特集

TEXT:鈴木亮介 PHOTO:ヨコマキミヨ

 
新たな時代の風雲児となるべく奮闘を続けているロック男子の姿を追う特集「ROCK SAMURAI STORY」。今年・2014年にデビュー25周年を迎える人間椅子について、メンバー3名のパーソナルインタビューを通じてその魅力をさらに掘り下げていきたい。
 
Part3に登場するのは、ギター&ボーカルの和嶋慎治だ。同級生・鈴木研一とともに人間椅子を結成し、多くの楽曲制作を担当。メディアに単独で出演し楽曲のコンセプトなどを語る機会も多く、いわば人間椅子のブレーンとも言うべき存在だ。
 
ナカジマノブによれば(参照:ROCK SAMURAI STORY 人間椅子(Part1))「保守的なように見えて実はガンガン行くタイプ」という和嶋慎治山本征史金光健司のリズム隊と組んだブルースバンド・和嶋工務店(参照:親切丁寧サプライズ ~高円寺突貫工事~)を筆頭に、水戸華之介らと結成したカバーバンド・華吹雪大槻ケンヂとのアコースティックユニット・白髪鬼(参照:白髪鬼(大槻ケンヂ&和嶋慎治) 初ライブ)など、同世代のミュージシャンと多数共演するほか、近年はももいろクローバーZへの楽曲提供やライブ共演などその活動の幅を広げている。
 
静の鈴木研一、動の和嶋慎治といったバランスの中で人間椅子という一本道を切り拓き続ける和嶋慎治。今回はその楽曲、とりわけ歌詞の世界観にスポットを当てながら、和嶋慎治のバンド観、音楽観、文学観、さらには人生観までを深く掘り下げるべく、単独インタビューを実施。
 
その中で、2014年6月25日(水)リリースのニューアルバム『無頼豊饒』の収録曲にまつわるエピソードについても、ひと足早く伺うことができた。
 

◆人間椅子 プロフィール
 
mandoroもともと高校の同級生であったギターの和嶋慎治と、ベースの鈴木研一により1987年頃結成。
 
コンセプトは、当時よくコピーしていたBLACK SABBATHなどの70年代ブリティッシュ・ハード・ロックの サウンドに、あえて日本語の歌詞を載せるというもの。バンド名は、江戸川乱歩の小説からとった。ドラマーは流動的であったが、鈴木の大学の先輩の友人であった上館徳芳(北海道出身)で固まる。 メンバー2人の出身地である津軽地方の方言を取り入れたり、津軽三味線の奏法を導入したりと、既にこの頃基本的サウンドも出来上がる。
 
1989年、TBSテレビ系列の「平成名物TVイカすバンド天国」に出演。演奏もさることながら、鈴木のネズミ男に扮した奇抜な衣装が評判を呼ぶ。翌・1990年7月、メルダックより『人間失格』でメジャー・デビューを果たす。
 
2004年6月、ドミンゴス等で活躍中のナカジマノブが、新ドラマーとして加わる。2009年、デビュー20周年にあたるこの年、『人間椅子傑作選~20周年記念ベスト盤』をリリース。2010年、満を持して初のライブアルバム『疾風怒濤~人間椅子ライブ!ライブ!!』(DVD付)を発表。
 
2013年5月12日、世界的ロックイベントである「Ozzfest JAPAN 2013」に出演。渾身のパフォーマンスを繰り広げ、大好評を博す。2014年6月25日、バンド生活25年を記念し、オリジナルアルバムとしては18枚目にあたる『無頼豊饒』を発表。 現在までにベスト盤も含めて22枚をリリース。

 
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作曲の原点は「エレキからアコギへの移行」
—レコーディングお疲れさまでした。このインタビューを行う3日前に全曲マスタリングが終わったばかりということで、今回もかなりギリギリのスケジュールだったようですね。

 
和嶋:大体僕らはそうなっちゃうんですけども…
 

—締め切りのギリギリまで悩んでいいものを探究するというのは作家の性(さが)ですよね。

 
和嶋:毎回毎回ちゃんとしたアルバムを作ろうと思っているので、「前回よりできるだけいいものを!」と思うと妥協できず、やってもやっても時間が足りなくて。怠けてたわけじゃないですよ(笑)
 

