演奏

TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

今にも雨が降り出しそうな空の下、モノレールとバスが公共手段の東京流通センター(TRC)へ。東京の物流心臓部であるこのエリアは、そこに働く人々以外、日常生活で立ち寄ることはまず無いだろう。通過することがあるとすれば、東京国際空港(羽田)へ行く時かもしれない。そんな東京流通センターで開催されるイベント「M3(Music + Media-mix Market)」をレポートしよう。



悩んだ末にバスを選んだ私は、会場へ向かう車中のテンションが高いことに驚いた。さらに会場に着くと、来場者数に圧倒される。その年齢はかなり若く、「M3」の中核を若者(ティーンエイジャーから20代)が担っていることがわかる。ふと見上げると、隣接したモノレール「流通センター」駅は、まるで通学ラッシュのように混雑している。

「M3」を一言で言えば、自主制作した音楽や映像作品の即売会。音楽系の同人即売会だ。“同人”と聞いて一般的にイメージするのは、現代日本のサブカルチャーとして定着している同人誌即売会コミックマーケット(通称コミケ)だろう。同じ趣味や志を持った人間が生み出す文化は、一つの新しい時代を形成している。



太古とまでは言わないが、近代において人間が“同人”を愛してきた歴史は、文学の世界などによくあるスタンダードな話だ。趣味が同じということは、人と人との結びつきを強くすると同時に、何かを生み出す原動力に繋がる。M3は、その“同人”の音楽に特化したイベント。会場を回ってみると、音楽と言ってもヘヴィメタル系がその中心を占めている。

会場内では「今日はレコ発です!」など、“レコ発”という言葉をよく耳にした。通常の音楽シーンでは、音源リリース後のライヴを意味するが、「M3」では即売会で音源を売ることを意味しているようだ。会場に置かれたフライヤーに目を通しても、「M3で新譜発表!レコ発記念価格!」と書いてある。



各ブースの外付けPCスピーカーから流れるサウンドに耳を傾けると、その多くがヘヴィなテイストだが、ものすごく小さな音量だ。「爆音で流したい!とか思わないの?」と聞いてみると、「音量はここ(M3)のルールです。大きい音で聴きたい人には、ヘッドフォンで聴いてもらっています」と返ってくる。

「M3」は音の即売会なので、メディアを売っているのが基本だ。それぞれのブースで、自作品をアピールするポップを書いてアピールしている。特徴的なジャケットも多く、デザインへのこだわりも垣間見ることができる。iPadを使って凝ったPV(※プロモーションビデオ)まで流しているブースもある。手間を惜しまず、出展している彼らは、間違いなくアーティストだ。しっかりとアートの匂いを感じる。



展示場が2つに分かれていて、かなり広範囲にブースが出ている。ライヴをやっているブースもあるが、音はやはり小さめだ。意識して見ると、ヘッドフォンで音楽を聞いて、CDやDVDを買っている来場者が多い。カバンがパンパンに膨らんだ人を捕まえて聞いてみると、「M3では毎回50枚から70枚くらい買って帰ります」との返事。

即売会の中心価格層は、CDが1枚500~1000円程度。パソコン1台で何でもできる時代に、このロープライスで自作品を即売するシステムは、実に理にかなっている。まさに農家の野菜で言う「産直(産地直送)手売りイベント」だ。作り手の顔が見えて、実際に話ができて、音を確認して購入する音楽の「産直手売りイベント」の盛況ぶりは、昨今のCD不況が嘘のようだ。



私も業界人の端くれ。プロと呼ばれるミュージシャン・バンド、そしてレーベル関係者などが、CDを1枚売るのにどれだけの労力を使っているか知っている。手を変え品を変え、苦労して音楽を継続している。帰りがけ、繁盛しているブースに立ち寄り、今日はどのくらい売れそう?と聞いてみる。

「そうですね。前回20万超えたので…このペースだと今回もそのくらいかな」

私が取材している最中に、“同人”系と言われる中からヒットを生もうとする音楽関係者と遭遇。業者エリアには楽器メーカーや音楽専門学校の出展もある。低迷する音楽マーケットから抜け出そうとするアクションが始まっている。今まで“同人”音楽に興味が無かった読者は、年に2回開催されるこの「M3」に一度行って、その目と耳で「産直手売りイベント」を体験してはどうだろうか。


次回2012年 4月30日(月祝)!!!
◆M3 公式サイト
http://www.m3net.jp/