演奏

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TEXT:水科哲哉 PHOTO:Miku Matsuzuru
Calling Records主催『Busking Series 2016 FINAL』
2016.10.8 @下北沢 CAVE Be

本誌BEEASTで27年ぶりの単独来日公演をリポートしたSTRYPERは、キリスト教信仰をロックで表現する”クリスチャン・ロック”の先駆者といえる存在だ。神とキリストを賛美する内容の楽曲、ステージ上から聖書を投げ込むパフォーマンスで、STRYPERはワールドワイドに知られている。
 
“世界最速のメタル・ギタリスト”と名高いChris Impellitteriも、本国アメリカではクリスチャン・ロックにカテゴライズされる場合がある。彼がこれまで発表したアルバムの中には、キリスト教信仰を題材にした楽曲が必ず1~2曲ずつ収められているからだ(現時点でのImpellitteriの最新アルバム『VENOM』の中にも、旧約聖書の神ヤハウェ=エホバの名を冠した「Jehovah」という曲がある)。
 
1990年代後半から登場したポスト・グランジ/オルタナティヴ・メタル路線の洋楽アーティストの中にも、クリスチャン・ロックに分類されるバンドが多数存在する。筆者が最近プライベートで愛聴しているTHE LETTER BLACKNINE LASHESSKILLETTHOUSAND FOOT KRUTCHなどが、その代表格だ。
 
しかし日本では、クリスチャン・ロックが定着しているとは言いがたい。全人口の70~80%(うちカトリック約25%)をキリスト教信者が占めるアメリカと異なり、日本のキリスト教信者数の割合は人口比率で1%未満に過ぎないというから、致し方ないことかもしれない。
 
そんな状況下にもかかわらず、2015年6月より発足した日本初のクリスチャン・ロック専門レーベルCalling Recordsが、下北沢 CAVE Beでライヴ・イベント『Busking Series 2016 FINAL』を開催した。本イベントにはCalling Records所属の日本勢に加え、南米チリ出身にもかかわらず流暢な日本語を操るバンドVICTORIANOも出演した。その模様を紹介しよう(文中敬称略)。

石川ヨナ(O.A.)
石川ヨナ(以下石川)は横浜を拠点に、関東エリアで活動する女性シンガーソングライター。様々なバンドのヴォーカルとして経験を積んだ後、2013年よりアコースティック・ギターを片手にソロで弾き語りをしている。2015年2月の1stミニアルバムから3曲を披露した石川は、「弾き語りを始めて、まだ3年くらいなんです」と謙遜していたが、土臭いスモーキーでアーシーな歌声は実に力強く、堂々たるステージングでO.A.の大役を果たした。歌唱力もさることながら、ストレートに胸を打つ歌詞に魅力を感じるのは、石川が小説家としての横顔も持ち、2011年に処女作のダーク・ファンタジー小説『スタート・アゲイン』(いのちのことば社フォレストブックス刊)を上祥しているせいだろうか。

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◆Setlist
M01. Are You Ready
M02. Pain
M03. 産業廃棄物
◆Official Website
http://yona7.wixsite.com/ishikawayona
 
◆石川ヨナ
石川ヨナ(Vocals & Guitar)

三木ヒロキ
三木ヒロキ(以下三木)は、2015年8月に活動停止したトリオ編成のクリスチャン・ロックバンドCLODの元フロントマン。CLODの活動休止後はソロ活動に主軸を置いている。三木はアコギとテレキャスターを持ち替えながら、CLOD時代のアップテンポでグルーヴィーな「FREEDOM」や、ソロ転向後の「間違いだらけの僕に」「神様の歌を唄わせて」などを熱唱。従来の弾き語り形式ではなく、バックバンドを従えた形態でプレイしたせいか、SPITZMr.Childrenを彷彿とさせる爽やかなJ-POP風アレンジをソロ転向後の楽曲群に施していたのが印象的だった。終演後の三木はこのアレンジに手応えを感じたようで、「可能ならば、今回のバンド形態で新たな音源を出したい」と満足げだった。

