演奏

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TEXT:桂伸也、児玉圭一


ロックという音楽が誕生して幾年、もうそのスタイルはとても1冊の本ぐらいでは語りきれないほどに細分化、多様化したが、その中でも大きなムーヴメントの一つとして取り上げられているのがプログレッシヴ・ロック。その存在がクローズアップされたのは70年代、今でも一つのカテゴリとして一つの地位を占めているのは、それがジャンルとして存在する意義を皆が認められているからに他ならない。かつてあった1ジャンルではなく、常に新しいものであり、この音を人々が求めているからだ。例年、夏の終わりに日比谷野外音楽堂にて開催されている『プログレッシヴ・ロック・フェスティバル』は、正しくプログレッシヴ・ロックの意味を再認識できる貴重なイベントといえよう。今回はこの夏に行われた『プログレッシヴ・ロック・フェスティバル2012』の模様を、出演バンドである、VAN Der Graaf Generator、John Lees Barclay James Harvestの、前日、前々日に行われた単独公演の模様と合わせて振り返ってみよう。
 

 
1~2日目(川崎Club Citta’:2012.9.23,24 桂伸也)


 
フェスティバルへ向けて行われたVAN Der Graaf Generatorの単独公演、この日が実質プログレッシヴ・ロック・フェスティバルの幕開けと考えてもいいだろう。
一つのスタイルに拘らない、むしろ様々なアプローチを試み、ロックという一音楽に大きな可能性を見せるものこそプログレッシヴ・ロックの本質ともいえる。そしてプログレッシヴ・ロックのファンは、どちらかというとどれか一つのバンドのファンというよりも、様々な音楽を楽しみ、多彩な音楽を趣向とする者が多い傾向にある。それ故にこうして2日の単独公演、そして後日行われた『プログレッシヴ・ロック・フェスティバル』を全て堪能したファンも少なくない。平日の夜にもかかわらず、この日のフロアも多くの観衆がフロアを埋めた。
 
1)「VAN Der Graaf Generator」単独公演(2012/8/23)
 
◆メンバーリスト:
Peter Hammill(以下、Peter: Guitar,Keyboards &Vocal)、Hugh Banton(以下、Hugh: Keyboards &Vocal)、Guy Evans(以下、Guy: Drums)
 
広大なホールのフロアに設置された座席。そこに現れたのはやはり普段のロック・コンサートのようにわれ先と争って最前列を狙うようなロック・ファンではなく、もっと落ち着いた筋金入りのプログレッシヴ・ロック・ファン達。年齢層は高く、腕を組んでお手並み拝見、とばかりにその開幕を待ちわびている姿が見える。体が自然に動く、というよりもそれぞれの心を揺り動かす旋律を、アーティストが放ってくれることを心から渇望しているのだ。
 
そして、オープニング。リラックスした雰囲気の中、拍手が会場を包む。そしてPeter の「Good Evening!」という一言でプレイは始まった。ドラムをステージ中央後方に、両側からキーボードがはさみ、お互いのプレイする様子と音を確かめ合い、反応するような格好でプレイは続く。ジャズコンボのようにコンビネーションを生かした粋なサウンドから、ロックらしいラウドなサウンドへ、プレイは展開していく。その変化に追従するPeterの声。彼の歌は一見、不確かな雰囲気で、まるで物語を語っている口調のようにも感じられるのだが、その旋律に込められた抑揚感、節回しなど、すべてが計算しつくしており、歌のメロディだけでなく、彼らが奏でる音自体に物語のような意味を感じさせる。起伏の激しい展開に従い、彼の声もその場に合わせて変化するプレイ。イーヴンなリズムを叩かないドラムには、歌心すら感じられた。1音をいかにクリアーに、そして意味のある1音として聴かせるかを考えた集中力も素晴らしく、ずっと観衆の注意をステージの一点、ただその音に集中させ、曲がプレイされている間に、物音一つ立てさせないほどの緊張感を漂わせる。観衆はただ彼らによって広げられた世界に入り込み、その余韻のような感触に浸り続けている。
 
それぞれの曲に対するアイデアは流石にプログレッシヴ・ロックを名乗るバンドだけに非常にバラエティに富んでおり、それに対するライヴでプレイする場合のアプローチも非常に練りこまれている様子が伺え、彼らがどうやってこの曲を考えたのか、それを創造するだけでも楽しくなってくる。時にPeterは、ギターに持ち替えてさらにアバンギャルドな雰囲気を作り出す。音楽に対する積極的な想像意欲が会場全体に表現され、さらにファン達を唸らせる。前半が間を生かした空間作りに徹していたのに、後半はダイナミクスを生かして盛り上がりどころをいくつも作り上げた。ラストでは全体スタンディングオベーション。「ブラボー!」という声すら上がりそうな熱気が、この日のステージに幕を閉じた。
 

