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TEXT:河内香奈子 PHOTO:吾妻仁果

5月21日(木)、東京・渋谷の「オトトイの学校」にて、「パブリシスト養成講座」の一環としてOTOTOYの西澤裕郎副編集長と本誌・BEEASTの鈴木亮介前副編集長の対談が開催された。
 
「パブリシスト」とは、情報であふれかえるネット社会の中で、アーティストが本当に伝えたい「思いや考え」を届けるべく存在する、プロの広報・宣伝担当マンのこと。「自分が携わるアーティストが売れてほしい」「でも、どうやったらいいんだ?」と思ったところで、教科書なんてどこにもない。どこで、どうやってその手法を学べばいいのか分からない人も多いのではないだろうか?
 
この講座では、そんな「パブリシスト」を育てるべく「オトトイの学校」にて「パブリシスト養成講座」を開講。経験豊富なゲストやアーティストを交え、ゼミ形式のグループ演習を行い、広報・宣伝の手法や戦略などのノウハウを伝授し、一流のパブリシストを育てようとする講座だ。その講師を音楽業界に深く精通している渡邊ケン氏が務めている。
 
講座はこれまでに「新聞」「ラジオ」など媒体別に開かれており、4期目となる今回は「webメディア」が中心テーマとなっている。この日は、そんなwebメディアの”中の人”から直接リアルな声を聞くべく、OTOTOYの西澤副編集長と、BEEASTの鈴木編集部員(前副編集長)をゲストに迎え、副編集長対談として行われた。
 
配信を軸に置くOTOTOYと、ロックマガジンのBEEAST。それぞれ異なる特性を持つメディアへパブリシストがどういったアプローチをしたらいいのか?情報を売り込まれる側からみたメディアの今後とは?パブリシストが持つ様々な疑問をwebサイト”現場監督”の2人が真正面から回答。当初予定していた1時間を大幅に超え、2時間にわたってリアルな実情が語られた。
 

◆パブリシスト養成講座 概要
あなたが素晴らしいと思う音楽が「なんでこれしか知られていないの?」と、悔しくなったことはありませんか?情報過多な現代社会において、ひとりのアーティストについて知ってもらうことは、決して簡単なことではありません。
 
そこで、いま必要とされているのが、パブリシストという存在です。アーティストの特性を知り、プレスリリースを書いて、メディアやキーパーソンに送り、記事を掲載してもらう。それらを効果的に行なうことで、本当に届けたいユーザにアーティストを伝える役割を果たす。それがパブリシストの仕事なのです。
 
オトトイの学校では、日本ではまだ数の多くないパブリシストを育てるために、「パブリシスト養成講座」を行っています。授業を通し、プレスカルテを制作し、メディアへの記事掲載やプロモーションの動きを実践していただきます。
 
学校でもレコード会社でも教えてくれない、ガチで実践的で役に立つ講座。パブリシストとしての第一歩を踏み出し、アーティストから求められる存在になりましょう!
 
◆講師プロフィール
渡邉ケン(一般社団法人ミュージックコープ 代表理事)
広告業界から音楽業界へ転身。海外アーティスト招聘業務(プロモーター)を皮切りにレコード会社(洋・邦制作)、音楽出版社、アーティスト・マネージメント、SXSW Asia 事務局長を歴任。幅広い業界内職歴経験と内外事情比較を通し次代の音楽業界の最適化の方法のひとつとしてSXSW的音楽見本市の役割と定着に挑戦中。
著書:『バンドビジネス成功術 ZINCLO!004 KEN渡邉』電子書籍(株式会社グレイプス刊)
インタビュー:
http://www.musicman-net.com/report/51.html
http://biz-m.oricon.co.jp/feature/data/279.shtml

 

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■まずは、それぞれのメディアの生い立ちや特性を解説

BEEASTは今年で7年目。「親子で読めるロックマガジン」を掲げ、若い世代と親世代がそれぞれの世代間をロックという共通項でつなぎ合わせることができるクロスメディア。特性としてwebでありながらスピードよりも1つ1つの記事をじっくりと練ることを重視している。
 
創刊当初はニュースを取り扱っていなかったが、一時休刊ののち2012年に復刊した際、ニュースを導入。このことについて鈴木氏は「BEEASTでは他誌で読めない特集や連載が売りで、ニュースはあくまでオマケ扱い。ニュースという枠を使って次の取材につなげたり、ライブハウスやアーティスト本人から提供された、よそでは読めないようなニュースを中心に掲載しています」と説明した。
 
