演奏

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TEXT:タカシ ミッシェル

デビューから40年、歌と共に常に走り続けてきたアニソン界のレジェンド影山ヒロノブ!
その栄光の足跡を辿るかのようなセットリストは、記念公演にふさわしい影山ヒロノブの音楽人生の集大成!

 
数字が大き過ぎて想像ができない……。影山ヒロノブ(以下:影山)は今年でなんとデビュー40周年を迎え、発表した作品は1000曲をゆうに超える。まずこの凄さを少し分析してみたい。仮に発表した作品が1200曲と仮定しよう。アルバム1枚15曲収録としてざっと“アルバム80枚”を発表したのと同様のボリュームとなる!こう例えると影山の凄さが、誰にでも伝わるはずだ。さらに活動歴が40年なので、“年間アルバムを2枚発表し、それを40年間継続した”と例えれば、桁外れの凄いアーティストであることが理解できるはず。
 
更に影山が凄いところは、まだ日本のアーティストが積極的に海外公演を行ってこなかった頃から、海外での公演も精力的に行う他、楽曲提供やプロデュース、所属事務所の代表を務め、更にJAM Projectのリーダーとしてアニソン界のスター軍団も牽引しているのである。私がもし影山に質問ができるのであれば、真っ先に「影山さんの衰えぬ音楽への情熱の根源は何なのですか?」と聞いてみたい。
 
多くの人は、“ロックバンドLAZYでの活躍”“CHA-LA HEAD-CHA-LAの大ヒット”“アニソン界のプリンスとして業界内での絶対的地位の確立”“JAM Projectでの成功”など、スター街道を突っ走ってきたような印象を持っているのではないだろうか。だが実際には「コンサートでお客さんが5人しかいない時もあった」「建設の仕事をしながら何とか音楽活動を続けていた」と決して楽ではない時期も含め、実際には山あり谷ありの音楽人生だったのだ。
 
そんな影山のデビュー40周年ライブが大阪と東京で行われた。大阪は影山の出身地であり、東京(中野区)は影山が上京し通っていた高校もある第二の故郷。今回はプライベートで大阪公演も観覧させていただき、それを踏まえた上で東京公演をレポートさせたいただくこととなった。
 
会場の中野ZERO大ホールは線路を隔てて中野サンプラザとは逆方向に位置するクラシックホールである。また、本ツアーはニューアルバム『A.O.R』を携えての公演であり、単なるベストヒットLIVEに終わらせないところもチャレンジングな影山らしい。“A.O.R”には色んな意味があるが、影山のニューアルバムはプロデューサーにデビッド・フォスターを起用した「Beginning」に象徴されるような、洗練された大人のロック(Adult oriented rock)アルバムである。“熱血シンガー”のイメージが強い影山だが、実は「夢光年」「こころはタマゴ」といったA.O.R的な作品も過去に発表しており、A.O.R色を前面に押し出したアルバムがリリースされることは、決して不思議な事ではない。

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さて当日の模様をレポートしよう。会場の扉が開かれ入場してゆくオーディエンスがまず驚いたのがデビュー40周年を祝う贈花の数の多さと、その送り主だ。アニソン関係のアーティストや業界関係者は勿論、意外な芸能人まで、影山の音楽活動がいかに多くの人に認識され、リスペクトされてきたかという事を物語っているかのようである。そして多くのファンがその多くのお花の前で記念撮影を行ったり、思い出に花を咲かせている様子が見受けられた。特にLAZY時代からのファンと思しき人達は、久々の再会と青春時代の記憶を分かち合っているようであり、その光景は非常にほほえましいものであった。大阪公演でもそうであったのだが、物販は入場前の事前販売の時点でほぼ完売。記念に購入したい人が多かったことや、残念ながら会場に足を運べなかった人への友情購入などが多かったのかもしれない。
 
2階席から会場を見下ろすと広いステージとシンプルなセットが目に入る。派手な演出などは行わずに“とにかく音楽をじっくり聴いてもらいたい”という意図が、ステージセットを見るだけでもハッキリと伝わってくる。そして時計が17時半を示した時、影山の声が聴こえてくる。まだステージには本人は登場していないので、一瞬何が起きたのか分からなくなったが、オープニングSEを影山自身の歌で多重録音して作ったものを流しているという事が徐々にわかってくる。ドラマティックな歌声で驚きを与え、同時に会場の雰囲気を一変させる。オープニングSEが終わりステージに登場した本日の主役に大きな歓声と拍手が起こると、ニューアルバム『A.O.R』から「Beginning」のピアノイントロが拍手と歓声を優しく奪い取る。
 
