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FEATURE2025.09.01

【特集】音のチカラ story4「続続・不登校が、扉を開く」

「不登校支援の現状と課題~公立学校も変わる~」

TEXT:鈴木亮介

 

小中学生の不登校が社会問題となっている。これまで2回の記事では民間のフリースクール「国立音楽院」の取り組み(参考:【特集】音のチカラ story1「不登校が、扉を開く」 https://www.beeast69.com/feature/189470 )ならびに、メタバースや保険といった民間企業の取り組み(参考:【特集】音のチカラ story2「続・不登校が、扉を開く」 https://www.beeast69.com/feature/189578 )を紹介した。今回の記事では公教育はどのように変わりつつあるのかという視点から、「学びの多様化学校」に焦点を当てる。

そもそも学校に行けなくなった子どもの居場所、学ぶ場はどういったところになるのか。例えば保健室やカウンセリングルームなどの「別室登校」や、校内の空き教室を活用して不登校や集団生活に不適応傾向のある児童生徒等を支援する「校内教育支援センター(SSR)」、自治体が開設する「教育支援センター」(役所や出張所、図書館など公共施設に隣接されることが多い)に通って学習指導を受けたり、民間の「フリースクール」や「習い事・塾」に居場所を求めることもできる。

もっとも、不登校となる児童生徒の多くは外出自体に抵抗があり、自宅から出られないことも多い。民間の調査では不登校児童生徒の4割程度が自宅学習のみを行っているというデータもある。

全国に拡大しつつある「学びの多様化学校(旧・不登校特例校)」
※図表は文部科学省HPより

不登校となる児童生徒が増える中、学校も変わりつつある。不登校児童生徒の実態に配慮した特別な教育を行う学校として「不登校特例校」が作られることとなり、2004年に東京で初めて開校。その後2023年より「学びの多様化学校」に改称し、2025年4月時点で全国に小中高合わせて58校が設置されている。このうち、2025年4月に開校した神奈川県鎌倉市立由比ガ浜中学校を取材した。


■鎌倉市立由比ガ浜中学校

鎌倉市立由比ガ浜中学校は2025年4月に鎌倉市立御成中学校の分校として開校した。江ノ電由比ヶ浜駅から徒歩2分の住宅地に立地し、由比ガ浜海水浴場も近い。2025年4月現在1年生10 名、2年生7名、3年生14名の計31名が在籍する。入学の条件は鎌倉市内に在住していることで、基本的に3年間ないしは編入年次からの2または1年間、中学卒業まで通い続けることを前提とするため、何度も面談を経て入学者を決定。希望者が多数となる場合は「小学校時に不登校を経験していること」などをふまえ総合的に入学者が決定される。

「学びの多様化学校」には公立だけでなく私立もあるが、フリースクールとは異なり学校教育法施行規則に基づいた設置のため、卒業資格が得られる。一方、通常の学校と異なり学習指導要領にとらわれないカリキュラムを組んだり、少人数での学級運営を行ったりすることが可能だ。学校の一部学級を学びの多様化学校と指定する分教室型や、校舎を分けた分校型などがあり、由比ガ浜中の場合は分校型だ。

画像:鎌倉市提供
見取り図は由比ガ浜中学校紹介リーフレットより
見取り図は由比ガ浜中学校紹介リーフレットより

校門をくぐり、入口の扉を開くとまず目に入るのが、ガラス張りの職員室(スタッフルーム)だ。開放的で、温かく生徒を出迎えようというスタッフの思いがそのまま伝わるエントランスは、「今日も来て良かった」と思わせてくれそうだ。学びの多様化学校を既存の公立学校内に併設する場合、「他の生徒の目につかないよう入口を分ける」「校内ですれ違わないような動線を作る」といった配慮がされることもある。それを否定するものでは全くないが、分校の場合はそうした”配慮”が不要となる。

もっとも、「学校には来たけど、今日は何となくみんなのいる教室に行きづらい」という気持ちになることもあるだろう。由比ガ浜中でもそうした生徒への配慮は設計されており、全員が登校後に集まる「つどいスペース」や授業を受ける教室(学び場)の大半は階段を上がった2階にあり、保健室やカウンセリングルームは入口を入ってすぐの1階に設けられている。

由比ガ浜中の最大の特長とも言えるのが、大手家具メーカーIKEAが鎌倉市と提携しデザインを手がけた、2階の「つどいスペース」だ。生徒は靴を脱いで、広々とした空間で各々の気に入った場所を見つけ、自由に過ごす。グループワークのできるテーブルから、窓を向いて一人で集中したい生徒向けのカウンターまで多種多様。ソファーの形状もクッションも様々で、オープンスペースの開放感とリビングのような心理的安全性が両立する。分校長の岩田明氏によると、「肩にかけるタイプのぬいぐるみ型クッションが特に人気。安心感があるのでは」という。