—その中で、「歌詞」というのは制作過程でも割と終盤の方、追い込まれている時期にひねり出されることが多いのかなと思います。

 
和嶋:そう。僕らは1stアルバムの時こそすでにできていた曲を録音するという形でしたが、2ndからは常に新曲を作っていたので…どうも僕らの音楽スタイルは詞先(しせん:先に作った歌詞に後からメロディを載せる作曲法)じゃなくて曲先なわけですよ。コードというよりリフレインで曲を作って、そのリフを発展させた先にメロディがあって、その次にメロディに合った歌詞を書いて、という感じで作っているので、やはり歌詞は一番最後になるんですよね。曲のテーマがあったとしても歌詞は最後に作るので、ちょっと遅れがちになる…ということが25年続いてます(笑)
 

—これまでの人間椅子の歴史で、詞先で作った曲はなかったですか?

 
和嶋:ないんじゃないかな。ただ、初期のころはどういう歌詞がいいかまったくわからないままにまず曲だけ作って、そこに合わせて詞を乗せていく…ということはありましたが、ここ何年かは最初にある程度「こういうテーマの詞を乗せたい」というストックがあって、それを乗せるという形にしています。つまり、ある程度その曲に合った”何となくの詞”は最初からあるんです。それはここ数年、言いたいことがある程度ないと曲としての説得力が足りないから詞も重要だなと改めて思って、それで前もって書くようにしています。
 

—初期の頃は、どのようにして歌詞のインスピレーションを得ていましたか?

 
和嶋:話せば長くなるけど、原点をいうなら、まず最初にロックを聴いて、楽器を弾きたいと思って。
 

—それが音楽を始めようと思ったきっかけになるわけですね。詳しく教えてください。

 
和嶋:最初に洋楽ロックを聴いていいなと思ったときに、とにかく自分でやりたくなったんですよ。小学校6年生だったかな。THE BEATLESを聴いて、洋楽のバンドサウンドにシビれた。それで最初は何でもいいから楽器を弾きたいと思って、姉貴のお下がりのガットギターを触ったり…その後ベースを買っちゃったんだよね。ギターはとても難しそうな気がしたので、まず四弦をやってみようと。
 

—なるほど。

 
和嶋:でも曲を作るうえではギターを弾けないといけないと思って、中1か中2の頃だったかな、友達のお兄さんが持ってたエレキを安く譲ってもらって。
 

—鈴木さんの場合はギターを買った後ベースに転向でしたが(参照:ROCK SAMURAI STORY 人間椅子(Part2))、和嶋さんはベースからギターに移行したのですね。

 
和嶋:そう。その前から詞も何もないリフレインなんかは作ってたんだけど、その後ちゃんと歌える曲を作りたいと思うようになって、エレキの次にアコギを買って…
 

—エレキの後にアコギというのも珍しいですね。

 
和嶋:エレキでLed Zeppelinなどのコピーをし始めて、いつかこういう曲が作りたいなあ、と思ったね。で、リフの真似事みたいな曲はできたけど歌がうまく乗らなくて、このまま曲を作るのは難しいなぁと。
 

—そこでどんな曲ができあがったのでしょうか?

 
和嶋:そのときは割とフォーク寄りの曲になってましたね。メロディと同時に詞ができあがるような感じで、何十曲も作ってました。
 

—歌詞はどのような内容でしたか?

 
和嶋:ごく日常的な内容でしたよ。「銭湯に行こう」とか、以前弾き語りで披露したような曲です(参照:39LIVE 第7回 ~和嶋慎治~)。素朴な歌詞で。でもそれで何十曲も作っているうちに、あるときワンステップ上がったなと感じることがあって。普通の日常的なことではなく抽象的なこと、いわゆる「詩」が書けるようになって、それからまた曲作りが面白くなってきましたね。
 

—それはどんなきっかけがあったのでしょうか。

 
和嶋:きっかけというより数ですよ。高校1年生の頃は3日に1曲くらいのペースで1年以上続けていたので。それを1年以上続けていたら急に自分で思うところの「詩」が、言葉を選んで書けるようになったんです。コードの使い方もその前後から変わり出しましたね。それまではいわゆる3和音のコードだけだったのが、テンションコードを使えるようになって。
 

—とすると、鈴木さんとバンドを組む頃にはある程度曲作りの方法が完成していた、と。

 
和嶋:完成したとまでは言えないけど、自分なりに勉強していましたね。独学ですけど、フォークで曲を作ったことで和音がどういうものか理解できたので、それはいい経験でしたね。今はリフがメインで曲を作ってますが、その根底にあるのはコードですからね。ただコードだけで曲を作っても単調なので、コードをリフに分解していくことができるようになったのは、その頃の経験が生きています。
 