「デビュー40周年には何か特別な事をやりたい」とかねてより話していたという作品だ。まるで晴れ渡った西海岸の爽やかな風の様な優しいサウンドに、思わずうっとりしてしまう。ステージの下手からコーラスのKUKO、キーボードの須藤賢一、中央に花道が施され、ドラムスの岩田“ガンタ”康彦、ベースの村上聖(以下村上)、ギターの松尾洋一。じっくりと聴けるA.O.Rが実に心地いい。続いて『A.O.R』からの「甘く危険な夜に」へと移行する。ミドルテンポでどっしりしたリズムにややファンキーでハネたリズムに軽快なメロディが乗った佳曲で、思わず体が動いてしまう感じだ。影山も手拍子を求め、2曲目で早くもハイライトが訪れたかのようだ。個人的にも『A.O.R』の中で最もよく聴いている曲であり、今後の影山のライヴでは欠かせない楽曲になるような予感がする。
 
「Mr.Travelin’ Man」では影山もアコギをかき鳴らし演奏に加わる。穏やかな展開で精一杯引きつけておいて、最後のDaDaDaDa DaDaDa……のコーラスで一気にテンションを高める。緩急の付け方が見事だ。そしてキレのあるアコギのストロークと哀愁を帯びたキーボードのイントロが聴こえてくる。どこか聖闘士星矢のED主題歌であった「BLUE DREAM~夢旅人~」の様な雰囲気も感じられる「Life without you」へ。今日のバンドメンバーは聖闘士星矢を演奏していたBroadwayその人たちであり、既に20年以上前には彼ら独自のらしさを確立していたのであろう。
 
「40年もやっているのに、本番前ってメッチャ緊張するんですよ。でも今日は40年分の感謝を込めて今日を特別な日にしたいと思います」とオーディエンスに、そして自分に言い聞かせるように語る影山。そして今日の1人目の特別ゲストが甘いギターのイントロと共に花道から登場する。90年代から影山と音楽活動を共にしてきた遠藤正明(以下:遠藤)だ!デュエットで「She’s trouble & I’m such a fool !」が披露されるのだが、影山の熱い歌と遠藤の伸びのある色気のある歌の組み合わせは何とも言えない味わい深さがある。強いて言うならば、長年かけて熟成されたワイン、とでも例えようか。ブルージーな演奏と相まって、夜の酒場で酒を飲みかわす二人の男達かのようだ。影山は“男は一見下らないと思える事にも凄く熱くなれるようなものを持っている”という事を表現した歌だと語る。
 
50歳を迎えた遠藤も「江戸時代なら死んでる歳ですね」「死んでる死んでる~♪」と影山との息の合った軽妙なトークで笑いを誘う。雰囲気は一変し、共に沖縄好きだという影山と遠藤。『A.O.R』から石垣島でレコーディングされた「おーりとーり」が披露される。誰もが沖縄的と思えるリラックス感のあるサウンドに雰囲気がパッと明るくなった。影山遠藤のカチャーシー(“かき回し”の沖縄方言が由来と言われている)と思われる踊りも実に様になっている。沖縄音楽独特のリズム感や口笛、三線を軸にしたアレンジが沖縄に旅した者が歓迎されているかのような雰囲気を感じる。タイトルの“おーりとーり”とは石垣島の方言で“いらっしゃいませ”という意味があるらしく、まさに東京から約2,000㎞の航路の後、石垣島に舞い降りたような気分になる。

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ゲストの遠藤が2曲を歌い切り、大きな拍手を背にステージを後にすると、素早くベンチとアコギ用のセットがステージ上手に準備され、影山が奄美大島で経験した運命的なエピソードを語りだす。それは西平酒造という造り酒屋を見学したときのことである。その西平酒造の社長が昔、ミュージシャンを目指し上京しバンドをやっていたが、その時のキーボーディストが何と影山と30年以上音楽活動をしてきた須藤賢一であったとことが判明したというのだ。「Home」はミュージシャンになる事を夢見て上京した社長の輝いた青春時代と、守るべきものを歌った作品であった事が語られた。似たような想いを抱えながら生きているオーディエンスも多かったのだろうか?神妙な面持ちで聴き入っている様子も伺える。
 
「こっからアニソンだから!」という影山のコールに大きな歓声が起こると同時にオーディエンスはオールスタンディング!「Are you ready? まずはこの曲だ~!」世界中の人達に愛されているアノ曲のイントロが!もはや説明不要の神曲「CHA-LA HEAD-CHA-LA」だ!森雪之丞のインパクトある歌詞に合わせてのコール&レスポンス、PPPHの手拍子、CHA-LA HEAD-CHA-LAの大合唱……大人が失いかけた冒険心をいつも呼び覚ましてくれる。そして理屈抜きで楽しい!そして影山のパンチの効いた、そして上昇気流の様な突き抜けるヴォーカルがこの曲には不可欠だ。そしてKUKOのブ厚いコーラス。オーディエンスは当然大熱狂!
 
