何も考えず、ただ世界に身をゆだねよ
驚きのパンク映画が完成し、3月5日から劇場公開がはじまる。監督は、自身もパンクロッカーである島田角栄。出演者のラインナップを見れば、驚きも納得できるはず。松本さゆき・大塚明夫・内田春菊・遠藤ミチロウ・鳥肌実・古市コータロー(ザ・ コレクターズ)・森若香織・河瀬直美・石坂マサヨ(ロリータ18号)・、SHINGO☆西成・リカヤ スプナー・アツシ(ニューロティカ)・コザック前田(ガガガSP)・南部虎弾(電撃ネットワーク)・安藤八主博(ザ・たこさん)・流血ブリザード・ミラ狂美・月花・飯倉えりか・デカルコ マリィ・ラブセクシーローズ(西口プロレス)・溺れたエビの検死報告書・川本三吉(劇団 犯罪友の会)・西原由紀・中井正樹。
全員をよく知る読者は居ないだろうし、もちろん私もわからない。しかし、 お!と思うような名前が数多くあることも事実だ。本誌BEEASTでは、お馴染みのアーティストである遠藤ミチロウ。そして本誌コラムニストの森若香織。ニューロティカのアツシや、ロリータ18号の石坂マサヨが出ていることも興味深い。個人的には、ラブセクシーローズの名前に驚いた。数年前に「西口プロレス」の面白さにハマっていたことがあるのだ。そして日本のサブカルチャーシーンを沸かしている鳥肌実や、内田春菊といった面々が、演じるムービーとなれば、期待度は100%を超えてしまうだろう。予告編の動画をぜひ観てほしい。そして3月は劇場へと足を運んで破壊の120分を楽しんでもらいたい。
だからと言ってこの作品が、単に過激でエキセントリックな演出によって人々を驚かせ、これ見よがしに「前代未聞の衝撃作」を気どるつもりもないことは、少しずつ分かってくるはずだ。『デストロイ・ヴィシャス』の根底にあるテーマは「渇望」である。
理不尽な運命に翻弄されながらも必死で自分の居場所を見つけようとする、どこにでもいる人間達の、ありふれた、しかし切実な「もがき」のドラマ、それこそがこの映画の本流なのだ。だからこそ、何も考えずに見て欲しい。頭をカラにして、この風変わりな世界に身をゆだねて欲しい。そうすれば、いつしかあなたの「生」は、矛盾なく、そして澱みなく、真っ直ぐに肯定されていることだろう。
「組長の命が狙われている」と勘違いした新見は、子分の斉藤とともに敵対するヤクザの組員を10人殺害してしまう。敵対する組のお尋ね者になったあげく、自分の組にすら見放された新見らは、行き場もないまま闇雲に街中を逃げ回っていた。
そんな折、新見は聾パンクロッカーのマリアと出会う。複雑な家庭の事情を抱え、マリアもまた自分の居場所を失っていた。
ふたりは出会った瞬間から、不器用にしか生きられない者同士の親密な心のつながりを感じる。しかし、愛をあきらめていた彼らがようやくお互いを愛おしいと感じ始めたのも束の間、新見を狙う刺客が次々とあらわれ、ふたりは血にまみれた抗争に巻き込まれていく。
阿修羅のごとき姿に武装した新見が最後の死闘を演ずるクライマックスでは、架空の街、ネオオオサカシティーの上空に、あの伝説のネックチェーンのベーシストが蘇る。そのベースに呼応するように、マリアのかきならす激しいギターが絶望的な叫びをあげ、愛しき者への祈りを捧げるのだった。
そして崩壊のきらめくカオスの中で、ふたりの物語はせつなすぎる神話になる……。
さらに、大塚明夫、鳥肌実、遠藤ミチロウ、河瀬直美といった、役者畑以外のステージでもカリスマ的存在として大活躍している魅力的な俳優陣が多数出演しており、作品に奥行きと深みを持たせている。
監督・脚本は、パンクスピリッツを掲げ、映画の世界に独自の道を切り開き続けている大阪出身の島田角栄。なお、この映画は全編大阪にて撮影された。島田が地元大阪の地に生み出したネオオオサカシティーという不可思議な架空の街が、映画の疾走感を高めている。
【渋 谷】2011.03.05(土)~3週間:ユーロスペース/レイトショー
◆Destroy Vicious 公式サイト
http://punkfilm.net/destroy/