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TEXT:桂伸也 PHOTO:ヨコマキミヨ、桂伸也

イギリスの映画監督、劇作家であるフィリップ・リドリーが幼いころの経験を元に、ウイリアム・ブレイクの詩より想を得て作られた物語、「クリンドルクラックス」。その舞台が名演出家、陰山恭行の演出により、7/28から公開された。この舞台には、陰山と親交のあるROLLYが出演、音楽監修を兼任し参加、更には制作協力として永井ルイも参加しており、舞台音楽としてのこだわり、特にロックテイストなサウンドとして興味深い要旨を醸し出している。この日、東京公演を前日に、報道用に向けて公開ゲネプロが行われた。舞台自体もさることながら、音の世界に強いイメージをもたれていたという演出家の陰山、音楽監修を務めたROLLY、そして制作協力を行った永井ルイの強力タッグが生み出した音、そこから見られる舞台の世界観とはどのようなものだろうか?さっそくその秘密を紐解いてみよう。


『クリンドルクラックス!』あらすじ
 
11歳のラスキン・スプリンターはビン底メガネにやせっぽちで、声もキンキン声で冴えない少年だが、いつか真の”勇者”になることを夢見ていた。そんなラスキンが、街の地下道に棲みつく謎の怪物「クリンドルクラックス」の存在を知る。両親や町の住人を守るために闘うことを決意するが・・・
“怪物退治”伝説を下敷きに、大人が泣けて、笑って、心躍る11歳のヒーロー(勇者)物語。

 
本編は大きく起承転結的に人生に幻滅する少年の様子、彼が怪物伝説に出会い、対決を決意する場面、対決シーン、そして大団円といった趣であるが、単に伝説の怪物が、主人公ラスキンに対する敵という存在だけでなく、一方では自分を支えるもの、自分を何かに駆り立ててくれるものと、様々なイメージを想像することができ、未来の新たな希望を切り開くようなイメージを童話的な空気の中で表現している。
 
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ゴシカルでミステリアスな雰囲気漂うオープニング・ナンバーを元に、主人公ラスキンの夢の中から始まるオープニング。様々な思いが交錯する妄想の世界と、目覚めた後の、現実のギャップを嫌というほど思い知らされ、幻滅させられるラスキン。ラスキン役の阿久津愼太郎は、本当に冴えない一人の少年といった彼の、ローテンションな様子を表現。対照的にROLLYのハイテンションな演技が光り、更にこのパートの印象を深く表している。要所で使われる、YESの「OWNER OF A LONERY HEART」のイントロ、更に悪友エルビス登場時のロックンロール風サウンドが、程よいアクセントを生み出している。
 
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ラスキンが唯一心を通わせる掃除夫のコーキーとの会話。その中で、「クリンドルクラックス」の存在を始めて知らされる。そこでラスキンがイメージしたものは、“怪物”という現実的な存在、その裏側に潜む世の不条理への挑戦心か。やがて朋友、コーキーの死や、母の意外な告白、その他の出来事がラスキンの前向きな気持ちを後押し、彼は怪物クリンドルクラックスとの対決を決意する。逆にここではアコースティック・サウンドやJazzナンバーを起用し、先のパートとは対照的に、音が目立たないナチュラルな雰囲気を出している。
 
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暗い地下道。対決を決意したラスキンは遂に、ここでクリンドルクラックスと遭遇。その凄まじい対決は、心に潜む葛藤の部分との戦いを象徴している。かなりアバンギャルドな舞台上の演出と複雑な構成の中で、ROLLYが自身のソロアルバムでプレイしたことのあるErik Satieの「Gnossiennes」や、THE WHO風の音が効果的にその雰囲気を盛り上げていく。
 
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目覚めによりその戦いの終焉を迎えたラスキン。様々なハプニングが重なりながらも、一番の驚きは、ラスキン自体の心の目覚め。単に問題点に対し牙をむくのではなく、内面を探るような、気持ちの広さを見せ、その気持ちが町中に広がる。爽快さが観衆一人一人にまでに強く響き渡るシーンだ。
 