そしてファンにはお馴染みのSFチックなイントロに会場の熱はさらに高まる。熱血系アニソンシンガーとも称される影山の代名詞的な「HEATS」だ。「もし1985年にこの曲が自分に託されなかったら、かなりの確率でここにはいなかったと思う。久しぶりに世の中が俺に気づいてくれた……」と。LAZYでの華々しい活躍後に苦戦したのち、再びメインストリームに復帰するきっかけとなった戦隊シリーズを4曲メドレーで披露される。ブラスロックの様なアレンジで「電撃戦隊チェンジマン」「光戦隊マスクマン」「鳥人戦隊ジェットマン」と3曲がメドレーで続き“ハッピーな曲を聴いてください”のコールから都会的で美しい旋律がまさにA.O.R的な「こころはタマゴ」で戦隊シリーズの最後を締める。
 
JAM Projectのツアーが秋から始まることなどがファンに報告され、「こんな絵に描いたようなアニソンがあっていいのか?!今でも世界一のアニソンを作るのはつのごうじさんだと思っています」と影山の前振りから低い和太鼓と尺八を交えたようなミステリアスなイントロ聴こえてくる「鬼神童子ZENKI」だ。前サビの“ヴァジュラ オン ヴァジュラ オン”、更にBメロの“吠えろZENKI ZENKI”でオーディエンスが拳が突きあげる。1曲の中に2種類のサビがあるかの様な見事な曲構成だ。間奏も合わせると曲の殆どの部分で拳が突き上げられるというエネルギッシュなナンバー。影山は何度も強力なシャウトを放ち、会場の温度が2℃ぐらい上がったはずだ!
 
間髪入れず名曲「聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~」へ突入。約30年前の曲だが、何度聴いても色褪せない輝きを放つ曲。「鬼神童子ZENKI」~「聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~」の流れは、影山が熱血系アニソンを軸に90年代に行っていたPOWER LIVE時代を呼び起こす。勿論、その当時の力強い歌唱は全く衰えていない。キーも変える事なく、抜群の声量・パンチ力も未だ健在だ!「LAZYを解散してからあと1年続けられるかな……そう思いながら年間120本ぐらいのツアーを行っていた時期があった。チェンジマンというチャンスを与えてくれて56歳なった今でも現役で歌える、最高です」と影山は噛み締めるように語る。そして弾き語りで宇宙船サジタリウスのED主題歌「夢光年」を、オーディエンスと共に歌う影山。名作詞家の阿久悠の美しい歌詞がホールに響き渡る。

◆影山ヒロノブ Official Website
http://airblanca.com/
 
◆Setlist
M01. Beginning
M02. 甘く危険な夜に
M03. Mr.Travelin’ Man
M04. Life without you
M05. She’s trouble & I’m such a fool!
M06. おーりとーり
M07. Home~僕の大切な人達へ~
M08. CHA-LA HEAD-CHA-LA
M09. HEATS
M10. 電撃戦隊チェンジマン~光戦隊マスクマン~鳥人戦隊ジェットマン
M11. こころはタマゴ
M12. 鬼神童子ZENKI
M13. 聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~
M14. 夢光年
M15. 赤頭巾ちゃん御用心
M16. 愛には愛を
M17. 二人の宝島
M18. Hey,I love you!
EN1. Stellar Compass
EN2. 感じてナイト
EN3. 宇宙は僕らを待っている

◆Live Information
JAM Project JAPAN TOUR 2017~2018
“TOKYO DIVE”

2017.11.02 THU 神奈川公演
2017.11.05 SUN 大阪公演
2017.11.23 THU 宮城公演
2017.11.25 SAT 北海道公演
2018.01.06 SAT 岸和田公演
2018.01.13 SAT 埼玉公演
2018.01.14 SUN 静岡公演
2018.01.21 SUN 福岡公演
2018.02.03 SAT 沖縄公演
2018.02.11 SUN 愛知公演
2018.02.17 SAT 日本武道館公演
Act Against AIDS 2017
「アニソン AAA Vol.6〜JAM Projectとゆかいな仲間たち〜」

2017.12.01 FRI Zepp Tokyo

 
上手からレトロなオルガンがステージに運び込まれる。そう、今日のもう一人の特別ゲストLAZYポッキーこと井上俊二(以下井上)が登場し大歓声が上がる。レコード会社の社長として超多忙な日々を送る井上も、影山と同じくデビュー40周年であり、現役のミュージシャンだ。学生時代の同級生が同じステージでデビュー40周年を迎えるなどという事は、一般人の私からするとまさに奇跡としか言いようがない。
 
