夜のカラカウア通りは、大道芸人と観光客でいつもにぎわっています。観光ガイドに載っているような大型レストランやリゾートホテル、それから路地裏のバーにいたるまで、連日連夜バンドの生演奏で観光客をもてなしています。いつもの風景、もう何十年も変わらないハワイ州オアフ島のホノルル文化です。ダンと呼ばれるダニエル森田さんは、このホノルルでギターを弾き、生計を立てています。リハーサル前の準備運動に、アロハ姿でRitchie Blackmoreのフレーズを弾いているダンさんに、お話を聞いてみました。
ダン:OK、僕は日に2回寝ています(笑)ぐうたらでしょう。最後の演奏を終えてアパートに帰るのは午前3時。すぐに寝てしまいます。朝は小鳥が起こしにくるので7時前には起きていますね。朝食後はギターの練習やインターネットをしています。昼近くになったらマーケットへ行って買い物と昼食をとります。その後は午後3時まで昼寝をして、午後4時からは演奏に出かけます。その繰り返しです。
ダン:決まったことはしていません。年に何度か日本に帰るので普段はあまり休まないで働いています。
ダン:6年前くらいですね。日本を捨てて生活しているのが不思議です。それまでハワイには来たことすら無かった。元々旅行とか面倒くさくて嫌いでした。娘が小さい頃はそれでも信州とかよく行きましたけど。山派でした。海はあまり縁が無かったです。
ダン:リストラです。リストラ(笑)前はあるゲーム制作会社でサウンドディレクターをしていました。名前にしたダニエルっていうのは最後にやってた仕事の開発名称です(笑)。毎日、今思うと凄い生活をしていたと思いますが。それでも人並みの生活をおくり、音楽の仕事ができていたので幸せでした。元々はギターの腕に自信があったのでギターの講師をしていたのですけど。ちょっとした人の紹介でサラリーマンになりました。フリーのギタリストはいつでもできるから(笑)子供が育つまでは安定した生活を選んでもいいなと考えたのです。
ダン:簡単にいえばそうですね。僕はもうすぐ52歳になりますが、今の生活に満足しています。ハワイは物価が高いから贅沢な生活は無理ですが(笑)一人暮らしならどうにでもなります。
ダン:チップがないと生活は成り立ちません(笑)でも僕は特定の専属ではないから、ショーの数を増やせば収入も増えます。でも必要以上のお金はいらないです。
ダン:基本的にそうですね。支払いはエージェントからもらっています。元締めはどこにでもいますね。日本でいうインペグ屋(ミュージシャン斡旋業)はハワイにもあります。ホテルのショーが人気高いですね。お金はアパートや車の支払いで終わります。チップは食事をした残りを日本への旅費にしています(笑)たまったら日本に行く。娘や友人と会う。それで十分です。
ダン:ありません。リストラされた時、娘はもう結婚していたし。嫁さんは色々あって実家へ行きましたし(笑)気は楽でしたね。住んでいた家は人に貸して、嫁さんの収入になっています。何ていうかリストラの悲哀はそれほどなくて、これから何しようかと考えて半年くらい過ごしました。サラリーマン時代に買ったギターを売りながら暮らして(笑)
ダン:僕はもう年齢的に何となく無理だと思っていました。毎日弾いてはいたので腕は鈍ってないと思いますが。まぁ正直にいうと、ツテを使ってギター講師の仕事が無いか頼んだことはあります(笑)。でも採用されませんでした。これ以上遊んで暮らすのもよくないと腹を決めた時、カルチャースクールのウクレレ講座のビラ(チラシ)を見たのです。講師募集とは書いてなかったのですが、初心者教えるくらいはウクレレも弾けたので。文化スクールの窓口で講師をしたいと突然言いました(笑)
ダン:文化スクールだと毎日教えるわけじゃないし、生活にも困ってきたので他の仕事もしようと思いました。そして同じカルチャースクールでフラを教えていた先生から、話をもらったのです。現地で観光客向けのウクレレ教室を開くからって(笑)そこからまた少しあるのですが、今にいたります。
ダン:リッチー命ですね僕は。でも仕事でRitchie Blackmoreを弾くことは今まで一度もありません(笑)。観光地の、それも南の島ということでギンギンのロックはできません。でもSANTANAやQueen、JourneyやKISSなんかは時々やります。お客さんの反応もよいです。僕はJeff Beckも好きなのですが、一度リクエストがきて弾いたことありあますけど、盛り上がらなかったね(笑)
