演奏

スイカ夜話 第15夜

TEXT:堺琢哉 PHOTO:株本和美

目黒川沿いに並ぶ八部咲きの桜並木を抜け、会場である代官山UNITへと向かう。快晴の空に桜が映える2010年4月8日、ロックファンにもお馴染みのポエトリーが絡む独特のスタイルで名をはせるラップバンド、SUIKA(スイカ)が主催する「スイカ夜話(やわ) 第15夜」が開催された。今回は、日本を代表する説明不要のHIP HOPアーティストGAGLE(ガグル)、『100%RAP』のリリースでも話題を集める鎮座DOPENESS(チンザドープネス)いう豪華な顔触れを迎えての15回目となるライブイベントだ。待ち望んでいたファンも多かったのではないだろうか。胸の高鳴りを抑えつつ、フロアへと階段を下りた。

天井が高く、広い場内には早くも大勢のオーディエンスが詰掛けていた。前売り購入者には、抽選番号の記されたくじが付いていて、当選した人にはSUIKAのDVDがプレゼントされるという豪華な特典もついていたこともあり、バーカウンターや物販コーナーは大勢の人たちで賑わいをみせていた。ここちよいBGMが流れるなか、夜話トークと称されたタケウチカズタケATOMの軽快なトークで最初に登場するアーティストの紹介がなされていた。期待感が増している様子の場内。フロアはすでに満員となっていて、身動きが思うようにとれなくなっていた。高らかに鎮座DOPENESSの名前がコールされ、いよいよ今宵の夜話が始まった。

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ステージ中央にぽつんと置かれたMacBookの前に、リラックスした様子であらわれた鎮座DOPENESS。曲の合間でPCに入っているMPCを巧みに操り、1拍1拍テンポ良く曲を止め、言葉を絡ませ絶妙に仕上げていく様に歓声がもれたフロア。曲間のトークでステッカーを配るファンサービス、Tシャツの宣伝、ビールの一気飲みなどのパフォーマンスで観客を楽しませていた。そんなトークやコール&レスポンスでの観客とのやりとりをみていて、某誌の記事に路上ライブをしていたというエピソードが書いてあったことを思い出した。ヒップホップに縁のない人たちにも反応してもらうにはどうすべきか考え、実践していくうちに使う言葉が変わってきたとあった。そんな経験からか、リリック(歌詞)の随所に「始めちょろちょろ、なかぱっぱ」、「うれし恥ずかし野放しのんべぇ」など親しみを感じる言葉が並び、実にアットホームな楽しい雰囲気を作り出していたように感じた。終始、笑いと歓声が巻き起こるなか、最後の曲、脳天気野郎。心地よい楽曲が終わると「これで全てです」といってPCを閉じ脇に抱えおじぎ、大きな歓声と拍手に送られた。

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■鎮座DOPENESS 公式サイト

http://www.chinzadopeness.com/

■セットリスト


M01 ちんざコスモ
M02 オラハラッパー
M03 ドンスタ

M04 ハッスル

M05 ラブベーダー
M06 かんぱい
M07 モグ×2
M08 チクタク
M09 脳天気ヤロ!

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やっと同じステージに立つことができると語られ、声高にGAGLEのコールがかかった。1曲目「Deliver Us」を流すDJ Mu-R(ミューラー)。浮遊感のある曲のなか、トラックメイカーとしても世界的に評価の高いDJ MITSU THE BEATS(ミツ ザ ビーツ)がサイドMCをとり、メインMCをとるHUNGER(ハンガー)がゆったりと姿を現した。終始、観客の反応からも人気の高さをうかがえた。8曲目「ROUND&ROUND」でSUIKAが登場し迫力のセッションを披露。大歓声が場内に響き渡る。「立ち上がれないぐらい、力をなくした時、力をくれる…」とのコメントから始まるラスト曲「屍を越えて」。これまでの2曲は、今回のイベントで特別バージョンとして用意されたもののようで、ラップとポエトリーが絶妙に絡み場内の熱気がさらにヒートアップしたことはご想像のとおりだ。フェードアウトするかのようにキーボードの音が止むと、場内はしばらく静まり、曲の余韻に浸っているようだった。思い出すかのように歓声と拍手がフロアに満ちた中、GAGLEのメンバーがステージを後にした。

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■GAGLE 公式サイト

http://www.gagle.jp/

■セットリスト


M01 Deliver Us
M02 DooYaThing
M03 JAPPCATS
M04 ラップ狂ノ詩
M05 雪の革命
M06 コロナ&ライム
M07 ROUND&ROUND
M08 屍を越えて

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本日のホストであるSUIKAのショータイムだ。メンバーは、タケウチカズタケ(キーボード)、タカツキ(ラップ)、ATOM(ラップ)、toto(ポエトリー)、高橋結子(パーカッション)、石村順(ベース)。ヒップホップの世界では珍しく、ラップにポエトリーを絡ませたバンドというスタイル。照明が落とされたなか、ステージ中央でスポットライトに照らしだされたtotoがリズミカルに詩を読む。言葉がテンポを帯び始め、タカツキそしてATOMと入り、アカペラの言葉のかけあいへと変わっていく様子に場内がわいた。ほんの一瞬の間が空き、音がいっせいに流れ1曲目「JETSET bounce」がスタート。いっきにSUIKAの世界観に引き込まれていくフロア。物語の中に引き込むような楽曲の数々に終始酔いしれている様子のオーディエンス。3曲目「ピクニック」では中盤に先の鎮座DOPENESSが再び赤いライトに包まれたステージ上へ現れ、熱いセッションがはじまった。パーカッションをバックに、「おにぎり・からあげ・卵もちゃんとつく!」とユーモアとリズミカルなリリックに会場全体が揺れていた。夜話でしか見られない、SUIKAとゲストのセッションは最大の楽しみの一つである。熱気が冷めぬままラスト曲「麒麟が太陽を食べる島」が演奏され、興奮に包まれた会場内からアンコールが起き、10数名のラッパー達によるマイクリレーがなされた。出演者達の他にKEN THE 390TARO SOULRomancrewのエムラスタの姿もあった。次から次へと変わるラッパーたちによる言葉のパフォーマンスに場内はおおいにわき、大歓声のなか15回目のスイカ夜話が幕を閉じた。

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■SUIKA 公式サイト
http://www.suikaweb.com/

■セットリスト


M01 JETSET bounce
M02 すいか
M03 ピクニック
M04 バンブームーン
M05 MUSIC JUNKIE
M06 Juicy Fruity Spicy Funky
M07 麒麟が太陽を食べる島
M08 マイクリレーsession(アンコール)

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「始まったら終わるんだよ!」と始まる前にあったが、ほんとそのとおりだ。名残惜しくて仕方がなかった。盛りだくさんのステージに満足げの表情を浮かべるオーディエンス達が、帰りたくなさそうにゆっくりと進む気持ちが嫌っていうほどよくわかる。夜話トークの中で今回はヒップホップ色の強いラインナップでイベントを構成し、言葉の表現がおもしろいアーティストを集めたと話されていたことを思い出して、なぜだか詩を詠むと書くことが浮かんだ。ラップとは歌うのだろうか。それとも詠う、それとも…。まだまだ考えの浅い自分を恥じた。今回のライブを観て次の夜話はどんなテーマになるのだろうかと期待が募るのは僕だけではなかっただろう。いつもより帰りの街並みが明るくみえた。