2010年の再始動で息を吹き返し、来年で結成40周年を迎えるロック・バンド外道は、日本のロックを語る上では、もはや避けて通れない存在だ。今も精力的な活動を続ける彼ら。結成当初から活動停止と再開を繰り返しながらも自らの歴史を作り上げ、今なおロックの、第一線の現場で活躍しているその理由とは、果たしてどのようなものだろうか?今回はこの5月にリリースされた彼らのアルバム「いつもの所でブルースを」の、レコ発ツアー最終日のステージにより、その真意を探っていこう。
◆メンバーリスト:
加納秀人 (以下、加納: Guitar& Vocal)、松本慎二 (以下、松本: Bass& Vocal)、
そうる透(Drums& Vocal)
1.第一部
会場を埋めたのは、どちらかといえば年齢層の高いサラリーマンやOL風の観衆達だった。外道のライブが楽しみで楽しみで仕方ない、そんなファン達で、開演前に会場は賑わっていた。そして、いよいよ訪れたオープニング。SEと共に3人が現れると、フロアからは大きな歓声と拍手が上がった。ステージには、そうる透、松本、そして加納の順に登場。加納は白い長髪のかつらと着物風のコスチューム、外道と言えばこのスタイルと言わんばかりのスタイルで、ステージのスタートを切った。ドラムの音とともにアクティヴに音か会場に蔓延していく。何か音に身をゆだねているような様子の加納と、音を出せることに、目一杯喜んでいるような笑顔を見せる松本、そして後ろで冷静な表情を見せながら、圧倒的なグルーヴをつかさどるそうる透。
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オープニング・ナンバーは、ただひたすらサビのメロディで叫ばれる言葉が印象的な「I CAN SHOUT」。激しい音を出しアクションを繰り出す松本と加納は、ときに対話するかのように顔を合わせ、互いの音に反応する。切れ味鋭く聴こえる加納のギターは、一方では太く、ときに甘く響き、さらにあるときには力強さを見せる。カッコよさを作り出す加納に絡んでいくようにビート感を出していく松本とそうる透。強力にバックアップするベースとドラムの、グルーヴの厚さも絶妙だ。見事にフィニッシュを決めると、会場から一声、「秀ちゃん、カッコいい!」
3曲目の「日本の歴史」を終えると、松本が声を上げる。ライブ・アルバムのレコ発ツアー最終日となったこの日のステージに対する感謝の念を語りながら、ステージを盛り上げる為のあおりを入れる。「最後まで、外道大明神の、御神体を頂くように!」そして続いたのは、外道のデビュー・シングルとなった代表曲「日本讃歌」。引き続きフロントマンに徹する加納に対して、「やろうぜ!Yeah!」とばかりにアクティヴな表情を見せる松本。そんな間に身を置き、ビートと音に強い存在感を見せるそうる透。曲の最後につぶやくように流れたフレーズ「みんなバカ…」という一言で、哀愁を感じさせながらフィニッシュを決めた瞬間、外道が40年という長いロックの歴史を駆け抜けた意味の一端が感じられた。何かに反抗したような意、何かに絶望し、憂いを見せたような意、そして、カッコよさを見せる意。わずかな言葉の中に、求められる様々な意を込める。
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曲の中に込められた言葉は少なくても、その言葉の効力を最大限に発する為に、ただ楽器をプレイするだけでは聴こえてこない、生々しい音を上げる。代表ナンバー「逃げるな」でも同様に、「逃げるんじゃねえ」というフレーズに、強いメッセージ、思いを感じさせた。歪んだギターの音は、近年のメタルサウンドのような潰れた音とはまた違う、生臭いダーティーな音。人の気持ちをかきむしるような荒々しさを持ちながらも、人々の感情に存在するような、リアルさを感じさせた。