壁側には各自の鍵付きロッカーや、地元のブックオフが提供した図書コーナーを設けている。ここで朝のホームルームを行うほか、友人と語ったり、昼食をとったり、放課後に残って勉強したり…もっとも、何もしなくてもいいかもしれない。ユニークだと感じたのは、廊下と室内に合わせて2台のハンモックが設置されていること。無心になりたいとき、何となく息が詰まるとき、ハンモックに身を委ねるのも良いだろう。

そのほか、衝立を設けて人目につかない環境で集中して勉強できるデスクや、扉の向こうにはカウンセリングルームが設けられている。カウンセリングルームは1階の2部屋と合わせて合計3部屋あり、スタッフによる個別対応や生徒からの相談がしやすい環境づくりが設計段階で重視されている。

由比ガ浜中学校の授業は、従来の公立中と異なるカリキュラムが組まれている。登校は少し遅めの朝9時半で、午前中はiPadを使った個別学習に、国数英理社を中心とした習熟度別もしくは学年別の授業が行われる。午後は「ULTLA」という総合的な学習の時間や、音楽、美術、技術・家庭をミックスした新教科「CTime」に多くの時間が確保されている。

「子どもが学校に合わせる」から「学校が子どもに合わせる」へ。生徒自身の学びたい気持ちを大切にし、「学習者中心の学び」を実施するとパンフレットには書かれている。特に全国どの中学校の時間割にも載っていない「CTime」にはどんな特長があるのか。岩田明分校長に話を聞いた。

■鎌倉市立由比ガ浜中学校 分校長 岩田明氏

――パンフレットに「自分たちで学びとっていく」「学校が子どもに合わせる」といった言葉が並びますが、自ら学ぶためにどのような工夫をされていますか?
岩田氏:長い時間で見ていくというところが大きいですね。待つことは大事です。「学習者中心の学び」というのは、学び自体のハンドルは子どもたち自身が持つということです。自分事として捉えてもらえるように、与えられた学びではなく自分が選び、自分で夢中になり、そして生涯を通して学び続けるという、そういった長い目で子どもを育てたいですね。

――自分で選んでもらうことを心掛けているということですね。
岩田氏:自分で選ぶということが社会的自立につながると思います。自立するためにはその後ろ立てというか基盤、基礎として、平易な言葉で表すと「思い出・経験・体験」が必要です。何かやってみようって言われたときに、やろうって思える勇気やエネルギーが湧くためには、挑戦した経験や思い出が必要です。本校での経験を通じて、自分自身をしっかり見つめながら自分とは何者なのかを知り、多くの思い出を作って自立に向けての土台を作っていってほしいです。しかも、それを時間をかけて…というところがなかなか難しいのですが。

――不登校経験者の間には、失敗を恐れたり、チャレンジすることに抵抗がある子どももいると思います。そうした子に対してはどのような対応をされていますか?
岩田氏:徹底的な信頼関係を構築することですね。失敗したり嫌な思いをしたりした経験があっても、信頼関係がないと相手に話せないと思います。本校では対話ができるように色々と寄り添いながら伴走支援していき、「この人なら言える」とか「この人なら自分のことを分かってくれる」と、自分をさらけ出せる環境を作ります。苦難、苦悩に共感的理解を示しつつ、もしそこにこだわりすぎて前に進めないとすれば、どう前向きに進めていけるかというところにシフトできるよう支援します。

――開校から(取材時)3カ月が経過しましたが、子どもたちの印象はいかがでしょうか。
岩田氏:
今のところ登校率は80%を超えています。31人それぞれ全く違う子なので「こういう傾向がある」「想定した通りだ、そうじゃない」といった表現をするのは難しいですが、未来に向かって進んでいこうって思っている子は多い印象です。人間関係を作っていくところはそれぞれが頑張っています。

――3学年合同で行う授業も多いのですよね。
岩田氏:
そうですね。教科学習はどうしても学年で分ける必要がありますが、「ULTLA」や「CTime」は学年を超えて一緒に授業を行いますし、給食も学年関係なくみんな一緒に食べています。個別最適な学びということで一人ひとりに応じた指導もある一方、人間関係づくりについては学年を超えて行います。苦手な子も多いですが、学校はまさにそれを学ぶ場なので。

――3学年一緒に取り組むメリットや、難しさはどういったところですか?
岩田氏:
1年生は先輩から、3年生は後輩から、それぞれのアイデアだったり優しさだったり、あるいは厳しさだったり…。日頃からいろんなものを受け取ることで、分かり合えるというか。昼休みも学年を超えて一緒に卓球をやったりしていますからね(笑)。そういう意味では非常にメリットが大きいなって思う一方で、やはり学年ごとに抱える課題も違います。たとえば中学1年生だとつい数カ月前まで小学生だったので、ちょっと幼さもあるわけですよね。その幼さが気になっちゃう3年生もいます。ただ「3年生は3年生らしく」とかそういうのを苦手とする子もいます。友達がなかなかできなかった3年生が1年生とすごく仲良くなって、それがここに通う意味になって、といったことがあるとすれば、それはもう間違いなく良いことです。

