放送以来、ストリートロックにフォーカスした番組としては異例の長寿を誇るラジオ日本の「ROCK RUSH RADIO」。10周年を迎え、これを記念した企画として「ROCK LEGEND」なるライブ企画が始動した。1970年代以降、日本のロックシーンに影響を与えた伝説的アーティストを番組とライブとで紹介するという多角的切り口を持ったもので、第1弾は10月5日(土)に、THE COOLSのボーカリストであったPITPI(ピッピ)こと水口晴幸率いるHAL with BAD EGGSのワンマンライブを開催。そして第2弾として、2014年に結成45周年を迎える頭脳警察のワンマンライブが渋谷CLUB CRAWLにて開催された。
頭脳警察ほど日本の音楽シーンの中でカテゴライズの難しいグループはない。その政治的なメッセージから「パンクの元祖」と呼ばれることもあれば、初期のPANTAとTOSHI(石塚俊明)によるアコースティックギターの弾き語りとパーカッションという編成から「フォークデュオ」と称されることもある。1972年に発表しながらも発売禁止となった『頭脳警察1』がCD化され正式に発売されたのは約30年の年月が経過した2001年だったが、それを耳にしたリスナーはパンクロックよりもメッセージ色の強いフォークソングであったことに改めて驚かされた。
それまでに発表されていた頭脳警察名義のアルバムも『銃をとれ!』『ふざけるんじゃねえよ』など過激な楽曲に血を沸かせながらもPANTAの描く抒情的な詩や美しいメロディに震撼させられることは多かったと思われる。4、5枚目のアルバムに当たる『誕生』『仮面劇のヒーローを告訴しろ』になるとパーカッションのTOSHIも一時的に脱退状態になっており、実質的にはPANTAのソロアルバムでもある。さらに1990年に「たった1年」の再結成を果たした頭脳警察は、ファンの抱く過激で政治的な頭脳警察のイメージを比較的実直に再現したサウンドを提供した。さらに2001年に再々結成を果たすと、ここでもまた紛れもないロックバンドとしての頭脳警察の姿を見せてくれた。
それから干支が一回りして2013年。年末には新作のリリースも決定しているという彼ら、一体どのようなライブを披露してくれるのか。
◆メンバー:
PANTA(Vocal & Guitar)、TOSHI(Percussion)、菊池琢巳(Guitar)、満園庄太郎(Bass)、和田ジョージ(Drums)、小滝満(Keyboards)
渋谷CRAWLのステージにはドラム、ベース、ギター、キーボードをバック・メンバーに従えフロントの上手にはコンガやポンゴなど打楽器類がセッティングされている。いささか頭脳警察がパフォーマンスを行うためにはタイトなスペースであるが、そんな環境などあまり気に留めないのが頭脳警察というバンドの特徴でもある。
観客の年齢層はかなり高い。ただお行儀のいい「オトナのロック」などとは雰囲気は違う。開場すると、観客たちはいっせいに、ステージ前へと殺到した。至近距離で頭脳警察を目撃し、そのサウンドを体に刻み込むために。さすがに暴れる客などはいなかったが、ベテランアーティストのコンサート会場にありがちな落ち着いたムードはない。会場の空気はひたすら熱いのだ。
独特のベースラインとギターリフで、一曲目は「銃をとれ!」であることはみんな知っている。そう。頭脳警察のライブといえば必ずこの曲から始めるのだ。ライブだけではない。1972年リリースのレコード『頭脳警察セカンド』もオープニングナンバーは「銃をとれ!」である。反体制主義を標榜する頭脳警察を象徴するナンバーではあるが、70年代の時代背景を考えてみて当時としては格段に過激な歌詞の曲である。
この日の頭脳警察はPANTA & TOSHIに加え、ギターにはPANTAのソロ名義のレコーディングに数多く参加している菊池琢巳。ベースは満園庄太郎、ドラムは和田ジョージ。そして目を引くのはキーボードに小滝満。過去に頭脳警察名義のライブで鍵盤奏者が加わることは非常に少なく、レアな編成となった。
