特集

『パパ×ROCK×絵本』展

2009年8月24日 TEXT:西川敦子 PHOTO:桜坂秋太郎

Photo「デザインの力が社会を豊かにする」をコンセプトに、さまざまなイベントやワークショップを開催してきた生活工房がこの夏打ち出したのは、『パパ×ROCK×絵本』展。ロックと絵本? 一見まったく異質なもののように思えます。でも、心を揺さぶられるメッセージを放っているという点においては、ロックと絵本はイコール。それなら、ロックをBGMに絵本を読んでみては? と。

ところが、パパにとって、子供に絵本を読んで聞かせるというのは、ハードルが高いもの。どうしても恥ずかしさが先にたってしまったり、絵本はママが読むものと決めつけていたり。そんなパパもロックの力を借りれば、意外とすんなり読めちゃうのです。ロックをかけながら絵本を読んで、子供と時間を共有する。そんな提案をするのが『パパ×ROCK×絵本』展なのです。

展示会場には、パパが読み聞かせをするのに最適な絵本15冊とパパ世代が聴き慣れたロックの名盤15枚が。絵本1冊に対して、BGMにぴったりなアルバム1枚が紹介されています。会場内は「もやもや×ナゼナニ」、「もぐもぐ×ムシャムシャ」、「あめあめ×ムチムチ」、「わくわく×ドキドキ」、「ゆるゆる×ニコニコ」という5つのテーマにわけられ、それぞれに合った絵本が3冊ずつ。ブースにはヘッドフォンがふたつあり、どちらも1台のMP3プレーヤーにつながっています。つまり、パパと子供の耳に届くのは同じ曲。そして、見つめる先も同じ。訪れたパパと子供は、ここでどんな時間を過ごしたのでしょうか? きっと、楽しい時間だったに違いありません。会場にはブースのほか、めくり続けられる絵本とそこに書かれたストーリーを追う字幕とを映し出すプロジェクターも。ここでも、BGMに絵本に合うロックが流されていました。

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さて、取材に訪れた日は、この展示会に協力者として名を連ねるNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也さんのトーク&ライブも開催。ファザーリング・ジャパンは「ファザーリング=父親であることを楽しもう」をテーマに事業を展開する団体です。この団体の代表であるとともに、パパ’s絵本プロジェクトの一員でもある安藤さん。ロックをBGMに自らの子供たちに絵本を読みつづけてきた人でもあります。そんな安藤さんの『日経Kids+』に掲載されてきた連載「ROCK’N絵本」がこの展示会のもと。トークショーでは、パパの子育て参加についてや、それが家庭や社会に及ぼす影響が語られたほか、パパと絵本とロックについての話も。その後の『絵本ライブ』では、実際にロックをBGMにして絵本が読まれました。

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読まれたのは、展示会でも紹介されている「ボヨンボヨンだいおうのおはなし」と「綱渡りの男」。それぞれVan Halenの「JUMP」とU2の「Where The Streets Have No Name」がBGMに。ほか、「カラス」にはPaul McCartneyの「Blackbird」が、「ひとりぼっちのかいぶつといしのうさぎ」にはCarole Kingの「You’ve Got a Friend」がセレクトされ、読まれていました。『絵本ライブ』は、アンコールの声が出るほどの盛り上がりよう。参加した子供たちはもちろんパパやママたちも見入り、聞き入り。歓声や笑い声にあふれた時間となったのでした。

実際にロックをBGMに絵本を読んでみると、想像以上の効果があることがわかります。臨場感や疾走感が増すどころの騒ぎではありません。絵本のなかで大変な事件が起きていれば大変さが、汽車が走っていればスピード感が。目だけでストーリーを追っているものの、まるでその世界に入って体感しているかのような感覚。これは、パパではない方にもぜひ味わってもらいたい感覚です。

