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TEXT & PHOTO:タカシ ミッシェル
年齢を感じさせない若々しさ、ギミック一切なしのアコースティックライヴで観衆を魅せてくれた。 笑いアリ、サプライズアリのライヴは、“HAPPYだけが俺たちのルール”と言えるような心暖まる公演。 きただにひろしwith Dany’s special session vol.2と銘打たれたバースデーライヴが、2019年8月24日、東京吉祥寺のStar Pine’s Caféで行われた。この日は椅子が置かれ、この夏の酷暑を忘れてじっくりと音楽に浸れる環境だ。開場すると1階、2階ともすぐに席は埋まりファンの期待度の高さが伺い知れた。年齢層は子供から大人まで幅広く、きただにひろし(以下、きただに)が長年の音楽活動で新たなファンを獲得し続けてきたことが分かる。 きただには、国民的アニメ「ONE PIECE」の主題歌を歌い世界中で活躍するアニソンシンガー、アニソン界のスーパーユニットJAM Project(以下JAM)のメンバーとしては勿論、Lapis Lazuliのヴォーカリストやソロシンガーとしても活躍する。 そして今日のパートナーであるギタリスト高慶“CO-K”卓史(以下、CO-K)は、幅広いアーティストから絶大な信頼があり、ライヴにレコーディングに引っ張りだこの売れっ子ギタリスト。きただにのバンド、通称Dany’sのギタリストでもある。
開演時間を迎えフロアの照明が光を失い、おもむろにCO-Kときただにがステージ下手から登場し。歓声が沸き起こる。キックオフチューンは、TVアニメ『牙狼-炎の刻印-』のJAMのシングルに収録された「追憶の光」。きただに作曲のドラマティックなミドルテンポナンバーを、きただには1人で難なく歌い上げる。どんなベテランでも“1曲目や初日公演は緊張感が増してしまうもの“とよく耳にするが、きただににはそんな定説も通用しないのだろうか。
きただにもギターを手にし、自身作曲のJAM「IN FATE」へ続く。CO-Kのレクイエムを思わせる物悲しいギターの旋律がぐっと耳を惹きつける。JAMのオリジナル版の哀愁はそのままに、クラシカルな雰囲気のある2本のアコギと高音まで美しく伸びるきただにのヴォーカルに聴き入ってしまう。厳しい夏の暑さなど完全に忘れて、音楽に酔いしれる事ができる世界だ。 「何かね、アコースティックライヴはこういう風に聴かなきゃいけないみたいな、みんなの緊張感が、逆に!こっちを緊張させてますからね、あー緊張した!」と頭2曲を終えて、やはりライヴ始まりで緊張していた事をストレートに語るきただに。CO-Kも同じように胸を撫でおろす。 「1、2曲凄くかっこよかったですよ」ときただにの緊張感を誰よりも感じていたであろうCO-Kがアイスブレイク。「本当に今年も51回目の誕生日を皆さんとお祝いする事が出来て、唄歌いとしてサイコーです!」(場内拍手)「今年は暑かったですね、キケンをカンジる暑さでしたね。もう1枚Tシャツを持って行かないといけないぐらい。電車入ったら寒いじゃないですか?(笑)」緊張が解けて一気に饒舌になるきただにのMCに場内は笑いに包まれる。 「名盤RealからCO-Kがアレンジしてくれたこの曲を贈ります」ときただにがコール。ブルージーなCO-Kのギターイントロからきただにのホンキートンクテイストの弾むようなピアノが相まって「Groovy Sunday」が始まる。場内からハンドクラップがナチュラルボーンする。オリジナルとは違い、かなりロックンロール調のアレンジだ。 きただにのカウントから早くもONE PIECEの主題歌「ウィーキャン!」が放たれる。気志團とのコラボによる同曲はバンドサウンドだったが、ギター2本と観衆のハンドクラップのみというシンプルなアレンジとなると歌の世界観がより強く伝わってくる。 一転して、ギターイントロで会場はオリエンタルな雰囲気に包まれる。~真剣で私に恋をしなさい~の挿入歌「武士」(もののふ)への移行だ。オリジナルは疾走感あふれるパワーメタル調の楽曲だったが、今日のピアノとギターによる演奏は、より歌を際立たせ、じっくり聴かせる為のアレンジと思えた。 きただにの澱みない伸びやかなハイトーンは聴いていて実に気持ちいい。素人がやれば間違いなく喉に余計な力が入り、ここまで綺麗なハイトーンを出すのは困難だ。しかもピアノを演奏しながらの歌唱なので、きただにの技術がいかに高いレベルであるか、容易に分かるというものだ。
