演奏

Faster Pussycat

TEXT & PHOTO :桜坂秋太郎

FASTER PUSSYCAT。この響きだけでLA(ロサンゼルス)の乾いた空気とロックンロールを思い出せる。87年にデビューしたFASTER PUSSYCATは、俗に“LAメタル”とくくられるムーブメントに登場したバンドの一つだ。色気を放っていたフロントマンTaime Downe(Vocal)とBrent Muscat(Guitar)のルックスも手伝って、日本では結構人気があったと思う。この当時は、MTVなどによる映像戦略が定着した時代。多くのバンドがビジュアルに凝る結果となった。LA系が好みじゃない人の中には、ケバいことを嫌味に言う人もいたが、LA系以外のアーティストも、ビジュアル戦略の入ったビジネスプランを実施していた。ただ単にLA系が目立っていただけに過ぎない。今はYoutubeなどで当時の映像を気軽に楽しめる時代。その映像を見れば、80年代後半のビジュアル戦略は誰の目にも明らかだろう。

私は70年代80年代のロックが青春だったので、MTVが流行った当時は最後の熱き時代。アメリカに行ってもイギリスに行っても感じたことは、「元々たかがロックンロール、好きな物に理由なんて不要」というシンプルなことだった。当時LA系のバンドのルックスに否定的だったメディアの記事は、テクニシャン崇拝者が書いたものばかりだったが、確かにテクニックが必要なスタイルのロックもある。でもLAから世界を手にしたGuns N’ Rosesには、ずば抜けたテクニシャンは居なかったが、世界中にロックキッズを誕生させた。テクニシャン崇拝者は、自分達が否定した音楽が世界に受け入れられたことには触れず、オリジナリティがあるなどと、平気で手の平を返した。なので弊誌ビーストを創刊するにあたり、最初から「ビースト三原則」を宣言した。一部の方からは、あり得ないと批難されたが、心の中で中指を立てたのは言うまでもない。

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さて今夜の主役FASTER PUSSYCATに話を戻そう。FASTER PUSSYCATの1stアルバムには「CATHOUSE」というナンバーがある。私が始めてFASTER PUSSYCATを知ったナンバーがそれだ。カッコよくてすぐに“レコード屋”へ走ったことを覚えている。勢いの詰まった1stアルバムの後、2ndアルバムまでは同じ路線で制作されたものの、3rdアルバム以降は徐々に方向性を変えたFASTER PUSSYCAT。今夜はどのようなセットリストをプレイしてくれるのか楽しみだ。2010年6月26日の渋谷CYCLONE、開場時間を過ぎてから会場に到着。驚くほどのオーディエンスがすでにフロアに待機している。この雰囲気からすると大入り満員なのは間違いない。満員の場合この会場は移動がまったくできないことを知っているので、撮影の場所を探して右往左往。結局一番後ろの物販ブース前に確定。脚立の上に立ち開演の時を待つ。

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開演時間になりオープニングアクトが登場。Guns N’ Rosesのトリビュートバンド(有)石井商会、そしてミクスチャーなラウドロックを熱演するno TOKYO。オープニングアクトの2バンドが終わる頃になると、会場は異様な熱気に包まれ・・・いや、これは異様すぎる、つまり室内が暑過ぎる状況だ。これは会場の空調がイカレタのか?吹き出す汗をぬぐう。FASTER PUSSYCATが登場するとオーディエンスの体温はさらにアップ。結果的に会場はとんでもない暑さに!これは普通じゃない。満員の会場は身動きすら厳しい状況なので、水分補給するにもドリンクを買いに行かれない。それに無理に場所を動いたら最後、撮影用の脚立には戻ってこれないだろう。それでは仕事にならない。ドリンクはあきらめて撮影とレポートに専念する。

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2006年の5thアルバムから「THE POWER & THE GLORY HOLE」、そして私の好きな「CATHOUSE」が早くもプレイ!感激だ。今のFASTER PUSSYCATのメンバーは、Taime Downe(Vocal)・Danny Nordahl(Bass)・Xristian Simon(Guitar)・Michael Thomas(Guitar)・Chad Stewart(Drums)。このメンバーのライヴを観るのは初めて。オリジナルメンバーは、Taime Downeしか居ないが、そんなことはまったく気にならないロックンロールグルーヴ、これぞFASTER PUSSYCATだ。思っていた以上に、Taime Downeの歌がよく聴こえる。今日は調子も良いのだろう、ファインダー越しに時おり笑顔を確認できる。若い頃とはビジュアルがまったく違うが、今のTaime Downeも悪くない。むしろ今でも歌っている事実の方が大切だ。

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夢中で撮影していると、Taime DowneのTシャツに“CATHOUSE”と書いてあることに気がついた。最高だ!その後は「SLIP OF THE TONGUE」や「JACK THE BASTARD」、そして「HOUSE OF PAIN」といったナンバーも披露される。キャリアのあるMichael Thomasは、余裕の表情でリードギターを弾いている。客席を常に意識したプレイはさすがだ。Xristian Simonも、抜群のリズムワークでDanny Nordahlのベースラインに合わせている。TRACII GUNS率いる※L.A.GUNSのドラマーでもあったChad Stewartは、安定感のあるロックンロールのリズムを叩き出す。(※一時期、Phil Lewis率いるL.A.GUNSTRACII GUNS率いるL.A.GUNSの2つの同じ名前のバンドが存在していた)