—そこに歌詞作りも組み合わさるわけですが、歌うということはまず大前提に「発音」があって、でもそこにメッセージというか、言いたいことも乗せていくという…

 
和嶋:うーん…そうですよ。そうですけど、最初はシンプルに「曲を作りたい」という気持ちが出発点です。テーマが大事だと思うようになったのは、曲作りを続けていくうちに自然とそうなったのかな。テーマが大事だと本当に実感するようになったのはここ数年ですね。
 

「日本語でロックを歌うなら怖いものじゃないと」 “猟奇”誕生の経緯

 

—人間椅子の楽曲には一貫して「地獄」、「猟奇」といったテーマがあります。これはどのようにして生まれたのでしょうか。

 
和嶋:結成する前からそうでしたね。一つの切り口として、基本的なコンセプトを「猟奇」にしようと。学生時代に鈴木くんと色んなバンド、主にブリティッシュロックのコピーをやっていて、自分たちのやりたい曲は大体暗い曲なんですよ。LAメタルとかではなく。そういう暗い曲を日本語でやりたいと思ったんですよ。
 

—「日本語」にこだわったのはなぜですか?

 
和嶋:英語では歌詞が書けないと思ったからです。…最初は英語で歌詞を書いたこともあったんですよ。ドクター・クリッペンっていうロンドンの殺人鬼がいて、そのことを英語で書いてみたんだけどどう見ても中学生レベルの英語で(笑)。たとえロックだとしても、日本語で歌詞を書かないとだめだなと思って。でも普通の言葉で書いてもどうもロックにならん、と。切り口としては当時一番コピーしていたBlack Sabbathのように、怖いもので歌詞を書くとロックに合うと思ったんです。それで、バンド名を決めるときに江戸川乱歩を持ってくるわけですけど。
 

—それで「人間椅子」ということなんですね。

 
和嶋:バンド名も、Black Sabbathみたいなキリスト教的なバンド名を付けてもだめだと。日本は結局死ぬときはお寺に行ってお経を唱えてもらうわけですから、日本語的な気持ち悪いバンド名ということで江戸川乱歩が候補に挙がりました。そして歌詞を書く上で怖いことを書こうと思ったときに、普通の言葉遣いでは怖くならないと思って、特に初期のころは、古い言葉遣いを取り入れるようにしました。
 

—難解な表現も歌詞に多く登場しますね。

 
和嶋:人を煙に巻く感じだよね。とはいえ、奇をてらって難しい言葉を使っているわけじゃないんですよ。不気味な世界を演出するのに合うと思ったんですよ。
 

—自分たちのやりたい音楽には「猟奇」など怖い言葉が合うだろう、と考えたのが出発点だったということでしょうか。

 
和嶋:でも根底には「合うかも」というより、それが好きだったんですよ。江戸川乱歩も子どもの頃から好きだったし、10代前半の頃は純文学よりSFとか怪奇小説が面白いと思ってましたね。何というか、キャッチーさがあるでしょ。夢野久作とかは面白いと思いましたし、でもそれでロックをやっている人はあまりいないから、合うと思ったんですよね。
 

—そうした分野への関心は、周りの大人の影響とかもあったのでしょうか?

 
和嶋:いや、僕の性癖なんでしょう(笑)。気づいたらそういうものが好きになっていました。小学生の頃にポー(Edgar Allan Poe)を読んで面白いと思いましたし。読書自体は、父親が国語の先生でしたから親の影響というのもあるでしょうけど、文学全集みたいなのを勧められて、それはそれで面白かったんですが、どちらかというと親があんまり読むなって言うものの方が好きだったんですよね。そりゃあ親が江戸川乱歩を読めとは言わないですよ(笑)
 

—確かに(笑)

 
和嶋:子どもの頃からタブーとか、禁止されているものが好きだったんですよ。高校生の頃太宰治にハマって、親父に見つかって「こんなの読むな」って捨てられましたからね。ロックもそういうところがあったと思います。僕らの頃は大体、中学校でエレキギター禁止でしたから。
 

—そういう時代ですよね。禁止されているからこそ、魅力を感じるという。

 
和嶋:高校に入ったらみんなオープンにやっていましたけど、中学の頃はエレキは不良の代名詞です。でも弾きましたけど。そこに自由なものがあると思いましたね。
 

「芸術ってこういうものか」…答え見出した『真夏の夜の夢』

 

—先ほど「テーマが重要だと認識するようになったのはここ数年だ」というお話がありましたが、作品で言うといつ頃になるのでしょうか?

