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FOREVER50〜50代のロックンロール

2009年6月25日 TEXT & PHOTO:岡田真理

2009年 6月16日、六本木のスイートベイジル139にて『浅野孝己&Friends Thank You LIVE Vol.2』が開催されました。このライブは、【ゴダイゴ】として現在も活躍中の「浅野孝己」(以下浅野)さん〔Guitar〕が、70年代・80年代を代表するバンドのミュージシャンに声をかけたことから、3月に「Vol.1」が実現。 
メンバーは、元【ツイスト】【ハウンドドック】の「鮫島秀樹」(以下鮫島)さん〔Bass〕、【サザンオールスターズ】の「松田弘」)(以下松田)さん〔Drum〕、元【ハウンドドック】の「蓑輪単志」(以下蓑輪)さん〔Keyboard〕、そして元【ツイスト】の(※当時はDrum)「ふとがね金太」(以下金太)さん〔Vocal〕と、現代の若者でもそれがどんなに大御所揃いかがわかる顔触れです。 
『Vol.1』では、それぞれのバンドのヒットナンバーや洋楽チューン、また昔のエピソードを交えたMCが大好評。ファンの熱いリクエストもあり、この『Vol.2』が実現したとのこと。今回はついに5人のユニット名が発表されるとあって、会場にはライブ開始の一時間以上前から多くのお客さんが詰めかけました。 
 
今回ビーストは、ライブ前の楽屋潜入レポートに成功!バックステージは笑い声の絶えないアットホームな雰囲気で、みなさんとってもリラックスしていました。そんな中、快く楽屋まで招き入れてくださったのはリーダーの「浅野」さん。ライブ前の心境や最近の音楽に対する考えなどを聞いてみました。
 
 
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—まず、今回のライブのコンセプトを教えていただけますか?

 
浅野:前回もそうだったのですが、今回も70年代・80年代にかけての洋楽をたくさんやります。【ゴダイゴ】【ツイスト】【サザンオールスターズ】【ハウンドドッグ】、どのバンドもヒット曲がたくさんあるので何曲かやりますが、どちらかというと僕らが影響を受けた洋楽サウンドでその年代の人たちを喜ばせたい!そんな気持ちが強いですね。 
 

—今日は5人のユニット名が発表されるとのことですが。

 
浅野:はい、名前は思いつきで決めました(笑)。そもそもこのライブ自体が思いつきみたいなものでしたし。みんなに声を掛けたら、試しに一回やってみよう!ということになって。やってみたらものすごく気持ちよくて。お客さんもお店も喜んでくれたので、ぜひもう一回やろうということに。だったらユニット名でも決めようという流れになったのです。発表はステージ上でするのでまだ内緒ですよ。 
 

—70年代・80年代というのは、振り返ると浅野さんにとってどんな時代でしたか?

 
浅野:最近の音楽の作り方はコンピューターが主流ですけど、当時はそういうのはまったくない時代でした。リアルタイムでの演奏がメインだったので、演奏テクニックがないといろんな表現ができなかったのです。だからとにかくテクニックを磨くことに一生懸命で、ギターソロなんかギンギン弾いたりして……。当時、特に70年代前半は時代背景的に「戦争反対」とか「自由」とか、そういうことを音楽で訴えていた時代でした。つまり、若者の自由の表現が音楽だった。ライブに来るオーディエンスも音が鳴れば途端に踊り狂う、そんなパワフルな時代でした。今の自由な時代では、音楽をやる目的も昔と違い、どちらかというと自身のエネルギーを発散するような感じですよね。オーディエンスもあの頃とは違って、最近のお客さんはみんなお行儀よく聴いています。音楽の楽しみ方もきっと変わったのだと思いますね。 
 

—それに対して現代の音楽界、ロック界は作り手から見てどのように変わったのでしょうか?

 
浅野:圧倒的に違うのは、やはりコンピューターの存在でしょうね。今はアレンジャーが入ってコンピューターでいじれば、演奏できなくても音楽ができる時代。ですから演奏テクニックよりもリズム、もしくは歌詞の内容が注目されたりします。それはそれで時代の流れだからいいと思いますよ。それに、コンピューターによって頭の中で描いていたものが形にしやすくなった点は大きなメリットです。ただ欠点もあって、作業が全部一人でできてしまうので、他の人のニュアンスやエッセンスが入ってこない。アレンジする人の個性だけになり、偏った音楽になってしまうのです。昔のように何人もの人間が携わると、それだけ音楽にも広がりが出るものですから。 
 
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—ちなみに今、浅野さんが注目しているアーティストはいますか?

 
浅野:昔のロックを意識しているバンドが好きですね。例えば【ウルフルズ】や、あとは【ポルノグラフィティ】とか。彼らはきっと昔の音楽をよく聴いているのではないかと思います。彼らの曲を聴いていると、何となく通ずるものがあります。
 
 

—70年代当時から「ここだけは絶対に変わらない」という浅野さんの音楽に対するこだわりって何でしょう?