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展示会で紹介されていた絵本とロックのセットをひとつ、ここで詳しく取り上げてみましょう。「給食番長」とDeep Purpleの「BURN」です。「給食番長」は給食を残さず食べるという基本を教えてくれる食育絵本。給食時間も暴れたい放題、嫌いなものは残したい放題。やりたい放題の番長に、一生懸命給食を作ったおばちゃんたちの逆襲が! 給食を作ってくれなくなったおばちゃんたち。でも、めげない番長。給食なんか、俺が作ってやるから平気なのだ。しかし、マズイぜ、番長の給食!! クラスメイトに自分が作った給食を残され、番長ショック! おばちゃんの気持ちがやっとわかった番長なのでした。めでたし。こんな展開を描く絵もストーリーも勢いにあふれており、それが「Burn」のスピード感とハマりすきるほどハマる。ただ読むたけなら、こんなにはならないだろうというほどテンションが上がるのです。

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グッとくるものはよりグッと、楽しいものはより楽しく。絵本からのメッセージもより伝わってきます。ロックの持つ意外な力を発見できた『パパ×ROCK×絵本』展でした。

[イベントの仕掛人・長谷川武史さん(生活工房)インタビュー]

「もともと生活工房で『日経Kids+』を定期購読していたのです。それで、自分もロックが好きなものですから、安藤さんの連載(「ROCK’N絵本」)は興味を持って読んでいまして。そんな中で、今年の夏休みの子供向け企画を考えるにあたって、これまで音に関するものはやっていなかったので、音が使えないかと。それでまず思い浮かんだのが、「音をデザインする」というキーワードだったのです。生活工房では、「デザインの力が社会を豊かにする」をコンセプトにすえていますから。そこで、安藤さんの連載を展示会として立体化させようと思って、今回の企画がスタートしました。

ただ、『日経Kids+』の連載をそのまま展示会にするのでは、生活工房としてやる意味がないと思ったのですよ。なので、トーク&ライブを開催するとか、DJ体験教室を関連イベントとしてやってみるとか、アートディレクション的なものを加えるとか。そういう工夫は考えましたし、展示会場の構成には気を使いました。今回は音とデザインの橋渡しになるのはジャケットだなと思いまして、絵本の表紙をアルバムのジャケットと同じように正方形にしてパネルにしたり、ジャケットにヒントを得て絵本とロックとパパの入ったグラフィックを作ってみたり。そこに絵本に合うアルバムの曲目リストを載せています。

今回、プロジェクターで映している映像は僕が作ったのですが、それを作っているときも、ロックミュージックを聴きながら絵本を読んでみたときも、思いました。すごくいいなって。ロックが好きだと言っても、僕はかなり好みが偏っていて。スラッシュメタルやハードコアとかしか聴かないのです。でも、そういう曲でも激しい内容の絵本を合わせて読むと、とてもお互いが引き立つというか。ホントにすごくいい。トーク&ライブにも60人くらいの方がいらしてくださいましたし、僕自身も楽しい経験ができので、今後も音と結びつけたイベントを開催してもいいなと思いました」。

 

[安藤哲也さん(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)インタビュー]

—ロックをBGMにして絵本を読もうという発想のもとを教えてください。

photo安藤:ロックと絵本は、水と油のように思われるかもしれません。でも、僕にとっては、どちらも自分に影響を与えてくれたものなのですよね。ロックは小学生の頃にThe Beatlesが流行ってから、青春時代の傍らにいつもいたみたいな感じで。バンドもやっていましたし。いっぽう、絵本は…。12年前に、娘が生まれることがわかって。僕は男兄弟のなかで育ったので、小さい女の子とどうやってコミュニケーションをとればいいのかわからなかったのです。で、当時は書店を経営していたので、ふと横を見たら絵本があって。「これだ!」って直感的に思いましたね。それで、問屋で自分のフィーリングに合うもの…例えば、格好いい絵とか、中身とか。そういうものを100冊ぐらい買って。そのときに絵本を選ぶのって、昔レコード屋でレコードを探していた感覚と同じだな、と。だから、なかには失敗も。ジャケットにつられちゃったっていう(笑)。もうその時点で、ロックと絵本はシンクロするものがありましたよね。絵本自体もロックなメッセージを持っているものがたくさんありますし。僕にとって、出会って来た曲と絵本っていうのは同じインパクトだったのです。いろんなことにインスパイアされるというか。それで、実際にロックをかけながら絵本を読んで。自分が一番リラックスできるので、読むときも肩に変な力が入らないで読めるのですよね。