OTOTOYは2004年に「recommuni」(レコミュニ)として設立。元々は配信サイトとSNSが組み合わさった、言わばmixiと音源配信が一つになったような形でスタート。2009年に現在の「OTOTOY」という名前に変わり、配信に特化する形となる。「音源をより知ってもらい配信につなげるためには?」という考えから、配信を中心にライブレポートやインタビューなどメディアの機能も強化されていった。
 
コンセプトは「読んで聴けて買える音楽配信サイト」。これは、OTOTOYの飯田仁一郎編集長がレコードショップで勤めていた経験から「雑誌を読んで、試聴して、気に入ったら買うという形にしたい」と考え、それをweb上でも再現する形に。さらに、音源を売るための施策として、web上での動画配信チャンネルTV♭や「オトトイの学校」として講座の開催、ライブレコーディングなども行っており、西澤氏は「従来のメディアというよりも、音源配信を中心とした多機能型メディアです」と例えた。
 
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■パブリシスト必見!各媒体で異なるニュース掲載可否基準

続いて、パブリシストにはとても気になる、各メディアがどのような判断基準でニュースを掲載しているかという話題に。日々大量に送られてくるプレスリリース(ニュース素材)を、OTOTOYとBEEASTはそれぞれどのような基準で取捨選択しているのか。その内情が明かされた。
 
OTOTOYは他のメディアと一線を隔すサブカルチャー的な側面を持ちつつ、奇をてらうのではなく、サイトを利用する人たちの「欲しい情報」を付加することを是としている。「僕個人的な感覚ですけど、OTOTOYは30歳を一つの境として2つの層にわかれていると思っています」と西澤氏。OTOTOYのユーザーのうち、30代以上は音源の購入が主であるのに対し、20代は情報を探しに来ることが主目的という特性があるという。
 
その中で、形態が配信サイトである以上、ニュースとして取り扱う案件は、配信があるものとないものならならあるものを優先するという。「オトトイのスタッフは決して多くないので、外部のライターさんとともにニュース・チームを組んでいます。それだけに、1日に取り上げられる本数にも限りがあるため、これまでに付き合いのあるところのニュース掲載がどうしても多くなる。もちろん知らないところからのプレスでも面白いものなら取り上げます。あとできるだけ個人のイベンターさんたちも応援したいので、同じイベントの第2弾発表を載せるなら、地方のイベントの情報を選びます」と説明。
 
一方、BEEASTはロックマガジンという性質上、ジャンルが異なるものは原則掲載していないという。「少数精鋭の編集部員が記事を作っているので、一日に掲載できるものは限られる。その中で、付き合いのあるところや面白いなと思うものを掲載しています」と説明。
 
パブリシストがBEEASTにアプローチをする際に、自身のアーティストが「ロック」というジャンルなのか、クールに判断する必要がある。異なるジャンルでありながらアプローチをかけても双方にメリットがないからだ。例えば”ロック”を売りにするアイドルユニットについては、曲調はロックでも、メンバー全員が楽器を持たず歌っているだけならば掲載しない可能性が高い」と鈴木氏は一例を挙げた。
 
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■パブリシスト側からのアプローチの実例と反応

この日、司会を務める塙薫子さんは、自身がパブリシストとして携わるバンドの情報をOTOTOYとBEEASTの両社に送ったというのだがこれに対しての反応は別れたようだ。
 
OTOTOYでは、本件はニュース掲載されなかった。西澤氏は「いわゆるメタルのバンドは、OTOTOYのユーザーさんが普段聴いているものというわけではなく、いきなり情報だけ載せても浮いてしまうと思ったので掲載を見送らせていただきました。たとえば、『メタルが嫌いな人でもこれだけは絶対に聴いておけ!』くらいの見出しで押し出せるくらいできたら違ったと思うんですけど」とコメント。パブリシストには、ただ情報を記載するだけでなく、その媒体の切り口でおもしろくなりそうなプレゼンも一言でいいので提案してくれたら嬉しいと話した。
 
一方、BEEASTでは本ニュースを掲載。鈴木氏は「単純に(ネタの内容が)面白かったから掲載しました。なるべく、ニュースを沢山掲載したいと思っているけれど難しい。可否の判断基準の一つとして、一斉メールで機械的に送られたものはスルーすることが多い」と話した。また、BEEASTに掲載したことをSNSでしっかり発信してくれるミュージシャンの案件は双方にメリットが大きいので積極的に載せたい。媒体にメリットを感じてくれているアーティストへは、媒体側から次の展開を一緒に考えることもあると話し、これに西澤氏も同調した。
 
