演奏

個展 忌野清志郎の世界

TEXT:西川敦子

日本を代表するロックミュージシャン・忌野清志郎。数々の楽曲とパフォーマンスを通して、我々は多くのメッセージを彼から受け取りました。でも、彼の表現手段は音楽だけではなく…。高校時代から美術室に出入りし、一時は美術の道に進もうかと考えていたとか。そんな彼が描きためた油彩やイラスト、スケッチ、絵本の原画。それに加えて、これまでのツアーパンフレットやステージで身につけていた衣装、ポートレート、愛用品などを一堂に会した初の個展『個展 忌野清志郎の世界』が開催されました。
 
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会場内は3つのカテゴリーにわけられ、まずは音楽の側面からスタート。’80年代〜のツアーパンフレット、『初期のRCサクセション』(RCサクセション)や『秋の十字架』(ラフィータフィー)などのレコードジャケット、ツアーTシャツやグッズ、ツアーやリリースに合わせて作られたポスター、ステージ衣装11点、THE TIMERSとしての活動時に着用していたヘルメットが彼のミュージシャンとしての歩みを見せてくれます。
 
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続くブースには、彼の愛車・オレンジ号とヘルメット、愛用していた画材。そして、そこから油彩、イラストの世界へ。’02年に出版された絵本『ブーアの森』の原画をよーく見ると、ところどころにラメが。ほんのりキラキラする原画に、彼らしさを感じます。また、’03年の絵本『おとうさんの絵』には、ちょっとした遊び心も。野球チームに所属する頭の資源が少なくなったお父さん。ユニフォームに書かれたチーム名が、「Hagegons」だったりしちゃうのです。『ブーアの森』は環境をテーマに、『おとうさんの絵』はお父さんと子供の絆をテーマに描かれたもの。やはりここにも、彼からのメッセージが…。
 
未発表作品を含む作品は、タワーレコード新宿のオープン記念作品など大規模なものから、小学生や高校生の頃に描いた静物画、風景画、ミック・ジャガー間寛平ワタナベイベーをモデルにした人物画とさまざま。モノクロあり、油絵の具あり、ペンあり、コラージュあり…と手法や画材も多種多様。音楽にしても絵にしても、彼が固定観念にとらわれることのない自由な表現者であったことがよくわかります。
 
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人物画のなかには、恐らく彼の愛息と愛娘であろう兄弟を描いたものも。そこにあるのは1枚の絵でしかありません。でも、その絵からはふたりの子供たちを見る彼の視線を感じることができます。とても温かくて、優しくて、大きくて…。数多く展示されていた作品のうち、最新作は’09年3月に描かれた「39! Baby」。デビュー39周年を記念したものなのだとか。それもあってか、イラストには「感謝for You」「Mercy」の文字。そして、「L & P(Love & Peace)」とも。
 
会場を訪れた人は気づいていたでしょうか。油彩やイラストを展示するコーナーに置かれていたガラスケースの中。スケッチブックや色紙、印刷物の原画に履歴書が1枚混ざっていたことに。志望動機欄には、こう書かれていました。「世界平和を求めて、願い続けたいです。戦争や貧困がなくなる日まで」と。
 
最後に設けられた映像ブースでは、レア映像やPVなどを特別編集したスペシャル映像全7作品を曜日ごとに日替わりで上映。取材に訪れた日に流れていたのは、「雨上がりの夜空に 35」(忌野清志郎featuring ライムスター)や「ロックン仁義」(THE TIMERS)のほか、ファンクラブ祭りの映像など。映像のなかには「QTU」も。履歴書の言葉を読んでから、この映像を見ると、とてつもなくガツンときます。恋愛を歌ったように思われる「QTU」のPVに、戦争や紛争の映像を盛り込んだのはなぜだったのか。その真意はわからないけれど、きっと答えは観る人、聴く人にゆだねられているのではないでしょうか。
 
