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【ピックアップ!】吉井和哉「.HEARTS TOUR 2012」武道館プチレポ

2012年12月18日

吉井和哉「.HEARTS TOUR 2012」2012/11/28(水)@日本武道館

TEXT:まことZ   

11月10日から年末12月22日まで続く全12公演の真ん中、吉井和哉「.HEARTS TOUR 2012(ドットハーツツアー2012)」の東京公演は日本武道館での2DAYS、その1日目に行って来た。ツアータイトルにも使われている「HEARTS」という曲は、映画の予告編の様な仕立てで面白いプロモーションをしているので、是非観ていただきたい。これは、こういう映画があるのではなく、あくまでも曲のプロモーションなのだ。

1992年にTHE YELLOW MONKEYでメジャーシーンに登場して以来、吉井和哉は20年の長きに渡って色褪せることなき光彩を放ち続けている。2003年にソロデビューしてから来年で10週年を迎え、ソロ曲の初のベスト盤「18」の発売を控えており、それに合わせて「2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA」というライブツアーで全国を回る予定で、ますます精力的に活動している。ちなみにツアータイトルにある「GOOD BY」は「さよなら」ではないことは、この日のMCで吉井本人が説明していたのでご安心を。

この日は寒かった。九段下駅の地下から地上に出てから5分あまりの徒歩は、風邪っぴきの筆者にはこたえた。だが武道館に着くとそこでは、これから放出される爆発的な熱気のテイクバック(これからという「溜め」の構え)がギリギリのところでもちこたえている。そう、これから嫌でも「熱く」なるのだ。会場内を見渡すと、客層のほとんどが女性で、30代ぐらいが多い様だ。なるほど、確かにTHE YELLOW MONKEY時代は、ファンは黄色い声援を送っていたものだな。彼女たちは時を越えても、一貫して吉井を支持し続けているのだ。

広い武道館の客席はドンドンと埋まっていくが、開演が遅れている。ステージやらPAやらを色々観察するのが筆者の楽しみの一つなのだが、おかげで今回は余裕を持って観察することができた。筆者の座った席は2階の一番前でPA席の真上だったため、そこら辺の機材も上から見ることができた。PA卓はちょっと遠かったので何が使われているかわからなかったが、照明とVJ用らしき、フェーダーのたくさん付いた卓がいくつも置かれており、立ち上がっているMacの画面には照明プログラムの時間軸の様な画像が映っていた。場内アナウンスで「照明効果のために非常灯も消す」旨が説明された。吉井もMCの中で「最新の照明技術」と言っていたが、なるほど、照明効果は、このコンサートではかなり重要なものらしい。

会場全体が暗転して、聞こえる音は打ち込み(もしくは録音)と思われるドラミング、そしてそこに載せられるテルミンの音。会場がざわめく。バンドメンバーの登場だ。そして暗いながらも吉井らしき人影が見え「ハロー、トーキョー」の声に会場が一気に沸いた。いよいよ開演だ。

ぶっ続けにソロ曲が演奏される中で、THE YELLOW MONKEYの曲も数曲あった。ソロ曲はもちろん現在進行形のコンテポラリーなものなので、観客の手の振りなども合っている。驚いたのは、アリーナばかりではなく2階席も3階席も観客はみんな立ち上がっており、振りも合っていたことだ。1万人が、一体感で凄くまとまっているのだ。ここら辺が、長年やって来たアーティストのコンサートの特有の雰囲気なのだろうと思う。もう、ここに来て何をしたらいいかは、全員がよくわかっているのだ。

吉井の粘る様な、色気のある声は、会場内によく響く。ボーカリストのソロコンサートであるため、声がよく聞こえる様に調整されているのだろう。やはりいい。吉井の歌い方はカッコイイ。長身の吉井は遠目に見てもカッコイイ。お腹が出たりしてないのも、とてもカッコイイ。アクションは少なめだが、ステージが左右に大きく張り出す形で作られており、端から端まで移動することでより多くの観客に感謝の想いを届けようとする吉井。時折コミカルな動きも見せ、その人となりも伝わってくる。カッコよくてお茶目なオヤジ、なのだ。

結成以来10年以上活動し続けたTHE YELLOW MONKEYが解散し、どうしようかと色々迷いもあった様だが、それでも吉井はここまでやって来た。ソロ活動の最初は「AKAI」のハードディスクレコーダーで卓録をしていたという話などは、吉井個人の臭いを感じる様な、ファンにとってはたまらない逸話であろう。「来年はハリウッドに進出する」など、冗談を織り交ぜていたMCだったが、常に謙虚に、そして感謝の気持ちを持って生きていることが、色々な話から伝わって来た(話の内容については、是非実際のコンサートの中で聞いていただきたい)。

開演から2時間、吉井は歌い続けた。実際に聴く吉井の歌は、CDで聴くのとあまり変わらない。安定した音程、リズム感、そして艶のある声。それを2時間、崩すことはなかった。終演後に語っていたのだが、「唯一の本当の友達だったタバコ、いつも胸に入れていたタバコ」を、やめたそうだ。ロックをやっているからタバコは付き物だと思っていたと言うが、それをやめたと言う。それだけ音楽に真摯に向かい始めているということだろう。やはり吉井は、音楽を一生のライフワークにすることを覚悟しているらしい。その甲斐もあってか、2時間歌いきった吉井の声のハリには、まだまだ余裕があった様に感じた。

気づいたのだが、吉井は上手側(客席からステージを見て右側)に位置して、下手側(左側)を見ながら歌うことが多い様だ。本人がそのことに自覚があるか終演後に聞いてみたのだが、「自覚?ないね、利き耳のせいかな?」とのこと。筆者としては、右半身を客席に向けることは、右半身で表現することを意味し、左脳が発達したアーティストならではかと思っているのだが、意外な回答でおもしろかった。そして「ハリウッド進出って(記事に)書いといて」と冗談をのたまったが、吉井が言うとただの冗談には感じない。ここまでやれる人間だから、この先何をやってもおかしくない、そんな可能性を感じさせるのだ。

広告費をかけて赤字でも武道館で演る、というのが昨今の風潮である中、実力で武道館を満員にできるアーティストは限られている。吉井和哉は、武道館を満員にするにふさわしい実力者なのだ。「恐れ多いことだけど、武道館は落ち着く」と言い放つ吉井。確かに吉井は、武道館にふさわしい。吉井和哉のロックンロールは、今までも、これからも、輝きを放ち続ける。

◆吉井和哉 公式サイト
http://www.yoshiikazuya.com/