グイド・コンティーニと彼を取り巻く9人の女性たちとのさまざまな愛。それが『Nine The Musical』の描く世界。
『Nine The Musical』は、1963年にイタリアで生まれた映画『8 1/2(はっかにぶんのいち)』を原作にして制作されたブロードウェイ・ミュージカルです。1982年の初演時にも2003年の再演時にも、数々のトニー賞部門賞を受賞したこの作品を、今回は演出家のG2が総指揮。ブロードウェイ版『Nine〜』に大胆に手を加え、日本人が観ても楽しめる作品へと昇華させました。
そして、主人公・グイドを演じるのは松岡充(以下松岡)。ご存じ、SOPHIAのヴォーカリストです。G2いわく、彼は「音楽をやっている人がミュージカルなり舞台に出るという点において、とても可能性を持った人」。かつ、広い音域を持つ松岡がグイドにはぴったりなのだとか。それだけ作品中に奏でられる楽曲の音域も広いということ。バンドのヴォーカリストとしてだけではなく、2002年のドラマ出演以来、俳優としても注目を集めている松岡がグイドをいかに演じるのか、期待が高まります。
舞台はイタリア。人気映画監督・グイドは創作活動に行き詰まり、妻であるルイーザ(新妻聖子)との仲も危うい状態に。ルイーザは、グイドに愛人・カルラ(シルビア・グラブ)がいることを知っていたし、これまで彼の映画で度々主演を務めたクラウディア(貴城けい)も…。そんな状態にあるグイドとルイーザが新作のアイデア出しと夫婦の仲を修復するために訪れたのはヴェニスのスパ・リゾート。そこで穏やかに過ごすはずが、カルラやらスパレディ(樹里咲穂)やらプロデューサーのラ・フルール(紫吹淳)やら評論家のネクロフォラス(寿ひずる)やらクラウディアやらが次々とヴェニスを訪れます。
もがくグイドはいつしか自身の内面世界に心を奪われ、現実世界で彼を取り囲む女性たちのみならず、亡き母(今陽子)や少年時代に出会った娼婦(浦嶋りんこ)までもが頭の中で語りかけてくるように。そんななか、クラウディアのひとことをヒントにプレイボーイ・カサノバを新作のテーマにチョイス。最近お気に入りの新人女優・マリア(入絵加奈子)を加えて撮影が始まるのだが…。
さて、今回の舞台。ミュージカルですから、当然さまざまな楽曲が登場します。自己紹介的な曲であったり、そのときの状況を表す曲であったり。印象的だったのは、「ONLY WITH YOU」。グイドがルイーザ、カルラ、クラウディアという3人の女性のことを甘い歌声で歌い上げました。そして、2幕最初にクラウディアとともに歌う「A MAN LIKE YOU」では、優しくも力強く。その後の「UNUSUAL WAY」は堂々と。
1幕から2幕の「A MAN LIKE YOU」まで、女性から見ればグイドは移り気でいかにもヘタレなダメ男といった体。ルイーザとは別れたくないけど、カルラもクラウディアも大切で…。ラ・フルールには新作の脚本はできていると豪語。じつは、テーマすら決まっていないのに。そんなグイドが一変するのは、「A MAN LIKE YOU」後。新作のアイデアが出てからです。グイドの自信が感じられた「UNUSUAL WAY」。この曲を歌う松岡の動きからも歌からも、それが感じ取れました。
さらに物語は進み、終盤の「LUISA’S EXIT」「I CAN’T MAKE THIS MOVIE」を強い調子で奏でた松岡。その強さは、グイドの自分自身への怒りでもあり、悲しみでもあり。そのあとには亡き母がグイドへのメッセージを届けるのですが、このときのグイドは一瞬にして子供のような表情に。歌は松岡の本分だけに、そこにグイドの感情を乗せることはそう難しいことではなかったかもしれません。でも、芝居部分にまでも、彼の表現力は存分に生きていて。これがG2いうところの彼の可能性なのでしょうか。とにかく見事にグイドを演じていた松岡でした。
