演奏

超合金 LIVE

TEXT & PHOTO:桜坂秋太郎

2009年11月1日、夕方から強い雨が降り出した新宿。L.A.スタイルのライヴハウス「新宿WildSide」にて、超合金のライヴが開催された。超合金は知る人ぞ知る悶絶ギタリスト伸太郎を中心に結成。メンバーは、伸太郎(Guitar & Vocal)汁ちゃん(Bass)竜ちゃん(Drums)。音源はすでにCDが2枚あり、物販コーナーではメタルなリストバンドと並んで販売されていた。

何年か前、私は大道芸人をやっていた。代々木公園などで数年間、ストリートに立ち続けていた。中学生から始めた長年のロックバンド活動に見切りをつけ、音楽から離れた後、アーティスト的創作を考えた結果が、一人でストリートに立つ行為だった気がする。そんな時、一人の才能にあふれたギター芸人に出会った。

PhotoPhoto

彼の名は伸太郎。使い古したポータブルMDプレーヤーからカラオケを流し、ヘッドセットマイクで歌いながらハイテクニカルなギターフレーズを連発。ウインドショッピング感覚で芸を見に来た人から、単なる通行人まで、そのスタイルに思わず足を止めた。芸だけでなく、彼はルックスもインパクトがあった。スキンヘッドにアートなギターという一度見たら忘れない個性は、かなり好評だったと思う。

PhotoPhoto

彼はその当時、ソロギタリスト&ボーカリストとして、メジャー配給のCDをリリースしていた。路上パフォーマンスをしながら、その10曲入りCDの宣伝をして名前を売る、かなり地道な作業をしていた。CDジャーナルのデータベース記載を引用してみよう。すべてはそのコメントに音楽性があらわれている。

“岐阜から登場したギタリスト、伸太郎のデビュー・アルバム。ディストーションばりばりのギター・サウンドをメインに、クラシックの名曲やラップ・ソングを披露。楽しさあふれるエンタメ作品。”
by CDジャーナル

そんな路上での出会いから時を経て、彼は超合金というパーマネントバンドを結成。私は本誌「ビースト」編集長という立場になった。あの頃に感じた彼のパッションは、今どのような形になっているのか興味深い。ライヴ当日、最前列をゲットするファン層は若く、待ちわびた様子でステージを見つめていた。SEが流れ、ショーの始まりに興奮している様子が手にとってわかる。出番になると普通に登場するバンドが多い中、なるほど、スタートから期待感を持たせる演出に感激。

PhotoPhotoPhotoPhoto

1980年代に青春を過ごした私は、ショーアップされたライヴが大好きだ。もちろんストリート活動も経ているので、シンプルな飾らないスタイルも嫌いではない。2000年代の主流は、ギミックをあまり用いないストレートなロックだ。パワフルでタイトなバンドが増えたことは、実に良いことだと思う。しかし、もう少しショーアップすれば、さらに魅力が出てくるのに・・・と思うバンドもある。

PhotoPhoto

まるでCDを聴いているかのようなライヴは、私は得意ではない。それなら完成されたバランスの良いCDを聴いていればこと足りる。ライヴはアーティストとオーディエンスの人間対人間の空間、そこにしかない空間を求めるのは必然だろう。演奏力はもちろん大切だが、目で見ているというビジュアル的な要素が大きいのは言うまでもない。

PhotoPhoto

超合金。結論からすると、ビジュアル的演出が群を抜いている。ネタバレになるので多くは語れないが、この日対バンになったバンドから「何だこのバンド、すげぇ」「やば、俺ら負けてる」「いい勉強させてもらった」などのコメントが、関係者ブロックから聞こえた。それはけして超合金のメンバーに届くことは無い。終演後、私が一通りの撮影を終えて、ほっと一息ついている時に聞こえた生の声だ。

PhotoPhoto

演奏技術も高く、曲も親しみやすいタイプであり、初めて観たとしても超合金はお薦めできる。そしてもしも観る機会があった時は、演奏力の上にある演出力に注目してほしい。短い持ち時間の中で、ショーとして完成させている手法は、まさにメンバーの手腕。フルライヴのワンマンでショーを観たいと思わせるバンドはそう多くない。私は彼らのフルサイズのショーを観てみたいと思った。

PhotoPhoto

日本ロックシーンからすると、彼らは正直無名だ。存在を知っている人も限られるだろう。無名のアーティストはそれこそ無数にいるが、今は「MySpace」や「YouTube」というツールで、世界中にアピールすることができる時代。超合金はそうしたツールを一切活用していない。観たければライヴに足を運ぶしかないのが現状だ。バンドとしての課題もゼロではない。

だが、ストリートからの叩き上げ精神をベースにした、お客様視線での圧倒的な演出力は、ロックファン以外をもファンにする力がある。耳で聴くだけでなく、観て楽しめるバンドが、日本のロックシーンにもっとあっても良いと思う。帰り道、私が担うべき役目の中には、こうした優れたバンドをロックシーンに紹介することも含まれていると、再確認した。

【超合金 公式サイト】
http://shintarozz.srv7.biz/

Photo

【セットリスト】
01. エアギター
02. サンライズ
03. トルコ暴走曲
04. 大切な宝物
05. 夜くらいのにサングラス
06. アコガレアメリカ