演奏

SOLITUDE

TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

私はティーンエイジャーの頃、複数のレコード屋の店員と仲良しだった。当時、音楽の情報入手はミュージックライフなど一部の有名雑誌のみ。それだけでは欲求に対して物足りず、結果的にレコード屋に入り浸っては、情報収集をしていた。アーティスト自らが公式サイトやMySpaceで情報発信している今では、考えられないようなアナログな世界だ。

仲良くなると店頭サンプル品の販促カセット(当時は販促用にカセットテープがレコード屋に配られていた)をもらって、洋楽という洋楽に首を突っ込んで聴きまくっていた。その頃の影響が大きく、今でもジャンルを問わず自分の感性にヒットした音楽は何でも聴く。私のジャンル分けしない聴き方は、その頃から不変だ。

ビーストもそんな私がやっているので、多種多様なバンドが登場するが、私の視点からするとまったく珍しいことをしているつもりはなく、“良いものは良い”というシンプルな論理だ。ジャンル分けは料理の方向性を示すようなアバウトな指標にすぎない。洋風な和食、和風な洋食、ジャンルありきで私は食べない。美味しい物は美味しいのだから。

さて話を戻そう。レコード屋でアナログな情報収集をしている中、「このLP(レコード)はお金を出して買え!」と店員から強く薦められたバンドにSAXONがあった。この時の衝撃は、“背筋に電気が走ったような”という形容がふさわしい状態だった。そう、それが俗に言う“ニュー ウェーブ オブ ブリティッシュ へヴィ メタル”(以下N.W.O.B.H.M)との出会いだった。

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2010年4月29日、高円寺club missionsにてSOLITUDEのワンマンライヴ。開演時刻、ドラムの後方に掲げられたSOLITUDEのフラッグに向かい、オーディエンスが叫び始める。見渡すと会場はオーディエンスで鮨詰め状態。もう一回り大きな会場でもワンマンが可能ではないだろうか。今日はレポート書きながら撮影もするため、私もあわただしい。SEが流れスモークがたかれる。オーディエンスのメンバーを呼ぶ声がこだまする。

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SOLITUDEのメンバーは、Akira Sugiuchi(Vocal)・Shingo Ida(Guitar)・Toru Nishida(Bass)・Takamasa“Mad”Ohuchi(Drums)。オープニングは2nd『Brave The Storm』と同じく「You Were All Of My Life」でスタートし、続けて「Brave The Storm」へ。アルバムと同じゾクゾクするような展開の後、2ndの5曲目「Walk In Paradise」へ。

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私はこの日がとても楽しみにしていた。なぜならSOLITUDEの音楽は、私がかつて衝撃を受けたN.W.O.B.H.Mを正統に継承しつつ、昇華させたバンドだから。もちろんアルバムはヘヴィローテーション。ツボを得た楽曲はどれもすばらしい。オーディエンスもヘッドバンギングでバンドに応えている。撮影の移動ができないほど、身動きも取れない状態だ。

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照明が客席を照らすと、そこにはデニム&レザーな男達、そしてN.W.O.B.H.Mを象徴するIRON MAIDENSAXONのTシャツを着た女達。ワッペン満載の袖なしGジャン!の姿も多い。私もかつてこのスタイルだった!と、さまざまな記憶がよみがえる。まるで82年のイギリスのクラブにでもいるような錯覚におちいる。

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MCでは新しく入ったメンバーということで、ドラムのTakamasa“Mad”Ohuchiが紹介される。表記を変えてみよう。そう、日本のロックシーンを支えてきた、あの“マッド大内”だ。「へヴィメタルを叩きたかった」という言葉どおり、2バスのメタルドラムが炸裂し、その技術力を見せつける。あらゆるタイプのロックを叩ける超プロフェッショナル。

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SOLITUDEの中心人物Akira Sugiuchiは、1985年から1992年までスラッシュ・アンダーグラウンドシーンで活躍したSACRIFICEのリーダー。長い時間をかけてSOLITUDEを成熟してきた誇りが、歌う横顔にあらわれている。どことなくSAXONの看板ヴォーカリストPeter“Biff”Byfordのオーラと重なる。