 
浅野:僕はずっとギターを弾いていますけど、声に近い音を出すようにしています。まるでギターのソロを歌っているかのような、そんな音色にこだわっていますね。時代が変わって音楽の作り方がコンピューターベースになっても、そこだけは昔も今も変わらない。実際、ギターを弾いていると不思議なことに喉が乾くのですよ(笑)。感覚的には歌っているようなものなのかもしれませんね。 
 

—それでは最後に、これから始まるライブの意気込みをお願いします!

 
浅野:このライブでは、日本のポップスをリードしてきたメンバーが集まっています。昔、『ベストテン』(※78年〜89年まで毎週生放送で続いたTBSテレビの邦楽ランキング番組)を騒がせていたメンバーです。僕らが集まることによって、その年代のお客さんが楽しんでくれればいいなと思いますね。こちらも一生懸命楽しんでやっているので、お客さんも楽しんで聞いてもらって、素敵な時間を共有できたら嬉しいです。 
 
 
今度はお隣の楽屋を覗いてみると、サポートメンバーと楽しそうに談笑している「鮫島」さんを発見。ライブ前の意気込みを少し聞いてみました。 
 
 
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—浅野さんからこのようなかたちでライブをやろうと声が掛かったとき、どう思いましたか?

 
鮫島:「え?」って思ったよ(笑)。最初は、「何をやるの?」って感じだった。でも一回やってみて、ホント面白かったね。俺らはもともとカバーをやることはなかったし、オリジナルばかりやっていたから、こういうのは初めてだった。でも、簡単だと思っていた曲が実はめちゃくちゃ難しかったりして、ある意味勉強になったというか、刺激になったね。たまにこういうのをやるものいいな、って思ったよ。 
 

—一回目は、どんなところが楽しかったですか?

 
鮫島:みんな同世代だから、すぐにあうんの呼吸で通じるんだよね。「あの感じ!」と言っただけで、「ああ、あれね!」みたいな。違うバンドだったけど、フィーリングというか、何か通じ合うものがあってさ。とにかく、こういうライブは技を競い合うようなのじゃないし、堅苦しくない。とにかく楽しいんだよ。お客さんもきっと、俺らが何をするか想像できないだろうしね。前回はハードなフュージョンみたいのをやって裏切ってみせたんだよ。お客さん、驚いていたね。あと、キャリアを積むとトークもうまくなる(笑)!ちなみにこのユニットでは、メインMCが「金太」で、俺がツッコミね。昔話とか、楽屋のしゃべりをそのままステージでやっているような感じかな。でも一つこだわっているのは、昔っぽくならないこと。俺たちも現役だから。昔を懐かしんでこういうのをやっているわけじゃない。今、大人になってからこそできる遊びなんだよね。 
 

—このライブを通して何か伝えたいことってありますか?

 
鮫島:今の時代はいろんな音楽が世に出ているけど、こういう音楽もあるんだっていうのを知ってほしいね。それと、とにかくライブに足を運んでほしい。今は、みんな『iPod』でしょ。音楽を耳でしか聞いてないもんね。でもライブっていうのは、音が空気で伝わってくるんだよ。ドラムがビートを刻むと、空気が揺れて体にどっと押し寄せてくる。そういう空気とか、匂いとかを感じることで音楽を楽しんでほしいと思うね。 
 

—では最後に、本日の意気込みを!

 
鮫島:スイートベイジルという会場なので、みなさんおいしいモノ食べて一杯やりながら楽しんでください!こっちも楽しく演奏するからね。 
 
 
Photo客席に戻ると、会場はPA席後ろのカウンターまで観客が入るほどの大盛況ぶり。やはり40代以上の方が多く見受けられましたが、中にはヤングな顔もちらほら。ワインとビールの香りが漂う中、照明が暗転。歓声とともにメンバーの「浅野」さん・「鮫島」さん・「松田」さん・「蓑輪」さんがステージに登場しました。 
 
第一部は【ジェフベック】の”Freeway Jam”からスタート。会場がJazzyな雰囲気に包まれます。曲が終わるとテンガロンハット姿の「金太」さんが登場。「どうも、トミー・リー・ジョーンズです」と冒頭から笑いをとりました。ナンバーは【パワーステーション】の ”Get it on”へと続きます。最初の曲とは思えないほど(そして53歳とは思えないほど!)パワフルな金太さんのシャウト。短く挨拶が入った後は、誰もが知る【ビートルズ】の”Come together”。観客の体が左へ右へと優しく揺れます。ここで「金太」さんは退場。 
 
