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TEXT:西川敦子 PHOTO:万年平男
若かりし頃、自らがプレイヤーになるべく「バンド組もうぜ!」となった音楽好きも多いのでは? でも、今回の舞台で楽器を手にしたのは…。なんとAround30・40・50の主婦4人! 4人の主婦に扮しているのはエド・はるみ、杏子、中澤裕子、秋野暢子。そう、ハウス食品の「カレー鍋つゆ」のCMでおなじみですね。この4人がそれぞれ、高校受験に失敗して浪人となった息子・真人(伊阪達也)との間に壁を感じる美恵子、自由奔放なバツ2女性・かおり、夫が転勤族で周囲に友人がいない寂しさから万引き事件を起こしてしまう雪見、自称・元スタジオミュージシャンの新子を演じています。
ことの発端は、コンビニエンスストア・FOUR RIVERSでパート勤めを始めた美恵子が万引きをした雪見をつかまえたことから。警察には知らせず、連絡先である携帯電話番号だけを受け取った美恵子と、その番号はホンモノなのかと疑う美恵子の幼なじみ・かおり。かおりが勢い余ってかけた電話をきっかけに、ノリで一緒にカラオケを楽しんだ美恵子と雪見は、その余韻のままに「バンドやらない?」と…。 メンバー募集のポスターを見た新子を加えて、スタートした主婦4人のバンド。しかし、本格的に楽器を演奏した経験があるのは、ベースの新子だけで。FOUR RIVERSの店長・勝田(酒井敏也)やアルバイト店員・石川(宮下雄也)の協力のもと、Deep ほんのちょっとだけ勇気を出してバンドを組んでみたのはいいけれど、もうちょっとの勇気がたりず、家族にバンド結成を言い出せない美恵子や担当するドラムがうまく演奏できずにまたしても万引き事件を起こしてしまう雪見など、問題は山積み。そんななか、訪れたのは人前で演奏するチャンス。4人それぞれが持つ悩みや問題は解決するのか!? そして、演奏は成功するのか!?
『輝け!主婦バンド FOUR RIVERS スモーク・オン・ザ・ウォーター2009』は、ストレートプレイ。といいつつも、最終的にFOUR RIVERSと名付けられた主婦バンドが完全演奏を目指す「Smoke on the water」がいろんなシーンで流れます。場面転換だったり、美恵子の家のステレオからだったり…。特に場面転換時の「Smoke on the water」には、さまざまなアレンジが加えられ、ジャズ風やボサノバ風に。また、あるシーンでは、オルゴール風の「Smoke on the water」が。いかにもドリーミーで、そのシーンが美恵子の想像上のものであることを曲がオーディエンスに伝えてくれたのでした。 場面転換に用いられたのは、「Smoke on the water」のみならず。キャストによるちょっとしたパフォーマンスも。「苦労した」とキャストが声を揃えて言うこのパフォーマンス。その苦労と努力のたまもの!? 息のあった動きは、ひとつの見どころです。 そして、舞台のテーマ曲になっているのが、ハウス食品「カレー鍋つゆ」のCMでも歌詞を変えて使われているおなじみの曲「信じることから」。このタイトルからも、『輝け!主婦バンド〜』で伝えたかったことがよくわかります。
「失敗して何が悪い。失敗したって、何度でもチャレンジすればいい」。舞台の最後、バリバリのロッカー姿でコンサートのステージに立つ美恵子の言葉です。ストーリー上では、高校受験に失敗した息子へ、リストラされてしまった夫(モト冬樹)へ、そして美恵子自身や一緒にバンドを組む仲間への言葉だったのかもしれません。でも、きっとすべての人に前向きになる力をくれる言葉。 この言葉をはじめとして、『輝け!主婦バンド〜』には素敵なセリフが散りばめられています。そのなかから、「BEEAST」読者をはじめとする音楽ファン・ロックファンには、こんなセリフをお届けしましょう。