 
和嶋:自分の中で一つつかんだな、と思ったのは『真夏の夜の夢』からなんだよね。ちょっとね、気がついたんだよね。自分なりに何かつかんだものがあって、「ああそうか芸術ってこういうものなんだ」って、自分なりにそう思ったんですよ。
 

◆『真夏の夜の夢』
2007年08月08日発売
<収録曲>
M01. 夜が哭く
M02. 転落の楽典
M03. 青年は荒野を目指す
M04. 空飛ぶ円盤
M05. 猿の船団
M06. 閻魔帳
M07. 白日夢
M08. 牡丹燈籠
M09. 世界に花束を
M10. 膿物語
M11. 肥満天使
M12. どっとはらい
※当時和嶋慎治自らが執筆したアルバムコンセプト
 
「今アルバムでは、今までよりも突出して夢や幻想に関する曲が収録されています。なぜなら、夢とは人間にとってとても必要なものに思えるからです。ノストラダムスの大予言は当たりませんでしたし、宇宙人もおそらくいないでしょう。今やオカルトというのは嘘を嘘として認めつつ、いかにそのホラを楽しむかという半ば倒錯したものになりつつあるようです。
しかし、夢のすべてを否定してしまってはいけないのです。例えば現実的な夢というのがあります。若者の特権でもある、自分の可能性を信じるという夢。私には、その夢を失っている若い世代がとても多いように思えてなりません。大きい夢(世の中の不思議なこと)の一つ一つが消えていくことによって、小さい夢(自分自身の夢)もいつしか消されていってしまうのではないでしょうか。
夢とは幽霊のようなものかもしれません。見える=望む人には見えるし、見えない=望まない人には見えません。自分たちはメッセージを歌うグループではありませんが、大きい夢を語ることによって、夢を存在させようと思っています。不吉な歌もあるかもしれませんが、それは夜見る夢の中に悪夢があるのと同じことです。夢や幻想がなかったとしたら、この人生のなんと味気ないことでしょう。」

 人間椅子 和嶋慎治

 
和嶋:詞曲を書く上で、僕は自分の経験からしか作れないんですが、経験から…孤独を逃れるために、あるいは疑問に思っていることを、自分を通して作るんですけど、ただ自分というだけじゃなくて、それを一回俯瞰するというのかな。自分のためじゃなくて人のためにやってる感じがしたんです。自分の中から生まれたものだけど全ての人に共通する…うまく言葉で言えないけど、あぁ、これがアートなんだって思ったら、道が開けたんですよ。
 

—確かに、「作り事」ではなく私的なことを歌うからこそ実感が伴う、けれども個人的範囲にとどまっていても相手に伝わらないですよね。

 
和嶋:そう、個人的体験を普遍的にしていくのがアートなんじゃないかな。「自分だけのことじゃない」って俯瞰していく。「僕はこう思った、あるいは君はこう思うかな」と。そうじゃないと、人に伝えられないんじゃないかな。
 

—『真夏の夜の夢』は全体的に「老い」とか「死」をテーマにしている楽曲が多いように感じました。

 
和嶋:そうですね…一つの切り口としてはね。これはよくBEEASTのコラム原稿にも書かせてもらってますけど、(『真夏の夜の夢』をリリースした2007年頃は)厄年と重なって自分なりの壁が色々あったわけですよ。それで色々と本を読んで…でも本の中には答えが書かれていなくて、それを乗り越えたときに自分の中に何か芽生えたんでしょうね。それがちょうどこの頃で。
 

—大きな悲しみのようなものを乗り越えて…そこに何が見えましたか?

