演奏

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TEXT:桂伸也


ヘヴィ・メタルの王道的なスタイルを問われると、多くのメタル・ファンは答えに困ることだろう。元々は新しいロックの一スタイルとして登場したヘヴィ・メタルだが、登場から30年以上も過ぎた現在では、もはや明確に「これがヘヴィ・メタル」と定義づけするには余りにスタイルが多様化してしまっているからだ。しかし、その中でもやはりベーシックなスタイルとして見られるのは、80年代を席捲したNWOBHMムーヴメントに登場したもの、またはL.A. METALと呼ばれるアメリカでのムーヴメントに乗ったサウンドではないだろうか。従来のロックと比較してさらにボトムを強調したリズムと、荒々しいディストーション・ギター、そして時には金切り声のようなシャウトを交えながら、耳に残るキャッチーなメロディを紡ぐヴォーカル。多様化したヘヴィ・メタルの中でも近年、その原点を見直す動きが顕著に表れ始めている。

その中でも要注目とされているのがカナダのヘヴィ・メタル・バンドであるSKULL FISTだ。その伝統的ともいえるサウンドは、かつてヘヴィ・メタルの誕生に胸を熱くしたファンはもとより、新たに音に触れるファンにとっても斬新なイメージを与え、要注目のグループとなっている。その彼らがこの夏、日本初上陸を果たした。さらにサポートとしてアメリカのアンダーグラウンド・シーンの雄であるWIDOWと、ここ日本で真のヘヴィ・メタルを追求し続ける古豪、SOLITUDEという二つの猛者が対バンというファンには堪らない来日公演となった。今回は東京で行われたそのイベントの模様をレポートする。
 

1)SOLITUDE
 
◆メンバーリスト:
杉内 哲(以下、杉内: Vocals)、西田 亨(以下、西田: Bass)、井田 真悟(以下、井田: Guitars)、大内“MAD”貴雅(以下、MAD: Drums)
 
 


SEとともにステージに現れたSOLITUDEのメンバー達。西田MAD井田、そして杉内が登場すると、一斉にフロアでメロイック・サインが上がる。「COME ON!」そのサインに応えるように杉内が全力で叫ぶと、ステージは「You Were All Of My Life」で幕を開けた。けたたましく鳴り響くMADのドラムの上に、分厚い井田西田のサウンドが重ねられると、会場は一気にSOLITUDEのペース。メロディアスながらも刺々しい杉内の声が、ド迫力のバンド・サウンドに乗ると、“これ以上ない”というくらいにフロアは盛り上がる。そして時に観衆をあおってはその反応を注意深く聴き入る仕草、時に「どうした?そんなもんじゃねえだろう?」とツンデレな表情をする、杉内の定番のパフォーマンスを見せる。
 
 


2曲をプレイし、杉内が観衆に語りかける。「Yeah! どうもありがとう!!みんな待ってたか?俺達も凄くこの日を楽しみにしていたぞ!まずは俺達からだ!」「いいか!?」すっかりと気分を高揚させたあとに続けて「Virtual Image」へ。比較的ゆったりしたテンポから疾走感のある速さへとつなげ、強力なグルーヴを作り上げて観衆を飽きさせずステージに集中させる。そのステージング、選曲、そして堂々としたステージ度胸で確実に会場を熱くしていく。アクションの一つ一つにさえブレが感じられない堂々としたパフォーマンスは、頑固一徹にメタルを追求し続けた結晶といえるものだろう。激しさを増すバスドラの音に、観衆の体も大きく動いていく。
 
 


ステージとフロアの間でガチンコ勝負をしているような激しいつば迫り合いが繰り広げられる。このステージとの一体感もまさしくライブの一つの要素、ライブを作り上げる上で欠かせない要素だ。そして新曲「Reach For The Sky」から見事にフィニッシュを決めると、杉内MADがハイタッチ、そしてMADの咆哮が飛ぶ。ラストナンバーの「Volcano Of Anger」までヘヴィ・メタルのサウンドとパフォーマンスを貫き通したその存在の中には、メタルならではの荒々しさがありながら、例えば各プレイヤーのステージ上の位置関係にすら言及するような、緻密に計算され尽くしたような出来の素晴らしさがある。「まだベテランなんて称号は…」といえそうなアクティブな覇気と、多くのステージで培った匠の技的なステージングの旨さは、トップバッターながらこの日この会場に現れたファンにも強力な印象を焼き付けた。
 

