特集

TEXT:桜坂秋太郎
ロックにできること ~アジアを一つに~

BEEAST編集部員による特集「Editor’s Note…PASSION」。第2回は編集長の桜坂秋太郎がお届けしたい。BEEASTは創刊から4年目へ突入しているが、そのコンセプト「ロックと生きる…ライフスタイル応援マガジン」は一貫してぶれていない。私が編集長の間は、BEEASTのコンセプトは変わることがないだろう。

BEEASTは日本のマーケットを中心に誌面展開を実施しているが、いずれアジア圏をロックで一つにすることができれば、とても素敵な話になるだろうと考えている。私のそうした考えは、韓国や中国の友人の存在も、後押ししている。しかしながら、日本と近隣のアジア諸国は、政治的な問題を多く抱えているのも忘れてはいけない。

戦後の日本は多くの変化を遂げ、今ではこの国における帰属意識、日本的な調和を語ることが難しくなってきている。日本民族を歴史的にみても、これほどの変化を誰が予想しただろう。同じようにアジア圏の国には、それぞれの問題を抱え、かつ外交問題を抱えるという状況を打破できていない。

エンターテイメントのBEEAST誌面で、イデオロギーの話をする気は毛頭ない。ただ、私は“ロック”と言う音楽を通じて、ロック好きが一つになることは、可能だと思っている。ロックが持つパッションの存在を信じている。根拠を問われたら、科学的な物は何もないが、けして精神論ではない。

どのようなサウンドのロックであれ、ステージには目に見えない何かがある。アーティストが繰り出すオーラは、ぶつかり合いながらも融合するマインドの奇跡と言えるだろう。その奇跡に、ロックが好きな者は心を奪われるのだ。それは国籍を問わず、相手が何人(ナニジン)だろうと関係ない。これがまさに“ロック”を通じて一つになれると私が思った経緯だ。世界を一つにする前に、まず身近なアジア系民族で手を取り合って、新しい時代へ向かってみたい。

ロックミュージックは欧米から生まれ、戦後の日本に完全に根付いた。日本人は欧米人に憧れを抱き、ヘアスタイルを真似たり、楽器を手にしたり。そして最初のバンドブーム、GS(グループサウンズ)時代を迎える。あれから約40年の月日が流れ、技術レベルは世界に並び、多種多様なサウンドクリエイトを可能にした。さらに日本特有の漫画やアニメ等の文化がロックと結び付いた。

日本のロック好きは、欧米アーティスト、いわゆる外タレへの憧れが強い。それはこの数年流行っているトリビュートバンドの数を見ても明らかだろう。しかし、近隣の国に目を向けてみると、実は同じようなロック好きがいる。絶対数でいえば日本と比べるのは厳しいが、ロックへの熱い想いという面では、けして劣ってはいない。彼らと話してみると、ロックを語る時の目は、“ロックの目”をしている。

言わずもがな、国家視点では、アジアが一つになることは難しい。解決しなければならない問題や人種的な価値観が邪魔をして、これからも国際政治的なトラブルは起きるだろう。しかしロック好きという限られた視点では、同じ“ロックの目”をした者同士、手を握ることも可能ではないだろうか。私はその可能性を信じているし、そのためにBEEASTができることは実施したいと考えている。

黒人音楽をルーツに持つロックミュージックは、欧米アーティストによってロックシーンを形成するに至った。それならば、それを受けたアジア系民族で独自のロックシーンが形成される可能性も、否定はできないだろう。そんなことをアピールする特集を組みたいと思っていた時、台湾のロックイベントへ定期的に出演しているバンド、START OF THE DAYと知り合った。彼らが何を考えて行動しているのか、台湾の三日間のLIVEの様子を踏まえて、ご紹介したいと思う。
 
 

 

 


April 5. 2012@THE WALL LIVE HOUSE
FROZEN LAKE / START OF THE DAY

 
 

   

START OF THE DAY インタビュー

Atsuko(Vocal)、Yuya(Guitar)、tatsuya(Guitar)、Hiruma(Drums)

— 海外で演奏するようになったキッカケを教えてください。

Atsuko:海外での活動はお勧めを頂いたことと、興味本位から始めました。海外のバンドで尊敬するバンドが多いのとそのバンド達と一緒にやってみたいと思ったからですね。一度海外でやるとやはり視野も広がりますし、それからどんどん他の国にも行ってみたいと思うようになりました。
tatsuya:いつかは大好きなバンドとも一緒にライブしたいですね。

— 複数の国で演奏されていますが、日本でのLIVEと違う点はありますか?