ところで、今回の舞台でもっとも特徴的なのは、出演者が松岡と9人の女性、少年時代のグイドを演じる吉井一肇(※加藤幹夫とのダブルキャスト)のみだということ。本来はアンサンブルがこなすべき役割までも彼女たちが担います。コーラスだって、もちろん彼女たちが。9人の女性どの人をとっても、歌、芝居ともに素晴らしいのはいうまでもありません。また、華やかさも十分。特に、パリのレビューショーを思わせる「FOLIES BERGERES」は華やかさが際立った1曲でした。メインをとったラ・フルールを演じる紫吹淳とネクロフォラスを演じた寿ひずるは宝塚歌劇団の出身。ということもあってか、ラストはズラリと並んだ9人の女性の背中に宝塚歌劇のフィナーレよろしく大きな羽根飾りと大階段とが見えるような気がしてしまったり。もちろん、そんなものはありもしないのですけれど。それくらい華やかで圧巻の1曲だったのです。
現実世界と妄想とが入り交じる2時間30分を演じ終え、カーテンコールにはリトル・グイドと手をつないで登場した松岡。最後はオーケストラメンバーもステージに上がり、全員が横一列に並んでつないだ手を大きく掲げました。そして、舞台を去り際。松岡はチラリと客席を振り返ってニッコリ。グイドから松岡その人に戻った瞬間でした。
さて、この日は終演後にキャストによるアフタートークイベントを開催。貴城けい(以下貴城)、入絵加奈子(以下入絵)、浦嶋りんこ(以下浦嶋)が登場して、本作についてのトークを繰り広げました。もしも自分の夫や彼がグイドだったらと問われた貴城は「締め上げます」とバッサリ。そして、もしも自分の夫や彼が松岡だったら? というQ.には浦嶋が「ワタクシ的にはもちろんOKです」、入絵は「いい!」とひとこと。また、今回のミュージカルで一番難しいのは、「やっぱりコーラスが…。あまりやったことがないので、これは大変」(貴城)「八百屋舞台(※注1)」(入絵)「歌唱法がクラシカルで発声から違うので、勉強になりました」(浦嶋)とのこと。最後は、貴城が『Nine〜』について「観てる人の感性によって捉え方は違うし、かめばかむほど、観れば観るほど…っていう舞台ですね」と締めくくってくれました。
※1 ステージ奥から前方に向かって傾斜がつけられた舞台の造りのこと。
ACT1
01. OVERTURE
02. AFTER OVERTURE
03. NOT SINCE CHAPLIN
04. GUIDO’S SONG
05. MY HUSBAND MAKES MOVIES
06. A CALL FROM THE VATICAN
07. ONLY WITH YOU
08. THE SCRIPT
09. FOLIES BERGERES
10. NINE
11. TI VOGLIO BENE/BE ITALIAN
12. THE BELLS OF ST.SEBASTIAN
ACT2
13. A MAN LIKE YOU
14. UNUSUAL WAY
15. CONTINI SUBMITS
16. THE GRAND CANAL
17. EVERY GIRL IN VENICE
18. AMOR
19. ONLY YOU
20. THE GRAND CANAL FINAL
21. SIMPLE
22. BE ON YOUR OWN
23. LUISA’S EXIT
24. I CAN’T MAKE THIS MOVIE
25. GETTING TALL
26. REPRISE
『Nine The Musical』
キャスト:松岡充 貴城けい 新妻聖子 シルビア・グラブ 樹里咲穂 入絵加奈子 浦嶋りんこ 今陽子 寿ひずる 紫吹淳 ほか
Musician:松田眞樹(ピアノ) 岸倫仔(ヴァイオリン) 千葉伸彦(ギター) 萱谷亮一(パーカッション) 古本大志(チューバ&ベース) 佐藤史朗(アコーディオン)
スタッフ:アーサー・コピット(脚本) モーリー・イェストン(作詞・作曲) G2(演出・訳詞・上演台本)
公演日程:
東京公演:2009年12月11日(金)〜27日(日)@ル テアトル銀座
全席指定12,000円
大阪公演:2010年1月9日(土)〜10日(日)@シアターBRAVA!
全席指定S席12,000円、A席9,000円
主催:テレビ朝日(東京公演のみ) Quaras
企画・制作:Quaras
特別協賛:加美乃素
オフィシャルサイト:http://nine9.mu/