新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界で猛威を奮う中、音楽が生まれる中心地・ライブハウスが苦境に立たされている。3月上旬、新型コロナウイルス感染症患者が大阪市内のライブハウスを観客として訪れ、不特定多数の人間と接触していたことが判明すると、ライブハウスがコロナの感染源であり諸悪の根源であるかのようなバッシングがなされた。さらに、新型コロナウイルスの感染者数が増加の一途を辿ったことから、大勢の客が密集するライブハウスは営業自粛を余儀なくされた。4月7日に政府が緊急事態宣言を発令する直前の4月上旬頃から、全国のほとんどのライブハウスが観客を入れての公演を当座全て中止し、書き入れ時とも言える5月の大型連休も音楽は止まったままになっている。
営業自粛が続く中、東京のライブハウス界隈では「3.11のときよりもひどい状況」という声がよく聞かれる。そういえば3.11のまさに当事者たる東北のライブハウスでは、今のこの事態をどう捉えているのだろう。ふと疑問がよぎった。「3.11で弱ったところにさらに大打撃を喰らっている」のか、「3.11を乗り越えたからこその英知がある」のか。被災地と一口に言っても、宮城の沿岸部と中心地・仙台とでは事情が異なるし、また福島でも事情が異なる。勢いのあるバンドの全国ツアーを数多く組むハコと、地元ミュージシャンに深く愛されるハコとでも、事情は異なるだろう。
今回、本誌BEEASTでは岩手・宮城・福島のライブハウスを対象に緊急アンケートを実施。8店舗からの回答協力を戴くことができた。現場のリアルな声を、以下にまとめる。
【質問1】
店舗の開業年月を教えてください。
【質問2】(質問1で2011年3月以前とご回答いただいた場合)
3.11東日本大震災時にも公演中止や一時的な売り上げダウンがあったように思います。9年を経た今、当時を振り返って印象的なことや、「これがあったから困難・危機を乗り越えられた」というものがあれば教えてください。
【質問3】(質問1で2011年4月以降とご回答いただいた場合)
開店後、「東日本大震災の影響」を感じることはありましたでしょうか。
(ポジティブな面、ネガティブな面、それぞれありましたらお願いします)
【質問4】
今回のコロナ禍による公演中止は3.11の比ではないと思われます。まず売り上げ面に関して、3月、4月、それぞれについて前年同月と比べた落ち込み(何%ほどになっているか、ざっくりした数字で構いません)を教えてください。
【質問5】
引き続きコロナ禍に関して。来場者数(公演の動員数)については、個々のライブハウスによりご事情も異なろうかと存じます。2020年3月以前の来場者について、元々抱えていた課題、数年前と比較した多寡など、特筆すべきことがありましたら教えてください。
【質問6】
コロナ禍に関して。3月上旬に大阪のライブハウスでの新型コロナウイルス感染者の来場が判明した際、報道直後にライブハウスが感染源であるかのようなバッシングがなされました。東北地方においても「ライブハウスへの世間の冷ややかな目」「バッシング」のようなものを感じる(あるいは実際に起きた)ことはありましたか?