「今年の年末はLAZYですよ。今日はそこでやりにくい曲をやろう」と影山が言ったLAZYの最大のヒット曲「赤頭巾ちゃん御用心」だ。井上のオルガンのイントロを待ちわびていたかのように大きな手拍子が起こる。アイドルのような軽快なステップを刻みながら歌い、抜群の演奏力の中にアイドルコンサートのような楽しさが加わる。そして「愛には愛を」へ続く。先程までの楽しい雰囲気がグッと引き締まり影山の歌にも思い切り感情が込められる。
 
「レアなとこいくぞー」と「二人の宝島」が村上のスラップベースからスタート。続いて井上が、「LAZYはもう2人亡くなってしまったのは悲しいんですけど、その分影山クンにはずっとLAZYをずっと歌い続けてもらおうと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いします」と挨拶。「1コーラスやれば心の底から楽しめますので!1977年7月25日リリースHey I love you!」と影山はデビュー曲の紹介を行う。当時を知るファンの記憶が、青春のキラメキが、アイドル時代の影山を知らない若いファンを巻き込んでゆく。そう理屈抜きのHAPPY TIMEだ!そして大きな拍手と歓声に応えながら演者達は一度ステージを去る。
 
すぐにアンコールが要求され主役がステージに舞い戻る。影山が一番伝えたいのは“感謝”だという。そして「チェンジマンの時にコロムビアのみんなが助けてくれなかったら、JAM Projectもなかったと思う」と感謝の気持ちを滲ませながら振りかえる。アンコールの1曲目はアルバム『A.O.R』からID-0のED主題歌「Stellar Compass」が弾き語りで披露され、会場の照明が光を取り戻しバンドメンバーの紹介が行われる。彼らは桁外れの曲数を、高い技術で演奏し続けてきたアニソン界の歴戦の勇者たちだ。そして影山の“ポッキー”の声と共に井上がマイクを持って中央から再登場。
 
井上も演奏に加わりオルガンでJohn.Lordの様な雰囲気を放ちながらLAZYの「感じてナイト」へ突入してゆく。アレンジはリメイクされた「感じてknight」に近い重量感あるサウンドだが、歌詞は紛れもなくオリジナルの「感じてナイト」だ。今日一番照明が華やか……というよりハデ!で、再結成LAZYの時の様なヘヴィメタリックな雰囲気だ。影山は重たいグルーブに身を任せながら、時よりマイクを客席に向け、ステージを最高に楽しんでいる。そして最後は年齢に負けないとばかりのハイジャンプで曲を締める。そして今「今日コーラスをやってくれている戦友です」とKUKOが紹介される。ドラゴンボールZでデュエット曲を発表したこともある、欠かせないメンバー。

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2008年からJAM ProjectがNo Borderをテーマに掲げて精力的に海外でも活動を行っているのだが、影山は言う「海外にも沢山の友達がいるけれど、10年間1度も裏切られたことはありません。未来の為に世界中が今よりずっとハッピーな未来が来るように、僕はアニソンを歌い続けます」と感情を押し殺すように、そして力強く語る。そして今日の本当に最後の曲へ。
 
「僕はJAXAから依頼されて曲を作ったことがあります。世界中のどこでも争いは絶えないんですね。でも宇宙から見ると地球は凄く小さいんですね。そんなとこで、そんな事をやっている場合かよ人間っていう気持ちで作った曲です。最後に宇宙は僕らを待っている~!」影山はアコギをかき鳴らしながらシャウトというより“心の底からの叫び”というような咆哮を放つ。サビの部分では恒例となった手話が行われる。同じ人間・同じ仲間達で手を取り合おうというメッセージを実現したものなのかもしれない。
 
そして影山の「ありがとー!!」とウルトラZな感謝をオーディエンスに伝え今日最後の曲に幕が下ろされる。大歓声・大拍手が鳴りやまない。井上遠藤、音響・照明などのスタッフにも大きな拍手が送られる。最後の最後に影山は「また会おうね、愛してるよ!」と精一杯の謝意を伝える。
 
40年間の音楽活動を凝縮した164分の公演はこうして幕を閉じたが、大切なことを書き忘れていた。“影山ヒロノブさん、デビュー40周年おめでとうございます!!”これからもアニソン界を牽引し続けるであろう影山の大活躍を期待せずにいられない。

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【レポート】影山ヒロノブ 2015年ソロアコギの旅 8月「島根 松江」編
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【レポート】JAM Project 15th Anniversary Premium LIVE THE STRONGER’S PARTY
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【PHOTOレポ】影山ヒロノブ バースデーライブ2014
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