「言葉だけじゃ響かないこともある。だから、音楽が必要なんだ」「ロックはテクニックじゃなくて、ハートだ」。 「失敗したって、何度でもチャレンジすればいい」「ロックはテクニックじゃなくて、ハートだ」を知らしめてくれ、さらにこの舞台の最大の見どころとなっているのが、FOUR RIVERSが「Smoke on the water」を演奏する最後のシーンです。ギターに美恵子、キーボードにかおり、ドラムに雪見、ベースに新子。まったくの楽器初心者だったエド・はるみは3か月前から練習を始めたのだとか。そして、4人が一緒になってバンド練習を始めたのが1か月前。もちろん、プロ並みの演奏というわけにはいきません。でも、上手い下手よりも、確実に伝わるものがある演奏。4人の演奏には、感動すら覚えます。 爽やかな感動と力を受け取ったあとは、全キャストが登場しての「Highway Star」! 演奏は杏子(Keyboard)、モト冬樹(Guitar)、宮下雄也(Guitar)、FOUR RIVERSのアルバイター・石川のバンド仲間として男子高校生を演じた杉原正太(Drums)、同じく女子高校生役の中村友紀(Bass)。メイン・ボーカルをとった杏子のパワフルな声と圧倒的な声量が劇場中を震わせていました。 「BEEAST」が考えるロックとは「聴く人や観る人の魂を揺さぶる音楽」。だとするならば、音楽と舞台というジャンルの違いはあるものの、『輝け!主婦バンド〜』は間違いなくロックな舞台。失敗したっていいじゃん! 勇気はちょっとでいい。どんな一歩でもいいから踏み出せば、きっとHAPPY! 観終わったあと、そう素直に思える舞台だから。
【会見レポート】
初日公演を前に行われた囲み会見。エド・はるみ、杏子、中澤裕子、秋野暢子の4人が、稽古場の雰囲気そのままという楽しいトークでこの舞台の見どころを紹介してくれました。 杏子「とにかくドキドキわくわくですけど、バンドでひとつになれてる感があるので、かなり強気でいこうと。4人で攻めていきたいと思います」 秋野「すごくいいカンパニーなんですよ。スタッフも動きがいいですし、女優陣も美しいですし(笑)。また演奏が素晴らしくて。びっくりしますよ、みなさん」 中澤「稽古中から笑いの絶えない現場だったので、その雰囲気が舞台上でも出るんじゃないかと思うんですけど。最大の見せ場はラストなので、そこを観ていただかないことには私たちの努力がまったく伝わらないで終わっちゃうんじゃないかと」 杏子「私はミュージシャンとして、正直な話、ホントにみなさん初めてだし、どうなるんだろうと思ってましたけど、ホッントにカッコいいです。ミラクルですよ。昨日のリハーサルでは私が構成を間違えたんですけど、裕子が軽くドラムをたたきながら“まだ、まだ”って、ちゃんと指示を出してくれたりして。それぞれソロもあるんですよ。普通、やりますか(笑)? それがかなりいけてますね。あと、場面転換。これ、ストレートのお芝居のはずなんですけど、場面転換にダンスのような、ショーのような…。それもかなり見どころで、そこにみんなで命かけてます」 秋野「ホントにねぇ。ストレートのお芝居(のオファーを)受けたんです、私。なのに、歌ある、踊りある、演奏ある…。いったいどういうことなの!? みたいな」 エド「ホントに次々と…。これができたと思ったら、次の課題、次の課題ってどんどん用意されてて、もうたまげたんですよ」 秋野「日夜こんなにものを覚えた芝居はないですよ。50歳過ぎると大変なんだから、いろいろ(笑)。だんだん今、忘れていく状態になってるのに、新しいことをやらなきゃいけないんで、それはそれは苦労してます。でも、苦労の成果が出てるんですよ。ね?」 中澤「はい! 出てます」 秋野「裕子ちゃんなんてすごいですよ。モト(冬樹)さんに“おまえのドラムはプロだ”って言われて」 中澤「披露する前にそんな(笑)。