◆公式サイト
http://www.vandergraafgenerator.co.uk/
◆セットリスト:
VAN DER GRAF Generator
M01. Scorched Earth
M02. Your Time Starts Now
M03. Flight
M04. Lemmings
M05. Lifetime
M06. Bunsho
M07. All That Before
M08. Mr. Sands
M09. Over The Hill
M10. (We Are) Not Here
M11. Childlike Faith In Childhood’s End
Encore
E01. Still Life

2)「John Lees Barclay James Harvest」単独公演(2012/8/24)
 
◆メンバーリスト:
John Lees(以下、John: Guitar &Vocal)、Craig Fletcher(以下、Craig: Bass &Vocal)、Jez Smith(以下、Jez: Keyboards &Vocal)、Kevin Whitehead(以下、Kevin: Drums)
 
前日の VAN Der Graaf Generator と同じイギリスのアーティストであるJohn Lees Barclay James Harvestの単独公演。スタイルの違いが明確に出ているという面では、非常に興味深い。
 
にこやかな表情で現れた4人、そして穏やかなバラードで始まったステージ。あくまで通常のポピュラー・ミュージックのようなサウンドだが、全体に広大さや優しさのような雰囲気を感じさせるポイントは、彼らがプログレッシヴ・ロック・バンドとしての存在感を見せる大きな特徴でもある。ベーシストCraigの存在も昨日のステージとは異なるポイントだが、やはりベースプレイヤーの作り出すベース・ラインは、何か無機質なものに命を吹き込んでくれるような魅力を感じる。ベース・ラインの中に時々入るダブル・ストップ(ベースによる複音)が、程よいアクセントハーモニーとして、John Lees Barclay James Harvestのステージに彩りを与えた。ヴォーカルのハーモニーの美しさは非常にアバンギャルドな展開をステージ時間いっぱいで表現したVAN Der Graaf Generator とは対象的に、ポップでキャッチーな中にも、心を満たしてくれるような優しさと広がりを与えてくれる。心地よいグルーヴと、時にロックらしいリズム、ちょっと牧歌的でもあり、時には珍しくアクティヴな曲、そしてまた別の時には展開の複雑な曲と、プログレッシヴ・ロックの最高峰を誇るイチバンドとして、バラエティ豊かな空間を会場いっぱいに作り出し、曲が終わる度に大きな拍手をフロア側に巻き起こさせる。
 
ラストは盛大な組曲からアバンギャルドなシンセ音をはさみこんだグルーヴィーなシャッフルロック。アンコールではアコースティック曲「Hymn」を披露し、フロアが皆揃ってスタンディング・オベーション、いかに彼らが日本のファンに愛されているかを示した。
 

◆公式サイト
http://www.barclayjamesharvest.com/
◆セットリスト:
M01. Nova Lep
M02. Child Of Universe
M03. She Said
M04. Hymn For The Children
M05. Poor Wages
M06. Ball And Chain
M07. Mocking Bird
M08. Summer Soldier
M09. Titles
M10. Taking Some Time On
M11. Medicine Man
M12. For No One
M13. The Poet/After The Day
M14. Death Of A City
Encore
E01. Hymn

 
3日目(日比谷野外音楽堂:2012.9.25 児玉圭一)


 
午後4時30分、「プログレッシヴ・ロック・フェスティバル」が行われる日比谷野外音楽堂前には、アスファルトに降り注ぐ熱い日差しをものともせずに開場の時を待つプログレ・ファン達が長蛇の列を作っている。プログレ・ファンの層の厚さを物語る幅広い年齢層。本日のアクト、John Leeds Barclay Harvest、VAN Der Graff Generator、そしてGOBLINのオフィシャルTシャツの着用率が高い。そして会場に足を踏み入れて、まず目に飛び込んでくるのは、ステージ後方に飾られた、YESのアルバムジャケットのアートワークを数多く手がけたことで有名なRoger Deenの手による幻惑的なバックドロップ。都会の高層ビルを背景に幻想的に浮かび上がる真夏の一瞬の夢がもうすぐ始まろうとしている。
 
1)John Lees Barclay James Harvest
 
定刻の17時15分、盛大な拍手と歓声に迎えられてステージに登場したのは、John Lees Barclay James HarvestCraigが「コンニチワ!」の一声を放ち、柔らかく揺れるエレピのフレーズが印象的な「Ball And Chain」でライヴはスタート。たおやかなミディアムバラードに魅せられたオーディエンスは食い入るようにステージを凝視している。
 