PANTAもTOSHIも齢は還暦を超えた身。ミュージシャンとしては円熟期にある。どこか渋く味わいのある「銃をとれ!」になってしまうのではないだろうか?などと想像していたが、PANTAとTOSHIが椅子に座った(これが半立ち状態という奇妙な座り方なのだが)状態でプレイすることを除くと、この日の「銃をとれ!」は思いっ切り熱く荒々しい演奏だった。
さらに初期頭脳警察の代表曲の中でも荒っぽさではピカイチの「ふざけるんじゃねえよ」へと一気に突っ走る。パンクロックの縦ノリとは一味違うグルーブ感があることは頭脳警察のサウンド面での特徴ではあるが、オープニングから一気にたたみ掛けるような2曲に圧倒された。還暦なんてどこ吹く風。PANTAとTOSHIは永遠に不良少年なのであろう。
その後も初期頭脳警察のナンバーを中心に6曲のパフォーマンスを披露。中には「仮面劇のヒーローを告訴しろ」など最近のライブではあまり取り上げられないナンバーを聴くこともできた。菊池琢巳、満園庄太郎、小滝満、和田ジョージによるアンサンブルは、パンクロックよりもDeep PurpleやUriah Heepのような70年代のブリティッシュハードロックを彷彿させる味付けが随所に見られた。もっともハードロックというジャンルは言葉の響きから受ける印象よりも実際は緻密なテクニックの結晶体と呼ぶべき音楽でもある。
バックを担当する4人の演奏はむしろ緻密で几帳面なものである。しかしPANTAのギター&ボーカルとTOSHIのパーカッションは反比例するように荒削りで、むしろまとまりの良いアンサンブルを崩しているようにさえ感じられる。さらにバックの4人も相乗効果によってより荒っぽいプレイを披露する。PANTAの作る楽曲にも荒っぽさと繊細さが奇妙に同居する。このメンバーによる頭脳警察はまさに、そんな演奏を見せつけたのだ。
15分ほどのインターバルを経てPANTAは、それまでのグレコのレスポールから黒いアコースティックギターに持ち替える。さらにTOSHIと2人きりのフォークデュオとしての頭脳警察の時間を取った。「暗闇の人生」「時々吠えることがある」に続き「スホーイの後に」がスタート。この曲はPANTAのソロライブでもよく演奏される曲で、幻想的な詩と感情を内面世界に向かわせる歌い方でリスナーをトリップさせるような楽曲でもある。その日の気分で曲の長さも変わってくるナンバーで、大抵は10分ぐらいの長めな曲になる。PANTA及び頭脳警察のライブでも異色のナンバーといってもいい。
フリーフォームなTOSHIのパーカッションの面目躍如といったところで、どこかトロンとした気分に浸っていると和田ジョージ以下のバックメンバー4人が徐々に登場。PANTA & TOSHIの2人だけが奏でる独特の世界が徐々にバンドのサウンドへと変貌してゆく。まさにこの日、会場に訪れた人だけが味わえた最高の時間だっただろう。
再び6人編成となった頭脳警察は次のアルバムのために用意された新曲「戦争は知らない」を演奏。MCによると次のアルバムは寺山修司をオマージュした作品となるそうで、この「戦争は知らない」は寺山修司作詞によるザ・フォーク・クルセイダースのナンバーである。頭脳警察というバンドは意外とセンチメンタルな香りも含んでおり、PANTA自身は「まさかこの曲を俺が歌うことになるとは思わなかった」とコメントしていたが、けっこう似合っている。ここからは頭脳警察名義のナンバーの中でも1990年以降の比較的新しめの曲が中心になっていった。