緊張するじゃないですか。でも、ほめてもらえてうれしいですね。で、“じゃあ職を変えます”って言ったら、それだけでは無理だって言われたんですけど(笑)」 秋野「(演奏できるのが)1曲じゃね(笑)」 エド「私は、(右手の人差し指に)タコができました(笑)」 秋野「普通はそうならないのよ(笑)?」 エド「いやいや。毎回切って、血流して。(ギターの)弦も血に染まってて、ロッカーだ! って思ったんですけど(笑)」 秋野「ロッカーはそんなことにならないから(笑)」 エド「でも、それももう固くなり、いくら弾いても血も出やしないぐらいにたくましくなりまして。人間てすごいなぁ、と。鍛えられて強くなるんだとここ(右手人差し指)から人生学びましたからね」 杏子「あと、二幕のオープニングに…」 中澤「アレですよね?」 杏子「そう。二幕のオーブニングに例のアレがあるんです」 秋野「アレね。この舞台はハウス(食品)さんが特別協賛してくだってて。カレー鍋を食べるシーンがあるんですよ。ただ食べるだけじゃなくて、そこに行くまでにまぁいろんなことを。それが二幕のオープニングなんです。そこが大変で」 杏子「もう私、お稽古さぼろうと思いましたもん」 エド「そこまで!?」 杏子「でも、それができた瞬間の達成感はもう…。いいチームプレイでね。できるわけないじゃんと思いながらやってましたけど」 エド「そうなんですよね。最初はできるわけないと思ってたことができるようになるんです。その感動がね、すごいんですよ」 杏子「やりますよ、私たち」 エド「やればできるんですね」 秋野「二幕の頭は絶対観てください」 エド「いえ。最後までちゃんと全部観てください(笑)」 秋野「ここまで言っておいてできなかったらどうするの(笑)?」 杏子「大丈夫、大丈夫」 秋野「最後のシーンでは、(エド・はるみさんも)ロッカーになって出てくるんですよね」 エド「コインを入れて鍵を閉めて…」 秋野「違うでしょ」 中澤「このかけあい、稽古場みたい(笑)」 エド「あんまり小さいとカートが入んない」 秋野「いつまでやってるのよ(笑)」 エド「こういう楽しい現場なんです。この楽しさやパワーがお客さんに伝われば本望です。あと、何歳からでも勇気と行動力さえ持てば、どんどん学んでいけるんですよね。今回の舞台で改めてそれを実感しました」 秋野「今、人生つまんないなとか思ってる方たちがもしいたとしたら、なんか始めてみるとちょっと楽しいことになりますよ、人生変わりますよって…。こんなおばちゃんたちがバンドやってみたら、いろんなことが変わったっていうのを観て、感じ取っていただいて、ご自身の生活のスパイスにしていただければなと思います」 [公演情報]
『輝け!主婦バンド FOUR RIVERS スモーク・オン・ザ・ウォーター2009』 キャスト:エド・はるみ、杏子、中澤裕子、秋野暢子、宮下雄也、伊阪達也、杉原正太、中村友紀、酒井敏也、モト冬樹 原作:五十嵐貴久『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉社) スタッフ:鈴木哲也(脚本)、菅野こうめい(演出) ほか 公演日程: 名古屋公演:2009年11月26日(木) @中日劇場 富山公演:2009年11月28日(土) @オーパード・ホール 大阪公演:2009年12月1日(火)@ウェルシティ大阪 大阪厚生年金会館・芸術ホール チケット発売場所:チケットぴあ、ローソンチケット、CNプレイガイド(東京、大阪のみ)、e+(東京、名古屋、大阪のみ)、アーツナビ(富山のみ)、アスネットカウンター(富山のみ)、イッセイプランニング(富山のみ) 問い合わせ: 中日劇場(名古屋) イッセイプランニング(富山) キョードーチケットセンター(大阪) オフィシャルサイト:http://www.duncan.co.jp/web/stage/fr/ |