脱・無関心!丨2026.10.04

ACTION 31 脱・無関心 September JAM~奈良美智~

TEXT:鈴木亮介 

東日本大震災発生から半年後の2011年9月、会津から中通り、浜通りへと駆け抜けた6日間のロックフェス「LIVE福島」が多くの人を勇気づけた。あれから15年。今年・2026年は東日本大震災から15年を迎えるとともに、福島県が誕生して150周年の節目となる。

2020年代に入ると新型コロナウイルスの蔓延に、猛暑やゲリラ豪雨・線状降水帯の発生など気候変動や世界情勢の不安といった影響もあり、私たちの暮らしは日々混迷を深めている。そんな時代ゆえか、リアルに、屋外で、音楽でつながるフェスの需要は高まっている。ぴあ総研が2026年7月に発表した市場動向調査結果によれば、2025年の音楽フェスティバルの市場規模は対前年7.0%増の465億円(推計)で、動員数も対前年3.1%増の371万人と、ともに3年連続で過去最高を更新したことがわかった。

音楽フェスの市場は右肩上がりが続く(ぴあ総研HPより)
https://corporate.pia.jp/news/detail_piasoken_fesdata_20260703.html

一方で、このようなデータもある。一般社団法人 日本イベント産業振興協会が2026年6月に公表した「2025年 イベント産業規模推計」によれば、「音楽コンサート」の産業規模が対前年105.2%の推計7,580億円であるのに対し、「伝統的祭事・フェス」は対前年96.6%の推計197億円と減少傾向にある。

さらにそれぞれコロナ前の2019年と比較すると「音楽コンサート」は160.9%と1.6倍以上の伸びを示す反面、「伝統的祭事・フェス」は89.5%と1割以上の減少となっている。その理由を日本イベント産業振興協会は、収益構造の問題や担い手不足に加え「日中・屋外の開催が基本のため、雨天はもちろん、猛暑・厳冬も集客に影響した」と分析する。

確かに近年は気候変動の影響か、開催直前の豪雨などによる大型フェスや花火大会の中止を耳にする機会が増えた印象がある。今改めて問う、野外フェスの意義とは――


総合芸術イベント「September JAM」が2026年9月21日(月・祝)より福島・猪苗代を舞台に開催されている。「September JAM」は、福島・猪苗代町のJR猪苗代駅前や亀ヶ城公園、カメリーナ、はじまりの美術館などを舞台にした総合芸術イベントで、美術や映画、演劇、音楽、食文化などさまざまなアートが、観覧者との身近な距離で繰り広げられる。

会期中の9月21日、22日には「風とロック芋煮会 in September JAM」、「オハラ☆ブレイク’26秋 芋煮会」といった音楽ライブイベントが開催されるが、「ARTS in September JAM」と題した様々なアーティストによる美術展も本イベントの魅力だ。今回本誌MUSIC BEEASTでは現代美術家・奈良美智による「一曲で一枚! – ライブの中で描いた絵たち」と、俳優・アーティストののんによる「のんRibbon art -時間に群れる-」に注目。展示のレポートに加え、奈良美智、のん、そして「September JAM」の共同実行委員長を務める箭内道彦の言葉から、野外フェス、さらには音楽・美術などアートが福島をはじめ地域にもたらす意義を探る。

■奈良美智「一曲で一枚! – ライブの中で描いた絵たち」
@はじまりの美術館

現代美術家・奈良美智による「一曲で一枚! – ライブの中で描いた絵たち」の会場は、JR磐越西線・猪苗代駅から磐梯山に向かってタクシーで数分、徒歩でも25分ほどで行ける「はじまりの美術館」だ。およそ140年前にできた酒蔵をリニューアルして作られたといい、岡部兼芳館長によれば「ここでアートと出会い、新たな”はじまり”の場になってほしい」という思いが込められているという。

雪国らしく重たい扉を開けると、天井が高く、落ち着いた空間が広がる。靴を脱いで上がると、アットホームな空気感の中に奈良美智とロックミュージシャンの熱量が閉じ込められている。ホッとするけど、一枚一枚の絵と向き合っているとじわじわ熱くなってくる。作品のモチーフになった楽曲がBGMになっており、自然と体が揺れる。

展示されている作品はいずれも、これまでに開催された「オハラ☆ブレイク」での様々なロックミュージシャンのライブ演奏にインスピレーションを受け、1曲のパフォーマンス中に1枚の作品を描き上げるという試みにより生まれたもの。リアルタイムで描き上げる様子を映した映像も公開されている。

展示場の奥には椅子に座って一休みできる空間も。そういえば、床に敷き詰められた木材がエリアごとに異なる種類なので、木の凹凸を足で触って楽しめるのもまたアートっぽくて、良い。


9月20日、「September JAM」の開幕前日に報道陣向けの内覧会とスカジャン購入者を対象にしたオープニングパーティーがはじまりの美術館にて行われ、併せて箭内道彦、奈良美智、のんによる記者会見が行われた。

