演奏

TEXT&PHOTO:桂伸也

ミュージシャンの中では、それこそ高い完成度を誇るバンドとしての形態で、その信念を貫き通すプレイヤーもいれば、一方では自分の腕一本を頼りに、多くのセッションで様々なミュージシャンとしのぎを削るミュージシャンもいる。

今回紹介するこの手数セッションは、スラップ・ベース、ファンク・ベースといえば、日本ではこの人、といわれる程の存在である江川ほーじん(Bass)、「手数王」の異名を取り、あらゆるジャンルを網羅する技巧派として名高い菅沼孝三(Drums)、そしてLoudParkにも出演経験のあるスーパーギタリスト田川ヒロアキ(Guitar)という強力な面子が物語っているとおり、まさしく自分の腕一本を頼りに、それぞれのフィールドで第一人者として名を上げるツワモノ達のセッション・プロジェクトだ。

昨年、この構成でアルバムを発表してからは、単なる集まりのセッションという枠を超え、方々で話題を呼んでいる。そんな彼らが、これでもか!とばかりに詰め込む、まさに「手数の応酬」を披露するそのステージの模様を、今回はレポートしよう。

◆メンバーリスト:
田川ヒロアキ(以下、田川:Guitar)、江川ほーじん(以下、江川:Bass)、菅沼孝三(以下、菅沼:Drums)

1.第一部
 
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アバンギャルドな菅沼のディジュリドゥの響きに合わせながら、ベースとギターがそこに空間を作り上げられていった。最初はまるでランダムな音の集まりが、次第にメロディやハーモニーを形成し、やがて争うように、それぞれのバースをまわし始める。オープニングは、「Another Convergence 」でスタート。江川のグルーヴ感満載のベースを、後ろからうかがい、文字通り顔の表情を変えながら合わせる菅沼。超極厚のハーモニーの上で、田川のギターが歌い始めた。コードにメロディと、指坂を踊る指が至難のワザと見られるような超絶テクニックをビシバシと決めていく田川。そのフィンガーボードを押さえる左手のフォームは、ちょうどヘッド側から左手を添える、一見特殊なフォームだが、80年代に登場したブルーズ・ギタリストのJeff Healeyジェフ・ヒーリー)を髣髴とさせる。そのフォームは既に彼のトレードマークとして、初めて彼のプレイを見る者にも「カッコいい!」と思わせるほどに完成されたシルエットとなっている。

そんな田川に触発されてか、スラップ・キングこと江川が殺気抜群のスラップ・ソロで対抗。最後には、菅沼のドラム・ソロ。決して思う存分に叩いたソロではなく、むしろコンパクトに纏めたものではあるが、その短い中で彼の言いたいことは十分に集約されたかのように簡潔だった。そして二人のソリストを立てることによりこのソロを形成したセンスは、さすがこのバンド名にもある彼のニックネーム「手数王」の名が伊達ではないことを十二分にアピールする。
 
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続く「Traveling Bomber 」では、江川のスラップ先攻。エフェクターの中でもかなり異色の存在であるトーキング・モジュレーターを用いた江川のソロは、単に音列のフレーズを感じるというよりは、まさしくヴォーカリストが歌を歌っているそのままの姿。ちょうど雨が降っていた外の様子に合わせ、江川は、ベースで歌いあげる。「キョウハアメェ~!キョウハアメダッテェ~!」そんなショーマンシップを忘れないプレイも、江川の大きな魅力の一つだ。そして後攻の田川。彼のコールによりプレイは一度ブレイク。が、ここで田川は一言「これって、今の曲の続きですか?(笑)」それぞれに自分の超絶テクニックを存分に、貪欲に発揮するプレイヤーの集団だけに、プレイヤーも、リスナーも曲のポジションを見失うハプニングもあるのだが、彼の一言はそのタイミングをユーモアに変えて、更に会場を守り立てた。
 
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「まぁ~自由なこと!(笑)」オープニングを完遂した彼ら。リラックスした江川の一言が、フロアを和ませ、セッションの時に流れる緊張感とは違うアットホームな空気を漂わせた。その空気の落差が、このトリオの凄みを更に増していく。田川のソロに続いて続いてバラード「Slight Tekazu Ballad」、マイナー・キーでクールな「Otesuu okake shimasu.」へ。強烈な手数対決もさることながら、バラードの中に見える歌心をより深く感じる。本当に手数だけのセッションであれば、恐らく曲という単位すら見えない、聴くに堪えないサウンドになってしまうであろうところを、3人がミュージシャンとしての卓越したスキルを駆使し、曲を曲として成立させる。

また、そこにはお互いの信頼関係によるところも大きい。自分以外のプレイヤーがソロを取る際に、注意深く相手を見る菅沼、芯をぶれさせず、かつ相手の反応を見る江川、そしてじっと耳を傾ける田川。ラストでは田川のキーボードとギターによる一人バトルも展開され、これぞ手数の洪水。プレイでは終始観衆を圧倒し、見るものはただ唸るほかない次第。クライマックスを飾る菅沼のドラムソロでは、ドラムから歌が聴こえてくる錯覚を覚えるほどの、手数の多さ、幅の広さを見せる。三人一同、全く隙のないプレイを見せつけ、第一部は幕となった。
 