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◆Setlist
M01. あなたの声で
M02. FREEDOM
M03. Break Me
M04. 間違いだらけの僕に
M05. 神様の歌を唄わせて
◆Official Website
http://www.hiroki-miki.info/
 
◆三木ヒロキ
三木ヒロキ(Vocals & Guitar)
岡谷 和作(Support Guitar)
黒崎 直哉(Support Bass)
金山 建成(Support Drums)

ソルフェイ
ソルフェイは、シンガーソングライターとしても活動するオオハラシンイチ(以下オオハラ)がフロントマンを務める4人組。彼らにとってこの日は、新加入ギタリスト&ドラマーのお披露目ライヴも兼ねていた。バンド名の由来でもあるオープニング・ナンバー「Soul Of Faith」を皮切りに、ソルフェイはアルバム未収録の新曲「Calling」を含む6曲をノンストップで疾走。”ゴスペルロック”なるキャッチフレーズとは裏腹に、思いのほかパンキッシュな印象を受けたが、オオハラは中盤の「Nobody」で多少オペラティックな唱法も披露。また、オオハラの実体験をもとに書かれた「Light For The World」では、新加入ドラマーのLukaがヴォーカルを取る趣向も見られた。

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◆Setlist
M01. Soul Of Faith
M02. God Bless You
M03. Nobody
M04. 夢
M05. Light For The World
M06. Calling
◆Official Website
http://solfai2013.wixsite.com/solfai
 
◆ソルフェイ
オオハラシンイチ(Vocals)
now(Guitar)
Yuta(Bass)
Luka(Drums & Vocals)

IMARi ToNES
IMARi ToNESは、“日本初のクリスチャン・メタルバンド”を標榜する3人組。フロントマンのToneは本イベント主催レーベルであるCalling Records発起人の1人であり、バンドとしては2009年~2012年にUSAツアーも4年連続で敢行。2013年から、アメリカ発祥のクリスチャン・ミュージック伝道ツアーの日本版『The Extreme Tour Japan』を3年連続でオーガナイズしている。この日は、変拍子で叩きつけるグランジ調の「Unlimit」を皮切りに、すべて英語詞曲のナンバーを披露。アメリカン・ハードロックの王道を踏襲した「Repent」「Faith Rider」ではToneが高速タッピングで弾きまくる一方、「Love Is To Do Something No One Dares To Do」ではJakeによるファルセットのバック・コーラスが絶妙なスパイスになっていた。

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◆Setlist
M01. Unlimit
M02. Repent
M03. Heaven’s Gate
M04. Love Is To Do Something No One Dares To Do
M05. Faith Rider
◆Official Website
http://www.imaritones.net/
 
◆IMARi ToNES
Tone(Vocals & Guitar)
Hassy(Bass)
Jake(Drums)

Xie
Xieは、15年あまりのキャリアを誇るベテラン4人組。2016年7月には、キリスト教信者が全人口の約1/3を占める韓国でもライヴを行った。バンド名の由来は中国語の「ありがとう」を意味する「謝」だが、フロントマンのMachiは曾祖父の代から続くキリスト教家庭で生まれ育ったという。冒頭、プロテスタント教会の礼拝で使われる「主の祈り」をサンプリングした同期音源と共に、Xieの演奏が始まるが、その強靱かつタイトな轟音サウンドに最前列のオーディエンスが仰天。やむなくPA卓のフェ-ダーを下げるハプニングが起こったが、百戦錬磨のベテランならではの貫禄のパフォーマンスを披露。終盤、Suzuki”BUDDHA”Noriyukiが繰り出した泣きのギターソロは、Gary MooreJohn Sykesを彷彿とさせる極上品だった。

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◆Setlist
M01. 主の祈り
M02. 人と愛
M03. 十字架の印
M04. 轍を行こう
M05. ハレルヤマン
◆Official Website
http://www.xiete.com/
 
◆Xie
Machi(Vocals, Guitar & Trumpet)
Suzuki”BUDDHA”Noriyuki(Guitar)
鶴瓶(Bass)
nalu:shin(Drums)