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エンディングは、この舞台の大きな見せ場の一つ。「エルサレム」をベースに、まるでクィーンのロック・オペラのような壮大なスケール感をアレンジで加え、単に聴くだけでも相当に手ごたえのある見せ場を作り出している。皆が一堂にステージに現れ、壮大に歌を歌い上げる中、ROLLYがギターを持って登場、高らかにギターを鳴らす姿は圧巻だ。舞台的にもこのような演出が見られることもユニークだ。エンディングは、ROLLYがアコースティック・ギター一本で歌を歌い続ける最中、出演者が一人、また一人と登場していくという粋な締めを見せる。
 
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スペシャルインタビュー
 
今回の舞台には、エンディングに流れる「エルサレム」を中心に、独自の世界観が見られた。そのサウンドの秘密を、音楽監修、制作サポートを行ったROLLY、永井ルイ、そして今回の舞台演出を行った陰山恭行に、今回の舞台にまつわる音へのこだわりを語ってもらった。

ROLLY、永井ルイ(音楽監修) インタビュー:
 
— 今回の舞台でROLLYさんが音楽監修をご担当された経緯を教えていただければと思います。また、今回は演出の陰山さんのほうから依頼を受けてのこととお伺いしましたが、この依頼に対してどんなイメージをROLLYさんのほうでもたれたのでしょうか?
 
ROLLY:まず今回の話を陰山さんからお電話で頂いた際に、「クリンドルクラックスという作品をやることになったから、出演して欲しい。」というお話をもらったんです。今まで僕は陰山さんにとてもお世話になっているし、競演して、すごく信頼の置ける人物であるということで、「陰山さんから頼まれたら、よう断わりまへん!」ということで、快諾したのですが、合わせて「実はね、サントラの方もお願いしたいんだけど」というお話も頂いて、最初はそれを聴いたときにすごくビビったんだけど(笑)でも、どうせやるなら音楽のほうもやらせてもらおうと。まあスケジュールのほうは結構厳しかったのですが、それで台本をもらって、イメージを考えました。
陰山さんからは「ハリー・ポッターと、ティム・バートン・テイストと、ドラえもんとムーミンを合わせたような…」みたいなことを言われまして(笑)まあ、ファンタジックなイメージということと解釈したのですが、「それは正しくROLLYさんにピッタリだ!」って言っていただきまして。それで引き受けたわけなんですね。で、劇中の最後に「エルサレム」をやるっていうことになっていまして、これはロック・ファンの間では「第2のイギリス国家」というくらいに有名な曲で、Emerson,Lake&Parmerのアルバムでもカバーされている程の曲なんです。これを「QUEEN風にやったらどうか?」っていうことになりまして。もともとQUEENも大好きだったのですが、日本でQUEENチックな音楽を作らせたらピカイチという永井さんと作業をしようということになりました(笑)それで、始めに陰山さん、永井さんと僕の3人で、僕の家の庭で足湯をやりながら(笑)寝転んで曲を流して、「こんな感じがいいんじゃないか?」「あんな感じはどう?」とか、朝まで語り合いました。
 
— では、今回の音楽監修に当たっては、その仕事をまるまる自分の感性を頼りに作ったというよりは、3人でざっくばらんに意見を出し合って作り上げたという感じでしょうか?
 
ROLLY:そうですね。依頼されたとはいっても、僕の場合は専門の音楽監督というわけでもないし、3名の要求が一致するような形を目指したという感じですね。それ以外でも、ラスキンがクリンドルクラックスと戦っているシーンで流れている音があるのですが、あれはErik Satieの「Gnossiennes」という曲のイントロを使っているんですけども、その「Gnossiennes」から一転してヘヴィな“暗黒帝国”っていう感じのロックにする、まさに初期QUEENの雰囲気ですね。かつそれで盛り上がる。1曲ごとにトカゲ商店街の人が入れ替わる部分は、THE WHOの「Magic Bus」みたいなものとかね。エルビスが出てくるところではロックンロール的なものとか。
 
永井ルイ(以下、永井)やっぱり陰山さんのほうで、しっかりとしたヴィジョンをそれぞれのシチュエーションに応じて持たれていて、それをどうやって表現するか、っていう。それを足湯で語ったという(笑)
 
ROLLY:ベーシック・トラックを永井さんが作ってくれて、それにダビング作業を1日で、無理やり頑張ってやりました(笑)まあ、作るヴィジョンがやっぱり明確になっていたし、何より我々がイギリス好きなので。これがアメリカはカリフォルニアのセントヘレナ学園のお話だと、また全然雰囲気は違っていただろうし(笑)イギリスのお話ということで、“伝統”という匂いがするというか。でも本当に、我々がやって良かったと思います。
 
— 最後に、この舞台の見所、聴き所を教えていただけますでしょうか?
 
