2009年8月1日、森若香織(以下森若)のライブ『Kaolyrics
Hawaiians Summer』が開催された。80年代後半、ガールズロックバンドGO-BANG’Sのボーカリストとして一世を風靡し、94年にバンドが解散してからは、音楽活動以外にもラジオのパーソナリティやモデル、女優など幅広く活動している森若。近年は作詞家活動に力を入れていて、様々なアーティストに提供している。そんな彼女が今夜は、どのようなエンターテインメントの世界に引き込んでくれるのだろうか。
開催場所となった「新宿Naked Loft」は、日本最大級の韓国街・新宿区百人町に存在し、周りには多くの韓国系ショップが立ち並ぶ。道を挟んで真向かいには新宿区のハローワークがどんと立ちはだかり、そこを抜けると歌舞伎町のネオン街が広がっている・・・といった、多角的な一角に存在する。オープンなカフェ・バースタイルと、出演者とお客さんの近い距離感が人気のライブハウスだ。
そんな「新宿Naked Loft」前には、オープン時刻の17時より前から、ライブを待ちに待ったファンたちの行列が職安通り沿いに連なっている。そこは本日のライブへの期待で高揚しまくっており、ファンたちの談笑で雰囲気がとても明るい。ハローワークに面していることも手伝って、私(今倉沙織)は「日本中がいつでも、こんな雰囲気だったらいいのにな・・・」とひとり、頭の中でつぶやいた。
そして迎えた18時半、ムーディなハワイアンのイントロが流れ、アロハシャツを着用したバンドメンバーが登場。続いて森若が深緑のチューブトップワンピース姿で軽快に登場し、1曲目「ドレンチェリー」で待望のライブスタート!アロハ独特な旋律で会場を盛り上げ、「みなさん、アロハですか〜!?」と元気いっぱい問いかける。「“アロハ”には、実は深い意味があるのです。今日は、それを知ってもらえたらいいな」と短めのMCを挟み、2曲目「アルファベッツ」で重々しく力強くも軽快なメロディでアコギをかき鳴らし、「JUMP」、「フリージア」と続けて会場を沸かせた。
「私はこうやって、音楽で表現する。フラは身体で表現!」とし、続いての5曲目はGO-BANG’Sのアルバム『SAMANTHA』のタイトルナンバーでもあるアップテンポなナンバー「サマンサ」。森若はリズムにノッて軽快にフラを踊り、間奏ではメンバー紹介も。ギターのレオン、ベースのKANAME、パーカッションの佐藤 稔がそれぞれ個性的なソロを披露し、会場は沸くこと!続いてはGO-BANG’Sのシングルで別れを優しく歌ったナンバー「Bye-Bye-Bye」のセルフカヴァーを披露した。
続いてのMCでは、ライブ開始前からずっと壁に飾ってあったタンクトップを紹介。なんと、巨匠・楳図かずお先生にいただいたという!「もったいなくて着られなくて、ずっと家に飾ってあったのですが(笑)今夜、初公開です!」と煽り、客席から歓声があがると、記念にと前列のファンたちに触らせる大サービスも!MC中は笑いが絶えない。幸せな時間である。
ライブは「Blueberry Days」、「ファンタスティック・フィロソフィー」と続く。自分の人生を愛おしそうに歌い上げる森若に、毎日毎日生きていること、出会い、別れ、人生…と、想いが込み上げ、ついつい涙腺が緩んでくる。悲しい気持ちでも、嬉しい気持ちでもない何かが込み上げて流れる涙は、とても不思議で幸福で、ロックだと思う。そんな瞬間をあと何度経験するのだろうか。…など、森若の歌声を聴いていると神聖な気分になる。その場にいた全員が、きっと幸せだったと思う。
「祈りは、想いを伝える手段。たとえば、この世のものと、あの世のものの中間にあるような。目に見えなくても、想いは伝わる」パーカッションみのんちょがリズムを刻む中、森若はそう訴え、続いての曲は「HEAVEN」!そう、この世のものの先、祈りのその先にある、そこはHEAVEN。「アロハは、ロックと同じくらい意味がある言葉。歌うことによってみなさんにも、ここには見えない場所にも伝わったらいいな」と話し「車の騒音とか喋り声とか、外の音が聴こえる…これもロックでイイ(笑)!」と会場を笑わせた。(注※会場の「新宿Naked Loft」は1Fの路面オープンカフェをベースにしたライブ空間)
「お腹すいたときとか、生きていることってこんなにマヌケなことなのね〜って(笑)そこを愛しく想って、楽しく生きていければいいな〜って」森若はそう話し、続いてはラストナンバー「Love Song」。生きていてなぜだか感じる葛藤、苦しみ、劣等感…果ては眠ることまで、すべて許されていることを感じる深いナンバーだ。正直でいること、変わっていくこと、ただ、それだけのことなのに、後ろめたさに苛まれることもある。それをきれいごとで誤魔化すのではなく、現実的に受け止めて、優しく包み込む。それを森若は歌を通して、アロハとロックの融合からくる森若スピリットを通して、私たちにいつも教えていてくれるのかもしれない。
会場は一番の盛り上がりを見せていた。ライブが終了しても鳴りやまないアンコールの拍手に、「Nobody Knows」「Day Break」の二曲を歌い上げ、『Kaolyrics Hawaiians Summer』は大盛況で幕を閉じた。
ライブが終わっても、ライブが始まったときと全く同じく、近隣の韓国街はにぎわい、向かいのハローワークはどんと佇み、目の前を片道三車線の職安通りは騒音をかき鳴らしている。同じ時を繰り返しているかのようなここ「新宿Naked Loft」で、みんながアロハ&ロックスピリットを感じていた。森若が「車の騒音とか喋り声とか、外の音が聴こえる…これもロックでイイ(笑)!」と話していたその通り、この環境にこそ、ロックを感じてやまなかった。「いくら同じ時を繰り返しているかのような日々でも、時間は過ぎて今がある。自分の毎日、今を愛して生きていきたい」森若のステージを観て、来場したファンの誰もがそう思ったに違いない。