――確かに一般的には中学に入ると「部活で1年生は先輩に敬語を使って…」みたいなタテの関係が当たり前のようになっていますね。由比ガ浜中の子たちはどのように喋っていますか?
岩田氏:
いや、普通に会話してますね。特に「先輩」なんて言ってないかもしれないです。あ、でも1年生の中には「今度『先輩!』って言ってみたいんです~」と話している生徒もいますね(笑)。

――「CTime」がとても特徴的だなと思います。どのような授業なのですか?
岩田氏:
3学年を4コースに分けて、基本的には好きなコースに参加してもらいます。学年毎に前期/後期に分けて、前期の最初の8時間は共通カリキュラムで、後期は自分の好きなことを突き詰めていくので探究に近いです。例えば音楽ではピアノを10台以上用意して、作曲というか「こんな風に弾いてみよう」とじっくりやります。技術家庭や美術も、自分の感性とフィットした活動を行う内容が多いです。十数時間ずっと椅子を作っているとか、プラスチックのマイ草履を作ろうとか自分たちで考えて自由にやっています。音楽や美術、芸術は「情操教育」とも言われますが、やはり人の心というか人生を非常に豊かにしていく、欠かせないものです。

――そして「ULTLA」も、一般的な「総合的な学習の時間」とは一味違う内容のようですね。
岩田氏:
「自分学」と「探究」の2つに大きく分かれます。「自分学」とは自分の特性、学びのくせ――たとえば聴覚からの入力と視覚からの入力どちらの方が得意なのか、などアセスメントをしたうえで、7月に行う「マイフェス」という、自分の好きなものやこだわったものをみんなで共有するイベントに向けて準備を進めます。自分の好きなことに徹底的にこだわっていき、新たな問いを見つけたり、仲間と共有をしたりして価値づけしていきます。それが登校の1つの動機になってくれればと思います。

――「探究」にはどのような特長がありますか?
岩田氏:
「森のプログラム」「海のプログラム」があり、月に1回程度は外に出て活動します。身近なところに湘南の海があるので、例えば直近では江ノ島水族館に行きました。クエストビンゴといって、教科の問いを作ってみんなで歩きながら解決していくようなイベントも行いました。一般的な中学校のカリキュラムで総合の時間は年間70時間となっていますが、本校では年間140時間と実に倍の時間を当てており、それによってとにかく自由度が高く何でもやれちゃうというのが特長です。それぞれの教科が実生活とどうつながっていくのかを体験してもらうことを意識していて、スタッフたちも創造的にストーリーを色々と作ったり面白い仕掛けを考えて、ワクワクするものにしたいということは話していますね。

――部活動はまだないと伺いました。行事も含めて、まさに子どもたちとこれから作っていくのかなと思いますが、今後の展望を教えてください。
岩田氏:
既に夏休みのお泊まり会をやることが決まったり、修学旅行もおそらくやると思います。子どもたちに寄り添いつつ、無理はさせないようにとも思います。生徒会のような組織化をしたり、全体に向けて「意見ない?」と聞いてしまうと、言いたくても出しづらくなると思うので、日頃のコミュニケーションの中でヒアリングしたり、全体ではなく細分化して進めていきます。今年色々とできたとしても、来年同じことをやる必要はないと思います。みんなで考えて作り出していく。そのためには柔軟性が必要です。「こうじゃなきゃいけない」とルールや規律を決めると楽ではありますが…。

――なるほど。そのためにはスタッフの方々のチームワークが大事ですね。
岩田氏:
そこはとても大事にしています。実際に今働いているスタッフ(職員)は公募ではなく他校からの異動で集まっています。ここで不登校だった生徒の対応経験や知見を得た先生が何年か後にまた異動で別の学校に行き、循環されていくことで市内に由比ガ浜中のノウハウがどんどん広がっていきます。それに加えて全国から毎週のように視察にいらしていただき、そこで情報共有もしています。これから学びの多様化学校をつくろうとしている自治体の方もいらっしゃるのですが、みんな悩みや困りごとは同じです。市や県を超えてネットワークを広げていければ良いですね。

由比ガ浜中学校は「学びの多様化学校」だが、少子化が進行し続ける今後の日本において、特に過疎化する地域では、こうした一人ひとりにフィットした学校が今後一つの理想形になるのだろうと思った。

インタビューの後、校内を案内頂いたのだが、「一人ひとり異なる生徒が、それぞれ自分に合った居場所を見つけられるよう、多種多様なソファーや椅子が設置されている」といったことや「気持ちが落ち込むこともあるトイレこそ高級ホテル並みにきれいでほっと一息つけるようにしたい」、「狭くても海や山を感じられる更衣室を」…など、校内の随所に子どもたち一人ひとりを思うこだわりが徹底されていると感じられた。

中でも印象的だったのが、保健室のカウンセリングスペースに電子ピアノが置いてあったことだ。1対1で向き合い、心のうちを語ろうとする際に、思いが言葉にならないこともあるだろう。そのとき、鍵盤の音がそっと寄り添い、時に背中を押してくれるのかもしれない。


取材協力:鎌倉市立由比ガ浜中学校
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