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Let The Music Do The Talking 〜テイク2

(2009年10月5日公開) TEXT:ハヤシコウキ PHOTO:万年平男

Photo今から約30年前、1980年代初頭の関西の音楽シーンには、空前のへヴィメタルブームが吹き荒れていた。伝説のバンドMARINOは、LOUDNESSEARTHSHAKER44MAGNUMなどと共に、シーンの牽引する役割を担った。日本のロック史に残るバンドが割拠する中、そのギタリストは「ストラトの魔術師」として注目を集め、今も第一線でステージに立ち続ける男、それが今回登場するスペシャルなギタリスト、大谷令文(以下令文)だ。 
プロギタリストとして活動し始めてからも30年近く経とうとしている令文。音楽ファンのみならず、ミュージシャンからも「ミュージシャンズミュージシャン」として、熱いリスペクトを受ける彼に、その活動を支えるメンタリティやモチベーション持続の秘訣、音楽に対する思いを語ってもらった。
 

—現在の活動状況について教えて下さい。

 
令文:今はBlack Tigerというバンドを中心に音楽活動をしています。ドラムスの高橋“ロジャー”和久(以下ロジャー)、ベースの佐藤研二と共に、3年程前から活動しています。 関西での活動を一段落させて東京に出て来た頃、バンド活動をしようとベーシストを探したのですが、なかなか一緒にやりたいと思えるプレイヤーが見つからなかったのですよ。そんな時に出会ったのが佐藤研二です。彼のプレイを観て初めて「こいつとやってみたいな」と感じました。それが大体10年前ですね。それからずっと一緒にやるタイミングを探していて、今ようやく出来るような環境になったという感じです。 ロジャーとは大阪で活動していた頃からの知り合いで、よく一緒にプレイしていました。そんな経緯でこの3人でバンドを組むことになりました。 Black Tigerでは僕のソロアルバムのレパートリーを中心に、カバー曲なども演奏しています。このメンバーはやっていて楽しいし、音楽的にもすごく共通の感覚を持っていると思います。
 

—令文さんは1980年初頭から活動を初めて、30年近くもステージに立ち続けていらっしゃいますね。当時と今で、最も変わった部分を教えてください。

 
令文:若い頃は「日本一のギタリストになりたい!」「世界一のギタリストになりたい!」とがむしゃらにギターを弾いていましたが、今はもっとリラックスして音楽と向き合えるようになったと思います。競争で一番になるのではなくて、「ワンアンドオンリーになりたい!」という姿勢に変わって来たのです。もちろん緊張感を持って演奏しようとは思っていますよ。ただ、「誰よりも速く弾きたい!」ということではなく、オリジナリティを大事にしながら活動をするようになりましたね。
 

—若い頃は、やはり他のミュージシャンに対抗意識を持っていたのですね。

 
Photo令文:もちろん!若い頃の基準は全部勝ち負けでしたからね(笑) 今でも当時競うように活動していた関西のメタルバンドのメンバーと、一緒にパフォーマンスする機会も多いです。昨年もEARTHSHAKER44MAGNUMのメンバーとライブイベントをしましたし、プライベートでセッションすることもあります。でも僕は、へヴィメタルの人たちと一緒に舞台に立つのはそれほど多い方ではないかもしれませんね。ちょっとジャズっぽかったり、もっとフリーな音楽だったりと、メタルのカラーではないミュージシャンとセッションをする事が実は多いです。
 

令文さんといえば「ストラトの魔術師」、エレキギターでハードなリフをバリバリと弾きこなすイメージが強いと思います。少し意外に感じる方がいるかもしれません。

 
令文:最近はアコースティックギターでステージに立つ事も多くなっていますし、むしろエレキよりもアコースティックのオファーが多い時期もあるくらいです。 エレキはアンプやエフェクターなどの機材が必要になりますが、アコースティックはギターが一本あれば気軽に出来ます。エレキは緊張感を持ってばしっとやる感じですが、アコースティックは少しリラックスして演奏できますね。
 

—普段ご自宅ではどのような音楽を聴いていますか?