いよいよステージはクライマックスへ。「ダンスダンス」で、どちらかといえばミドルテンポで続いたビート感を一新した。疾走間のあるファンキーな加納のカッティングが響く。これまでが“静”なら、ここで“動”に転じた。加納が途中のブレイクで叫ぶ「たとえレコ発でも言いたいことは一杯ある!頭にくることは一杯ある!」社会に投げかけた力強い反抗のメッセージを上げて、フロアとの掛け合いを巻き起こし、その衝動を昇華する。続いてドラムソロへ。力任せに叩かず、何かストーリー性すら感じるそうる透のドラムソロ。激しく打ち鳴らされるシンバルは、ソロをクライマックスに向かわせ、フロアからの拍手喝さいを呼び起こす。
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そして、その激励に応えるように、加納が「悪魔のBaby」を熱唱、その歌に応えまたもグルーヴィーなビートが飛び出す。ロックンロールらしい8ビートが続く中、コードは、ロック・ブルースそのままの進行へ。そして、「Johnny B.Goode」を髣髴させる加納のギターによるイントロから、ライストナンバー「ロツクンロールバ力」へ。“大人”な子供のロックが、強力にフロアをまくし立てる。そして最後は「one more!」「two more!」「three more!」と、松本がキメを目一杯に盛り上げるエンディング。その声に触発され、フロアから「one more!」のおかわりが飛び、ユーモアと迫力十分なロックのエンディングを迎えた。
2.第二部
「じゃあ、第二部いきます。」淡々とステージに現れた3人の中、松本がつぶやくと、いよいよ第二部のステージがスタートした。そっけない松本のオープン・コールとは裏腹に、第一部からガラッと音を変え、ヘヴィに鳴り響くギターの音が会場を包む。重々しいサウンド、ハード・ロックな音へ変化した。バックアップのキーボード・プレイヤーとして竹中敬一が入り、さらに音の厚みを増した増す。スリップ・ビート気味の出だしからスローなギターソロへ。チョーキングをする加納の表情がロックなテイストを倍増させていった。
「なんてったって、私達もお歳でございますので(笑)」松本が最初のMCを語る。来年40周年という歴史を重ねた外道は、その経歴に似合わない、とげとげしくみずみずしい荒さをサウンドに表現する。彼らに掛かればバラードナンバーでも骨太に聴かせ、良い意味で繊細さを感じさせない。楽器の音も声も、そしてハーモニーやグルーヴも、とことん骨太な雰囲気が、フロアに降り注ぐサウンドを支配していた。
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続いて今回のリリース・アルバムのタイトル曲であり、さらにメロウなバラード「いつもの所でブルースを」へ。「今時、1曲目にブルースなんて“外道”な感じじゃないですか、本当に!?」MCでフロアを和ませた松本の言葉に裏打ちされているような、見事に完成された甘く切ないトーンが、フロアに拍手喝さいを呼び起こす。加納はフロアに降りて、この日来場した客に対して挨拶、ソロを弾きながらフロア中を動き回る。ギターを弾いている加納と共に写メに写ったりする客に目一杯のファンサービスをして回る加納。そんな様とは対照的に、ブルースが本来持つ憂いの雰囲気や歌心を、サウンドで存分に発揮していく。そして最初は小さく甘いトーンだったギターが、加納が弾きだしたチョーキングの一声より、激しさを増す。その流れを巧みにコントロールするセンスには、フロアの観衆もさらに大喜びし拍手と大歓声を彼らに浴びせた。
いよいよこの日のショウもクライマックスへ。ずっしりとしたビートナンバー「水金地火木土天回明」でその狼煙を上げた。サビで叫ばれた「水金地火木土天回明!」という意味不明の言葉が会場に響く。何でもいい、激しさがほしい、詞の意味なんていらない、そんな空気が会場全体にそのノリを伝播させ、エネルギーを発散していく。さらに冗談を飛ばしながら、これからのことを語った松本のMCより、終焉にさらに近づく。激しいロックナンバー「コウモリ男」。ステージせましと踊りまくる加納と松本。フロアの観衆も、席に座ってじっとしていたのが、徐々に体が揺れ始める。動きのあるナンバー「何?」に移り、さらにエキサイティングにさせる。
