特集

ロックライフソリューション Vol.1

2009年6月17日 Text:桜坂秋太郎

Googleブック検索とは、Google社が提供している書籍の全文検索サービスです。書籍内の全文を対象に検索を行ない、書籍の内容の一部または全部を無料で閲覧できます。

Googleブック検索は、電子図書館として機能することを目的に、Google社が紙製の書籍からスキャンしたものです。

著作権侵害の問題によりアメリカでは出版社との間で訴訟が起こりましたが、2008年10月に和解しています。
原則としては、著作権の切れた書籍や絶版となった書籍をスキャンしてデータベース化するサービスですが、著作権のある書籍でも出版社の了承を得て、全文または全文に近い公開をしているものもあります。
 
Googleブック検索は、著作権保護期間の書籍は、その一部を表示することによる広告機能を持たせた上で、販売サイトへ誘導する仕組みとなっています。
実にGoogle社らしいビジネスモデルといえます。クリック一発で、アマゾン等のオンライン書店で注文が出来るようになっています。

しかしインターネット上で書籍を閲覧できるという電子図書館の発想は、インターネットが誕生した頃から言われていた話であり、空想の世界がついに現実化してきたのだと思います。

Googleブック検索は、すでに700万冊が閲覧できるといわれています。単純に検索しただけでは膨大な量の書籍が登場し、目的の書籍にたどり着けない可能性があります。
 
PhotoPhotoまず簡単で一番わかりやすいポイント、それは検索文字の選択です。例えば「LED ZEPPELIN」と検索してみると、海外の書籍がヒットします。その数983件(2009年6月現在)です。
それぞれを閲覧してくことも大変楽しく、ちょっとした時間つぶしに最適です。「Led Zeppelin 著者: Dave Lewis」ではジョンポールジョーンズの文章を見ることができます。
「Led Zeppelin “talking” 著者:Dave Lewis, Paul Kendall」ではヤードバーズの記事も見ることができます。

 
PhotoPhotoこれを「レッドツェッペリン」として検索してみると、日本の書籍のみがヒットしますが、こちらはグッと数が減って、その数25件(2009年6月現在)です。
「レッドツェッペリン」というキーワードで、リアル書店ではまず手にとることのなだろう「ふぅっ、またアメリカに行きたくなってきた 著者: 白木賢志」や「小児病棟フォーシーズンズ 著者: 麦野みのり」といった書籍を知ることができます。

 
PhotoPhotoロックミュージシャンの憧れ会場である「日本武道館」で検索してみると153件(2009年6月現在)がヒットします。
その中には「海外ノビノビ印税生活のススメ 著者: 柳沢有紀夫」や「エンタメ通訳の聞き方・話し方 著者:小林禮子」といった興味深い内容の書籍を知ることができます。

このサービスが画期的な点は、書籍の文字がテキストデータになって、データベース化されていることにつきます。海外も日本もキーワードで検索されているため、
まるごとアーティストの書籍が出てきているとは限らず、一部引用しているような書籍もすべて検索されます。これは大事件といえるくらいの衝撃を、出版界に与えました。
 
つまりアーティストを作品中に登場させている小説や、アーティストとの思い出を語る記事が載った物まで全部ヒットしてきます。大好きなアーティストのことは、
たいていのロックファンならすでに知っていると自負しているはずですが、このGoogleブック検索を使用して出てきた文章を読むと、まだまだ知らなかったことがたくさんあることに気がつきます。

え?そういう解釈があるんだ!あの曲って意味を勘違いしてたかも……など、新しい発見に時間を忘れて読んでしまいます。

まだ始まって歴史が浅いサービスですが、今後はさらに膨大な数が閲覧できるようになってくることでしょう。自宅が図書館となる日は案外すぐ来てしまうかもしれません。

書籍のテキスト検索という技術そのものは、特に新しい物ではありません。しかしそれを世界展開すること、すなわち動画におけるYOUTUBEと同じくらいの大きな話だと思います。
また機能として素晴らしいのは、見出しと書籍文がリンクされていて、読みたい記事に即アクセスできることです。
 
アーティストによっては、あまりヒットしない場合がありますが、表示形式を「限定プレビューと全体表示」から「すべての書籍」に切り替えることで、また違うものが検索されます。

楽器をプレイされる方であれば、さらに実用的な情報が手に入ります。例えばすでに絶版となってしまった○○教則書籍とか、 ○○奏法なんていうものも、その中身を見ることができます。
必ずしも全文を閲覧できる必要はなく、欲しい情報のページだけ閲覧できれば目的は達成されます。

目的が特に無い場合でも、例えば「guitar TAB」と検索してみると、1340件のヒット(2009年6月現在)があり、これを「guitar TAB jimmy page」とすると552件のヒット(2009年6月現在)があります。
見たこともない書籍を、目的無く見ていても十分に楽しめます。