 
和嶋:否定的なことは言いたくなくなりましたね。たとえば地獄的な場面を書くにしても、救いがない風にはいいたくない。否定してれば否定的な世界がやって来ます。聖書じゃないですが、言葉は世界なんですよ。自分のイメージを言葉を使って表すわけですが、いずれそれは現実化してしまうと思ったので、否定的なことは書かなくなりましたね。
 

—ある程度歌詞はストックしているのでしょうか。

 
和嶋:『真夏の夜の夢』の頃から徐々にするようになりましたね。できるだけ、ある程度こういう曲にしようと思って作り始めるようにしてます。もちろん、意味不明なことも、テクニック的にはできるけど…例えば「どっとはらい」はかなりレトリック寄りの詞で、それはそれで面白いんですよ。でも伝えたいものがないと曲というのは魂が入らないと思うんだよね。そういうものを作りたいですし、作りたいから続けていますね。もちろん過去の自分の作品を否定するということではないです。基本的なところは若い頃の曲から変わっていないと思うし。「人間失格」の詞を見てもそのときの苦しみが出てくるし。若いときは奇妙な言葉遣いで書くことに快感を覚えていて…今はもうちょっとわかりやすいことがやりたい、という意識になってきました。技巧に走り過ぎているなと自分で思う曲もあるけど、結局その時々で自分のやれることしかやれないんだよね。
 

—30代から40代にかけての様々な人生経験が芸術として昇華されているのが『真夏の夜の夢』だと。そしてその2年後、2009年にリリースされた『未来浪漫派』は、陰陽で言うところの「陽」のエネルギーを強烈に感じるアルバムです。

 
和嶋:そうですね。「美しく生きたい」とコラムにこれまで何度か書いてますが(参照:第一回 地獄巡り第三回 レコーディング前夜第十回 質素でありたい)、それが『未来浪漫派』の頃に実感を持ってきたんだよね。あんまり悩まなくなったというか、生きることに自信が出てきた。この頃は「うーん、ニーチェ面白い!」って思ってましたね。
 

—ニーチェですか。

 
和嶋:あれは取り方にとっては危険思想になりますが、人に強さを与えてくれますね。ぼんやりつかんだ「これはなんだろう?」というものへの答えを、本に求めました。それを説明してくれるかもしれないと。でも結局、それを現実の世界で実体化していくしかないなという結論に至って、その辺が『未来浪漫派』の頃に形になってきました。
 

—『未来浪漫派』では恋愛に関する曲も多く収録されていますね。

 
和嶋:そうそう、何も恐れず書いてますね(笑)。皆さんのテーマである恋愛というものを書いてみたくなったし、そういう気持ちを自分も持っているなと思ったから、ストレートに書いてみたくなったんだよね。
 

—先ほど「否定」は書きたくないとおっしゃっていましたが、確かに前作『萬燈籠』収録曲の歌詞に注目すると、ことごとく「夢」と「恋」が登場します。

 
和嶋:ワンパターンだったかな(笑)。そういう意味では…あのね、鋭いですね。確かに、前作『萬燈籠』は夢と恋がテーマなんですよ。そして、次の取材で喋りますが(笑)、今回の『無頼豊饒』は心と魂なんですよ。やっぱり、自分の中でキーワードがありますね。その時に一番言いたいことなんだよね。それを色んな角度から書いています。
 

—中でも「猫じゃ猫じゃ」の歌詞の中で…この曲はレコーディングの終盤にできあがった曲だと以前伺いましたが…

 
和嶋:曲はね。詞(のイメージ)は割と最初の方にできてたんですよ。
 

—なるほど。締め切りに追い込まれた末に搾り出された言葉なのかと勝手に推察しておりました。「この世が苦しみなら しよう恋を」「あの世が安らぎなら みよう夢を」…というところの対比は、和嶋さんの死生観を表しているのかなと。

 
和嶋:いや、僕のというより世の中のほとんどの人の憧れはここにあるなと思って、これは書いたものです。恋に生きて恋に死んで一生を終える…そこに切なさを覚えて書きたくなったんですよね。
 

—ところで、和嶋さんの楽曲の中には宇宙をテーマにしたものも数多く登場します。これはどういった意図があるのでしょうか?