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2.第二部
 
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そして第二部の幕開け、ドラムセットには菅沼の姿がなく、代わりに一人の少女がいた。彼女は菅沼の弟子の一人、川口千里。まだ高校生になったばかりの彼女だが、菅沼が一目置くだけに、既に方々のセッションで活躍しているスーパー・ガールだ。そして第二幕は開いた。ドコドコとバスドラが場内の空気を震わせる激しいナンバーは、彼女の愛らしいルックスなど全く目に入らないとばかりに、手加減なく展開していく。が、そんな中でもさすがは菅沼イチオシの弟子だけあって、まったく揺らぐ気配すらない。江川の派手なベースや、田川のワイルドなトーンの、一音一音を後ろから追うようにリズムを刻む様は、全く菅沼のキャラクターを引き継いでおり、しっかりと繋がる師弟関係を思わせた。

プレイ終盤、演奏中にもかかわらずステージに現れた菅沼川口千里がプレイしているにも関わらず、スネアドラムを交換し始めた。そんな異常事態の中でも、一向にプレイもサウンドも止まる様子はない。交換を終えた菅沼が、そのスネアをフロアに向けて掲げた時に、すべては明らかになった。なんと、スネアの皮が破れてしまったのだ。そんなアクシデントにも関わらずプレイに集中し、師匠に負けず劣らずのプレイでオーディエンスを魅了した彼女。この師匠にこの弟子ありと、恐ろしいまでの師弟関係振りをアピールした。
 
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「最初はお互いに歩み寄っていたんですが、今じゃもう隙間なく手数で詰め込みだしちゃったんです(笑)」MCで菅沼が語ったとおり、正にこのセッションは、その一瞬の隙間もない壁のような音が魅力。続くナンバーでは、なぜかレゲエを思わせるリズムの中で、強力なロックサウンドを展開。こんな曲があるだろうか?逆に「メタル風」と語ったナンバーでは、激しいグルーヴの中でも、テクニックを越えた彼らの弾けた演奏スピリッツのようなものを、エンドのバースで存分に披露した。そしてエンディングへ。

ファンキーなグルーヴの中で、テクニカルなギターを聴かせる田川は、泣きのチョーキングを、弾きそうで弾かない、出し惜しみするようなユーモア振りで会場を更に沸かせた。江川のベースには、師と仰ぐLarry Grahamラリー・グラハム)の「Release yourself」で聴かれる定番フレーズ等、ベーシストが聴けばムムッと唸りそうなテクニカル・フレージングが満載。そこでテクニックに偏らない歌心を伴っているところに、ミュージシャン・シップの高さを感じさせてくれた。続く菅沼は、自身が活動を進めているFragile等で披露した、「叩いてる振りをして、叩かない」芸当(足技のみでドラムを叩き、ストロークはエアーだけ見せるという派手な見せワザ)をプレイ。そして最後は田川とオーディエンスの掛け合いと、テクニックもパフォーマンスもやりたい放題、手数で埋め尽くされながら、怒涛のエンディングをしっかりと決めた。
 
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そして菅沼江川がステージを降りた後、田川だけはステージを降りずにオーディエンスと共にアンコールをあおる。彼のそんなユーモラスな雰囲気は、ある種ホッとさせてくれる雰囲気を作り出し、アンコールへの更なる期待を盛り立ててくれた。ラストは、江川が語った「こんなのをやりたいと思って、この前出してみたんだけど」という雰囲気の、ドライブ感抜群のシャッフル・ブルーズ・ナンバー「Messa Boogie」。セッションという括りの中では、どうしてもコード一発のジャムに陥りがちだが、そんな中彼らがこれをプレイしているのは、改めて更に一段階高いレベルの演奏を見せようという方向性すら見える。

単純なブルーズ・コード進行、そしてシャッフルというシンプルな曲構成の中で、ダイナミクスを絶妙に加える江川。そして歌いながらフレーズをギターでユニゾンする、絶妙なメロディセンスの田川。更に堅実にリズムをキープしつつ、ドラムでちょっかいを出す菅沼。会場は満場一致で大満足、高度な実力の粋を集めた強力なステージは、こうして幕を下ろした。
 
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◆オフィシャルサイト
田川ヒロアキ オフィシャルサイト
http://fretpiano.com/hiechan/
菅沼孝三 オフィシャルサイト
http://www.kozosuganuma.com/
江川ほーじん オフィシャルサイト
なし
 
八王子Live Bar X.Y.Z.→A オフィシャルサイト
http://www.livebarxyz.com/

◆セットリスト
第一部
1.Another Convergence
2.Traveling Bomber – Hojin Solo
3.Tagawa Solo
4.Slight Tekazu Ballad
5.Otesuu okake shimasu.- Kozo Solo
第二部
6.Watch Out The BUMPS! with 川口千里
7.Expressway Metal
8.Tekazu Prankish
9.The Beat To Hit
Encore
10.Messa Boogie

堅実に粘る江川と、クレバーな菅沼、そして弾けた歌心を見せる田川と、まるで常人には達成できない領域を感じさせたステージには、観衆も満腹、大満足の表情を見せた。しかし、それほどまでにサウンドに対して高いレベルをクリアしながらも、個々のメンバーの表情には、自分のプレイに対する強い信念のようなものも垣間見られ、やはり通常のバンドとは違う高い緊張感すら感じられた。

それは通常のセッションとも異なる空気が感じられる。お互いがライバル、そしてセッションは一騎打ちくらいの只ならぬ緊張感だ。その一瞬に見せる制作意欲、「より良い音を!よりスリリングな緊張感を!」といった思いの強さに、尋常ではない意志の強さすら感じられるのが、このトリオ最大のセールス・ポイントだ。日本のプレイヤーの中でも、第一人者といわれる3人でありながら、新たな挑戦を続けるチャレンジャー意欲にまみれた彼ら。次に繰り出す手数は、果たして…?単なる音数だけではないその引き出しの広さを誇る彼らだけに、更に刺激的なサウンドの出現も期待できよう。
 

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