演奏

大矢侑史 ONE MAN SHOW

TEXT:桜坂秋太郎 PHOTO:ヨコマキミヨ

今から約10年前の2000年1月30日、SHADY DOLLS解散。1987年のデビュー時からロックンロール表現者として認められ、名曲を生み、若くしてその地位を築いたバンドが終わった日。新宿や国立のライヴハウスからスタートし、日比谷野外音楽堂なども制覇した最高のロックンロールを魅せてくれるバンド、まさに転がり続けたバンドだった。その中心人物であるヴォーカリスト大矢侑史は、その後ソロ活動へ。現在に至るまで、コンスタントにアルバムをリリースし、定期的にライヴを繰り広げている。今夜はそんな大矢侑史のワンマンショーをレポートしたい。

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2009年12月18日、開場後の高円寺ShowBoatに着くと、そこにはリラックスした空間が。仲間と来ている人は、バーカウンターでグラス片手に談笑。一人で来ている人は、椅子に座り、やはりグラスを片手に開演を待っている。男女比率はちょうど半々。まさに落ち着いた大人の空間ではあるものの、ジャズバー的なムードではなく、どことなくロックなフィーリングに溢れている。思うに、それはたぶん、オーディエンスの服装の一部や小物がロックテイストなのかもしれない。ロック好きは、同じ匂いのする人種にわりと敏感だ。見渡す限りの人が、ロック大好きで熱い青春を過ごしてきた匂いを発している。

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開演時間になると、ゆっくりとバックメンバーがステージに登場。しばらくして大矢侑史もステージに現れる。呼吸を整えると、シンプルにショーがスタート。ワンマンだけあって、会場は大矢侑史ファンのオーディエンスで満員状態だが、オーディエンスをあおったりすることも無く、飾らない自然体なやり方で歌を聴かせている。第一声からまさに大矢侑史。この歌声の存在感は若い頃とまったく変わらない。むしろ人生を重ねて、深みが増している。歌は誰にでも歌えるが、ここに才能を感じずにはいられない。バンド演奏中、マイクを通した声以外に、生の声も耳に届く。声の厚み、声のパワー、並外れたロックシンガーであることは誰にでもわかるだろう。

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大矢侑史は、SHADY DOLLSの頃から詩人だった。優れたロックシンガーというだけでなく、何よりも言葉を大切にしていることが心に伝わってくるからだ。歌詞を書くという意識よりも、おそらく詩を書いてメロディに乗せているのだろう。なぜなら言葉がこれほど心に届くシンガーは極めて珍しく、すべての楽曲の歌詞にブレが無いからだ。私も下手の横好きでロックを歌ったりしているが、大矢侑史の場合は歌の上手い下手という次元ではなく、言葉をメロディに乗せて心へ届けるという作業が天才的であるがゆえ、どんなタイプの楽曲を聴いても、それこそ新曲を初めて聴いても、まったく違和感なく大矢侑史ワールドを受け入れることができる。

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ステージでは次々に楽曲が披露され、メンバー紹介やトークのMCを入れながらショーは進んでいく。「自分のスタイルで楽しんでください」大矢侑史のその一言が、今日のショーのすべてだ。グラス片手に体を揺する人、両腕を上げたり手拍子する人、ブレイクで名前を呼ぶ人、オーディエンスは誰かと歩調を合わせるのではなく、自分のペースで大矢侑史のショーを楽しんでいる。まったく無理の無いスタイルで、大矢侑史の歌を心で聴く。その結果が自分らしく、つまり自然体でショーを楽しめる醍醐味になっているのだろう。これは本当に歌を聴かせることができるロックシンガーの特権だ。

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今夜のセットリストには新曲が2曲あるが、ポカーンとしているオーディエンスは一人もいない。大矢侑史の言葉を聴き逃すまいと、全身でその歌を受け止めている。ノリの良いコール&レスポンスや、アコースティックタイムでバイオリンを弾く大矢侑史は、ショーを目で楽しめる瞬間だ。曲順を決めずに本番で何をやるか決めるというフリー部分もあり、ステージ上でバックメンバーと相談する姿もほほえましく、飾らない人柄がにじみ出ている。ロックなバンドサウンドと、アコースティックサウンドの2パターンを体験できるのもワンマンショーの良いところだ。

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驚くことに、大矢侑史はショーの最中、ほとんど水を飲まなかった。心に響く歌を届けながら、曲間もリズムを取ったり、オーディエンスとアイコンタクトしたり、常にセンターでそのオーラを発していた。ブルースシンガーが年老いていくことを味方にするように、大矢侑史というロックシンガーにも素敵な未来があるはず。今夜大矢侑史を支えたメンバーは、鈴木純也(Guitar & Chorus)・ババマサヨシ(Guitar & Chorus)・橋本潤(Bass)・ハロー(Drums)の4人。大矢侑史バンドとしてお馴染みの顔ぶれが、最高に歌を引き立ててくれた。帰り道、「願わくば」「キラキラ」「ケセラセラ」などのメロディが、ずっと頭の中で流れていた。大矢侑史の歌を聴きながら、人生を歩いていくことはとても幸せだ。


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【セットリスト】
1.ウイスキー
2.ハートブレイカー
3.ランデヴー
4.願わくば
5.スライダー
6.246
7.マイライフ
8.グランブルー
9.サンセットアベニュー
10.キラキラ
11.どこ吹く風
12.スイートソウル
13.8ビート
14.ケセラセラ
15.グランブルー(アンコール)

【大矢侑史 公式サイト】
http://ohyayuji.com/