 
和嶋:ふるさとだから、ですね。人間は宇宙的存在だと昔から思っています。星を見ると懐かしい感じがするし…皆に宇宙を感じてほしいと思って作っていますね。地球的気持ちでいると必ず優劣の世界になってしまい、他人と自分、国と国を比べて争いになってしまいます。宇宙から見たらそれは非常に些細なことで。それを歌詞の中で表現したいと思っていて…忘れた頃に宇宙の歌詞が出てきます。子どもの頃にSFが好きだったのも影響を受けていると思います。夢は大事だと思いますね。
 

 

 

 

「Ozzfest経て再ブレイク」 和嶋慎治が描く人間椅子の今後のビジョンは

 

—和嶋さんの中で、5年後、10年後の展望というか人生設計は今どのようにされているのでしょうか。

 
和嶋:あーそれは、人生設計というのはむしろしないほうがいいと個人的には思っていまして、なぜならそれは守りの姿勢だからです。時間を考えなきゃいけなくて、老後を考えて食えるか食えないかを考えると急に不安が生まれて、「自由に生きる」ことはできなくなるので。ただ、目的はありますよ。これからもバンドを続けていきたいというのもあるし…肉体はいつか必ず死ぬので、それまでに自分に与えられた才能があるとすれば、それを使うのが自分のやることかなぁと思ってます。
 

—具体的に「○年後にはこういうライブをしたい」みたいなことは考えますか?

 
和嶋:まぁでも「もっと大きいステージに立ちたい」といったビジョン、イメージはあります。何より、こうしてバンドを続けていられるのは鈴木くんとノブくんがいてこそなので、2人には感謝してもし尽くせないですね。アルバムも最初から完成形をイメージして作り始めるし…それを「人生設計」と言うならば設計なのかもしれませんね。
 

—精神と肉体の二項対立で考えたときに肉体の「老い」は避けて通れないと思いますが、その辺りはどのように考えていますか?

 
和嶋:できるだけ健康には気をつけようと思ってます。なんだかんだ言って心が本体だと思ってますが、それは物質=体の中にいて、これは自分の、皆さんの財産なので大事にしなきゃなと。指が動かなくなるとだめなので。体は与えられた入れ物なんですよね。それを動かすのは心。だからまったくの唯心論というわけでもないです…あ、体に気をつけて、なんちゃってマクロビオティックやってます(笑)。
 

—『未来浪漫派』収録「輝ける意志」の歌詞に「生まれた時は皆 汚れのない心 甘い水を飲んで やがてくすんでゆく」「君よ荊の道をあえて歩け」とあります。人生は苦しいけれども、苦しい中に喜びや夢、恋がある…そうしたテーマが和嶋さんの描く芸術の根底にあるかなと思います。

 
和嶋:そうですね。今思っているのはそういうことですね。この世に生まれてきた意味が皆さんにも僕にもあるとすれば、その人の魂のステップアップをするために…苦しみを避けちゃいけないんですよ。苦しみはその人が成長するチャンスですから。苦しみから逃れていると、せっかく生まれてきたチャンスを逃してしまう気がするんですよね。
 

—そうした人生観、哲学は宮沢賢治の思想にも通じるところがあるように思います。最新作『無頼豊饒』の収録タイトルを見たときに「グスコーブドリ」という曲名に驚きました。

 
和嶋:入れちゃいました(笑)
 

—『グスコーブドリの伝記』も、そういうテーマが描かれた作品ですよね。

 
和嶋:ブドリは人のために働きますから、立派なものですよ。宮沢賢治の小説ってすごいんだよね。犠牲的精神をあそこまで作品に表したのは、日本人で稀有じゃないかなと思いますね。大体日本人作家の小説は個人的心情をうたうものが多い中にあって、宮沢賢治は突き抜けてますよね。
 

—宮沢賢治は元々お好きだったのですか?江戸川乱歩や夢野久作とはまた違った方向性のように思いますが。

 
和嶋:いや、元々は個人的感情をチマチマ書く私小説に共感することが多かったのですが、歌詞に書くべきことはこれだと何かつかんできた頃から、私的感情を捨てている作品の方がすごいなと思うようになって、それで宮沢賢治とかトルストイとかに興味を持つようになったんです。ここ6、7年です。
 

—確かに、人間椅子の初期作品に宮沢賢治的要素は見られないですが、近年だと、例えば2008年の全国ツアーのタイトルが『春と修羅』になっていたり…

 
和嶋:あ、あれはね、詩は昔からいいと思っていましたよ。言語感覚がすごいですよね。
 

—今回「グスコーブドリ」を選んだのはなぜですか?

 
和嶋:ふっと「グスコーブドリ」って言葉が浮かんだんだよね。インスピレーションなので、説明するのが難しいです。ストレートなリフが浮かんだときに、ストレートな詩にしたいと思って。インスピレーションがやっぱり大事で…宮沢賢治みたいな気持ちでありたいなと思いますよ。
 

—自己犠牲?

