脱・無関心!丨2026.10.08
ACTION 32 脱・無関心 September JAM~のん~

TEXT:鈴木亮介
第32回 Stand Up And Shout ~脱★無関心~
東日本大震災から15年を迎え、福島県が誕生して150周年の節目となる2026年。福島・猪苗代で総合芸術イベント「September JAM」が11月3日(火・祝)まで開催されている。
「September JAM」は、福島・猪苗代町のJR猪苗代駅前や亀ヶ城公園、カメリーナ、はじまりの美術館などを舞台にした総合芸術イベントで、美術や映画、演劇、音楽、食文化などさまざまなアートが、観覧者との身近な距離で繰り広げられる。今回本誌MUSIC BEEASTでは現代美術家・奈良美智による「一曲で一枚! – ライブの中で描いた絵たち」と、俳優・アーティストののんによる「のんRibbon art -時間に群れる-」に注目。展示のレポートに加え、奈良美智、のん、そして「September JAM」の共同実行委員長を務める箭内道彦の言葉から、野外フェス、さらには音楽・美術などアートが福島をはじめ地域にもたらす意義を探る。
★前編記事「ACTION 31 脱・無関心 September JAM~奈良美智~「一曲で一枚! – ライブの中で描いた絵たち」 @はじまりの美術館」はこちら
https://www.beeast69.com/serial/mukanshin/191121/
■のんRibbon art -時間に群れる-
@猪苗代町むかし体験館/旧山内家住宅
1811年11月に建造された町指定重要文化財「旧山内家住宅」では俳優・アーティストののんによる「のんRibbon art -時間に群れる-」が展示されている。歴史を感じる茅葺屋根の農家住宅は、静謐そのもの。そこに、のんが手がけるリボンアート作品が展示されている。伝統工芸とのコラボレーションを軸に、赤べこや真っ赤童(まっかわらし)が可愛らしさの中に不気味さも内包し、独特の存在感を放つ。


建物に入り、「おめぇ」と呼ばれる応接間に入ると、畳の上に3か所、大小様々な「真っ赤童」がそれぞれ15体から30体ほど集合している。群れを成してはいるが、外向きに様々な方向を向いている。
壁には年季を感じるたんすが置かれ、そこにも「真っ赤童」が並ぶ。そして奥座敷には会津の伝統工芸、赤べこがリボンをまとい、鎮座している。それも、赤べこだけでなく白いべこの姿も。のっぺらぼうの白べこを見つめていると、不思議と表情が浮かび上がるように感じる。




たんすの向かい側には、真紅のリボンが網目となって、滴り落ちるように吊るされている。リボンは様々な形に踊り、或いは舞うような、或いは引っかくような、また或いは絡みつくような様相で、ちょうどこの古民家の真裏に咲く彼岸花のような妖艶さと不気味さをまとっている。その前に置かれた椅子に腰かけると、赤リボンを背に自分自身ものんのアートに入り込むことができる。
「September JAM」の開幕を翌日に控え、改めてこの「旧山内家住宅」を訪れたのんに、今回の展示のコンセプトや創作の過程、猪苗代という土地への思い、さらには創作活動の原点にある「怒り」という感情について、話を聞いた。




――――のんさんはこれまでこけしや赤べこといった伝統工芸とのコラボをたくさんやっていらっしゃいますが、今回は江戸時代に建てられた旧山内家住宅が舞台です。東北の文化に対して込めた思いを教えてください。
のん:東北にはすごく可愛いものがたくさんあって、福島だと赤べこが代表的ですし、こけしも色んなこけしがいます。私が東北の工芸品で好きなのが、ちょっと怪しい感じがあるというか、”怖かわいい”感じがツボで。赤べこも「なんだろう、この子は?」って緊張するような目線や佇まいをしているところがとても好きです。そしてこの旧山内家も本当に素晴らしい建物で、こういう場所で展示できるのが嬉しいです。こういう梁の見え方や屋根の感じは、今では実現しない建築だと思いますが、見ているだけで癒されますね。静かな場所が私は大好きなんですけど、静けさを感じるお家だなって思います。その静かな中にも江戸時代から続く歴史を感じるエネルギーがみなぎっているようで、この静けさの中に不気味なこけしたちや赤べこを置けるのが幸せです。

