演奏

THE 卍 VS ミドリカワ書房

Text:ハヤシコウキ Photo:万年平男

7月17日、神奈川県逗子市のライブハウス「音霊(おとだま)」において、ライブイベント『THE 卍 VS ミドリカワ書房』が開催されました。

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この「音霊」は海水浴の人気スポット、逗子海岸に夏季限定(73日間連日ライヴ)でオープンするライブハウス。砂浜を踏みしめながら、
波の音をバックにライブを鑑賞する事ができるという面白いコンセプトで人気を集めています。ポップユニット【キマグレン】が運営するライブハウスと聴くと、ピンと来る方もいるかもしれません。

そんな「音霊」にこの日登場したのが、【ミドリカワ書房】と【the 卍】。音楽性もキャリアも異なる2組ですが、あえて共通点を見いだすと、【the 卍】のフロントマン「Rolly」と、
【ミドリカワ書房】は共に中性的な雰囲気を持ち、女性からの支持も集めている、という点が挙げられるかもしれません。この日も用意された観客席のほとんどが女性で占められていました。

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photo【浜田省吾】の“J・BOY”を入場曲にまず登場したのが、【ミドリカワ書房】。彼は「緑川伸一」〔Vocal、Guitar〕による一人ユニットです。ポップアーティストと紹介される事の多いミュージシャンですが、幅広い音楽性からロックファンからも高い評価を受けています。今回は5名のバックバンドを引き連れての登場です。

演奏前には海辺というロケーションについて、「普段演じるのとは環境が違って面白いですねー」と語ってくれましたが、『アロハシャツ・短パン・クロックス』と、彼自身が楽しんでプレイしている様子がうかがえました。

photo1曲目“君と今夜こそ”でライブがスタート。浜辺の男女が登場するこの曲に象徴されるように、この日の【ミドリカワ書房】は海や自然を意識させるセットリストです。そして名曲“リンゴガール”へ。

MCではジョークを交えながらときにブラックなトークを繰り出し、軽妙な語り口で観客の心をどんどん掴んでいきます。その後、ギターをウクレレに持ち替え、“真っ赤な太陽”、“誰よりもあなたを”、再びギターを手に取り“雄と雌の日々”と矢継ぎ早に曲を披露して行きました。ちなみに“真っ赤な太陽”、“誰よりもあなたを”、“雄と雌の日々”は『ひと夏の過ち三部作』だそうです。

photo“顔”、その続編的な“心”を、ロックスタイルのバンドサウンドでプレイし、最後はこの日一番スローなナンバー“私には星が見える”でフィナーレ。“私には星が見える”はライブで演奏される事が少ない隠れた名曲。ライブハウスの隙間から覗く夜空にぴったりな、しっとりとしたナンバーがラストを飾りました。

演奏終了後には【浜田省吾】の“もう一つの土曜日”で退場。ミュージシャン、そしてエンターテイナーとしての【ミドリカワ書房】の懐の深さを感じる事が出来るパフォーマンスでした。

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短いセットチェンジの後に現れたのは【the 卍】。予定より少し早めの登場となりました。

【the 卍】は「Rolly」〔Guitar & Vocal〕、「佐藤研二」〔Bass & Vocal〕(以下佐藤)、「高橋“ロジャー”和久」〔Drums & Vocal〕(以下ロジャー)からなるロックトリオバンド。強い個性を持った実力派3人の化学反応が魅力的なバンドです。

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photo演奏前に話を聞いたところ、「ロジャー」は「いつも【the 卍】はライブ前もリラックスしているのだけど、今日はいつも以上にゆったりとした気分だよ」と語ってくれました。ビーチという開放感もあってか、ライブ前には【the 卍】メンバーがファン達と交流する姿も。日本ロック界の有名人バンドでありながら、ファンに対してフランクに接するところも、彼らの人気の理由の一つかもしれません。

photoライブは絡み付くようなギターとベースがスリリングに交差する“ロックンロール中学生”で幕開け。「Rolly」は積極的に観客を煽ります。その後のメンバー紹介では観客席からの声援が飛び交い、メンバーは笑顔でそれに応えていました。

続いてプレイしたのが“ハンティーフラッシャー”。ノリのいいナンバーに合わせて、「Rolly」は舞台上を所狭しに動き回ります。そして彼らの真骨頂とも言える、妖しい雰囲気が魅力的な“歯ぎしりがとまらない”から、サーフロックのお手本的なナンバー“マヒィ”でビーチの夜を彩りました。

photoその後“難聴”ではサプライズが。曲名のとおり難聴になってしまいそうな爆音パフォーマンスが似合うナンバーですが、なんとこの日は『レゲエバーション』での演奏です。「ロジャー」の味のあるボーカルが、ゆったりとしたレゲエのリズムにマッチしていました。「レゲエをやらせたら【The 卍】が一番だよ」と「佐藤」は冗談めかして語っていましたが、意外な組み合わせが絶妙にマッチしていました。

“スーパーテクニシャン”や“初恋”を矢継ぎ早に繰り出し、なんとここで演奏時間が余ってしまうという嬉しい展開。“ギャルギャルギャルヲ”の後は、先ほどの“初恋”を『インストゥルメンタルバージョン』でサービス演奏してくれました。

最後はビーチソングの定番、【ザ・タイガース】の“シーサイド バウンド”をカバー。予想外な選曲にも思われましたが、誰もが知っている日本の名曲の登場で、【ミドリカワ書房】ファンも【the
卍】ファンも、一体となれるエンディングが演出されました。

実は会場の「音霊」では地域住民への配慮もあり、一般のライブハウスに比べると音量が少し抑えられているそうです。そんな制約のある中でのプレイに関して「Rolly」に尋ねると、「この日のためのアレンジをしている曲もあります。すごくレアなバージョンですよ!」と笑顔で答えてくれました。

photo音量制約を逆手にとって楽しんでしまうベテランならではの遊び心。通常のロックバンドにはない臨機応変さです。爆音の【the 卍】の素晴らしさはもちろん、この日のパフォーマンスに新たな魅力を再発見できたファンもいたのではないでしょうか。

湘南の海と潮風をバックに、プレミアムなライブを見せてくれた2組。その日その場でしか味わえない体験が出来る、そんなライブの醍醐味を感じる事ができました。