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Shingo Idaのギターは、N.W.O.B.H.Mのパッションが体に直撃するかのよう。それは直接的なサウンドだけでなく、組み立てられたフレーズやピッキングのニュアンスからも伝わってくる。Toru Nishidaのベースは、SOLITUDE全体のバランスを保つ重要な役目を担っている。まったく乱れることなくプレイし、各メンバーの様子も意識している。

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曲は1stから「Two Faced In My Soul」。そして2ndの3曲目「Falling Down」と4曲目「Angel’s Son」へ。本当にN.W.O.B.H.Mの洪水とでも言うべき状態。ここでSAXONに捧げられた1stの「Eagle Fly」。心に染みる一曲を披露した後は、後半のスパートへ。2ndの7曲目「Head Wind」そして6曲目「Chained To The Rock」。

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今回のワンマンは、2ndアルバム中心のセットリストだが、アルバムの順番と違う形で聴くと、これまた新鮮。ラストが近いことを知ったオーディエンスが熱狂している。2ndの8曲目「Brainwash」から、9曲目の「Volcano Of Anger」へ。何と2ndアルバム全曲プレイだ!細かいキメまでしっかりと覚えているオーディエンスに、最高のプレゼント。

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SOLITUDEコールでアンコール。SAXONの名曲「Frozen Rainbow」。このナンバーは、SOLITUDEが参加したSAXONトリビュートアルバムへ提供したもの。SOLOTUDE流の表現は絶品だ。個人的には、他のSAXONナンバーも聴いてみたいと強く思う。オーディエンスの心も恍惚の境地だ。

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これで終わるわけがない。二度目のアンコールに呼び出されたSOLITUDEは、1stから「Virtual Image」と「You Wish」をプレイ。無心でヘッドバンギングを続けるオーディエンス。1stの1曲目と2曲目をここに持ってくるというニクイ演出に思わずニヤリ。取材中の私ですら、Akira Sugiuchiのあおりに拳をあげてしまう。

終演後、オーディエンスはすぐに場を離れず、SOLTUDEの余韻に浸っている。ドリンクカウンターに飲み物を取りに行く人はいるが、その場にしゃがみこむ人や立ち尽くす人が多く目に入る。たった今まであった興奮を、思い出に刻み付けているかのようだ。N.W.O.B.H.Mの時代は、パンクやハードロックといった音楽がクロスし、時に敵対したり、逆にミックスされたりと独特の文化を形成してきた。

音楽そのものだけでなく、社会背景としてイギリスが不況の真っ只中で、情勢が不安定なことも関係しているかもしれない。デニム&レザーは最高にクールなファッションだった。そんなN.W.O.B.H.M のシーンから、世界的ロックスターになったバンドはDEF LEPPARD。80年代後半はビルボードチャートに入るなど、アメリカナイズされたように思うが、良く聴いてみると、やはりイギリス出身。N.W.O.B.H.Mの香りが残っている。

SOLITUDEは、私の中にあるN.W.O.B.H.Mのマインドを呼び戻してくれた大切なバンド。レポートはどうしてもその視点が強くなってしまった。しかしSOLITUDEには、70年代のハードロックやプログレなどの要素も入っている。ぜひこのレポートも、SOLITUDEを聴きながら読んでもらいたい。ヘヴィローテーションは間違いないだろう。

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【SOLITUDE 公式サイト】
http://www.spiritual-beast.com/solitude/

【セットリスト】
(SE) Beyond The Storm
1. You Were All Of My Life
2. Brave The Storm
3. Walk In Paradise
4. Two Faced In My Soul
5. Falling Down
6. Angel’s Son
7. Eagle Fly
8. Head Wind
9. Chained To The Rock
10. Brainwash
11. Volcano Of Anger
Encore 1
12.Frozen Rainbow
Encore 2
13. Virtual Image
14. You Wish