――リボンアートと赤べこのコラボレーションは、特にこういう暗がりの中で作り上げていくのは難しさもあるのかなと思います。展示について工夫したところを教えてください。
のん:リボンアートと日本のお家の和の空間の相性がすごくいいということは、今まで何度かやっていて気づいていたんです。なので今回もどんな感じになるかワクワクしていましたが、ここまで日の光が入らないお家は初めてで。こういう暗さの中に潜んでいるのがまた不気味さを増していいなって思いました。私は可愛いものが不気味なものに見えたり、ちょっと嫌なもの、負のものに見えたりなど、いろんな形に変容していくのがとても好きです。可愛く見えても中身が可愛くないとか、不気味に見えても実は可愛いもので作られているとか、そういう風にギャップを感じることで自分の思考がどんどん豊かになっていく感じがするんですよね。そういう展示を目指しています。
――観に来た人に、この空間をどんな風に過ごしてほしいですか?
のん:静かな時間が流れているお家なので、静けさの中で自分がどんな風に感じるのかだったり、この建物が昔はどんな風に、何人がかりで作られたんだろうとか、そういうところにまで思いを馳せてみてください。自分たちが今生きている土台を作ってくれた先人たちの歴史を感じて、長い時間ゆったりと、この空間を敏感に感じ取ってほしいなと思います。感覚が鋭くなる感じがします。自分のセンサーを鋭くしてこの中に留まったり、観たりしてほしいです。
――建物に入って正面の赤べこが印象的です。赤だけでなく白もあり、重ねていたり。この作品のポイントを教えてください。
のん:白いべこを初めて見たとき、なんて可愛いんだってびっくりしました。同じ形で同じ職人さんが作っていても、色がついてないだけでこんなにも違って見えるのかとびっくりして、この白いべこもこのまま使ってみたいと思いました。赤べこたるものは何なのかっていうのが、シルエットだけに落とし込んだことによって、比較して感じられるんじゃないかなって思いますね。どっちもいいんですよね。つやつや赤べこも、のっぺらぼうの白べこも。リボンをつけたらもっと可愛くなってしまうんじゃないかと感じていましたが、こういう風に奥の間に鎮座してもらうと、ラスボス感があってすごくいいですね(笑)。

――今回のテーマ「時間に群れる」について教えてください。「時間」は建物の歴史について先ほど触れられていましたが、改めてこの展示に至るまでのプロセスや、考えをお聞かせください。
のん:このお家(旧山内家住宅)が時間が止まったような空間に見えたんです。200年前の江戸時代の暮らしが見えてくるような場所だなと。そんな時間が止まったような空間の中に、真っ赤童や赤べこを群れさせてみたらどんな風になるかなっていう好奇心がありました。それで実際に展示してみると、この子たちが何か守っているように見えたり、怯えてビクビク…鬼滅の刃みたいに「鬼が来るんじゃないか」って身を寄せ合っているようにも見えたりとか、強さにも弱さにも見える感じがあって、面白い展示になっていると思います。
――「群れる」は前回「大阪関西国際芸術祭 2025」でもテーマになっていました。のんさんの中で「群れる」に対して何かこだわりがあるのでしょうか。
のん:そうですね。なんていうか…私は大人数でいるのがそんなに得意じゃなくて、結構あぶれちゃう方なんですけど、でもなんかこう、みんなでワイワイしたりとか、みんなで歌ったりとか、そんな風に人とつながるのはすごく好きで、だから音楽をやっていると人とつながれるような感じがして、その充実感を得たい欲はすごくあるんです。でも一方で、弱い人たちが寄せ集まってどうにか強くなろうとしている部分にちょっと懐疑的な部分もあったり。一人ひとりがもうちょっと強くなるべきじゃないかって問題提起したくなるような自分もいて。でも、それは一方から見た意見ですよね、どちらも。そんな日もあれば、仲間に入りたいっていう日もある。群れるということに対して、そういう裏腹な気持ちを持っています。スイミーみたいにみんなで力を合わせて悪いやつを追い返すんだ!と、数が悪を圧倒することもできる可能性も秘めていて。みんなで一緒にいることがどういうことなのか客観的に見つめたときに、良さと悪いところが見えてくるのかも。だから、群れるってことは何なのか自分も知りたくて、リボンアートで真っ赤童たちを群れさせてみると、そのいいところも悪いところが浮かび上がって…それを今追求している段階です。
――ちょっと懐疑的な思いもありつつ、それでも群れたい欲求も自分の中にあって、その探求がまさにアートになっているということなんですね。
のん:そうですね。みんなで、いい方向に団結すれば、一斉に頑張って同じ方を向けば、ここから抜け出せるのに!とかって思う瞬間もいっぱいあるじゃないですか、今の世の中。そういう風に考えると、私は個でが頑張る力が強かったけど、そこに数の可能性も信じたくなるんです。希望もあるなって感じていて。裏腹です。