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会場出口には、ふぁんくらぶっ会報と「忌野清志郎ロック開拓史〜清志郎の歴史はそのままロックの歴史になる。〜」と銘打たれた年表が。’51年4月2日東京都に生まれ、’09年5月9日の青山ロックン・ロール・ショーまで。彼がロックミュージシャンとしていかに多くの“初”に挑んできたのかを思い知ります。
 
数々の楽曲、油彩、イラスト、書籍…。忌野清志郎が残した形あるものはたくさん。でも、本当は目に見えないもののほうがもっともっとたくさんあって。目の見えるものと見えないもの。そのどちらをも改めて感じられた『個展 忌野清志郎の世界』でした。

 

[来場者に聞く。忌野清志郎の世界]
 
Photo清志郎さんの絵はとても優しかったですね。清志郎さんは、私の人生にすごい影響を与えた人。正直、反戦とか反核とかってよくわからなかった。でも、清志郎さんは、それをみんなに楽しくわかりやすく伝えてくれていて。ストンと心に入ってくるようになりました。とてもストレートに生き様を見せてくれた人だと思います。ライブを観ても、音楽を聴いても、衣装を見ても、何か必ず学べることがあって。口と耳とを介さない会話ができるといえばいいのでしょうか。私は今も毎日映像作品などを観ているのですが、観るたびに違うことを感じるのですよね。本当にエネルギーにあふれていて…。映像や書籍で、今でも清志郎さんとは毎日会える。これからもずっと。リスペクトできる人に会い続けられることは、自分の自信にもなります」
 
「今でも実感がわかなくて…。たくさん与えてもらった影響も自分にとってどれだけ大切な人だったのかも、とても言葉では言い表せません」
 
「最初は清志郎さんに対する興味はまったくなかったのです。ただ、彼女が好きだったので、なんとなく音楽は耳に入ってきているけれど…という感じで。今回の個展を見て、いろいろやられているのだな、いろいろなものを吸収できる人なのだなと思いましたね。その力はすごい。人間として興味がわきましたし、彼の音楽も聴きたいと思うようになりました」
 
「自分ができないことをやれるところ、ひとつのことを主張してやり遂げるところ、いいと思ったものだけを信じて流されないところが大好きです。自分もそういう姿勢でありたいと思うようになったし、清志郎さんに出会ってからはより意識するようになりましたね。言うべきことは言わなきゃ、って。私は縁あって、冬の十字架という作品でモデルをさせていただいたのですが、実際にお会いしたときは、地味で驚きました。ふだんは地味で大人しい人なのですね。イメージよりも年齢を重ねられているようにも見えて、いろいろとダメージを受けているのだろうなと思ったことを覚えています。そういえば、清志郎さんはそのとき、ホラ貝を吹きながら現れて。これもびっくりでした。で、ひととおり吹き終わって、“はじめまして”から入って、“さっそくですが…”と。写真を見ながら描かれるということだったので、何枚か清志郎さん自身に写真を撮っていただきました。その間は、“僕のアルバムはどうでしたか?”って聞かれたり、ひとりで“あ〜、いや〜、そうですか〜”なんてつぶやきながら写真を撮ってらっしゃいましたね。時間にして30分あるかないかでしたけど…清志郎さんは、本当にかわいくて優しい人でした」

 

『個展 忌野清志郎の世界』

会場:名古屋パルコ西館8階・パルコギャラリー
会期:2009年9月18日(金)〜10月12日(月・祝)
入場料:一般500円、学生400円

※小学生以下無料
※忌野清志郎ふぁんくらぶっ会員は100円引き続き
※PARCOカード会員半額、PARCOカードクラスS会員入場無料

問い合わせ:名古屋パルコ 052-264-8370
HPhttp://www.parco-nagoya.com/

会場:仙台パルコ4階・パルコスペース4
会期:2009年10月23日(金)〜11月10日(火)
入場料:一般500円、学生400円

※小学生以下無料
※忌野清志郎ふぁんくらぶっ会員は100円引き続き
※PARCOカード会員は無料

問い合わせ:仙台パルコ・大代表 022-774-8000
HPhttp://www.parco-sendai.com/