Photo
◆公式サイト
facebook オフィシャルサイト
http://www.facebook.com/solitudejapan
Spiritual Beastオフィシャルサイト
http://www.spiritual-beast.com/solitude_japan/
◆セットリスト:
M01. You Were All Of My Life
M02. You Wish
M03. Virtual Image
M04. Walk In Paradise
M05. Reach For The Sky (New Song)
M06. Brainwash
M07. Volcano Of Anger

2)WIDOW
 
◆メンバーリスト:
Chris Bennett (以下、Chris: Lead Guitars & Vocals)、John E. Wooten IV (以下、John: Lead Vocals & Bass)、Peter Lemieux (以下、Peter: Drums & Vocals)
 
 


映画『スタートレック』のテーマをSEとして、颯爽と登場したWIDOWの面々。来るなりChrisが一声を上げた。「Hello, Tokyo!」そして激しく鳴り響くビートとともに、「Take Hold Of The Night」でステージはスタートした。疾走するリズムが絶え間なく続く中で、Chrisが超絶ギターソロを見事に決めていく。対してJohnが叫ぶ。「Somebody Scream!」シンプルに刻まれる8ビートの中で、堅実なPeterのドラムと、アクションの激しいJohnのパフォーマンスは、WIDOWのサウンドの中核を担う。さらにChrisのソロやオブリガートは程よいアクセントとして曲に表情を与えてくれる。
 
 


「Yes! 今夜は楽しんで帰ってくれよな!!」Chrisが叫び、今回SKULL FISTとのツアーに参加できたことへの感謝の念を告げる。彼らのサウンドもある意味頑固一徹、信念の如く続けて疾走するリズムの中、ギター・ソロをここぞというところで乱れ飛ばせる。そして観衆の高揚した気分をさらにあおるように、Johnが我を忘れたようなアクションを見せつける。ブレイクの一つまでも見事に決め、さらに会場は盛り上がる。「最高だ、最高だよ!ずっと東京にいたいよ!パーティーだぜ、パーティー!!」「Tokyo! 興奮して今夜は眠れないぜ!」Chrisが、興奮したように曲の終わりごとに叫んだ。筋金入りの彼らのファンもいたのか、時にはサビの歌声すらフロアから聴こえてきた。
 
 


「これが最後だ!みんなありがとう!!また必ず戻ってくるからな!!」Chrisがそう告げ、ラストナンバーの「The Pleasure Of Exorcism」へ。変に気負わず、それでもワイルドでヘヴィなサウンドを目いっぱい楽しむ。そんな姿がステージにも、フロアにも感じられた。激しくヘヴィなサウンドとは対照的に、プレイする表情には笑顔がこぼれたWIDOWのメンバー。そこで改めて気づかされることは、「この音楽は、楽しむのが基本」であること。ハード&ヘヴィなサウンドの中にあっても、その音やパフォーマンスが楽しめるものでなければならない。その意味で彼らWIDOWはすっかり自らの音に対する追及として、正統な道を選択しているといえよう。演奏を終えても、彼らに向けてのWIDOWコールが暫く続いた。
 

Photo
◆公式サイト
オフィシャルサイト
http://www.burning-village.com/
Spiritual Beastオフィシャルサイト
http://www.spiritual-beast.com/widow/
◆セットリスト:
M01. Take Hold Of The Night
M02. Re-Animate Her
M03. Lady Twilight
M04. An American Werewolf In Raleigh
M05. Nightlife
M06. Embrace It
M07. Nightchild
M08. Beware The Night
M09. Angel Sin
M10. Reunion
M11. The Pleasure Of Exorcism

3)SKULL FIST
 
◆メンバーリスト:
Jackie Slaughter(以下、Jackie: Vocals & Guitars)、Casey Slade(以下、Casey: Bass)、Johnny Nesta(以下、Johnny: Guitars)、Chris Steve(以下、Chris: Drums)
 
 


この日は、彼らの登場を待っていたファンがメインだっただけに、登場するであろう瞬間を待ち焦がれる熱気で会場は包まれた。そして登場した彼ら。オープニングナンバーは「Ride The Beast」。登場の初っ端からフロアは歓声が上がりっぱなしだ。メタル・ファンの中では要注目のグループだけに、まるで期待通りという登場のシーンに会場は一気に盛り上がる。メタルならではの荒々しさの中で、とにかくシンプルでキャッチー、分かりやすくノリやすいという部分が突出して優れているということが、彼らのサウンドを一聴し気分がよくなることで十分理解できるだろう。また要所で絶妙に入れられるツイン・リードのメロディがさらに印象を深める。「We are Chris Steve and The SKULL FIST!」Jackieが叫ぶと、その声に応えるように大きな歓声がフロアからワアッと上がり、観衆は「待ってました!」といわんばかりの反応を見せる。
 