――「群れる」といえばまさに「September JAM」は町をあげてのアートの総合芸術祭で、しかもたとえばのんさんの作品では実際に椅子に座れたり、引き出しの中をのぞいて真っ赤童を見つけたりと、至近距離での体験ができます。町全体がアート、しかも触れられる、ということの意義をのんさんはどのように考えますか?
のん:町でやるアートフェスは、その空間・場所の体験と一緒にアートを楽しめるのが素晴らしいところだと思います。(取材中)今こういう風に虫の声が自然に聞こえてきたりとか。今は心地よいけど、うるさすぎて集中できない!っていう日もきっとあると思うんですね。そういう体験が積み重なることによって、いい思い出も、こんなことがあった!っていう事件的な思い出も、一緒に「思い入れ」ができるんじゃないかなと思います。「こんなことがあった日にあのアートを観たんだよなぁ」という体験。アートだけに集中できない空間というのが、逆に記憶に刻みつけるフェスになって面白いんじゃないかなって思います。特に猪苗代は町全体が静かな空気をまとってる気がしています。稲穂の美しさとか、山々の並びだったり…そういう静かな町と一緒に体感できるのは貴重だなぁって思いますね。
――確かに。アートだけに集中できない環境というのはまた違った体験ができますね。
のん:そうですよね。かっちりとした美術館の中で、静謐な空間で観るのは、アートのことだけを考えることができて頭がすっきりするんですけど、こういうところで自分を一緒に癒しながら思考しながらっていう、いろんなことを一緒にやっているような感覚の中でアートを楽しむのも脳が活性化しそうです。

――のんさんのリボンアートの原点とも言える映画『Ribbon』(2022年公開)では作品を破壊するシーンや、怒りをワーッと表現するシーンが印象的でした。のんさんは「怒り」という感情をとても大切にされていて、アートの原動力になっている部分もあるのかなと思います。今改めて「怒り」という感情をどう定義し、どう向き合っているのか、教えてください。
のん:怒りとはうまく付き合っていった方がいいと私は思っていて、なくしちゃいけない感情だと思うんですよね。これを封じ込めたら全てが、全てに鈍感になる気がしています。私は自分が気になることとか、自分が大事にしてきたことに敏感でいたいから、その1つの感情を閉ざしたくないって思います。怒りは敏感でいるために有効活用できると思います。どうしようもない怒りや、人に迷惑をかけちゃう怒りもありますが、自分が敏感でいるために使う分にはすごく大事な感情なんじゃないかなと思っています。
――抑えることで、敏感さが失われてしまう。
のん:そうですね。でも自分が何に怒りを持っているのかとか、どうして怒りを持っているのかとか、その対象は果たして自分が怒りを持っているに足る相手なのかとか…そういう研究は怠っちゃいけないと思うんです。闇雲には怒ってはいけない。自分が見極めたい。見極める力と一緒に、育ててきたい感情だなって思います。見極める力ですね。
――なるほど。怒りとは見極める力。それを今後も追究していきたい?
のん:はい。怒っているときってすごく脳が回転するんですよ。言葉があふれてくるし、やりたいこととか発想とか。だったらこうすればいいじゃん?って。発展するために怒りを使っていきたいです。

総合芸術イベント「September JAM」は9月21日(月・祝)から11月3日(火・祝)まで福島・猪苗代町にて開催される。チケットは公式サイトにて発売中。
■「September JAM」公式サイト
https://www.septemberjam.com
■のん 公式サイト
https://nondesu.jp/
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