【質問7】
コロナ禍に関して。3月以降、ライブハウスでの感染拡大防止に関して(消毒、換気など)具体的に行ったことを、細かいことも含めて教えてください。
【質問8】
全国への非常事態宣言発令を受けて、現在は営業自粛を余儀なくされているライブハウスがほとんどです。5月以降の公演再開に向けて、現段階(アンケートをご回答頂いている段階)ではどのように準備・検討など行っていますか。
【質問9】
営業自粛中の売り上げ確保のために行っている具体的な取り組み、工夫があれば教えてください。(本質問の最後に、告知スペースは別途設けますので、具体的なものはそちらに書いてください)
【質問10】
東日本大震災を経験したからこその、「コロナ禍」を乗り越えられるもの(知見・情熱など)がある、と感じますか。またそれは具体的にはどのような内容ですか。
(2011年3月以降に開店した店舗の方におかれましては、前職などのご経験を踏まえて、という内容でも構いません)
【質問11】
今年3月以降に実際に聞いた、観客や出演者、スタッフからの声で、特に本記事を通じて広く紹介したいものがありましたらぜひ教えてください。また、「音楽の力」を感じるエピソード、言葉などありましたらあわせてご教示ください。
【質問12】
コロナ禍を通じて改めてお感じになる「ライブハウスの意義」とはどのようなものですか。
※上記質問項目の回答をもとに文章を構成しております。一部表記を改めたカ所があります。
当店は2014年5月の開店なので、東日本大震災の影響を感じることは特にありません。今回のコロナ禍による公演中止の影響は、対前年売り上げで3月が10%、4月が0%です。ただし3月以前の状況を振り返ると、集客については特にコロナの影響で下がったと感じたことはありません。イベントを開催すればお客様はご来場すると感じました。一方、ライブハウスへのネガティブな反応もありました。ライブがなくなり、「ゲネなどで使用してほしい」とツイートしたところ、「目の前の利益ばかり追って危険を犯してる、このライブハウスには絶対行かない、名前覚えておこう」と引用リツイートされました。
3月以降、ライブハウスでの感染拡大防止についてはオープン前と閉店時にホール内を消毒しているほか、ご入場される方全員にご入場時に手の消毒を行っています。スタッフ全員、マスク着用必須としています。5月以降の公演再開に向けては、お客様を入れての公演は厳しいと思っておりますので、無観客配信ライブのブッキングを行っております。無観客配信ライブを行って下さったバンドさんが、ライブを自粛していたけど、久々に大きな音を出してステージに上がって、自分がバンドをやってるんだ!ライブをやってるんだ!と改めて嬉しく感じたと仰っておりました。その他、営業自粛中の売り上げ確保のために行っている取り組みとしては、ゲネを始め、使い方を限定せず、低価格でホールレンタルを提供しています。さらに、5月1日より独自にクラウドファンディングを始めます。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問ですが、震災と今回のコロナに関しては全く別物と考えています。震災時は全国から東北を応援しようという風潮があり、背中を押して頂きました。個人としてもどうにかできること(前職も音楽関係でした)を考えて実践し、ある程度の結果は出たと思います。しかし、今回のコロナは全国、全世界の問題となっておりますので、正直なところ、営業自粛などを行い、収まるまで待つしかないと思っています。個人的にも自分の家族に感染させてしまったら…など心配な面の方が多く、おとなしくしているしかないのかなと感じてます。
(回答者:店長・北原広望氏)
「MACANA」の開業は1996年6月です。東日本大震災により、ビルの取り壊しが決まり移転を余儀なくされました。震災の影響で業者の手配も難しい中、手に職を持ったバンドマン達により2011年10月、施工より2カ月という速さで再オープンできました。たくさんの手助けしてくれる人がいたから危機を乗り越えられたと思っています。
今回のコロナ禍による公演中止の影響は、対前年売り上げで3月は半分以下、4月は自粛により公演が行えておりませんので0です。3月以降、ご来場のお客様に新型コロナウィルス感染予防・拡散防止への協力をお願いしました。具体的には手洗い、うがい、マスク着用、咳エチケットの徹底と、体調のことなど質問票の記入依頼です。開場前の消毒も毎回行いました。バッシングなどは特にありませんでしたが、同じことがライブハウスだけではなくどの場所でも起こりうることだと思いますので、感染拡大予防のさらなる徹底をいたしました。
4月下旬、「MACANA」の看板に応援のメッセージの張り紙がありました。すごく勇気付けられました。ありがとうございます。
