演奏

TEXT:桂伸也

女性シンガーとして、日本ロック界でも伝説的な存在として語り続けられているカルメン・マキ。女性シンガーという評価以上に、日本ロック界の歴史の中でも燦然たる存在として、その地位を不動のものとしている。ロック・ヴォーカリストを目指す多くの女性ミュージシャンからも強いリスペクトを受けていることは、周知の事実だが、その位置に留まらず常に貪欲な創作意欲を幅広い分野に見せ、時代の熱い注目を集め続けている。
 
この4月にニューアルバム『FROM THE BOTTOM』をリリースし、その精力的な活動姿勢は、未だ衰えを見せない。人々を魅了し続ける真のディーバ、カルメン・マキ。今回はそんな彼女の魅力を、彼女のステージの模様から追ってみたい。

 
◆メンバーリスト:
カルメン・マキ(以下、マキ:Vocal)、鬼怒無月(以下、鬼怒:Guitar)、勝井 祐二(以下、勝井:Electric Violin)、芳垣安洋(以下、芳垣:Drums&Percussions)、TOKIE(Bass)

第一部:
ステージは、静かな暗転でその幕を開けた。ドラムのカウントから、ベースラインとドラムのリズムでスタートする「TRICK STAR」。音圧のある力強い声が会場いっぱいに響く。フレーズの節回しに見られる微妙な振幅の一部にすら、年輪のように刻まれた蓄積の証しのようなものを感じる。彼女の歌うメロディの抑揚感に合わせ、徐々に高まる高揚感。その様子を最も表していたのは、マキの歌に絡む勝井のバイオリン。そのアバンギャルドなインプロヴィゼーション・フレーズが、マキの歌と共に、更に勢いを増していく。一曲目のプレイを終え、そっと彼女がつぶやく。「日本にも早く、TRICK STARが現れるといいね。」
 
そして、TrafficSteve Winwood(スティーヴ・ウィンウッド)が描いた、
「僕にはね、ずっと昔から理想の少女がいるんだ、心の中に。たった一人の少女をずっと探しているんだけど、彼女には顔がない、彼女には名前もない。でも、僕にとってはたった一人の、その少女が存在している。僕の心の中にだけ」というイメージを表した曲「No Face, No Name, No Number」へ。サビへの広がりがまた高揚感を作り上げる展開。マキの歌をトリガに、周りの人間がエネルギーを放出し始める。その音のイメージは、まるでオーケストラの指揮者が、曲の展開を団員に指示しているようにも見えた。細かいフレーズ一つ一つに対して、個々のメンバーが奏でるフレーズはそれぞれ自由なアプローチを取っているが、あくまで曲はマキの歌が全てをつかさどっているようだ。
 
アコースティック・ギターとバイオリンの優しいハーモニーの中、カントリー調に歌う「それはスポットライトではない」。優しい感じだけでなく、その中に徐々にスケール感を広げていく節が徐々に現れる。Jazzヴォーカリストやフロントマンのメロディが、年を経てその歌に円熟味を増していく様に対して「枯れる」という表現がよく使われるが、長い間女性ヴォーカルという分野でトップを走り続けてきたマキの歌には、力強さを感じ、ある面ではそれは当てはまらないようにも見えるが、反面その曲を知り尽くし、コントロールする術さえ持ち合わせているその様は、見事に「枯れている」とも見られる。そんなポイントがここにも垣間見られた。
 
彼女の歌の中には力強さ、前向きな気持ちに合わせて優しさのようなものが、それを聴くものに自発的に感じさせてくれる力のようなものを与えてくれる。それはまた彼女のメロディの変化と共に、バンドのサウンドを一層力強くしていく。爆発するように、発散するサウンド。時に一人音をつなぎ続けるTOKIEの、孤独を感じさせるベースラインが何かを物語るようにも見せ、時に鬼頭の軽快かつ優しいギターのアルペジオに現れたポップな雰囲気の中、詩の世界観がその変化と共に深い意味を持たせる。ラストにプレイされた「SOUL」で、その念は強く表された。彼女自身が思いを込めているこの曲はプレイ前に、敢えて何も語らないことを告げていたが、その言葉通りに、そのプレイを聴くことだけで、その思いが伝わってくるかのような深い情感をにじませていく。そしてエンディング。「光は闇の中に」という言葉が歌い上げられると、その詞は彼女らがステージを降りても、深い余韻を観衆に残した。
 

第二部:
 
第二部の時間、先程と同じように、静かに現れたマキら。熱狂的な歓声も、激しい動きもない、フロアから上がるのは拍手の音だけだが、シンプルに響いてくるその音は、ピュアに彼女のサウンドを受け止めその衝撃に浸っている結果とも見えた。「To love somebody」よりスタートした第二部のステージ。ブルーグラス風のリラックスした、優しいサウンドが心地よい。そこから、バイオリンのバッキングとブルージーなギターが、更に乾いた空気を作り出す「Lilly was gone with windowpine」、ラテン風の軽快なリズムが気持ちのよい「ジプシーソング」と続いていく。ツワモノミュージシャンが奏でる、全く引く感じのないバッキング・サウンドは、普通であればヴォーカルの声は埋もれてしまうのではないか?と思えるような局面だが、マキの声は力強く伸びる。単に聴こえてくるだけではない、その詞とメロディに込めた、表現以上の感情すらメロディに乗ってフロアの観衆の心に降り注ぐ。例えば“ラテン風”は、目に見えるリズム的なイメージだけであって、彼女の歌声が存在することで、その具体的な表現は全く消え、「マキの曲」というイメージを定着させた。
 