記者会見で奈良美智は、音楽イベントの参加者が町を通り過ぎてしまう現状に触れ、美術を通して猪苗代の町自体を楽しんでもらい、少しずつ定着していく文化祭のようなイベントにしたいと述べた。また、ライブ演奏の1曲の間に描き上げた約70枚の作品展示について紹介したほか、自身を「楽観主義者」と評しつつ、「悪天候すら思い出に変えてしまう」ようなマインドセットや、この機会にアートに触れ、苦手意識があったとしても、何回も触れるうちにその良さにある日急に気づくような体験をしてみてほしいといったことを話した。

日常の小さな幸せを見つける力こそが美術の役割だと話した箭内道彦、そして奈良美智へのリスペクトも込めつつ猪苗代や東北の魅力を体験してほしいと語ったのん、三者それぞれの思いをまとめる。


■奈良美智


――出展の経緯

「September JAM」と題して音楽や美術など文化の集合体として猪苗代の町を盛り上げようという思いが第一にありました。

今まで「風とロック」や「オハラ☆ブレイク」ではたくさんの音楽好きが来てくれていましたが、町を素通りしていくというか、イベントの会場に行って帰るだけで、町をぶらつかないことが気になっていました。「それって町の人たちにためになってるのかな?」と。音楽だけじゃないこの町の良さ…猪苗代湖や磐梯山といった素晴らしい自然に加えて、そばを食ったり居酒屋で飲んで騒いだりして、もっとこの町自体を楽しんでほしい。それで、町自体を使った文化祭的なことをやりたいねと、自身も猪苗代出身で共同実行委員長の菅さんと前々から話していました。

そこに美術としてどう関わっていくか。「はじまりの美術館」という立派な施設があるので、そこを利用しようということはすぐに浮かびました。あとは町を利用していくやり方です。たぶん1回ではうまくいかないはずで、むしろ1回目からうまくいったら逆におかしいので、これを継続しながら悪いところをマイナーチェンジして、少しずつ少しずつかけて町の人に定着するイベントになったらいいなと思っています。


――作品について

今回展示しているのは全て、自分が音楽に関わった中で生まれてきた作品です。これ全部、ライブの会場で1曲演奏が始まって終わるまでに描いた1枚なんですよ。絵がうまくいかないまま終わっても、遠奏が終わったらもうそこでやめなきゃいけない、と自分の中の心構えとして決めて。うまくいったけどまだ曲が残っているからどうしよう?って言って、消してもう1回描くときもあるし、もう1枚描こうと思って描くときもあるし。それが70枚近く今ここにあります。

本当に出来不出来が激しいので、めっちゃいいやつとめっちゃ良くないやつの差が…自分(が思っている)だけかもしれないけど、本当に恥ずかしいのと誇れるのとごちゃ混ぜになってますが、まぁそれがライブっていうもんだ!と思ってます。自分もそうやってフェスに参加できたこともすごく思い出になっているし、嬉しかったし、それをこういう形でほぼ全て見せられるのが、こういう形で実現したのも良かったなと思います。

これが猪苗代町の文化振興につながって、将来この展示を観た人が役員とか町長とかになってさらに誇れる町にしていってくれるといいなって思います。


――「September JAM」をどんな風に楽しんでほしいか

音楽フェスの延長でビジュアル的な作品も楽しんでほしいし、観ているときに少しでも頭の中で音楽が鳴っていたら、それだけでもう成功だと思うんです。さらに、普段はフェスに行かないような人も、町中にいっぱいアートがあるので、これを機会に触れてもらって、わけがわからなくても毎日観ていたら何かわかってくるような…音楽でも、なんかこれ苦手だなと思ったのが何回も何回も聴いているうちに急にいい曲に変わる瞬間があると思います。美術もそうで、生活の中でそういうことが起こり得る。そういう体験をみんなしてくれたらいいなと思っています。


――芸術祭が地域にもたらす意義

僕は本州の端っこの青森県弘前市のりんご畑しかないようなところで生まれ育ったので、「地方から眩しいものを見てる」感覚を持って育ちました。日本の地方は過疎化が進みますが、人口が少なくなる中で逆にコミュニケーションの問題は良くなると思います。少なくなればなるほど話し合いが楽になるし、みんなの顔が見えて、何が必要か何が足りないかも全部わかるようになります。

その中でやっぱり外せないものは文化です。文化自体はお金にならないものも多いです。お祭りも観光のためにやろうとしたら、観光客が来なければ終わってしまいます。でも、それ以前は観光のためにやらなくても、町のみんなが参加して成立していたわけです。地方はそれに戻るだけで大切なものを再発見できると思います。人口が減っていくことに対して悲観せず、逆にそれでみんな密になって本当の共同体ができていくんじゃないか。その1つのモデルとして、箭内さんや菅さんがこういう(「September JAM」のような)場を作ってくれたと思って、僕は期待しています。

いろんな地方でこういう芸術祭が生まれれば、日本はもっと面白くなる。とにかく僕は地方が好きなので…地方であるがゆえの面白さを自覚することが大切。でも、そこにいるとわからなくて、出て行って外から見ると再発見するんですよね。