ダン:基本はハワイアンです。ダンサーのバックもやりますので、一通り演奏できなければ仕事にならない。それ以外にThe Beach BoysやThe VenturesそれからEaglesを演奏します。「ホテルカリフォルニア」は特に老若男女問わず人気あります。あとはThe Beatlesかな。それから日本の歌も人気があるんですよ。Southern All Starsとか。
ダン:特に無いですね。現地のミュージシャンもフレンドリーだし。気候のせいかとてものんびり。少し英語がわかれば生活には困らないし、ミュージシャン同士は言葉がなくても通じ合えます。あと僕は容姿に自信がないのですが、同じような人が多いから調和がとれていますね(笑)。
ダン:なぜかイケメンはいませんね(笑)やはり僕らみたいなこういうミュージシャンは、でしゃばり過ぎず目立ち過ぎず。そして演奏は上手に。それがコツなのかもしれません。こうした取材みたいなことを受けるのも、実は初めてです。
ダン:やはりお客さんがいるので。プロとしてはお客さんに喜んでもらうことです。有名な曲がほとんどだから皆さん聞いてくれますけど、反応を見ながら選曲を変えたりしています。
ダン:ありません。そもそも僕にはその才能が欠けているから(笑)学生時代は曲をいくつも書いていたけど、バンドメンバーの方がよい曲を書いていたから自信をなくして止めました。見た目もこの通り太っていますからアロハは似合うけど(笑)ロックスターには向いてないと早くに悟り、技術力だけで勝負できるスタジオミュージシャンになろうと思っていました。いくつかレコーディングもしたことはあるのですが、結局教える講師に流れました。
ダン:お客さんが喜んでくれる曲を弾く、それが仕事です。自分の表現はその曲をできるだけ忠実に演奏して、お客さんの記憶にある元曲のイメージを壊さないこと。お客さんはコンサートに来ているわけではないから。もちろん完コピ(完全コピー)しているわけではなく、少し変えてますけど(笑)。お客さんには違和感がない範囲で元曲を崩さずにどこまでアレンジできるかを楽しんでいます。
ダン:ハワイアンライフですね(笑)ロックもプレイできるし満足しています。僕の世代だとまだロックに反体制なものやメッセージ色を感じていた世代なのです。でも僕は政治的なものは苦手でした。人と議論したりするのも好きじゃないし。だから今の生活が合っています。
ダン:僕はウクレレのビラで人生が変わりました。なんていうとかっこいいけど、リストラされなければ定年まで務めていたはずです(笑)。流れが変わったのは、自分で流れを変えたと思ってるのは、ウクレレのビラですね。それ以外は思い当たらない。
ダン:いつしか会社に依存したサラリーマンでしたから、想像すらしていませんでした。今の若い世代は会社に依存していないみたいですし、僕らの世代とはイメージが違うと思いますけど。でも僕もギター講師の頃は依存していなかったです。サラリーマンになってお手当てもらう生活に染まっちゃったけど(笑)同じように若い世代もこれから染まっちゃうかもしれない。
僕にはギターがあったけど、何も無い人はリストラで死んだようになるのはわかる。僕だってあのビラがなければ今頃どこで何をしていたかわかりません。
ダン:ビラですね(笑)ウクレレのビラ。僕は性格的に攻撃的じゃないです。でも自分で殻を破ったと思うから。それがロックですね。ロックのパワーはもちろん大好きなロックミュージックから得たもので、自分の中に知らずに溜まっていたパワーだと思います。
世界中から観光客が訪れる街で、内に秘めたロックスピリットに触れることができました。昔から論じられてきたロックは世界を変えられるか?という題目の答えはわかりませんが、ロックは個人の人生を変えられることは、確かにあると思います。
ダンさんから、レストラン・バー・酒屋などをローカル(地元民)プライスで楽しめる方法を教えてもらいました。ハワイ州は観光客でもドライバーズライセンス(運転免許証)が2日あれば取れるので、まずはそれを取得した方がいいよと。
さっそく数十ドルを握りしめ、アドバイスに従って諸手続き。初日に筆記テスト、翌日に実地テストをクリアし、無事2日間で合格。合格後、ドライバーズライセンスは即時発行されました。
さっそくその足でワイキキのハードロックカフェへ。ID提示は通常パスポートですが、ドライバーズライセンスを提示すると・・・いきなり20%のプライスダウン!
ダン:ロック好きな人はお酒も好きでしょ?ドライバーズライセンスをすぐ取った方がいいね(笑)