ROLLY:ロンドンオリンピックを見ていると、どこかで必ずこの音(エルサレム)が出てくるかと思います。そういう意味でタイムリーだと思いますね(笑)ミュージカルとか音楽劇っていっぱいあって、もっとメタルっぽくなったりするものもありますが、この演劇でのQUEEN調アレンジは、斬新というわけでもないけどすごくお話にマッチしている感じだと思います。
 
永井:素朴な町のお話なので、あまり強いものとかだけではない。主人公の気の弱い性格の子供が成長していく、そんな様子にはQUEENのようなドラマチックな感じが合うと思いまして。そんなところが今回は盛り沢山です。悲しさ、笑い、強さ、そういうものが1曲の中に凝縮されていて、それがうまく伝わればいいなって思っています。音楽的に言うと、ギターのシーンが一番、舞台でギターを弾くという感動的なところ。
 
— なるほど。では、オリンピックを差し置いてでも見ておくべきシーンということですね(笑)
 
ROLLY:いやいや、オリンピックは録画しておいて、後で見てもらえればいいから。標準モードで録画しておいてね(笑)
 
永井:それと、今回エルサレムに入れた訳詞なんですけど、本当に良い詞が入ったなって思うんですよ。これもROLLYが書いたんです。
 
ROLLY:サウンドトラックを作った日に、直訳の詞だけあったのですが、その日に録らなきゃいけないっていうのに今から作詞家の先生に頼むわけにもいくまいと思いまして、「その場で書きますわ」って、5分くらいで書いた詞なんですよ(笑)逆にその瞬発力が良かったのかな。この物語の総括というイメージが分かりやすくできたと思います。劇中の歌に関して、永井さんには今回歌唱指導ということで入ってもらいまして、普通は指導の先生はとても細かく指導するのですが、永井さんはそうではなく、体から発する熱を表現する、というような(笑)今までの先生に無いような指導の仕方をしていただいたんです。結果的には皆さん生で歌って、すごく良い感じになりましたね。
 
永井:皆さん、声が大きいからね。普通の指導では、テクニックを教えてもらうんですよね。でもテクニックではこういう舞台での歌っていうのは幅が広がらない。どちらかというと、その気になってもらうほうがいいですよね、調子に乗るのとは違うけど(笑)そういう意味では、あまり細かいことは言わないで進めました。

陰山恭行(演出) インタビュー
 
— 今回、ROLLYさんにこの舞台に参加を打診された経緯はどのようなものだったのでしょうか?
 
陰山恭行(以下、陰山):最初に今回の原作を読んだときに、主役のラスキンという役は、本当にROLLYさんのことだとイメージしたことに発するんですよ(笑)実際のROLLYさんのイメージね。ガリガリでメガネをかけてひ弱な、ROLLY。「彼のイメージがピッタリだ、この物語はROLLYの話じゃないか!?」って(笑)まあ、年齢的にROLLYさんはラスキンを演じることはできないので、その代わりに音楽をROLLYさんの持ち味で味付けできればと思って、「舞台に出てもらいたいんだけど、音楽もやってもらいたい」ってお願いしたんです。それであのギターパートはROLLYさんに考えてもらったり、恐竜の部分は永井さんと相談したりしながらね。あの部分で使用しているErik Satieの「Gnossiennes」っていう曲のイントロは、もともとROLLYさんがソロアルバム『Classical ROLLY』でプレイしていたもので、その印象が強く残っていたから合わせてここでもやってもらいたいって思っていたんです。そういう意味で舞台のイメージにも、音がうにもROLLYというイメージが強く存在した舞台ですよね。最後にROLLYさんがアコースティック・ギターでプレイしている曲は、昔NHKの番組『みんなのうた』のために書いた曲ということなのですが、「いつかその日はきっと来る」っていうのを繰り返しているだけなんですよ。「嵐は来たけど、次の日は晴れるよ、いつかその日はきっと来る」ってね。そのイメージがまた、この舞台のイメージにすごく合っているんです。
 