—BGMはロック限定ですか?

photo安藤:それは僕の感性なので、人それぞれでいいと思いますよ。お父さんたちに聞くと、絵本を子供に読むのは恥ずかしいとか、照れくさくて読めないという方がいらっしゃるのです。その入口として、今回のナビゲーションがあって。いきなり絵本だとハードルが高いけど、昔自分が聴いていたロックからなら入りやすいんじゃないかなっていうのがひとつの狙いですね。

—パパとっては、自分もリラックスできるし、恥ずかしいと思っていたこともロックの力を借りたらできるかもしれない、ということですね。

photo安藤:そうそう。そんな効果が出ればいいなと思いますね。お父さんたちにとっても、会社でのことが忘れられなくて眠れないとかになるよりは、子供と一緒に絵本を読んでスコーンと寝てしまったほうが、健康的でしょ。絵本って、けっこう深いのです。悩んでいるときに読むと、ヒントをもらえたりするし。僕もそういうのがいっぱいあったのですよね。絵本は子供のものだって思っちゃうけど、そんなことは絶対になくて。大人にも刺さるメッセージがいっぱいあるのです。それでハマッてったのですよね、僕は。で、そこに自分らしいロックっていうものを掛け合わせてみたら、案外しっくりきて。そこから発展してったのですよ。

—では、子供にとって、ロックを聴きながら絵本を読んでもらうっていうのは、どんな効果があると思いますか?

photo安藤:子供たちは楽しそうに読んでいるパパが好きだと思うのですよ。例えば、ママが用意した絵本を渡されて、「あなたもたまには読んであげなさいよ」って言われて義務的にイヤイヤ読んでいるとしますよね。そうすると、その場がすごくつまらなくなってしまって、子供は退屈して逃げちゃうのです。だから、まずパパがロックな目線で絵本を選び、かつ自分の好きなロックミュージックをかけながら読めば、すごくいい笑顔で読めると思うのですよね。そういう雰囲気作りにもロックは貢献できるし、絵本は静かによまなきゃいけないってものでもないし、子供にとってクラシックがよくてロックが悪いなんていうのもおかしい話だし。この企画自体がロックだなっていう気がしますよね。価値観を揺さぶるっていう意味でね。

—今回の展示会のきっかけになったのは、『日経Kids+』で安藤さんが連載されていた「ROCK’N絵本」だと聞いていますが。

photo安藤:『日経Kids+』の編集長がまたロック好きな方で。創刊されるときに、パパが絵本を選ぶとかロックをかけながら読むとか、そういう話がおもしろいから「ROCK’N絵本」っていうコンセプトで書いてよって言われたのですよ。僕にとって「ROCK’N絵本」っていうのは、読んで心が揺さぶられるような絵本。それをポイントに編集しているのですけれども、それと合うロックナンバーを紹介するっていうのが、この展示会ですよね。

—絵本に合った曲を選ぶ極意を教えてください。

photo安藤:ひとつは絵本のテーマとか絵のテイストに合ったものですよね。例えば、お化けが出てくるようなおどろおどろしい絵本にはEaglesの「ONE OF THESE NIGHTS」とか。単なるこじつけに過ぎないじゃんっていう話もありますけど(笑)。あとは、単純に絵本を読んでいるときに、自分の頭の中に聴こえてくる曲があるんですよ。「この本はこの曲だな」みたいな。そういうインスピレーションで選んでもいいと思います。