2曲目は彼らの代表曲「Child Of Universe」。The Beatles, Moody Blues直系のエレガントなメロディとJohn Leesのギタープレイは精緻に美しい彼らの音世界を見事に体現している。耽美的な雰囲気は続いての「Hymn For The Children」にも受け継がれ、洗練されたヴォーカルハーモニーと目映いばかりのファンタジックなサウンドが日比谷の空へ溶けていく様はとても幻想的。
 
ノスタルジックなメロディが鮮烈な「She Said」からステージは一転して70年代プログレ・オリジネーターの矜持を見せつける壮麗な組曲形式のナンバーで魅せる展開へ突入。メロトロンの音色を再現したキーボードが大活躍する名曲「Mockingbird」のドラマティックな曲展開は往年のプログレ・ファンには堪らない涙モノの素晴らしさだ。そしてラスト曲「The Poet ~ After The Day」でのJohn Leesの泣き叫ぶギターソロは圧巻の一言。エンディングには満場に喝采が湧き上がり、鳴り止まぬアンコールの拍手の中、John Lees Barclay James Harvestのライヴは終了した。
 

◆公式サイト
http://www.barclayjamesharvest.com/
◆セットリスト:
M01.Ball And Chain
M02.Child Of Universe
M03.Hymn For The Children
M04.She Said
M05.Mocking Bird
M06.The Poet ~After The Day

2)VAN Der Graaf Generator
 
伝説的なアーティスト達、John Lydon、Nick Cave、Julian Cope、David Bowie等を惹きつけて止まなかった彼らの特異なサウンドは、ロック、ソウル、ジャズ、教会音楽!の過激なミクスチャー。西空の夕焼けが眩しい午後6時過ぎ、会場全体から巻き起こる歓声の中、VAN Der Graaf Generatorが登場。照明のライトに浮かび上がるイギリスが誇る吟遊詩人Peter はピアノに向かい、「Interference Patterns」の高速イントロを弾き始める。スタートから突っ走るPeter に、あ・うんの呼吸で絡むHughの流麗なキーボードプレイ、そしてジャズの素養があるGuyの的確なドラミング…身体全体で自分達の音楽を表現するパワートリオ。そして、巻き起こる変拍子の嵐。ハイブリッドなリズムの奔流にのまれて恍惚とした表情を浮かべる聴衆…この劇的なオープニングから、日比谷野外音楽堂はVAN Der Graaf Generatorにしか出し得ないオーラにいやおう無しに包まれていく。
 
続く「Scorched Earth」においても3人の白熱のインタープレイは凄まじい緊張感を保ちながらヒートアップ。10本の指を鍵盤に叩きつけながら、ビターなシャウトを聴かせるPeter。その彼のアクションに呼応して強く激しくドラムを叩き続けるGuy 、フットペダル・ベースを駆使して観客のグルーヴを煽るHugh。熱狂のライヴはまだ始まったばかりだ。
 
3曲目の「Bunsho」ではPeterがギターを肩にかけて歌い始め、彼の持ち味であるシアトリカルなムードがステージを支配する。続いての「The Sleep Walkers」でもメランコリーな旋律を奏でるキーボード、リズミックな揺さぶりを効かせるドラミングの勢いは止まらない。そしてスタンドマイクを握り締めて歌い踊るPeterは圧倒的なカリスマ性を全身から放っていた。ラストナンバーはHughが透徹の極みのピアノプレイを聴かせる「Man-Erg」。この初期の名曲の演奏を終えた3人に捧げられたのは満場のスタンディングオベーションと万雷の拍手だった。
 

◆公式サイト
http://www.vandergraafgenerator.co.uk/
◆セットリスト:
M01. Interference Patterns
M02. Scorched Earth
M03. Bunsho
M04. The Sleep Walkers
M05. Man-Erg

3)GOBLIN
 
◆メンバーリスト:
Massimo Morante(以下、Massimo: Guitar)、Claudio Simonetti(以下、Claudio: Keyboards)、Maurizio Guarini(以下、Maurizio: Keyboards)、Bruno Previtali(以下、Bruno: Bass)、Titta Tani (以下、Titta: Drums)
 