「飛翔」に入る前にPANTAはギタリストの菊池琢巳が脚を怪我していたことから「今日は飛翔というより負傷だな」と冗談を飛ばす。概ねMCは冗談交じりの砕けた雰囲気で進められ観客も受けていた。もともとPANTAという人はライブ中に突拍子もないダジャレを言うことがあり、ガチガチの社会派ロッカーというイメージを自身で覆す癖を持っているのだろう。原発問題を始め今の社会に対してメッセージを話すか?と思っていたが、ほとんど聞かれなかった。メッセージは作詞という作業の中で突き詰めるもの、というPANTA流の流儀、美学というものがあるのだろうと感じた。
「時代はサーカスの象に乗って」「俺たちに明日はない」をもってひとまず終了。もちろん、このまま終わるとは会場の誰もが思っていない。アンコールは「RED」でスタート。「RED」は、この日唯一のPANTAソロ作品からの選曲だ。一度は完全に封印した頭脳警察というプロジェクトを再開する気になったのは、この曲を表題にしたアルバム「RED」の時期からだったと言われている。
2度目のアンコールは「悪たれ小僧」「コミック雑誌なんか要らない」と、70年代の頭脳警察の代表曲に戻った。「コミック雑誌なんか要らない」は同名タイトルの映画があり、内田裕也がステージナンバーにしていることでも知られている。むしろ社会的なメッセージや左翼的な過激性から離れてシンプルに格好いいロックンロールをやろうという頭脳警察の基本姿勢が感じられた。
3度目のアンコールは「オリオン頌歌」。1990年の頭脳警察のアルバム『歓喜の歌』のエンディングナンバーとなっているドラマチックな楽曲だ。壮大な印象の再現は、この6人編成の頭脳警察ならでは。この編成にこだわったPANTAの意思が伝わってくるように思われた。そんな壮大な「オリオン頌歌」で、この日のライブを締めくくった。
頭脳警察の現在進行形を垣間見せたライブであった。決して回顧的なライブでもなく、一夜限りの再結成でもない。PANTA自身は還暦になっても、これで引退しようとか隠居しようなどとは一切考えていないだろう。実際に次のニューアルバムは着々と準備されており『暗転』というタイトルも決定している。
やはり頭脳警察というバンドは日本のロックシーンだけではなく、世界レベルで見てもかなり特殊なバンドだと感じた。いわゆるベテランらしい余裕のある演奏や渋さや狡猾さとは無縁なところにいる。PANTAにしてもTOSHIにしても、未だに荒っぽく、良い意味で未完成なプレイを見せた。MCではいささか年寄りめいた発言も出るが、曲が始まるとそこらの若者のバンドよりも熱く全力のロックを演り始める。それは彼らが20歳そこそこで暴れまくっていた70年代の頭脳警察から何も変わっていないことなのかもしれない。
M01. 銃をとれ!
M02. ふざけるんじゃねえよ
M03. 夜明けまで離さない
M04. 仮面劇のヒーローを告訴しろ
M05. 間際に放て
M06. 戦慄のプレリュード
M07. 暗闇の人生
M08. 時々吠えることがある
M09. スホーイの後に
M10. 戦争は知らない
M11. People
M12. 白い森
M13. 七月のムスターファ
M14. 飛翔
M15. 時代はサーカスの象に乗って
M16. 俺たちに明日はない
-1st encore-
M17. RED
M18. アラブレッド
-2nd encore-
M19. 悪たれ小僧
M20. コミック雑誌なんか要らない
-3rd encore-
M21. オリオン頌歌
http://brain-police.net/
◆インフォメーション
頭脳警察 NEW CD ALBUM「暗転」発売記念~
「第7回 寺山修司音楽祭」
・2013年12月11日(水)【初台】The DOORS
出演:頭脳警察、JOJO広重(from非常階段)+ファーストサマーウイカ(BiS)
解説:高取英
PANTA PRESENTS “第13回 UNTI X’mas”
「頭脳警察スペシャルナイト」
・2013年12月24日(火)【原宿】CROCODILE
出演:頭脳警察 ※ゲストあり
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