「ONE PIECEを観て、勝手に世界観を自分の記録として書いた曲があるんですけど、それをどうしても歌いたいので歌います。shi・ru・shiです」と曲紹介。きただにのピアノイントロから始まるONE PIECE賛歌は作品に対するありったけの想いが詰め込まれている。そして、自身がONE PIECEの作品の始まりを告げる者として、大きなフラッグ(shi・ru・shi)を掲げるような歌の様に思えた。
「今回はなんと素晴らしい助っ人をお呼びしています、西村奈央!」ときただにが強力な鍵盤奏者を招き入れ大きな拍手で迎えられる。「奈央ちゃんはJAMのキーボーディストなんですけど、ミュージシャン界の中でもすっごい顔が広いんです!」と紹介。強力なミュージシャンが加わり、ステージはさらに華やかになる。「映画観てよ、映画、そうだウィーアー!が(映画中に)流れるんです。アレンジが違うから録り直したんですけど」映画の内容は勿論、きただにの歌という聴きどころもあるので映画『ONE PIECE STAMPEDE』も楽しみたいところだ。 そしてそのONE PIECE の初代OP主題歌「ウィーアー!」がここしかないというタイミングで放たれる。ギター2本、ピアノのトリオ編成での「ウィーアー!」は若干オリジナルよりテンポが速く、ドライブ感があるサウンドだ。時折入る西村奈央のハモリも効果的。発表から約20年経つ曲だが、その魅力は全く失われていない。そして続くのは再びのONE PIECE OP主題歌「ウィーゴー!」破壊力ある予定調和で更にフロアの温度を上げてゆく。 ギターアレンジからも、きただにのアルバム『Real』に収録されていた~Rock-A-Billy-Style~に近いと思ったが、西村奈央の明るく踊るようなピアノは楽曲に新たな輝きを与えているように思え、聴いていてひたすら楽しい気分になる。きただにのヴォーカルは力強くも、真似ができない包み込むような優しさに溢れている。最後のロングトーンも濁らず・ブレず・クリアな発声でギターヴォーカルながら難なく歌い切ってしまうところは流石としか言いようがない。 「ONE PIECEの歌を歌うってのは凄いプレッシャーなんですよ。多くのファンの人がどう思ってくれるかって。今回のレコーディングできただに還ってきてくれてありがとうならメッチャ嬉しいんですけど、またきただにか…と総スカンになると駄目じゃないですか?なぜか最近きただにひろしはウィーゴー!あたりから“最後で叫ぶオッサン”になってる。最後に叫ぶ=きただにひろしになりつつある(笑)OVER THE TOPみなさんどうでしたか?」 慌ただしくコードチェンジするサウンドはまるで次から次へと押し寄せてくるようだ。歌そのものの難しさは聴いていてすぐに分かるが、高音域がずっと続くこういった曲はとかく平坦になりやすいものだが、歌の緩急の付け方も見事だ。難しかった部分というのはこういったとこかもしれない。“One Dream One Wish”のコール&レスポンスは非常にキーが高いのだが、逆にキレイな高音がフロアを彩る。そして「OVER THE TOP !!」で力強く曲を締めくくる。きただにのONE PIECEの主題歌3連続はやはり圧巻だ。 「やっぱりアーティストとして1つの作品に携わらせて貰っている事は凄くラッキーなことだし幸せだと思います。JAMではスパロボとか牙狼は10年以上やらせてもらっています」「仮面ライダー龍騎の中で3曲歌わせてもらっています。今日はその龍騎の3曲をメドレーにしたんで(場内拍手)龍騎メドレーを聴いてください。」reborn~果てなき希望(いのち)~Revolutionが披露される。オリジナルはキーボードのアタック感を活かした典型的なデジタルロック。そのアタック感を強いギターのストロークとピアノタッチの強弱で見事に表現されていた。 龍騎メドレーに大きな拍手が送られるやいなや、どこかで聞いた声で「Danny HAPPY BIRTH DAY!!」。どうやらサプライズのバースデーメッセージ。「ミュージックスタート」の声と共に西村奈央の伴奏が始まり、みんなでハッピーバースデーを歌い和やかなムード。そして更にONE PIECEでもフランジ〜、ジャンゴやボン・クレー役などを務める声優・俳優の矢尾一樹(以下、矢尾)がバースデーケーキを持って登場!(場内歓声上がる)矢尾ときただには公私ともにかなり親交があるらしく2人のトークが弾む。 矢尾は「(きただにがONE PIECEへの想いを込めた曲)shi・ru・shiよかったね。今日は麦わらの一族を代表して来させてもらいました。尾田栄一郎さんは絶賛原稿中で、他の麦わらの一族もプロモーション中なもんですから」と今回登場の経緯を話す。「で、(ONE PIECE)STAMPEDEの中でウィーアー!は一番いいとこで使われていて凄く印象に残った」ともいうことなので、ONE PIECE STAMPEDEはぜひウィーアー!が流れるタイミングも見どころではないだろうか。