――災害やフェスの中止など「暗い気持ち」をどう乗り越えるか

僕は楽観主義者だから、普段いい天気ばかりよりもたまに天気が悪かった方が思い出になるし、思い切ってずぶ濡れになろうって決心した瞬間にフェスの楽しみ方が変わると思っています。新品の靴を履いて水たまりをよけながら歩いていたけど、ちょっと間違ってバチャン!って行ったらもうどうでも良くなって駆け出す!みたいな…そうやって自分自身の変な行動力に気づいたり。本当にポジティブなんです。去年足の骨を折って、半年後に肩も骨折して、初めて全身麻酔で金属を入れたんですが、本当にこれ申し訳ないんですけどすごく嬉しかったんです。これでちょっとでも、手術で金属を入れる経験をした人の気持ちに近づくと思えたら、逆に嬉しくなって。たぶん馬鹿なんだと思う。けど、本当に幸せなんです。


■箭内道彦

音楽や写真、アート、美術が見せてくれる大きな答えは、人それぞれの感じ方を、人と人とがどう共有していくか。今の色々と難しい世の中で、絶対に機能しなくてはならないことだと思っています。

今回僕も40年ぶりに絵を描きました。ウルトラマンの絵を依頼されて、「できっこないを やらなくちゃ」(サンボマスターの曲)じゃないけど、普段やっていない、できないかもしれないことを60歳を過ぎてやってみるというのはとても大事な経験だと思って、1カ月くらい毎日ちょっとずつ描きました。

もちろん絵を描くこともアートなんですけど、絵を観ることもアートですし、絵を「わからない」って思うこともアートの始まりです。「September JAM」を通じて「これもアートなんだって思ってもいいんだ」っていう、そんなイベントになったらいいなと思います。

先日奈良さんと「美術の敷居の高さ」という話をしたんです。なんかちょっと偉そうというか、壁を作っているんじゃないかと僕が言ったら、奈良さんは「逆だよ、敷居がなさすぎるんだよ」と仰るんです。価値に気づかない人には何の意味もないもの。それが美術で、気がついていくこと、自覚していくことが大事。

のんさんも仰ってた「展示を観て外へ出たら風が吹いてきた」みたいな感覚って、世界中の全員が今持てているかというとそんなことはなくて。そこに気がつく力…力でもないですね。気がつく気持ちみたいなものをみんなが持てたらと思います。

つまらないとか嫌だとか、暗くなるときにこそ幸せってすごくたくさん起きていて、それを見つけることができるかどうか。でもやっぱりそういうのをみんな見逃しすぎてるなと思います。もちろん災害に遭われた方はそこから復興していくのはとても大変だと思いますが、そんな中で生きる力になるような小さな幸せを見つける訓練というか。それが僕は、美術が教えてくれる大事なことなんじゃないかなと思っています。


■のん

(前述の「楽観主義者…」の話を受けて)奈良さんの乗り越え方はすごい素敵だなって思いましたね。私はどうしてるかな?私は結構何かに当たり散らしてるかもしれない。大きな声を出して空に向かって叫んでみるとか、そうしてみると「自分だけ一方的に怒ってて何なんだろう」って、我に帰る瞬間がやってくる。というやり方が多いかもしれないです。

以前「オハラ☆ブレイク」に出演した際、奈良さんが焼きそばを焼いてくださったのが印象的で(笑)。そんな風に町と関わっている奈良さんの姿を見て、こんな素敵な大人になりたいって思っていました。なので今回同じ芸術祭で展示できるのが本当に嬉しいです。

アートは展示する空間が大事だと思っています。どんな場所でどんな風に見せるか。町でアートフェスをやるときには、自然だったりそこに見えている景色がたくさんあって、その空間とその場所での体験とを一緒に楽しめるところが素晴らしいと思っています。

たとえば奈良さんの、箭内さんの絵を観に行って、観終わって外に出た後の風が気持ちよかったとか、空が広くて綺麗だったとか、そういう体験があるとどんどんこの場所に思い入れができていくと思うんですね。思い入れていくと、この場所がずっと続いていってほしいなとか、この先、この町の未来まで見えてくると思います。そういう「思い入れる」きっかけとして、「September JAM」がそんな風にたくさんの人の思い入れが詰まった場所になるといいなと思います。


9月20日(月・祝)の午後、はじまりの美術館前の広場では「オリジナルリバーシブルスカジャン」購入者限定のオープニングパーティーが開かれ、「September JAM」のコアなファンが奈良美智によるDJや、地元有志による「猪苗代☆食堂」の手作り料理、地酒などが振舞われた。


総合芸術イベント「September JAM」は9月21日(月・祝)から11月3日(火・祝)まで福島・猪苗代町にて開催される。チケットは公式サイトにて発売中。

■「September JAM」公式サイト
https://www.septemberjam.com

■奈良美智 公式サイト
https://www.yoshitomonara.com/

■はじまりの美術館 公式サイト
https://hajimari-ac.com


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