 
和嶋:大いに穢れてますからね、僕の心。
 

—いえいえ(笑)。「グスコーブドリ」の歌詞の中に「みんなが一人 一人がみんな」というフレーズが登場しますが、「one for all, all for one」を訳して日本で最初に使ったのが宮沢賢治だという説もありますね。

 
和嶋:ああそうなんですか?この一節は自分の言葉として書きました。それは知らずに書いたな。
 

—宮沢賢治をチョイスしたのには、故郷・東北への意識もあるのかなと思います。

 
和嶋:東北を入れていきたいとは思っていますね。日本語にこだわるのと同じことなんですよ。生まれてきたところから逃れられないというか、自分の経験から出たものでしか作品は作れないので、一番言葉になりやすいのは生まれてきた土壌なんですよね。たとえば南国の曲を作れと言われても想像の上でしか書けないし。そしてテーマとして「北」は陰と陽で言ったら陰で、暗くて…それはロックにしやすいと僕は思います。
 

—『無頼豊饒』には他にも「なまはげ」というストレートに東北を、それも前作『萬燈籠』における「ねぷた」からよりいっそうメジャーなものを持ってきたなという…

 
和嶋:青森だけに特別こだわるわけではなく、東北という括りでいいと思っていて。人から見たら自分は東北人なので、なまはげでもいいかなと。
 

—郷土愛も積極的にテーマにしていきたい、と。

 
和嶋:いや、いたずらに「愛」と言ってしまったら、それはナショナリズムに近くなるので怖いと思うんです。「日本は世界で一番すごい!」と言いたいわけじゃないんですよ。それはナショナリズムになって争いを生むだけなので。日本人であることの良さを書きたいだけで、東北の曲に関しても、東北にはいいところも悪いところもいっぱいあるし…いいところは「素朴」、「我慢強い」。悪いところは「ねたみ」、「ひねくれ」。南の人のほうが多分その辺さっぱりしてますよ。そういう面を自分も持っていると思うから…寺山修司の作品にはその辺も出ていますよね。
 

—なるほど。

 
和嶋:補足すると、郷土愛を否定するわけではないですよ。鈴木くんは郷土愛に満ちた優しい曲を書きますが、それは人間らしい、とても優しい気持ちだと思うし、大事なことだと思います。各地方の人が自慢しあうだけだとケンカになってしまいます。お互いが尊重し合えるといいですよね。
 

—前回のインタビューで、鈴木さんは「和嶋くんは常にもっと違うものを、新しいものを、と追究するし、逆に俺はもっと同じことをもっと突き詰めたいと思っていて、二人でちょうどいいぐらいのバランスが取れている」とおっしゃっていました。

 
和嶋:基本的には変わってないですよ。新しい挑戦ということでもないかなと自分では思ってます。毎回初めて使う言葉を入れよう、というのはありますが、違う音楽性への挑戦みたいなことではないんだよね。自分たちがやってきたことの歩み。そこで立ち止まるんじゃなくて、歩き続ける感じ。
 

—同じことをやっているのだけど、止まっているわけではない、ということでしょうか?

 
和嶋:進む先は一直線で、新しい風景が見えるというより、見知った風景に向かって進んでいる感じなんですよね。新曲を作ったときに、全然知らないものを作った気がしないんだよね。できあがっていたものを翻訳したような…何というか。曲を作っていて苦しくなることもあるけど、それは知っているものを思い出せなくて苦しんでいるような感じなんですよね。言葉にするとそういう表現になります。
 

—これからも同じ道を突き進んでいく、ということですね。最後に読者へメッセージをお願いします。

 
和嶋:人間椅子の曲を難しいと思う人もいるかもしれないし、だとしてもやっぱり伝えたいことがあるから書いてるわけで、それが自分の仕事な気がしているんですよね。他人とは違う表現ができていると思っているので、そこを忘れずにやっていきたいですね。そしてファンはもちろん、メンバーへの感謝は言葉にし尽くせないですね。鈴木くんとやれたからここまで来れたし、ノブくんが入ったからこそ動員が増えてきたと思うし。3人の存在があっての人間椅子ですから。
 