Atsuko:やはり文化や言葉の違いなどは色々ありますが、基本的には何も変わりませんね。良いライブをすれば良い反応が返ってくる。いたってシンプルな事だと思います。そして言葉の違いなどを飛び越えて共有できる音楽というツールはやはり素敵だなと思います。

— 今回のツアーは2バンドで主催されたとのことですが、経緯を教えてください。

Yuya:まず、kaninaは尊敬するバンドだし、良き友達だし、良きライバルでして、海外へ向けて発信しようとか、海外に対してすごく前向きというか、そういう同じ意思を感じます。そこで、一緒に行けたらいいねとか、いつも話していたんです。僕たちと、kaninaはパフォーマンススタイルが違うけど、お互い良い方向に向かってくれるんです。映像で物語を伝えてくれるバンドkanina、僕たちは希望の曲を届ける。それがタイトルに繋がるわけです。まず台湾へ行くと決めたのは、僕たちは台湾へ何度も行っていたし、是非kaninaを台湾の皆に聞いてほしかったからです!次は、kaninaが連れてってくれればいいなと思っています(笑)。日本のショートツアーも計画しているので楽しみです!

— START OF THE DAYは北欧系のテイストを持つバンドですが、アジア圏の方の反応はどうですか?

Yuya:アジア圏の中でも北欧系のバンドは沢山いますね。その中でも日本の良さっていうか自分たちの個性が出ていると思っています。日本よりアジア諸国のほうが反応良いですね(笑)。日本語ならば、日本でも直球で言葉や歌を伝えることができます。自分たちは英語で歌っていますので、伝わり方は違うと思っています。台湾は皆、けっこう英語ができるんですよ。そして、海外の人は皆フランクなので良いものは良いとちゃんと表現してくれます!嬉しいですね!日本人同士の方が、よっぽど難しい気がします。

— 現地の方とオフステージでの触れ合いの中、何か感じることはありますか?

Atsuko:やはり海外の方はフランクな方が多いですね。言葉の壁はありますが、それをも通り越せるコミュニケーションが出来ることにいつも感謝です。
Hiruma:リアルに生活のスタイルなど日本の文化では無いものを知り、また、それを話す事ができるのはとても嬉しいことですね。
tatsuya:自分が生きている生活範囲や文化などを考えると世界の大きさを感じますね。

— 英語圏への進出については、どう考えていますか?

Atsuko:とても前向きに考えています。これからも英語圏に限らず色んな国に行ってみたいですし、色々な国でライブしたいですね。
Yuya:来たねって感じです。僕たちの曲は英語なので、いよいよ勝負できると思っています。まずは、どの国でもコミュニケーションですので、現地でどんだけコミュニケーションできるかです。それだけだと思います。それから僕らで何ができるかとか、色々考えて作戦を立てます!英語圏の進出は、当たり前の事というか、流れですかね(笑)
tatsuya:これからも素晴らしい国をいっぱい見ていきたいですね。そして、ぼくらの音楽を世界の人々に聞いてもらいたいです。
Hiruma:バンドの成長や自分の成長を含めて、いろいろな音楽を肌で感じられることを思うとワクワクしてきます。

 
 

 

 


April 6. 2012@EMERGE LIVE HOUSE
I LOVE YOU / START OF THE DAY

 
 

 

今回のSTART OF THE DAYの台湾遠征に同行したバンド、kaninaのYukinoコメント
 
野外フェスを含む3公演、台北THE WALL、台中浮現、墾丁Spring Screamで行われた、START OF THE DAYと行く短編ツアー、「Story of Hope Tour」in 台湾。

kaninaとしては初めてのアジア。天候にはあまり恵まれなかったものの、すばらしいスタッフとオーディエンス、ゆかいな仲間達に囲まれ、心身ともにとても良い状態で演奏することができた。そして次につながる確かな手応えを感じることができた。