第一部と比較し、本編は全編に曲のバラエティ感を見せたるのようにリズム的展開から様々なマキのスタイルを見せていく。あたかも一部は自己紹介的に、第二部はライブ感を強く出したかのような、ライブ全編に細部までしっかりと配慮された心憎いまでの演出だ。続いた曲は、一転し猛烈にブルージーで激しい「てっぺん」。この日、ロックというスタイルを一番強く表現したサウンドに、思わず体が揺さぶられる。現在の自分の境遇を“塔の上の魔女”というイメージに例え、その印象を強く表したこの曲のイメージも、彼女を知る上で非常に興味深いポイントだ。これまでから一転し、ダーティーで弱い部分をぶちまけるようなその生々しい姿は、そのまま観衆に強く共感するところもあったのだろうか。観衆達は彼女の歌から、他動的に体を動かされている有様だ。興奮した観衆は思わず、その歌に拍手と共に歓声を上げた。
 
そして、ラスト・ナンバーへ。マキが一人ファルセットを交えたメロディを口ずさみ、やがてファンキーなバッキングを呼び込む。その中で、突然聴き覚えのあるフレーズが顔をもたげた。ミュージカル『オズの魔法使い』で一躍世界的に有名なナンバーとなった、「OVER THE RAINBOW」。爽やかな雰囲気を持つこの曲が、彼女の歌で別の意味を示す瞬間。マキのメロディとバイオリンのハーモニーは原曲をそのままたどっているようにも見えたが、ベースラインの中にちりばめられたブルージーなノートが、マッチしながらも妙な妖しさをかもし出す。曲は徐々に激しくなり、ギターとバイオリンの激しいバトルが展開される。ダイナミクスはかなり高いが、そんな中でもマキの歌は全くその居場所を失わず、ステージをまとめる中心としての強い力を会場いっぱいに主張する。ドラムとベースによる静かな掛け合いの中、そっと現れるサビのメロディ。アバンギャルドに絡んでいくギターとバイオリンが、曲のスケールを大きくしていく。そして精一杯の叫びを会場に響かせると、最後にはリズムだけが静かに曲の余韻を残し、彼女らはステージを後にした。
 
この日一番の激しい拍手が鳴り響いた。その拍手に応じて再び現れた彼女ら。久々に演奏したという「百億の孤独」をプレイ、更にせがまれたアンコールでは、予定セットになかった曲で、マキを語る上で重要なナンバーとなる「時には母のないこのように」から、途中Jazzスタンダードでも有名なナンバー「SUMMER TIME」に移る展開へ。“母のない子”と、子守唄としても知られている「SUMMER TIME」。その意味深な組み合わせが興味を引く展開で、彼女のワールドを存分に発揮し、大いに観衆を満足させこの日のステージを終了した。
 

Photo

◆オフィシャルサイト
http://www.carmenmaki.com/

 
◆セットリスト
第一部
M01.TRICK STAR
M02.No Face, No Name, No Number
M03.それはスポットライトではない
M04.NORD-北へ-
M05.SOUL
第二部
M01.To love somebody
M02.Lilly was gone with windowpine
M03.ジプシーソング
M04.てっぺん
M05.OVER THE RAINBOW
 
Encore 1
E01.百億の孤独
Encore 2
E02.時には母のないこのように~SUMMER TIME

かつてJanis Joplin(ジャニス・ジョップリン)に深い感銘を受けたと言われたマキの歌声には、時にそのトーンの中で彼女を思わせる雰囲気を感じさせた。それは、単に似ているというものではなく、メロディや曲の印象を合わせて感じた。様々な要素を多分に含み、単にメロディラインを楽しむだけではない、深いイマジネーションをかきたてるマキのライブ。その遍歴から得た広い世界観は、過去の実績では終わらない、不変の魅力をかもし出していた。単に聴こえてくるサウンドだけでは、彼女のその魅力を十分に感じ取ることはできない。音楽に留まらない、人を感じさせるその歌は、人々の何かを揺り動かす力を確かに持っている。音楽ファン、ロックファンというカテゴライズに留まらない多くの人々に、改めて是非一度は通ってもらうべきものとして、お薦めしたい。
 

Photo
Carmen Maki
『FROM THE BOTTOM』

ZIP-0040 2,800円(税込)
発売:ジパングレーベル
2012年4月17日リリース

収録曲
1.それはスポットライトではない
2.No Face, No Name, No Number
3.As tears go by
4.The man I love
5.A bird and a flower
6.ジプシーソング
7.ソウル
8.NORD-北へ-
All songs arranged and directed by CARMEN MAKI
ZIPANGU LABEL WEBSHOP
http://www.zipangu-label.com/

 

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