「次はですね、年に一度のきただにひろしのお楽しみコーナー!来たぜ来たぜ来たぜラテンの血が!」ときただにがマラカスをシェイクしながら「レスキューサンバ♪」へ突入。キャッチ―な“Ole Ole Ole Ole…”のサビではコール&レスポンスも発生し、ひたすら楽しい気分。「やっぱ笑うっていうか、笑顔はいいですね。今、煽りあおられてるじゃないですか?そんな怒ってるんですか、いっつも?笑顔ってすごいと思ったのが、ゴルフの渋野さん。インタビューで言っていたんですよ、笑顔は世界共通って言葉にメッチャ感動したんですよ。次の曲は名盤Realから(CO-Kに)アレンジしてもらった」という2曲が披露される。まずは「Go Ahed!」ピアノとアコギの力強い演奏をバックに、きただにのヴォーカルも戦いの狼煙を上げるかのごとくパワフル。
「また最後叫ぶオッサンになってますね」と謙遜しつつ、ラストのGo Ahead!のシャウトは見事だった。続く曲は「Only in my dream」この曲の歌詞は何かパワハラ上司などに“絶対に負けるなよ”と立ち向かってゆく社会人への応援歌のようにも思える。2曲ともかなりROCKしていて、特にJAMが好きな人にはきっとお気に入りの楽曲となるはずだ。 「本当にみんな笑っていたら神様がご褒美をくれるような気がするんです。俺って優しくなろうと思ってるんです。子供の頃からケンカとかもしたことないんです。あまり大きなことは言えないけど、1人1人が優しくなれたら戦争だって起こらないと思うんです。人間の笑顔に近いアニソン界、僕の人生を変えてくれたアニソン界デビュー25周年」「JAMが20周年、そんなときに(ONE PIECEの)主題歌を出してくれた…バチが当たるんじゃないか?っていうくらい幸せです」「これからも上を向いて、決しておごらず頑張っていこうと思います。定番となりました僕のオリジナル曲を、笑顔でみんなと歌って終わりにしたいと思います。Smile」 スケールの大きなミドルテンポのバラードをファンと笑顔を共有しながらLaLaLaLaLa…のコール&レスポンスが印象的だ。これがきただにが言う“優しさ”ではないかと思える。政治や国際情勢といったメッセージを歌に込める人もいれば、きただにのように“笑顔があれば幸せは広がってゆく”というような穏やかなメッセージを込めるアーティストもいるのだ。「今日は本当にありがとう」ギターのCO-K、ピアノの西村奈央を改めて紹介し51歳のバースデー公演は幕を閉じた。 エンディングSEが流れる中ファンはアンコールを求める。数分後にきただにが再登場し歓声が上がるが「アンコールはないよと」と再びステージを去ろうとしたきただにだが、ちょうどそのタイミングで「OVER THE TOP」のコール&レスポンス部分が重なり、即席ミニライヴ状態になる。ファンには嬉しいアクシデントで本当に本公演が終了した。 音楽を堪能し、大いに笑い、サプライズに驚き、実にきただにらしい素晴らしい公演。会場を後にする多くの笑顔が今日の公演の成功を物語っているかのようである。
◆きただにひろし Official Website
http://kitadani-hiroshi.com/ ![]() OVER THE TOP 発売日:2019-09-25 / 品番:EYCA-12665 価格:1,620(税込) 収録内容 ※商品仕様、収録内容、特典内容は予告なく変更する場合もございます。予めご了承ください。 CD情報はこちらから!
◆Setlist
M01. 追憶の光 M02. IN FATE M03. Groovy Sunday M04. ウィーキャン! M05. 武士(もののふ) M06. 愛してないなら(家入レオ カヴァー) M07. shi・ru・shi M08. ウィーアー! M09. ウィーゴー!~Rock-A-Billy-Style~ M10. OVER THE TOP M11. 仮面ライダー龍騎メドレー Reborn 果てなき希望(いのち) Revolution M12. レスキューサンバ♪ M13. Go Ahead! M14. Only in my Dream M15. Smile |