演奏

TEXT:羽月えり、鈴木亮介 PHOTO:鈴木亮介

※本取材はレポートのため、主催者によるプレス向け内覧会にて展示物の取材・撮影を実施しましたが、アーティスト側の意向により会場内の撮影物は掲載できなくなりました。ご了承ください。

結成20周年を迎え、世界10カ国でのワールドツアーを成功させたL’Arc~en~Ciel。その20年間の軌跡を振り返り、未来への期待を新たにするというコンセプトのもとに、特別展『L’Arc~en~Ciel 20thL’Anniversary EXHIBITION』(以下略 L’展)が神奈川・横須賀市の横須賀美術館で始まりました。

ロックミュージシャンと美術館がコラボレーションした、今までにない斬新な企画にBEEASTも注目!横須賀市長へBEEAST独占取材を敢行!市長へのインタビューを通じて開催の舞台裏を迫ります。

L’展開催の数日前、本誌BEEASTは一路神奈川県横須賀市へ。横須賀市は神奈川県の南東部、三浦半島に位置し、人口は約41万人。アクセスは東京・品川からJR横須賀線または京浜急行線で60分ほど、横浜からは30~40分。小泉純一郎元首相のお膝元として全国的な知名度も高まりましたが、一般には「海軍カレー」や「米軍キャンプで育まれたハードロック」などの印象が強いでしょうか。

そんな神奈川県横須賀市の市長を務めるのは、吉田雄人氏。吉田氏は1975年12月3日生まれの36歳。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程を修了後、2003年に横須賀市議会議員選挙に出馬し、当時最年少の27歳でトップ当選。2007年も再びトップで再選し、政令市を除く市町村の統一地方選挙としては全国一の得票数11442票を記録。そして2009年3月に横須賀市長選挙に出馬し当選しました。今回、本誌副編集長の鈴木亮介が、吉田雄人市長に開催の経緯や「なぜL’Arc~en~Cielなのか」といった疑問をたずねました。
 

横須賀市 吉田雄人市長

—今回、横須賀市でL’展を開催することになった経緯を教えてください。

吉田市長:私は市長に就任して以来、美術館の改革に取り組んできました。収支の改善は実現できたのですが、市民の皆さんに「美術館が変わった」と思ってもらえるように、「集客」と「都市イメージ」の向上を次の課題としました。
美術館を変えたい、美術館という既成概念にとらわれないユニークな取り組みをしたいと色々なアンテナを張っていたところ、約1年前、音楽に関してプロである日本音楽制作者連盟(=音制連)の方々とうまくマッチングすることができ、今回のL’展が実現しました。

—なぜL’Arc~en~Cielに目をつけたのでしょうか。

吉田市長:やはり「日本国内にとどまらず世界をまたに活躍しているロックバンド」ということですね。音制連の方々から最初にご紹介をいただいた時、「ラルク×美術館」はかっこいいじゃないか!と私自身期待が高まり、是非やろうと即断しました。

—L’展開催までに、大変だったことはありますか?

吉田市長:苦労ということではないかもしれませんが…L’Arc~en~Cielのメンバーご本人たちも相当本腰を入れてくださったと聴いています。4人からのリクエストにどう応えるかという所で、現場の職員は奮闘しました。メンバーの皆さんのファンを喜ばせたいという思いは随所に感じることができましたね。

—具体的なエピソードがあれば教えてください。

吉田市長:全くの白紙で「ラルクさん何かやりますか?」ではアーティスト側にも失礼ですので、市はこうしたいという大枠のイメージを伝えました。その中で、「美術館の近くに観音崎京急ホテルがあり、うまく連携したい」と伝えたところ、メンバーの皆さんから「じゃあホテルの一室をラルク部屋にしよう」と提案していただき、実現しました。予算などの制約もある中で、「できる」「できない」を切り分けながら前に進めることは、苦労というより、とてもチャレンジングな取り組みになっていたのではないかと思います。

—L’展にどのようなことを期待していますか?