そして本当に譜面だけを「ちょい見」したい場合は、書籍を買うまでもなく、パソコンで閲覧可能になります。これは楽器プレーヤーにとって大きな話なのではないかと思います。
 
Photoちなみに私が今読んでいるのは「queen freddy」で検索した中に出てきた「Queen: the early years」という書籍です。実に198ページという読み応えのあるものです。もはやネット上の立ち読みではなく、本気のマジ読み状態です。

色々と試してみると、新しい時代の到来を感じるものの、同時に著作権の考え方にも変化が起きていることがよくわかります。
Google社はGoogle ブック検索によって得た収益の63%を著作者に支払うということでアメリカでは合意を得ています。

日本ではまだそのような合理的な発想や慣習の定着がなく、徹底してgoogle社に対抗している著作者側の意見もありますが、結果的には時代の流れには逆らえません。
何かしらの方法で和解するしか無いと思います。

アメリカが基準となっているため、日本の書籍はすべてが絶版(アメリカでの流通が無い)扱いとなり、どの書籍も即データベースに取り込まれる可能性を脅威と捕らえています。
 
しかし今やリアル書店では、大型書店にはイスが配置されており、長時間の座り読みが可能になりました。出たばかりの書籍をイスに座って読破することが可能です。
もちろん読んで終わりの人もいますが、作品の一部、または全部を読んだ上で買うスタイルが新しい流れとして発生しています。

内容を見ない書籍を買う時代は、リアル書店では終わりを告げようとしています。インターネットの世界でも、最大手アマゾンを始め、中身を見せる仕組みを積極的に取り入れています。

Google社は、Googleブック検索により得た権利者への収益分配について、版権レジストリ団体を設立して実施するとしています。
また無断でスキャンしてしまった作品については、その全書籍の著作者に補償金を支払うようです。利用者も権利者もそしてGoogle社も、全員がWin-Win-Winになれるビジネスモデルを構築したということでしょうか。

特に学術系の書籍はスムーズにデジタル化に移行しているようで、文献としては大きな意味があります。論文のようなものは、今後も盛んにデジタル化されるのかもしれません。

良し悪しは別にして、実際に音楽はあっという間にデータ化へ移行しました。CDが売れないのは周知の事実となり、ダウンロードが盛んです。
いまやパッケージにこだわりを持っているのは、CD世代・レコード世代だけという現実があります。

同じようなことが、書籍におこっても何ら不思議ではありません。音楽の時はApple社が仕掛人となりましたが、書籍の場合はGoogle社が仕掛人ということでしょうか。

まだGoogleブック検索には、問題や課題はあると思いますが、いちロックファンとしては、まだ見ぬ書籍とめぐり合えるツールとして有効活用していきたいところです。

今のところパソコンが無いと読むのも一苦労ですし、専用の閲覧端末は当分発売されないかもしれません。とはいえ多くの人が持っている iPodやiPhoneなどを使って、読みやすいアプリが開発されたら、
一気にGoogleブック検索がメジャーなものになる可能性は否定できません。

今月、新iPhone 3GSが発表になり従来の倍近い速さになったようですが、まだgoogleブック検索のブックビューワーとして特化したアプリケーションは出ていません。(2009年6月現在)
 
日本の出版業界では、書籍を出す時に契約をしないのが通例です。契約書を交わさないでビジネスが成り立っています。
基本的には著作権は著者と考えるのが妥当ですが、そうなると出版社はその出版権をどこまで持っているのか疑問になります。

何はともあれ時代の流れは確実に動きました。10年後、20年後、30年後、Google社がこのサービスを継続していたならば……。それは歴史的に大きな物となるでしょう。

未来永劫Googleブック検索という名前かどうかはわかりませんが、50年後も100年後もおそらくこのサービスは生きていると私は思います。今まさにその歴史的な動きの最初に立ち会えたと考えています。

問題となったストリートビューのサービスを含め、google社は斬新なサービスを突然展開する癖があります。
事前に調整するには限界があるので、方法としては仕方ないのかもしれませんが、あまりに唐突であることは、世界中のメディアが報じている内容の通りです。

googleブック検索については、日本独自の読み物文化(書籍や雑誌)の業界常識が通用しいない時代が急に来てしまいました。大手出版社の法務は、Googleブック検索への対応に慌しいことでしょう。
また中小出版社にとっては、このサービスを生かすか殺すかが、自社の命運を左右するとても大きな分岐点に来ているといえます。

ユーザーの視点から考えると、細かいことを抜きにして楽しめるかどうかが鍵になるのではないでしょうか。これからのロックライフに、Googleブック検索をどう活用するのか。

まだ未体験の方は、ぜひ一度googleブック検索で、自分の好きなアーティストに関係する書籍を探してみてください。その書籍の表紙ジャケット(装丁)をながめるだけでも、コーヒーのお供になります。