START OF THE DAYはいつもわたしたちに良い刺激を与えてくれる。急遽ベースレスのステージとなったが、それを全く感じさせない一体感とパワフルなパフォーマンスで、オーディエンスを熱い渦へと巻き込んだ。

わたしたちkaninaは昨年のUKツアーと同じセットリストで挑んだ。英詩なのでどこまで思いを伝えられるかわからなかったが、演奏を終えた後に駆け寄ってきてくれた人たちがいてくれたことで、なんらかの足あとをオーディエンスの心につけることができたのだろうと思う。中には日本語で話しかけてくれる人もいて、わたしたちを歓迎してくれていることがわかり、感謝の気持ちでいっぱいになった。教えてもらったつたない中国語でのMCも、うまく伝わっているといいなと思った。

特に印象に残ったのはやはり野外フェスのSpring Scream、わたしたちにとっては初めての野外フェスであったことが大きい。現地時間18:40分、あたりが暗くなってからの演奏だったので背後に流れる映像も鮮明に見せることができた。最初はまばらだったオーディエンスも楽曲の盛り上がりとともに集まりだし、最後は多くの人に見守られ演奏を終えることができた。風が強く吹いていたために多少トラブルはあったものの、心の底から楽しんでライブができた。

多くの新鮮な感覚を得ることができたし、台湾滞在時間の端から端まで気を抜くことができないくらいに、楽しいことが次々に起こって終始笑顔が絶えなかった。異国の地でもいつもと変わりなく音楽を奏でられたことに幸せを感じる。

次は新しいアルバムを持って、台湾の人たちに会いに行きたい。そして何度でも伝えるのだろう、「謝謝」と。

 
 

 


April 7. 2012@SPRING SCREAM 2012
THE LAST SONG / START OF THE DAY

 
 

 

 

今、もしアナタがバンドをやっていて、今以上の何かを望むのであれば、海外への展開を考えてほしい。同じような志のバンドが集まって、海外イベントを企画することも、不可能ではない。実際、海外遠征をしている日本バンドは、結構多いのだ。特別なことではなく、当たり前のスタイルとして、私は気軽に海外遠征ができる日が来ることを願っている。

テレビ番組などの影響で、80年代後半から90年代前半にもバンドブームが起きたが、当時は国内のツアーも身近な物ではなかった。金銭面以外でも、障害となる壁がいくつもあったのだ。時代が変わり、今はインディーズバンドがレコ発で全国ツアーをすることも気軽にできるようになった。その流れを考えると、今はまだ壁が少しある海外ツアーも、徐々に気軽に実施できるようになるはずだ。

昨今CDが売れず、音楽という物の価値を問われているが、従来と違う角度からの音楽マーケットは、まだまだ開拓できるのが実態だと私は思う。そしてそこにビジネスチャンスがあり、既存の枠を超えたビジネスモデルが登場する。ロックの未来を明るくするために、BEEASTにできることの一つは、そうしたビジネスモデルを複数仕掛け、企業を動かすことである。一つでも結果を残し、未来へ繋げることができるよう、これからも精進したいと考えている。

これから、夏フェスの季節となる。普段ライヴへ行かない人も、夏フェスだけは足を運ぶという現象がある。日本へ根付かないと言われてきたフェスが、近年、変わってきたことは確かだろう。ビジネス面でも大きな経済効果を生んでいる。日本は変わった。そしてこれからも変わるはずだ。どう変わっていくべきか?を考えた時、私はアジアを一つにしてみたい。

そして、夏でも冬でもかまわないので、アジア圏のロックアーティストだけのフェスを実施したい。さらに日本だけでなく、台湾・香港・中国本土・韓国、東南アジアのタイやフィリピン、マレーシアにシンガポールなど、それぞれの地域でフェスを開催したい。そんなオーガナイザーになる夢を持っている。いつの日かその夢が叶い、BEEAST編集部を去ることができれば、私の人生に思い残すことは何もない。

 


 
取材協力

◆START OF THE DAY
http://start-day.com/
 
◆kanina
http://web.kanina.jp/