吉田市長:先ほど挙げた「集客」と「都市イメージ」です。美術館への集客と狭くとらえるのではなく、L’展を通じて横須賀市への集客を広く期待しています。美術館に来た方に横須賀の街で食事し、買い物をし、楽しんでほしいですね。ちなみに横須賀というと、どのようなイメージがありますか?

—やはり海軍でしょうか…

吉田市長:確かにアメリカ海軍が有名ですね。しかし「海軍のまち」だけではない、横須賀の先進性や溢れるほどの自然環境を感じてほしいと思います。今回の会場である横須賀美術館は、東京湾の見える美しい眺望が魅力です(※アート情報サイトにて全国絶景美術館トップ5に選出)。また、近隣の駅には三浦半島で獲れた新鮮な魚介類をはじめ、米海軍伝統のレシピを忠実に守ったヨコスカネイビーバーガーや海軍カレーなど、B級ではないA級グルメも盛りだくさんです。

—市長のブログにも「横須賀美術館の観覧者過去最高記録を上回る2万人の来場を目標にしたい」と書かれていましたね。

吉田市長:そうですね。観光はもちろんですが、全国の多くの自治体と同様に高齢化や人口減少が進んでいる中で、若い人を中心とした横須賀市への定住への促進も取り組んでいます。定住と言っても、ただ不動産情報だけ見て地元の情報を何も知らずに「横須賀に住もう」と決める人は少ないと思います。横須賀の街のイメージがあって、その街のことが好きだから、選んでくれるのだと思います。例えば湘南エリアは「海の見える街に住んでいる」というブランドイメージがありますよね。横須賀市も、今回のL’展が「自然環境が豊かで、新しいことに何でも取り組んでいる横須賀に暮らしてみようかな」という入口作りになることを期待しています。

—ちなみに吉田市長は普段どのような音楽を聴きますか?

吉田市長:中学生の頃からTHE BEATLESが好きで、歌詞を見なくても歌える歌がたくさんあります。楽器はできないし音痴ですが(笑)、高校時代は廊下で歌ったりもしていました。国内だと、Mr.Childrenいきものがかり、そしてメンバーのTETSUYA君が横須賀出身ということもあってEXILEは大好きですね。

今回L’展の会場となったのは、絶景との評判の横須賀美術館。海を一望できる素晴らしい立地で、外観はガラスに覆われた美しくお洒落な造形。館内は吹き抜けで光が差し込み、まるでテラスのよう。芝生には「L’Arc~en~Ciel World Tour 2012」のロゴマークのオブジェも展示されています。

さて、ここからはライター・羽月えりにバトンタッチ!気になるL’展の全貌を、開催初日のオープニングセレモニーともにレポートします!今回、来場者の期待感を大切にしたい!というアーティストサイドの計らいで、内部写真は非公開になりますが、テキストでお楽しみください。

入ってすぐのコーナーは、L’Arc~en~Cielデビューからの20年をアートワークで振り返る「L’Art」。20年の歴史が一目瞭然です。1993年から年代ごとに、シングルCDやアルバムCDのジャケット写真のパネル、さらにはアーティスト写真が壁に展示されており、グッズもケースに並べられています。過去のライブグッズを見ると当時の流行りが分かりますね。CDジャケット写真のパネルの脇には、それぞれの作品タイトルと発売日、制作者の氏名入りのキャプションが付いています。また、アーティスト写真は額縁に入れて展示されており、美術館ならではのこだわりを感じます。

次はメンバー個人のコーナー「L’Universe」。メンバーごとに壁一面のスペースを使って、私物や衣装、楽器やグッズなどレアなアイテムが飾られています。私物には、なんとメンバーのコメント付き!あまり私生活を出さないイメージのL’Arc~en~Cielですが、ここではメンバーのライブ時や日常で使用している私物を見ることのできる、またとないチャンスです。特にファンにはたまらないコーナーでしょう。

World Tour 2012で実際に使用したドラムセットも展示されており、手を伸ばせば触れられるほどの至近距離で見ることができます。さらに、「Inspired Art」と題してL’Arc~en~Cielにインスパイアされたアーティストたちの作品も飾られており、油絵から鉛筆画まで、タイプの違うアーティストによる多彩な表現によるL’Arc~en~Cielが楽しめます。