 
令文:家でよし今から聴くぞ!というのは、クラシックギターが多いです。クラシックギターからギターを始めた事もあり、昔から大好きなのです。それに、意識してロック以外のものを聴きたい時期というか、タイミングがあるのです。マイブームとでも言いましょうか。最近はまさにその時期で、クラシックギターの素晴らしい演奏家を聴く事が多いですね。具体例を挙げるならば、John McLaughlinGeorge BensonPat Methenyなどは良く聴きます。ただ、だらだらと流しているというよりも、勉強するために聴いているという感じですね。超一流のギタリストの作品を聴くのと、多くの事を学べるのです。そして、彼等の演奏を聴いて得られたインスピレーションも、自分の演奏にフィードバックして行きます。クラシックだろうがエレキだろうがアコースティックだろうが関係ありません。きっとギターそのものが大好きなのですよ。でも不思議なのが、ロックバーなどでThe Rolling StonesAC/DCがかかると、やっぱかっこいいなあ! って心がおどります。 やはり僕が今やっている音楽のルーツは、古いハードロックなのは間違いないということでしょうね。「メタル」という言葉がまだない時代の、Deep PurpleLed Zeppelinなどのハードロックバンドが音楽性の根っこにあると思います。僕は時代的に70年代前半に洋楽を聴き始めました。当時はハードロックとプログレッシブロックの人気がピークだったので、そういったジャンルの音楽からの影響は最も大きいでしょう。YesGenesisKing CrimsonPink Floydなんかも好きで良く聴いていました。
 

—令文さんは若いギタリストの目標となるような立場だと思いますが、後進のミュージシャン達の中で、注目している人はいますか?

 
Photo令文:実は若い人たちの音楽ってあまり聴かないのですよ(笑)でも、一緒に舞台に立ったこともあるNIGHT BUZZは良いバントですね。特にギターの藤岡幹大君は若手ナンバー1ギタリストだと思いますよ。僕より後輩の30代の人たちから気になる人たちの名前を挙げると、ロンドンを中心に活動しているGeorgie Pieというバンドの原マサシというギタリストは素晴らしいですね。国内で活動している人だと、大阪を中心にプレイしているBLUE STONE COMPANYのギタリストの住友俊洋君、彼はスライドギターでは世界の3本指に入るんじゃないかと思うくらいのテクニックを持っています。彼らはベテランとまでは言わないけど、僕の下の世代のミュージシャンの中では凄いギタリストですね。もっと評価されていいと思います。
あとは、ギターを教えたりもしているので、僕の教えた生徒がプロのように活動しているのを観るのは嬉しいですね。
 

—ギターの講師もされているのですね。教えるのは得意ですか?

 
令文:本来は得意じゃないですね(笑)ただ、教える事で自分が学べる事もありますし、新しい発見もあるのですよ。 それに重要な事は、若い人と付き合えるという事ですね。自分より若い生徒たちとのコミュニケーションは、凄く刺激になります。「若い人と…」なんて言うと、「年を取ったなぁ」って言われてしまいそうですが(笑) 教えていた生徒の中には、プロになった人もいますよ。やはり教え子が活躍する姿を見るのは嬉しいものです。だいたい今は、30人くらいの生徒を教えています。
 

—長年第一線でステージに立ち続けられる秘訣を教えてください。

 
令文:音楽活動を支えるインスピレーションの元になるエネルギーは、自分の内側から出てくれば理想です。でも、それには限界があります。そこで人の音楽を聴いたりライブを観たり、映画や舞台を観たりと他からエネルギーを得ることが重要になってきます。 常にアンテナを張って、刺激がどこかに無いかと張り続けること。そこがポイントだと思います。音楽以外から吸収できる事も多いですね。特に一流の作品からは得る物も多いです。 もちろん自分の調子が悪いときはそのアンテナがへなへなして、だらだら過ごしてしまう事もあります。けれど、自分がアンテナを張っていれば自然といい音楽や刺激がやってくる。そのテンションをキープすることが、長く活動をして来られた要因じゃないでしょうか。あとは、お酒を飲み過ぎない事ですかね(笑)。
 

—例えば、好きな映画作品はどのようなものですか?

 
Photo令文:ジョディ・フォスターが出演している『コンタクト』が好きです。SF作品が好きなのですよ。ただSFはピンキリですから…。「良いSF」が好きですね(笑)
 

—音楽のみならず様々な作品から刺激を受けているのですね。

 
令文:そうですね。例えば自分がイタリアンのシェフだったとして、毎日イタリアンしか食べなかったりする訳じゃないと思うのです。毎日ソバしか食べていない職人の打ったソバなんて、美味しくなさそうでしょ?(笑)他の要素が入り込まないし。ソバ職人であってもイタリアンやフレンチ、寿司も好きで…という人が造る方が美味しいと思うのです。音楽も同じなんじゃないかな。 ギターを教えている生徒に、いつも言っている事があります。それは「自分が目標としてメタルバンドがやりたいとしても、他の要素がなければ面白くないぞ」という事です。 例えばLed Zeppelinもインド音楽、フォーク、ブルースなんかも聴いて、その様々な要素をハードロックに昇華している。あらゆる雑多な情報を集めた結果、あの形になったのだと思います。雑多であれば雑多のほうが面白いと思いますよ。
 

—なるほど。観客とコミュニケーションすることはありますか?