—これから読み聞かせに挑戦するパパは、それをポイントに選べばいいのですね。

photo安藤:そうですね。僕と同じセレクトをする必要はまったくなくて、自分のなかでイメージされる曲をかければいいと思います。それは恐らく、自分がバカやっていた青春時代に聴いていた曲だろうから、ひょっとしたらその曲を再び聴くことによって、仕事ばっかりしている今の生活をリセットできるかもしれないし、気分転換になるかもしれないし。

—『絵本ライブ』では、読むときに抑揚をつけて読まれていましたが、始めてのパパにとってはそれが恥ずかしいような気がします。

安藤:子供の反応を見ながらやればいいんじゃないかな。子供によっては、抑揚つけないでくれっていう子もいるし、逆に登場人物に合わせて声色を変えるのが好きな子もいるし。楽しい読み方であればいいと思います。僕はアドリブを入れたり、エンディングがつまんない本は最後まで読まないで、その先を子供に考えさせたり。そのお父さんならではの哲学を持った読み方をすればいいと思いますよ。僕は、読み聞かせるわけじゃなくて子供と一緒に読んでいる、一緒に世界を作っているという感覚で。だから、子供たちを集めて読むときも、読み聞かせじゃなくて、『絵本ライブ』って言うのです。ストリートライブみたいなノリでいいのかなと思って。子供たちにもお父さんにも、絵本ってなんか楽しいなって思ってもらえれば…。そこでやっぱりロックが出てくるのですよね。どうせなら、楽しんでやったほうがいいし、自分がのれる環境を作ってやったほうがいいと思いますから。

 

[安藤さんセレクト・絵本×ロックミュージック]

テーマ:「もやもや×ナゼナニ」
戦争、同性愛、不登校・・・。もやもやな社会問題を子供と一緒に考えよう


「しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる」×KISS『KISS』より「FIRE HOUSE」


「ぶらぶらばあさん」×Billy Joel『The Stranger』より「Movin’ Out」「Just the Way You Are」


「タンタンタンゴはパパふたり」×Daryl Hall&John Oates『H2O』

テーマ:「もぐもぐ×ムシャムシャ」
飽食の時代。そんな現代に親子でダブル・ドロップキック!


「給食番長」×Deep Purple『BURN』より「BURN」


「くんくん、いいにおい」×Prince and The Revolution『Purple Rain』より「Purple Rain」


「きょうはこどもをたべてやる!」×Little Feat『Waiting for Columbus』

テーマ:「あめあめ×ムチムチ」
子供はわがままで当たり前。大切なのは、あめとムチ!?


「ぜったいがっこうにはいかないからね」×Aerosmith『Rocks』


「ハンタイおばけ」×Johnny Allen“Jimi”Hendrix『Electric Ladyland』


「これがほんとの大きさ!」×Mr.Big『LEAN INTO IT』

テーマ:「わくわく×ドキドキ」
かわいい子供にも、仕事で疲れたパパにも冒険は必要だ!!


「がたごとがたごと」×The Doobie Brothers『The Captain and Me』より「Long Train Runnin’」


「どれくらいひろいの?」×Asia『Asia』


「綱渡りの男」×U2『The Joshua Tree』より「Where The Streets Have No Name」

テーマ:「ゆるゆる×ニコニコ」
ちょっとイヤなことがあった、そんな日にこそ親子で笑顔になろう


「つきよのかいじゅう」×Rod Stewart『Foot Loose&Fancy Free』より「Hot Lege」


「ボヨンボヨンだいおうのおはなし」×Van Halen『1984』より「JUMP」


「にせニセことわざずかん」×Stevie Wonder『Talking Book』より「Superstition」

 

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[展示会情報]

会場:生活工房ギャラリー
住所:東京都世田谷区太子堂4−1−1 キャロットタワー内3F
   世田谷文化生活情報センター 生活工房内
Tel:03−5432−1543
最寄駅:東急田園都市線・東急世田谷線 三軒茶屋駅
時間:9:00〜20:00
休館日:月(祝日の場合は開館)
URL:http://www.setagaya-ac.or.jp/ldc/
会期:2009年8月2日(日)〜2009年8月31日(月)
入場料:無料