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今回のFASTER PUSSYCATジャパンツアーには、TRACII GUNSがゲストで登場する。そのタイミングとなったようだ。Taime DowneXristian Simonが舞台袖へ。変わりにTRACII GUNSが登場。気さくにオーディエンスに手を振りながら、おなじみの愛器DEANのフロイドローズ(※ロック式アーミングユニット)付きのテレキャスターをスタンバイ。何をやってくれるのかと思いきや「NO MERCY」のリフが飛び出した!オーディエンスはもちろん熱狂。FASTER PUSSYCATは二人ともレスポールを弾いていたが、TRACII GUNSのシングルコイルサウンドはエッジがあり、今までの雰囲気をガラッと変える。ビジュアルも良い。さすがLAを代表する永遠のロック少年TRACII GUNS

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そのまま「SEX ACTION」へ。TRACII GUNSL.A.GUNSのセットリストをオーディエンスに披露しようとしているようだ。そしてなんと「BALLAD OF JAYNE」までプレイ!何度このPVを観ただろうか、本物をこの距離で観れるとは当時夢にも思っていなかった。TRACII GUNSコーナーのラストは「RIP AND TEAR」。Chad StewartはもともとL.A.GUNSでもあるので上手にプレイできるのは当たり前だが、ギタリストMichael Thomasのヴォーカルの上手さに驚いた。FASTER PUSSYCATでは一人だけマイク無しのセッティングだったので、歌うのが嫌な系かと思っていたが、そうではないことがわかった。こうしてL.A.GUNSナンバーをピンで(Phil Lewisばりに)歌うからFASTER PUSSYCATではオフマイクにしたのなら、ニクイ演出だ。

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TRACII GUNSのプレイが終わると、再びFASTER PUSSYCATTaime Downeは何とスカートをはいている。それにしても会場のこの暑さは普通じゃない。私は汗だく状態で、体中が滝のようだ。私の脚立下にいる女性に、大量の汗が流れ落ちる。申し訳なく思うが、撮影している以上どうしようもない。直前にちゃんとシャワーをあびてキレイに洗ってきました!・・・と関係ないことまで気にしなくてはならない。曲は「YOU’RE SO VAIN」になっている。少し脱水気味になってきたようだ。取材中に倒れるわけにもいかず、何とか乗り切ろうと気合を入れる。おお「BATHROOM WALL」だ、カッコいい。FASTER PUSSYCATは弦楽器隊がかなり動くので、絵として押さえたいアクションがとても多い。しかし本当にボーっとしてきたぞ!オーディエンスが倒れなければいいが。酸欠ライヴならぬ熱中症っぽいライヴだ。

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驚くほど体が熱い。ボーっとした頭の中で、Taime Downeがアンコールは無いよとMCした気がする。エンディングにふさわしい「BABYLON」がプレイされ、ラストナンバーだと知る。最後の最後まで目が離せないステージなので、オーディエンスは満足したのではないかと思う。古くからのファンが多いようなので、今夜のFASTER PUSSYCATがどうだったのか、終演後に会場の声を聞いてみたいが、そんな余裕がまったくない。演奏が終わり客席に照明がつく。アンコールはやはり無いらしい。TRACII GUNSL.A.GUNSタイムがあったので、全体的にはバランスの取れた3部構成だったと思う。日本のファンの多くは、1stや2ndアルバムが好きだと思うので、初期のナンバーがもう少しあればモアベターだったかもしれない。でも私はこの2010年に、FASTER PUSSYCATTRACII GUNSをライヴハウスで観れることに感謝したい。

半分ほどのオーディエンスが会場から出ている。取材メモをしまってカメラを片付ける。水分補給しないと本当に倒れてしまうのでオーディエンスの波に乗って外へ。なんと会場出口では、TRACII GUNSが来場者と写真を撮っているではないか!オーディエンスの流れを邪魔しないように移動しつつ、慌ててカメラを出す。TRACII GUNSのファンサービスは素晴らしい。オーディエンスに笑顔と思い出をプレゼントしている。私もプライベートなら2ショットしたいところだ。雰囲気だけは日本のライヴハウスも海外の雰囲気に近くなってきた。ミート&グリートが付いたスペシャルチケットも売られていたし、そのようなファンサービスこそが、今までの日本に欠けていた部分だと思う。もちろんミステリアスがウリのバンドにそれをやれ!とは思わないが、世界的に冷え気味のロックンロールシーンを活性化させるのは、一人一人のファンを大切にしていくことが求められていると思う。「たかがロックンロール」のバンドだからこそ、「たかがファン」ではなく「愛すべきファン」との良い関係を築いていきたいものだ。

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◆FASTER PUSSYCAT 公式サイト
http://www.fasterpussycat.com/

◆TRACII GUNS 公式サイト
http://lagunsofficial.com/lag2008/

◆セットリスト
FASTER PUSSYCAT
M01 INTRO
M02 THE POWER & THE GLORY HOLE
M03 CATHOUSE
M04 SLIP OF THE TONGUE
M05 NUMBER 1 WITH A BULLET
M06 SEX DRUGS & ROCK-N-ROLL
M07 JACK THE BASTARD
M08 THE BODY THIEF
M09 HOUSE OF PAIN

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TRACII GUNS SECTION
M01 NO MERCY
M02 SEX ACTION
M03 OVER THE EDGE
M04 BALLAD OF JAYNE
M05 ELECTRIC GYPSY
M06 RIP AND TEAR
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M10 NONSTOP TO NOWHERE
M11 YOU’RE SO VAIN
M12 PORN STAR
M13 BATHROOM WALL
M14 SHUT UP & FUCK
M15 BABYLON