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■プレスリリースにおける「解禁日」の捉え方

他にも、パブリシストとして切っても切り離せない「プレスリリース」の手法や受け手側から見た欲しい情報についての話や、現場取材の大切さなどの話も登場。「パブリシストとしてやっていくのであれば、リリース以上に情報を作って話題にしようという企画力を発信していくことも大切だし、そうでないとアーティストと渡り合えない。パートナーとしてやっていくにはそういう実力と信頼が必要なんじゃないかという持論があります」と語った西澤氏は、受講生の一人がパブリシストとして担当しているアーティスト、四万十川友美をモデルケースに上げた。
 
この受講生は四万十川友美という男性シンガーソングライターをラジオに取り扱ってもらおうと多数のメディアへのアプローチを行った。その結果、6月より大阪のローカルラジオへの出演が決定したという。パブリシストはアーティストに自らの思いを伝え、信頼を勝ち得た上で行動する必要があり、「そういったパブリシストとして存在感を示すことや忍耐も重要」と語ってくれた。
 
さらに、「解禁」についても議論が及んだ。現在、音楽業界では情報の解禁日時を予め設定し、掲載するメディア側はそれに従う。決まった日時に掲載タイミングを集約することで、多くの音楽ファンの注目を集めたり、”話題性”の演出に寄与したりと理由は様々だが、違和感を持つメディア、音楽ファンも少なくない。
 
ここで、講師である渡邊ケン氏が「解禁日という言葉は上から目線な印象を与えてしまう。アーティストの実情をクールに捉えて使わなければ」と話した。「パブリシストはあくまで人。個人のキャラや人間性を感じられるようでないと、受け取る人も記事にしようと思わない。そういったパブリシストの個人の力が必要」とアドバイス。アーティストやパブリシストがどれだけ実情をクールに把握しているかが大切だと語った。
 
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■webメディアで食べていくことはできるか?

事前に募った受講者からの質問で「webメディアで食べていくことは今後できると考えているか?」というものがあった。記事広告などのことを踏まえての質問だろう。
 
これに対して鈴木氏は「BEEASTを踏み台にしてほしい」と切り出した。過去の成功例として、BEEASTが派遣したカメラマンが取材で撮影したライブフォトが気に入られ、後日そのバンドのオフィシャルカメラマンの座を得たことなどを挙げ、固定給をもらったり仕事が来るのを待ったりという受身な姿勢ではなく、野心ある人が自分自身のステップアップとしてBEEASTという媒体を活かし、経験を重ねていくことを望むと話した。
 
続けて西澤氏は「贅沢するとなると難しいかもしれないけれど、食えないことはない。」と語ると同時に、OTOTOYについては「従来の音楽を売るという方法以外のところでもビジネスをしたい。音楽ファンという言い方自体がおかしいと思っていて、音楽は誰もが聴くもの。もっと広い視野で音楽を広めていきたい」と全く違う土俵に行くのではなく、あくまで音楽配信を軸に置いた次の展開を考えていると話した。
 
互いに、時にはシビアな話を交えながらも、メディアの立ち位置をリアルに捉えていることが感じられた。
 
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最後に、受講者に向けてそれぞれがコメントした。
 
「人と人なので、人間同士のぶつかり合いやイラっとすることもあると思うけれど、応援したいアーティストや最終の目的さえ見失わなければそこはあってほしい。そして、ガンガン来てください。”まだ載ってないですよー”ってくらい言ってくれる方が嬉しい。少しぐらい来てくれていいんです」(西澤氏)
 
「解禁や情報を出すタイミングの話があったけれど、まずは送りつけてしまうことが大事。自分自身もどういうニュースを出せばいいのか、次につながるのか探りながら活動していきたいと思います」(鈴木氏)
 
「パブリシスト」というと難しく聞こえるが、つまりは「人と人とをつなげる橋渡し役」のこと。自身が担当するアーティストの良さを発信するためには必要なことは何か?それはこの2時間にわたる講座でしっかりと伝わったように思う。
 
この「パブリシスト養成講座」は年に数回開講されており、第4期は6月4日(木)の講座でいったん幕を閉じたが、7月23日(木)より第5期の開講が決定し、募集がスタートした。今後も様々なゲストや題材で行われる予定だ。
 

◆パブリシスト養成講座 第5期開講決定!! 詳細はこちら
http://ototoy.jp/school/event/info/176

◆オトトイの学校 公式サイト
https://ototoy.jp/school/
◆OTOTOY‐ハイレゾ音楽配信と音楽記事 公式サイト
http://ototoy.jp/