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中間のブレイクで、フロアに「手を上げて!手を握りましょう!」そこからさらにコールを要求する加納。「外道!」「外道!」彼の叫びにあらがうこともできず、そのパフォーマンスに合わせて腕を振る観衆。いよいよ大詰め。外道の初期ナンバーでも有名な「ビュン ビュン」で疾走感、ドライブ感を存分に出し、クライマックスへ向けて会場の雰囲気を目一杯盛り上げていく。その姿は、“渋い”なんて表現では足りない程の貫禄すら見られる。そしてラストの「香り」へ。もう観衆はおとなしく聴いていられず、リズムに体をゆだねて激しく体を揺らす。中には立ちっぱなしで踊り狂う客もいたほどだ。最後の一声で一斉に上がる腕と歓声で、盛大にステージの幕を下ろした。
そしてアンコール。鳴り響く「外道!」コールに応じ再登場した3人。加納をリスペクトする賛辞「秀ちゃん最高!!」が飛び交う。そして外道の3人に加え、ゲストとして第二部の頭に登場したキーボーディストの竹中敬一と、ヴォーカリストのSaltieを迎え、「JOINT MAN」をプレイ。フロアを左右二つに分け掛け合い合戦で大いに盛り上がった後は、この日のラストナンバーとなる「やさしい裏切りの果てに」に移った。ミディアム・テンポの中で歌心タップリのギターを聴かせた加納。全く同じようなフレーズを何度もたどっているうちに、ないはずの詞すら聴こえてくるような錯覚を覚える。勢いだけで押しまくらない、彼らの歌をしっかりと決め、この日のフィニッシュを決めた。
第一部:
M01.I CAN SHOUT
M02.そんな
M03.日本の歴史
M04.日本讃歌
M05.コジキのパーティー
M06.逃げるな
M07.ダンスダンス~外道コール~Drソロ
M08.悪魔のBaby
M09.愛の寝台車
M10.ロツクンロールバ力
第二部
M11.黒い影
M12.イエローモンキー
M13.スマイルフオーミーレデイー
M14.天国への道
M15.いつもの所でブルースを
M16.水金地火木土天回明
M17.コウモリ男
M18.何?
M19.ビュン ビュン
M20.香り
[Encore]
M20.JOINT MAN
M21.やさしい裏切りの果てに~SE[やさしい裏切りの果てに]
近年、ロックはやたらと奇抜な趣向を狙い、サウンドに刺激の強さだけを追求してしまうような傾向も多く見られるが、この日外道が見せてくれたステージでは、どちらかというと堅実で骨太なロックサウンドを、彼らのペースでつむぎ出していくようなイメージが見られた。もちろん彼らがデビューした当時は、彼らの生み出すサウンドも非常に刺激の強いサウンドだったに違いないが、長い活動を続けた歴史の中で、彼ら自身のサウンドは定着し、スタンダード的なサウンドと化した。だが、彼らの音や歌から得られるものは、直接感じられる音の大きさやエッジ感という部分的な刺激、といった断片的なものではなく、外道というかたまり自体が作り上げる、もっと意味の深いものだ。
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そこからリスナーは様々なイメージやインスピレーションを感じ、より音楽を聴く強い意味を与えられる。それこそは、長い経験により裏打ちされた感性により作り出された産物といえるだろう。そんな奥深きロックのスタイルは、新たなロックの姿を追い求めるロッカー達にとっても決して避けては通れない。ステージでは未だエネルギーに満ちあふれたプレイを続けている外道、彼らからその真骨頂を学ぶには、まだ彼らの生のプレイが聴けるタイミングのある今こそがチャンス、是非若きロッカー達もこの空気に触れ、ロックの深い世界に目を向けてみてもらいたい。
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