 
令文:照れ屋なところがあるので、あまり得意じゃないですね(笑)ただ、長い間応援して下さっているファンが沢山いるのは嬉しい事です。同世代の女性の方なんかだと、結婚や出産で一時期ライブに顔を見せられなくなったけど、最近落ち着いてまたライブ会場に戻って来てくれた方なんかも結構いるのですよ! やはり、ライブから受ける刺激は多いですね。家で100時間ギターを弾いているよりも、1時間ライブをやった方が自分のためになると思います。本当はもう少しライブをやりたいのですけどね。良く言えばマイペース、悪く言えばさぼっているのかもしれません(笑)
 

—活動の軸足はライブ活動にあるべき、ということでしょうか。

 
令文:もちろんです。でも、ステージに立つのは不安ですよ。自分のやっている事が受け入れられるかどうかが気になりますし。昔よりも今の方が出番前に緊張しますね。 若い頃は何も考えずにとりあえずステージに出て「やっつけてやるぜ!」と勢いだけで出来ていましたが、色々な事を考えるようになった分、今の方が緊張しています。
 

—変化して来た部分のお話をうかがいましたが、逆にデビュー当初から一貫して変わらない部分はありますか?

 
令文:ギターの音色、トーンですね。もちろんギタリストとしてプレイを進化させていたいとは思うけど、音色の核になる部分は昔から変わっていないと思います。それこそ、16・17歳の頃から。さっき言ったオリジナリティにも通じると思うのですが、どの音を選ぶか、音程の高い低いかではなく、僕にしか出せない音色を追求したいのですよ。例えば渋谷の雑踏を歩いていても、友人の声を聴けばすぐにわかりますよね。本来、ギターの音はそうあってしかるべきだと思うのです。それぞれの人が声と同じようにオリジナルな音色を持っているはず。エフェクターや機材に頼るのではなく、自分の中から出るセンスを大事にしたいのです。 もちろん体力や筋力は落ちていますが、それは仕方の無い事です。でもその分、感性が昔よりも研ぎすまされていると感じます。脳の力と体力のバランスがすごく良いと思っています。 今、若い頃のような体力があったら、逆に体力が勝ってしまうかもしれない。この年齢でこのギターを弾けている。満足したプレイが出来ていますよ。
 

—それでは、今後の活動について教えて下さい。

 
Photo令文:引き続きライブを中心に活動して行くつもりです。それとレコーディングをしたいですね。新しいアルバムを造りたいと思っています。佐藤研二ロジャーのリズムセクションと一緒に、Black Tigerとしてアルバムを出せれば理想ですね。
 

—令文さんにとってギタリストとしてのあるべき姿や到達点のようなものを教えてください。

 
令文:進化し続けることでしょうか。Jeff BeckRitchie Blackmoreのような、超一流のプレイヤーも、いまだに新しいことを追い求めていますからね。これからも進化してきたいと思っています。
 

—最後にズバリ、令文さんにとって、ロックとは何でしょうか?

 
令文:ロックは精神性だと思います。「なにくそ」でも、「こんちくしょう」でもいい。人間の内側に秘めたアグレッシブな感情を、外に出す事だと思いますね。
 
無く子も黙る凄腕ギタリスト「大谷令文」というパブリックイメージに反して、とても低姿勢で、丁寧に言葉を選びながら語ってくれた令文さん。ミュージシャンである以前に一人の人間としての彼の魅力に触れ、音楽、ギターに対して紳士な姿勢を保ってきたことが、長年第一線で活躍を続け、他のミュージシャンからもリスペクトを受けることのできる秘訣なのだろうと感じさせられた。
 
国内のみならず海外にもその名を轟かせる名ギタリストでありながら、これからも進化を続けようとする姿勢に、彼にとってマンネリという言葉が無用のものであること、ギターヒーローとして益々の活躍を確信させられた。 今後のライブ活動や、アルバム音源の発表が待ち遠しい。

 

 

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<取材協力>
カジュアルダイニング「yan-ya」東京/高円寺
 
URL: http://www.hotpepper.jp/strJ000002663/