非常事態宣言が解除されてすぐ営業開始できるとは到底思えません。5月以降の再開が全く見えておりませんが、すでに決まっているライブハウス主催の公演に関しては1カ月前を目処に開催の有無を検討しております。新規の公演に関しては営業再開の目処がたってからになるのではないでしょうか。営業自粛中の売り上げ確保のために、オリジナルグッズの販売、LINEスタンプの販売、無観客配信を行っています。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問ですが、自分の身内も含め、震災でたくさんの方が亡くなりました。会場も物理的に使用できなくなってしまったため、震災の時はとにかく必死で、乗り越えようという感覚はあまりありませんでした。今は会場も使用は可能ですし、歯がゆい気持ちではありますが今はインターネット上で可能な営業でなんとか生き延び、再開できる日を待つしかないかと思っております。
(回答者:店長・佐藤岳史氏)
オリジナルグッズの販売:https://mcn.theshop.jp/
LINEスタンプの販売:https://store.line.me/stickershop/author/315849/ja
Youtube Liveにて無観客ライブ:https://www.youtube.com/user/takec0314
当店の開業は2004年です。それ以前は音楽企画事務所とリハーサルスタジオをやっていて、16年前に改装してライブハウスにしました。
東日本大震災の直後には東京や大阪などのバンドマン、知り合いがたくさん連絡をくれました。ライブハウスだと「新宿ロフト」や「大阪ファンダンゴ」が連絡をくれて、すぐにイベントを組んでくれました。また、OTOTOYには「Play for Japan in Sendai」を開催してもらい、すごく助けてもらいました。
売り上げ面に関しては、3.11の際や昨年同時期と比べるどころか、今年は売上がほぼない状態ですね…2月の後半まではイベントを開催していて、コロナの話題にはなってましたが動員にはまだ影響なかったです。うちは3月から、ほぼ延期または中止になってしまいました。ちなみに感染拡大防止の対策としては、演者、スタッフ、お客さん、全ての人達に検温と消毒をしてもらってから入場してもらいました。マスクも用意していたので、持っていない方には配りました。本番中は間隔をあけて見てもらうようにアナウンスしたり。ステージ転換中はステージ側と入口の扉を開けて換気しました。うちは地下じゃないので換気はしやすいです。
「ライブハウスへの世間の冷ややかな目」という質問についてですが、ニュース報道されてからライブハウスという場所が一般的に認知されたという印象を持っています。店の前にいると普段話しかけてこない人が声をかけてくれたり。「大変だねーがんばって」的な。ライブハウスが悪者のように扱われている状況を、気の毒に思ってくれている人も多いと思います。
今後の公演ですが、今のところ5月は全滅しました。6月も半ばまでキャンセルになってます。夏までには地元バンドから徐々にライブ再開できればと考えています。ツアーで来てもらうのは、もっと時間がかかるかもしれませんね。
休業中の売り上げ確保としては、ありがたいことに、いくつかのライブハウス支援のプロジェクトに登録させて頂きました。それとグッズも制作しているので店頭やオンラインストアで販売予定です。
「コロナ禍」は先が見えなさ過ぎて乗り越えられるか不安ですが…3.11の時もですが、結局は「ひと」ですね。助け合い。ひとりじゃ何もできないです。今は毎日仲間とたくさん電話したりメールしたり。そうすることでやる気だったりアイデアが出てきますよね。今年は震災復興イベントなど全て中止になってしまったのが無念だと話す人もいます。来年は東日本大震災から10年ですから、きちんと供養できる状況になっていることを願います。
(回答者:店長・佐々木章宏氏)
「BARTAKE」は小規模なライブスペースのため、元々来場者はそれほど多くありません。その分、長く滞在して楽しめる環境づくりをしています。地元のアーティストの底上げや、育成を狙ったブッキングが中心のため、アーティストの成長に沿う形で場数を踏めるように工夫しています。たとえ集客が少なくても継続して活動していけるようにサポートしています。
いつお店がスタートしたという明確な日がないのですが、以前のオーナー経営時に機材・楽器持ち込みでイベント制作をスタートしたのが2009年秋頃からで、ステージを作り機材を常設したのが2013年10月からです。
東日本大震災発生時には約1カ月、電気もストップしイベントができない期間がありましたが、4月下旬に全国のアーティストを集めた、自分としては大きなイベントを控えていて、会場のライブハウスが入るビルの営業再開がギリギリ間に合って、ライブの開催が実現しました。その日出演予定だったアーティストは、高速道路もストップ、ガソリンスタンドなども営業してなかったり、遠征をするには厳しい時期だったにもかかわらず、1組も欠けることなく出演してくれて、満員の会場で迎えることができました。「被災地でライブができるようになったら、必ず駆けつける」という熱い気持ちが、全てのアーティストから伝わってきました。行動を起こすことが、活力になっていた時期だったと思います。