— 今回の『クリンドルクラックス』に関しては、音楽の部分に関して陰山さんご自身が強いイメージを予め持たれていたというお話を伺っていたのですが…
 
陰山:特に最後の「エルサレム」の部分ですね。100年前の賛美歌みたいな曲だから、あれを最後にどうやって流すんだ、っていうことを考えていたのですが、ROLLYさんに音楽監修をお願いしようとなっていたことから、「QUEENのロック・オペラ風にしよう」というのが思いついて、彼に話をしたら乗ってくれたんですよ。ただ、すごい賛美歌みたいな曲だからうまくいくだろうか?と懸念していたところ、そこに更に永井さんが、やはりQUEEN好きだということでここに加わり(笑)、そこでQUEENテイストの良い感じのものが出来上がりましたね。ROLLYさんが出ているということもあるし、そのテイストの曲で繋いでいることもあるから、最後にROLLYさんが出てきても違和感はないです。普通お芝居で最後にあんな曲が出てきたら、やっぱり違和感は感じるでしょうね(笑)そういう意味では、今回ROLLYさんに参加していただいたからこそエルサレムがああいったスタイルでうまくステージにはまったと思います。
 
— 最後に、この舞台の見所、聴き所を教えていただければと思います。
 
陰山:この物語の設定が、今よりちょっと昔というところを設定していることもあって、使っている曲もYESとかTHE WHOとか、そのイメージが結構入っているんです。あとは、僕はJazzが好きなので、そのテイストのものも入れてみたり。曲の選び方は、今回の主人公であるラスキンの、心情の音なんです。そういう選び方をしたかったので、ROLLYさんに監修をお願いし、僕達にとってはちょっと懐かしい感じの、ロックの曲なんかをもらって作った、というわけなんです。
 
— 作り込んだというよりは、舞台のイメージを優先しているという感じでしょうか?
 
陰山:そうですね。作り込んだ部分はエンディング部の2曲で、あとはROLLYさんと相談して好きな音を使っています。音に関してはこだわりが合ったので、普通の使い方とは違う格好でしたね。普通は使う場合は、必要な部分を切って使うんですけど、頭から最後まで、シーンを跨いでも流してしまうんです。曲のメロディを切らないというか。芝居が流れてきたときにピッタリ合う曲っていうものがあるんです、シーンの気持ちもよく表現できていて、台詞の強弱にも合っていて、かつそのシーンにキッチリ終わる曲。そんな曲が時々見つかるのですが、今回は2曲ぐらい見つかったんです。まあ、なかなかうまくいかなくてなくなく切るときもあるんですがね。それとやはり「エルサレム」。舞台のイメージとマッチしているところですね。

本作での音に関して、陰山、ROLLY、永井の語るこだわりは、音自身というよりもその舞台の物語を決定付ける一因として大きな役割を担っている部分にあるように見えた。特筆すべきはやはりエンディングで流れる「エルサレム」の広大なスケール感あふれるサウンドだが、物語の雰囲気と時代背景から求められるナチュラルな空気感が、そのクライマックスを迎える流れを作るために大きく貢献している。見ていて強く印象を感じる以上に多くのサウンドが物語の輪郭を強調し、より物語の内面を探りたくなるような欲求をかき立ててくれた。

またこの一連の音楽には、三者が本当に楽しんで制作しているのが見えてくるようだ。三者が愛してやまない音楽であるからこそ、よりよい舞台の構成要素を作り上げることができた、そんな作り手の熱意すら強く感じることができる秀作といえよう。「好きだからこそ」これはよりよい音楽、ロック、そしてそれらと他のもののつながりを探る上で大きなポイントとも感じられる。その点をまた肌で感じながら、新たなロックの楽しみ方を探求してみてはいかがだろうか?

 

◆公式サイト
『クリンドルクラックス!』オフィシャルサイト
http://www.ishii-mitsuzo.com/info/ishii/web/kk/index.html
ROLLY オフィシャルサイト
http://www.rollynet.com/

 

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