そしてこの日のトリを飾ったのはイタリア・プログレの至宝GOBLIN。1975年、いくつかの前身バンドを経て、YESEL&Pの大ファンだった天才鍵盤少年ClaudioJimi HendrixフリークのMassimoが中心になって結成された彼らは、日本でも大ヒットした「サスペリア」を始めとした数多くのイタリア産ホラー/スリラー映画のサウンドトラックを手がけてきたことで非常に有名な存在だ。本国イタリアで国民的人気を誇る彼らは、昨年に続いて今回が2度目の来日公演だ。陽もすっかり落ちて、そびえ立つ霞ヶ関のビル群の明かりが灯る頃に流れ出す邪教的な旋律…女性の叫び声のSE…真紅の照明ビームがステージを禍々しく照らす中、遂にGOBLINが登場した。
 
オープニングは「Magic Thriller」。シンフォニックなフレーズを響かせるダブル・キーボードの迫力は正に圧巻。カーリーヘアーにサングラス姿のMassimo Moranteはロックスター然としたルックスそのままの華麗なギタープレイを披露。「ハロー、東京!ここに来られて嬉しいです!日本は2度目ですね」ライヴ前半は、リズムセクションがソリッドなビートに乗って猛然と突き進むアッパーな展開がとてもスリリング。「Mad Puppet~Snip Snap」、「Dr. Frankenstein」、「Roller」等のヘヴィメタリックな楽曲が連続でプレイされ、観客のボルテージもグイグイと上がっていく。
 
MaurizioのフレンドリーなMCの後は、彼らの出自であるホラー映画サウンドトラックの名曲を演奏するGOBLINファン感涙の時間へ突入。効果的なSEを駆使した「Zonbi」、『サスペリア・パート2』のテーマ曲「Phenomena」、そして70年代後期に一世を風靡した「Suspiria」が次々と披露され、劇的な演出の猛襲に歓喜するオーディエンスの熱い声援は今やヒートアップ直前。そしてオーラスの「Profondo Rosso」ではMaurizioのギターソロが炸裂し、白熱のエンディングを迎えたGOBLINのライヴは、圧倒的な大喝采の中、華々しく幕を閉じた。
 

◆公式サイト
http://www.backtothegoblin.com/
◆セットリスト:
M01. Magic Thriller
M02. Mad Puppet
M03. Dr. Frankenstein
M04. Roller
M05. E Souno Rock
M06. Non Ho Sonno/Death Farm
M07. L’ Alba Dei Morti Viventi
M08. Zonbi
M08. Suspiria
M09. Tenebre
M10. Phenomena
M11. Profondo Rosso

真夏の暑さを吹き飛ばす怒涛の展開を見せた「プログレッシヴ・ロック・フェスティバル2012」。「真夏の夜の夢―幻想の音宇宙へ」というタイトルにふさわしい幻惑的な音のパノラマが目の前で次々と展開した3時間半はプログレ・ファンにとって至福のひとときであったに違いない。主催者の「このフェスは、これからも続きます!」というアナウンス通り、きっと来年も充実したラインナップを用意してプログレ・ファンを唸らせてくれることだろう。
 

CLUB CITTA’ 今後のライブ予定
 
CLUB CITTA’ PRESENTSクリムゾン・プロジェクト (The Crimson ProjeKct)
来日メンバー:
エイドリアン・ブリュー(ADRIAN BELEW)/(g,vo)
トニー・レヴィン(TONY LEVIN)/(b,stick)
パット・マステロット(PAT MASTELOTTO)/(ds)
マーカス・ロイター(MARKUS REUTER)/(g)
ジュリー・スリック(JULIE SLICK)/(b)
トビアス・ラルフ(TOBIAS RALPH)/(ds)

3月15日(金)・16日(土)・17日(日)
会場:CLUB CITTA’
クリムゾン・プロジェクト
スペシャル・ゲスト:アングラガルド(Anglagard)
≪15日(金)公演≫OPEN 18:00 / START 19:00
≪16日(土)・17日(日)公演≫OPEN 16:00 / START 17:00

【全席指定】 各日600席特別限定
■主催:bayfm78「POWER ROCK TODAY」
■招聘・企画/制作:クラブチッタ
■後援:ストレンジ・デイズ
■協力:ディスクユニオン
■お問合せ:CLUB CITTA’ 044-246-8888
http://clubcitta.co.jp

2013年3月13日(水)
会場:なんばHatch
クリムゾン・プロジェクト(特別単独公演)
with スティック・メン / エイドリアン・ブリュー・パワー・トリオ

OPEN 18:00 / START 19:00
【全席指定】
■主催:なんばHatch
■招聘・企画/制作:クラブチッタ
■後援:FM COCOLO
■お問合せ:なんばHatch 06-4397-0572
http://www.namba-hatch.com/