一方、今回のコロナ禍の影響ですが、3月はまだギリギリ開催可能な雰囲気もあり、本数や出演者・来場者は減ったものの多少の稼働があり、前年比60%減でした。4月はライブをすること自体が難しく、前年比90%減です。ライブハウスでの感染拡大防止については入場時の消毒、空気の入れ替え、咳エチケットの徹底を行っています。
「ライブハウスへのバッシング」という質問項目に関してですが、アーティスト側ではなく、働きながら音楽活動をしている方は職場からの反対や、医療関係や教職員など職業柄、学生は家族からの反対などがあるようです。本人の意思よりも周りからの風当たりが強く、ライブをしたいけれども今は難しい、音楽をやっていることを周囲に言えない、ということで活動を休止せざるを得ないミュージシャンが多い印象です。
音楽を生業にしている人は配信や支援活動など発信できますが、地元のアマチュアが大多数なので、そもそもライブハウスに行ってはいけない、という空気、そう言わざるを得ない周りからの圧力が強いように思います。
今後の公演再開に向けて、店としては営業できる状態なのですが、公演はおそらく再開できないと思います。現状で、8月頃までのホールレンタルは全てキャンセルになりました。ブッキングは主に地元のアーティスト(働きながらの方)が中心なので、今はお誘いも迷惑になってしまうように思います。ブッキングができないので、新たな公演は増やせません。5、6月に弾き語りで全国を回っているシンガーソングライターのブッキングが何日か決まっている以外はストップしており、残念ながら、決まっている日も徐々にキャンセルの連絡が来ています。
営業自粛中の売り上げ確保の取り組みとしては、有料配信のシステムを整えて、通販や投げ銭と並行して出演できる方を募っています。しかし、そもそも「ライブハウスに行ってもいい」という雰囲気にならないと、アマチュアミュージシャンはたとえ無観客配信でも動きづらいし呼びかけもしづらい状態です。
まずは店舗維持のために、3月の段階で銀行からの借り入れを行い、当面の固定経費の支払いに充てる資金は確保しました。その後、政府の無利子無担保融資の受付が始まった段階でそちらも申請中です。個人経営なので、自分個人の借金でカバーできる範囲は自力で工面して、夏くらいまでの固定経費は払えるくらいの額を借りました。
今は全ての業種で厳しい状況だと思いますし、仕事ができず収入がない方も周りにたくさんいますので、支援だけに頼りきらずまずは自力でできることから進めています。
経営支援の補助金や公的助成金で活用できるものは積極的に申請し、支払いも極力滞りなくできるよう可能な限り借入額も多めに。ただ、ライブが再開できない状態が夏以降も続くと、返済が厳しくなってくるので別の方法も考えていきます。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問ですが、音楽そのものの力というよりは、音楽に携わる人たちの力、エネルギーがものすごいということは震災の時も目の当たりにしました。自分自身も、20年ほどですが音楽の仕事を続けてきて、どんな苦境も必ず乗り越えられると思って今までもやってきたので、この状況も同じ気持ちで続けるのみです。
全国を旅をしながら毎日唄を唄っている、音楽を生業にしているシンガーソングライターの方々と接する機会が多いのですが、「どんな状況であれ自分は唄うことしかできないから」と、いつもと変わらず明るく元気にライブハウスのステージに立つ姿に勇気づけられます。自分は、たとえ1人でも歌いに来るアーティストがいる限り店は開けて待ってる、という気持ちでいます。
小さなライブハウスで、他の大きなハコのダメージに比べたらまだまだ耐えられる規模だと思います。その分、今なにか行動したい、アクションを起こしたい、メッセージを届けたいという方を精一杯サポートしていきたいと思っています。配信などを通して全国へ音を発信していきたいというアーティストの方がいたら、ぜひ声をかけてください。一緒にがんばりましょう。
(回答者:代表・高橋 “takke” 剛史氏)
ツイキャス配信:https://twitcasting.tv/sendaibartake
通販サイト:https://bartake.thebase.in/
Youtube(イベント制作のTAKE UP SEEDアカウント):
https://www.youtube.com/c/takeupseed