続いて、メンバーの視点でライブステージを体感「Live Experience」。ステージに立ったL’Arc~en~Cielメンバーの視座・視点から、何万人もの観客を前にしたライブの興奮を味わうことができるコーナーです。メンバーごとのスクリーンがあり、その前に立つと実際のライブ中どのように聴こえているのか、客席が見えているのかをメンバーになったつもりで体感できます!
そして、World Tour 2012で実際に使われたライブ機材用搬送ケースのインスタレーション「Case of Transportation」。かなり傷んでいる様子の機材ケースから、ワールドツアーの道のりを思い浮かべることができます。一部、メンバーによるアートワークが加えられているので、探してみては?

さらに「Life」コーナーでは、過去にL’Arc~en~Cielが表紙を飾った雑誌が飾られており、新聞記事や会報をタッチスクリーンで見ることができるデジタルアーカイブもあります。また、貴重なツアー写真や、メンバーの自然体の表情をとらえたオフショット写真の展示も多数あり、ハワイのホノルル市でL’Arc~en~Cielの日に制定された認定証も飾られています。

順路の最後にあるコーナーが「Beyond The World」。今回のワールドツアーの写真が多数展示されており、日時と会場名が記されています。世界各国でのそれぞれのライブの雰囲気が伝わってきます!このほか、等身大のメンバーの写真パネルがあり、並んで撮影することができます。

特筆すべきは、やはりメンバーごとに展示された「L’Universe」でしょう。実際に使われた衣装、楽器、機材を間近で見ることができるのはもちろん、4人それぞれの個性があふれていて、彼らの内面を垣間見た気持ちになれます。朝10時前に行われた開会式で、横須賀市の吉田雄人市長が「L’展はアーティスト本人の思い入れもあり、凝りに凝った作りになっています」とスピーチした通り、ただ機械的に羅列されただけではなくメンバーのファンに対する思いや「アーティスト」としてのこだわりが感じられる展示内容になっていました。

 


誰も挑戦したことがないようなことでも柔軟に取り入れ、受け入れ、それを成功させることのできる芸術的な感性とクオリティ。そうしたL’Arc~en~Cielの魅力がたっぷりと詰まったL’展。広報担当者によると、「L’Arc~en~Cielが常に進化し続けるのと同様に、L’展も進化するかも」とのこと。会期の後半には展示内容の一部変更や追加もあるとのことで、期待が高まります!

 


横須賀美術館では今後、「日本のポップミュージック音楽史(仮称)」と題し、1960年代から80年代にかけての日本の歌謡曲にまつわる展示を実施する予定だということです。「美術館」という既成概念を壊すような、「アート」を幅広く捉えて、兎に角色んな面白い取り組みがあったら積極的に採用していきたいと語る、吉田市長。今回の取り組みは、地方自治体の経済活性化の新たなモデルケースとなるでしょう。一方、アートという観点から新たにミュージシャンの功績をとらえ直すという意味でも、貴重な展示であることには違いありません。

『L’Arc~en~Ciel 20thL’Anniversary EXHIBITION』は7月8日まで開催されます。平日券を購入すれば開催期間中の平日に2日間入場することが出来るので、じっくり観覧したい人にはオススメです!
 

◆L’Arc~en~Ciel 20th L’Anniversary EXHIBITION 開催概要
【開催日時】
2012年6月9日(土)~7月8日(日)
平日 10:00~18:00 (最終入場 17:00)
土日 10:00~20:00 (最終入場 19:00)
※休館日 7月2日(月)
【会場】
横須賀美術館
(京浜急行線「馬堀海岸駅」または
JR横須賀線「横須賀駅」より京急バス
「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」下車)
【料金】
前売・平日券:2,700円(税込)
※同チケット1枚につき平日のみ期間中2回入場可
前売・土日券:2,700円(税込)
当日券:3,000円(税込)

 
◆L’展 公式サイト
http://www.l20e.com/

◆横須賀美術館 公式サイト
http://www.yokosuka-moa.jp/