VICTORIANO(from Chile)
南米チリ出身にもかかわらず、日本語を多用したオリジナル曲をプレイするVICTORIANOの出番がついに訪れた。現在のVICTORIANOはベーシスト不在のため、サポートを買って出たIMARi ToNESToneが、VICTORIANO来日の経緯を前説で述べる。次いで、黒澤明の監督作品『七人の侍』をキッカケに親日家になったというSergioが、「コンニチワ、皆サン。日本大好キデス」と挨拶すると、ダンサブルな同期サウンドを冒頭に導入した「装うことないさ」で元気よく幕を開けた。エモ・テイストを取り入れた「夢をつかもう」、AOR風味が漂う「パラダイス」などは一聴しただけで口ずさめそうなキャッチーなナンバーだが、Sergioの実弟Gersonは柔らかいタッチながらも派手なギターソロを繰り出す。
 
日本語詞と英語詞が混じった「A Matter Of Faith」では、Sergioがステージ袖に引っ込み、Gersonがリード・ヴォーカルに回り、低声のハスキーヴォイスを聴かせてくれた。続いて、PVが制作されたバラード「届かない恋」では寡黙なDamienが椅子から立ち上がって観客にウェーブを促す。同じくPVがある「神の許しがない」は、獰猛なグロウルと高速のバスドラム連打がアクセントに効いたファスト・チューン。「Mas Mas Mas(もっと、もっと、もっと)」というスペイン語のサビのフレーズを観客も一緒に合唱する。気をよくしたSergioはメンバー紹介に続き、チリの国旗をメンバーと共に掲げ、観客と「Viva Chile(チリ万歳)」コールを連呼する。アルバム未収録曲「悪魔の仕業」で本編を締めくくると、客席から「アンコール」の合唱が起こる。すると、VICTORIANOはチリの国旗を再び掲げて登場。母国の大先輩バンドであるLA LEYの「Right Here」(スペイン語原題は「Aquí」)の日本語カヴァーで、40分強のロングステージの幕を下ろした。

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◆Setlist
M01. 装うことないさ
M02. 夢をつかもう
M03. パラダイス
M04. A Matter Of Faith
M05. 届かない恋
M06. 神の許しがない
M07. 悪魔の仕業
M08. Right Here(Japanese Cover of LA LEY)[-encore-]
◆Official Website
http://www.victoriano-rock.cl/
 
◆VICTORIANO
Sergio Victoriano(Vocals)
Gerson Victoriano(Guitar & Vocals)
Damien(Drums)
Tone(Support Bass From IMARi ToNES)
いかがだっただろうか。音楽の歴史を紐解くと、R&B(リズム&ブルース)やソウル・ミュージックは、教会の聖歌隊が歌うゴスペルから端を発している。ゴスペルとは文字どおり「福音」という意味だ。時代の進展に伴って新たな音楽ジャンルが登場し、シーンも細分化するにつれ、キリスト教信仰をロックで表現するようになったのも、ごく自然の成り行きといえる。実際に会場に足を踏み入れてみると、ステージ上の光景は普段のライヴハウスのそれと何ら変わりない。イベント全体の雰囲気もきわめてアットホームで温かく、親子連れやお年寄りなど幅広い年代のオーディエンスがフロアに集っていた。
 
最後に、南米チリから遠路はるばる来日を果たしたVICTORIANOに、この場を借りて敬意を表したい。地球の裏側のチリで日本文化に魅せられ、独学で覚えた日本語で作詞・作曲するロックバンドが存在するとは誰が想像しただろうか。バンドの存在自体もさることながら、かねて念願だった来日公演が実現したことも奇跡といえる。歌メロ重視のキャッチーなサウンドからは良質なJ-POPやJ-ROCKのエッセンスを貪欲に吸収している様子が窺え、日本人好みのスタイルをよく心得ているようだ。日本が世界に誇る”クロサワ”の映画をキッカケに、はるか彼方の異国である日本に好印象を抱き、SIAM SHADEL’Arc〜en〜CielX JAPANなどの日本人アーティストにインスパイアされたというVICTORIANO。音楽を通じて、チリと日本の架け橋になることを目指す彼らが、日本の音楽シーンに本格進出を果たす時が来るのを期待したい。