湾版ナンバーガールとして話題に。そんな彼らはクリアでピュアな台北ロックを抑揚と共に響かせる。本家ナンバーガールであった中尾憲太郎含むネクストバッターのART-SCHOOLのメンバーらも一般客に交じり、リラックスした様子でメイド・イン・台湾のオルタナティヴ・ロックを味わった。
 
20:45、日本時間21:45、セットチェンジ。フロアは青いライトに包まれる。新木場では客入りのライトは赤だった。そしてSEがかかると同時に、フロアの「ようこそ」という歓迎の感情が最大限の歓声に詰め込まれ、「BABY ACID BABY」の初期微動が台湾に上陸した。
 
メンバーの憧れであったアメリカ・シカゴのエレクトリカルオーディオスタジオでレコーディングされた同曲は、約3ヵ月のツアーの中でいつだってライブの開始を告げるアラームで、日本で丁寧に精錬されながらツアーを支えて続けた。そのツアー25本分の熱量を背負って、26本目のプレイボールのサイレンが鳴らされた。5曲目「サッドマシーン」では中尾憲太郎が「もっと」とあおるように左手をつきあげれば、割れんばかりの歓声、そして木下理樹が「センキュー」と告げ、なんと北京語でのあいさつを披露。そしてそれまでとは一変した曲調と雰囲気の「CRYSTAL」で一気に世界を変え、オーディエンスは心地よい空間を堪能した。
 
木下理樹が「えー、台湾に来れて嬉しいです」と不器用に告げた後に沈黙が張り詰めれば、「頑張ってー!」と新木場のデジャヴュのごとく励ましの声があがる。フロントマン・木下理樹は、ここぞという時に決めてくれる。新木場でもそうだった。戸高賢史の「Are you ready?」という問いかけに続いて木下理樹が「Are you ready?」とフロアに投げかけると、歓声と共に「We are ready!」というレスポンス。木下理樹は「OK, here we go」とフロアを誘い、アクセル全開で「スカーレット」へ突入した。このワンフレーズにこそ、ART-SCHOOLのこれからと全てが凝縮されている気がする。
 
そしてその全てを台湾は受け入れ、惜しみない親しみと全力のエールで還元する。それが顕著に表れたのが12曲目、「FLOWERS」を鳴らし終えた後に響いた「日本語でもいいよー!」という声。試しにとばかりに木下理樹が「元気ですか?」と尋ねると「はーい元気です」とばっちりな日本語が返ってくる。これには「あ、通じるんですか?」と本人もびっくり。そして安心したように「じゃあ、えーっと、クロエって曲を、やります」と、そんな和やかな空気にお似合いの「クロエ」の音を刻んだ。そして普段より丁寧に言葉を選びながら、台湾の優しさに応えるように、「台湾は初めて来たんですけど、みなさん親切で優しいんで大好きです。また来ます」と日本では聞けそうにないストレートな言葉を述べ、本人も照れくさそうな様子を見せた。
 
そこからはフラッシュのような「MISS WORLD」「WISH LIST」そして「ロリータ キルズ ミー」「UNDER MY SKIN」「FADE TO BLACK」といったキラーチューンをトップスピードでたたみかける。そして戸高賢史が「今日がツアーのファイナル、THE WALL、来れて良かったです。みんなありがとうございました」と締め、本編ラスト、「We’re So Beautiful」の最後の音を鳴らし切ると同時に「アンコール!アンコール!」という激しい切望で空間が埋め尽くされる。
 
その願望に応えるようにメンバーがステージに再登場すれば、「「あと10秒で」ききたい!」の声。まさかの要望にメンバーは藤田勇の元に集合、作戦会議。その様子はまるで、ノーアウト満塁でピッチャーの元にナインが駆け寄る感じ。しかし形勢はまったく逆。ノーヒットノーランかつ完全試合、彼らは完璧に勝ちに行くのだ。決め球を決めたかのように各々のポジションへ、セットリスト変更、「車輪の下」。まさかの展開に歓喜とハンドクラップが止まらない。右斜め45度に響く「アイソレーション」のリフレインに台湾がゆれる。そしてお待ちかね「あと10秒で」。そのハイライトで、木下理樹がオーディエンスとゼロ距離でギターをかかげて弾いてみせると、フロアから求めるように手が伸びる。そして木下理樹はギブソン・フライングVと共にそのままフロアに吸い込まれた。
 
自ら飛び込んだ新木場STUDIO COAST、その反対に宙に浮いたように吸い込まれたTHE WALL TAIPEI。ここは彼らの現在地で、新木場で暗示したネクストステージの序章にすぎない。「もし僕がダイブをしたら、支えてくれますか?」と発した新木場の夜…そして「OK, here we go」という木下理樹の宣言通り、時差マイナス1時間を追い越すように駆け抜けた台北の約40分は、確実にART-SCHOOLのバイオグラフィに刻まれた。そして試合はまだ続く。ART-SCHOOLにゲームセットなどないのだ。
 
  

 

 
◆2012.11.16@台湾セットリスト
M01. BABY ACID BABY
M02. SHAME
M03. 水の中のナイフ
M04. DIVA
M05. サッドマシーン
M06. CRYSTAL
M07. Chelsea Says
M08. JUNKY’S LAST KISS
M09. スカーレット
M10. 左ききのキキ
M11. イディオット
M12. FLOWERS
M13. クロエ
M14. LOVE/HATE
M15. Love will found you, in the end
M16. MISS WORLD
M17. WISH LIST
M18. ロリータ キルズ ミー
M19. UNDER MY SKIN
M20. FADE TO BLACK
M21. We’re So Beautiful
-encore-
M22. 車輪の下
M23. あと10秒で
 
◆ART-SCHOOL 公式サイト
http://www.art-school.net/
 
◆透明雑誌 公式サイト
http://www.toumingmagazine.com/
 
◆インフォメーション
5000枚限定ミニアルバムリリース決定!!
2013年3月13日発売予定『タイトル未定』
定価:1,800円(税込)
 
◆KINOSHITA NIGHT2013
・2013年03月23日(土)【渋谷】AX
出演:ART-SCHOOL/THE BACK HORN/tricot/DJ:細美武士(the HIATUS)
・2013年03月24日(日)【渋谷】AX
出演:ART-SCHOOL/BIGMAMA/0.8秒と衝撃。/DJ:細美武士(the HIATUS)

 
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