 


Vince Neilを髣髴とさせる声質を持つJackie。シンプルな楽曲の中で、ヴォーカルとツイン・リードのメロディが映える。リズムがバスドラ4つ打ちのミディアムに切り替わると、手拍子と「Oi! Oi!」という叫びの連呼で観衆がさらに盛り上がる。まさしく80年代を席捲した正統派ヘヴィ・メタルのサウンドを継承したバンドであることは、パフォーマンスからも立証された。Jackieのギター・ソロも設けられ、聴き応え充分。4曲目にはMEGADETHの「The Mechanics」を思わせるゴリゴリの高速メタル・シャッフルナンバー、「Head Of The Pack」。あっけらかんとしたパーティー・ソングだけでなく、メタルというイメージの持つ刺々しさを併せ持つ、まさしく正統派メタルとして注目されている表情を見せる。それぞれの持ち味を十分生かしたキラーなナンバーが続く中、二人のギタリストがそれぞれの持ち味をたっぷりと披露し、リズムもヴァリエーション豊かに変化する。それも後押ししてか、フロアの観衆のノリ方に、腰が入ったような力強さが現れ始めた。インストゥルメンタルの部分だけでなく、分厚いコーラスを全員で決め、キャッチーでメロディアスな部分にも抜かりはない。
 
 


「もっとほしいのか!?」「Yeah!」Jackieが叫び、観衆が大声でそれに応える。ドラム・ソロを決めたChrisが大声で叫んだ。「腕を上げろ!」その声に応じ観衆の腕がサッと上がる。ここからはまさにSKULL FISTのペースで、Johnnyのギター・ソロ、そしてJackieJohnnyの激しいギター・バトルも聴き所を多く見せ、さらにはJackieが激しくフロアに乗り出してみたり、JackieJohnnyを肩車して共にギターを弾いてみせたり、パフォーマンスの楽しさも十二分に発揮。音だけでも相当なクオリティを持つ彼らだが、彼らの本質はまさにステージング、パフォーマンスにあるともいえる。見るのが聴くのと同じくらいに楽しいと思わせるステージ、それを具現化することこそ彼らの最大の持ち味だ。ラストナンバー「No False Metal」では、長いブレイクで勢いをつけると、文字通り失敗のない、盛大なエンディングを迎えた。さらにアンコールに応え、ステージ上で“初来日”と書かれた旗を掲げた彼ら。最後の曲として、Ted Nugentのカバー曲「Cat Scratch Fever」で最高のフィニッシュを決め、「アリガト、Tokyo!」というJackieの言葉と共にステージを降りた。
 

Photo
◆公式サイト
facebookオフィシャルサイト
http://www.facebook.com/skullfisted
Spiritual Beastオフィシャルサイト
http://www.spiritual-beast.com/skullfist/
◆セットリスト:
M01. Ride The Beast
M02. Like A Fox
M03. Mighty Jackie Guitar Solo
M04. Head Of The Pack
M05. Commit To Rock
M06. Get Fisted
M07. Mighty Jonny Guitar Solo
M08. Heavier Than Metal
M09. Tear Down The Wall
M10. Blackout
M11. Sign Of The Warrior
M12. No False Metal
Encore
E01.Cat Scratch Fever (Ted Nugent Cover)

この日集まった観衆は大半がヘヴィ・メタルTシャツやパッチGジャンで着飾った筋金入りのヘヴィ・メタルファンだったが、平日の公演であったこともあり、中にはスーツ姿の、それなりに歳を重ねているサラリーマンらしきファンもちらほらと見られた。会場に入るなりワクワクするような表情でステージを見つめていた彼ら、かつてはアンダーグラウンドでしかその存在を認められなかったそのシーンでも、熱狂的なファンが存在したヘヴィ・メタルだが、彼らもその中の存在だったに違いない。ラウドでヘヴィなサウンドと、気持ちを揺さぶるパフォーマンス、それを体験するためには格好なんて気にしていられない、そんな風にも見えた。

この日登場したSKULL FISTをはじめとするバンド達は、そんな気持ちを十分満足させてくれるほどの素晴らしいステージを展開してくれた。冒頭に書いた、ヘヴィ・メタルの起源とでもいうべき魅力を、彼らは持っている。その魅力に、ぜひ一度触れてみてほしい。食わず嫌いのアンチ・ヘヴィ・メタルファンでも、単なるノスタルジーではない、新たな衝撃を受けさせる可能性を、彼らは十分に秘めているのだ。
 
 

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