ステージを照らすブルーライトに「蓑輪」さんの幻想的なキーボードの音色が重なると、今度は【ラリーカールトン】の”Sleep walk”。 「鮫島」さんのベースと「浅野」さんのギターが甘く調和していきます。「声に近い音を出す」。まさに70年代から変わることのない「浅野」さんの音色です。続くは「浅野」さんが影響を受けたという【ベンチャーズ】の”10番街の殺人”、そして”キャラバン”。テケテケテケ…というサウンドは60年代おなじみ。思わず懐かしさに頬が緩む様子の観客も。「ちゃんと弾けるかな?」と冗談まじりに言った「浅野」さんでしたが、見事な指さばきを披露してくれました。 
「鮫島」さんのベースソロに続き、「松田」さんのドラムソロ&投げキッス。会場が興奮に包まれたところで、第一部終了……と思いきや、「金太」さんが一人でステージに登場。「金太」さんのコーナー「トムヤムクン」がMDカラオケで始まりました。「トムヤムクン!」あまりの熱唱に気圧されて会場は思わず手拍子。曲が終わると「金太」さんは満足げな顔でステージを後にしました。しばしの休憩を挟んで、ステージは第二部を迎えます。 
 
Photo第二部からはサックスの「加地直子」さんとコーラスの「神保翔子」さんが加わり、ステージはより一層華やかになりました。【キャンディダルファー】の“Pick up the pieces”がスタートすると、「金太」さんはタンバリンを手に掛け声をあげてメンバーと観客を煽ります。曲が終わると、いよいよ「浅野」さんからユニット名の発表。「先日58歳の誕生日を迎えました。こうして50過ぎのオジサンたちが楽しんでいる、そんな時間が永遠に続いたらいいなという願いを込めて、原宿に上陸したばかりのアパレルブランドをヒントに名づけました」という「浅野」さん。その名も『Forever50』会場から歓声と笑いと拍手が送られました。
 
ところが「あの、一言いいですか?僕まだ40代なんですけど…」申し訳なさそうな顔をしながらも、ちゃんと主張はしておきたい、そんな口調で訴える「蓑輪」さんに会場は思わず爆笑。そんな訴えも虚しく、「あ、ゴメンゴメン。でももうすぐ50代でしょ?」と返されてしまいました。そして曲は【マーヴィンゲイ】の”What’s going on”へと続き、次は「神保翔子」さんがボーカルで【オリビアニュートンジョン】の名曲”Xanadu”。 
【ボズスキャッグス】の”We’re all alone”で再びマイクを握った「金太」さんは、MCの陽気な雰囲気とは一転してスイートボイスを聴かせます。【エリッククラプトン】の”I shot the sheriff”、【キャロルキング】の” You’ve got a friend”と続き、再び【エリッククラプトン】の “Over the rainbow”。「浅野」さんの歌声のようなギターソロが会場に響き渡り、第二部が終了です。 
 
Photo束の間の休憩の後、「金太」さんが「蓑輪」さんとともにステージへ。【ツイスト】の名曲”あんたのバラード”のイントロです。ジャン!のきっかけで歌い出しかと思いきや、「あんたに…」ではなく「あのですね」というフェイント。観客が笑いながら溜息を洩らす中、「金太」さんが盛り上げどころを会場に指導。今度は本番。ジャン!「それからですね…」と、またもやフェイント。再び笑いと溜息の渦。呆れ顔のメンバーが全員ステージに集まると、三度目の正直でようやく”あんたのバラード”がスタート。力強い「金太」さんのボーカルに、「松田」さんのドラムが重なります。 
次は【サザンオールスターズ】の名曲”チャコの海岸物語”。キーボードのイントロで会場が一気に湧き、これまでの大人チックな雰囲気はどこへやら……会場は一瞬にして「あの頃」へ。【ゴダイゴ】の名曲”ビューティフルネーム”、【ツイスト】の名曲”宿無し”と演奏は続きます。 
 
Photoそして「蓑輪」さんが【ハウンドドッグ】の名曲”フォルテシモ”のイントロを弾いた瞬間、客席からいくつもの拳があがりました。ビートに合わせて、その拳が前に突き上げられます。「金太」さんが「ありがとう!」と叫ぶと、「浅野」さんから「一曲忘れていないか?」との声が。そう、最後はこれしかありません。【ゴダイゴ】の名曲”銀河鉄道999”です!最後の曲を名残惜しむオーディエンスが、ここぞとばかりに揺れました。ラウンジには立ち上がって踊っているお客さんも。名曲の洪水に、誰もがオトナであることを忘れた瞬間でした。ライブは最高の盛り上がりの中で終了。メンバーがステージから去っても、拍手はなかなか止まりませんでした。 
 
50代のオジサンたちによるユニット「Forever50」(注:蓑輪さんはまだ40代です)。彼らのロックは、昨今耳にするロックとは一味違い、かつて音楽のフィールドにコンピューターがなかった時代に形どられた、とても人間くさくて力強いロックでした。ロックというものが、こんなにも人を若々しくパワフルに!ファンキーに!そして最高にクールにしてしまうものだったとは。ステージ上のメンバーたちを見ていて、つい自問自答していました。ボトックス注射とロックンロール。アンチエイジングには、果たしてどちらが効くのでしょう?