◆TOPICS: ファン100名超が歓喜!「なまはげ」MV撮影実施

PHOTO:三橋コータ 


ニューアルバム『無頼豊饒』収録曲「なまはげ」のミュージックビデオ撮影が撮影が5月15日(木)、東京・高円寺のライブハウスHIGHにて行われた。ミュージックビデオはライブ風景を中軸にした作品になるということで、撮影はメンバーそれぞれの演奏風景のほか、実際に観客を入れてのライブシーンの撮影も行われた。
 
 

 

ライブの観客は人間椅子のファンクラブ会員とその友人の中から抽選で選ばれた。撮影の冒頭、ナカジマノブ(Drums & Vocal)から撮影の趣旨が説明されると、まずは実際に楽曲を全員で聴くことに。曲が流れる間、メンバーから曲の背景や盛り上がるタイミングなど笑いを交えて説明。作詞・作曲を手がけた和嶋慎治は「この部分は(Black Sabbathの)『Into The Void』っぽいでしょ」と饒舌に語り、観客を和ませた。
 
  

  

その後、実際のライブを模したシーンを何パターンか撮影。新曲タイトルのなまはげは和嶋慎治鈴木研一(Vocal & Bass)の出身である東北を代表する伝統行事。その恐ろしさと力強さのあふれる世界観を、持ち味のハードロックサウンドで十二分に表現している。
 
胸を打つ痛快なギターソロあり、なまはげが戸を叩く恐怖感を再現したバスドラムあり、唯一無二のおどろおどろしいベースの轟音あり、それでいて前に進めるエールのような陽のエネルギーを持った曲。メンバーになまはげが憑依したかのように「怠げ者はいねぇがぁ」と絶叫するシーンもあり、ライブで盛り上がること必至の、6分半におよぶ超大作だ。
 
 

 

 

 

 

 
◆人間椅子 ニューアルバム
『無頼豊饒(ぶらいほうじょう)』

2014年6月25日発売
 
<初回版>TKCA-74080 (CD+DVD) 4800円(税込)
<通常版>TKCA-74085 (CD) 3086円(税込)
 
※初回盤は『バンド生活二十五年~猟奇の果~』2014/1/18@TSUTAYA O-EAST ライブDVD付き

◆人間椅子 ディスコグラフィ
(ナカジマノブ 加入以降)
 

『萬燈籠』
2013/08/07発売
TKCA-73939
 
 

『疾風怒濤~人間椅子ライブ!ライブ!!』
2010/12/01発売
TKCA-73608
 

『人間椅子傑作選』
2009/01/21発売
TKCA-73403
 
 

『瘋痴狂』
2006/02/22発売
TKCA-72977
 
 


『此岸礼讃』
2011/08/03発売
TKCA-73676
 
 


『未来浪漫派』
2009/11/04発売
TKCA-73486
 
 


『真夏の夜の夢』
2007/08/08発売
TKCA-73226
 
 


『三悪道中膝栗毛』
2004/09/29発売
MECR-2015
 

 

◆ライブ情報
「祝20周年!犬神まつり千秋楽」
・2014年07月12日(土)
【渋 谷】TSUTAYA O-EAST
 
「鋼鉄和洋折衷」
・2014年07月20日(日)
【仙 台】CLUB JUNK BOX
 
「AOMORI ROCK FESTIVAL’14
 ~夏の魔物~」

・2014年07月21日(月・祝)
【青 森】東津軽郡平内町夜越山スキー場
 
“2MAN SERIES”
・2014年7月28日(月)
【高円寺】ShowBoat
和嶋慎治人間椅子)× 向井秀徳アコースティックエレクトリックでの出演
◆人間椅子 公式サイト
http://ningen-isu.com/
◆人間椅子 公式ブログ
http://ningenisu.exblog.jp/
 
◆人間椅子ワンマンツアー
「二十五周年記念ツアー ~無頼豊饒~」
・2014年08月20日(水)【仙 台】enn 2nd
・2014年08月22日(金)【青 森】Quarter
・2014年08月24日(日)【札 幌】Bessie Hall
・2014年08月30日(土)【熊 本】B.9 V1
・2014年08月31日(日)【博 多】DRUM Be-1
・2014年09月03日(水)【広 島】BACK BEAT
・2014年09月04日(木)【高 松】モンスター
・2014年09月12日(金)【大 阪】Shangri-La
・2014年09月14日(日)【名古屋】Electric Lady Land
・2014年09月20日(土)【恵比寿】LIQUIDROOM
*詳細は後日発表。

 

 
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