「ラ・ストラーダ」は2003年11月に石巻市中央2丁目にて開業し、2011年6月に石巻市立町2丁目に移転し翌月営業を再開しました。旧店舗は河口から約1キロに位置していました。2階にあったため、浸水は免れたものの5月半ばまで機能停止し、全公演中止でした。5月半ばから6月にかけて、ボランティア団体主催のライブ1本、予定されていたライブ2本を投げ銭で行った後、家主から立ち退きを要求され、現在地に移転しました。7月以降、月2、3本のペースでライブ営業を行い、徐々に本数が増えましたが、震災前に比べて入場料が500円から1000円低く、2020年冬の時点でもその傾向があったように思います。
震災以前に盛んに活動していた地元のアマチュアミュージシャンたちが様々な理由で活動を休止しました。ライブイベントの開催が困難になり大幅な減収でした。震災後は、地域で練習スタジオが不足するため、ライブのない日は練習スタジオとして貸し出し、彼らの音楽活動を支えると同時に店の収入源の一つとしてきました。向き合ってきた問題は、地方都市特有の問題であったり、日本の音楽界隈が直面する問題であったり、様々です。震災の経験はその一つの要素であり、「乗り越える」対象とは考えていません。
今回のコロナ禍による公演中止の影響は、対前年売り上げで3月が50%くらい、4月がバンド練習のスタジオ貸しも含めて100%減です。大家さんの計らいで、5月から3カ月間、家賃を半額に減額してもらっているため、大変助かっています。たまにお手伝いを頼みますがスタッフは二人のみ、椅子最大50席と規模もあまり大きくなく、設備は最小限のため、維持費は比較的低く抑えられています。
2020年3月以前の来場者については元々、ずっと横ばいかジリ貧な集客です。開店時より、店主は平日日中のパートタイムの職を持ち、糊口を凌ぐと共に店を維持してきました。ほぼ利益の出ない営業内容ですが、良質の環境で好きな音楽を楽しむ経営方針をかろうじて保持してきました。
ライブハウスに対する批判として「こんな状況でライブを開催するのか、中止にしないなら予約をキャンセルしたい」という諌めるような口調の電話がありました。また、他業種の方で「自分たちの施設、業種は『ライブハウスのように密な空間ではない』から安全である」と無邪気に語る人に数人会いました。感染症に対する恐怖と偏見、差別意識を持っているのでしょう。
一方、売り上げが激減して大変であろう近所の商店や飲食店の方達が、「ライブハウス大変だね」「がんばってね」と声をかけてくれ、「ラ・ストラーダ」の周囲にはそうした好意的な方が多い印象です。地域に感染者が現れるのではないかという疑心暗鬼にかられ、差別的、攻撃的な行動を取る人々が存在します。そのような人たちの暴力が、この町ではたまたまライブハウスに向けられていないというだけのことだと理解しています。
なお、ライブハウスでの感染拡大防止に関しては2月中旬から手指用消毒剤を店内に設置し、使用は任意としていましたが、3月中旬からは手指用消毒剤を使用するよう来場者に喚起したほか、次亜塩素酸ナトリウムで手すり、ドアノブ、テーブル等の清拭をライブ前後など随時行い、換気扇の常時稼働、ドアの開放も行い、さらにトイレ洗面台に手洗い時間の目安として時計を設置しました。
ライブハウス同士の交流・情報交換も行っています。3月上旬に「ムジカジャポニカ」(大阪市梅田)を訪問した際、イベント主催者、店主から消毒、換気等のアドバイスを受けました。
ライブの再開は早くて夏以降、おそらく秋以降になるでしょう。再開したとしても、大人数が出演するライブ、バンドスタイルのライブは最低1年間は開催できないと予見しています。少人数、アコースティックのライブが中心になることを想定して、店内のレイアウト、音環境などを調整するつもりです。ライブ以外に収益を上げるため、これまで不定期に実施してきた喫茶室営業を継続的に行うことを検討中です。練習スタジオもいずれ再開したいと思います。
4月以降休業状態ですが、ライブを中止、延期にした経緯は様々です。出演者と相談しながら判断してきました。緊急事態宣言に基づく要請に従ってライブ営業を自粛しているという意識はありません。東京や遠方から訪れる方は、自分たちが感染源になり、お客さんを危険に晒す可能性があることを危惧していました。お客さんが不安な思いを抱えたまま開催するライブでは、自分が望ましいとする表現ができないと判断した方もいます。
出演者、お客さんが安心して音楽を聴くことができる条件が整うまで、ライブは開催しないつもりです。不安な思いで日々を過ごす地域のミュージシャン、お客さんのために、何かやりたいと考えていますが、今のところ白紙です。
日常が失われる経験をしたという点では、現在の状況を冷静に受け止めていると思います。9年間、震災ユートピア的な風潮により音楽の意味が変容する(した)ことに抵抗し続けてきました。すべてをネガティブな経験として否定するのではありませんが、「ラ・ストラーダ」は震災の文脈から距離を置いています。好きな音楽を楽しみたい、素晴らしい音楽家たちの音楽を人々に聴いてほしいという気持ちは、震災の前も後も変わりません。
あがた森魚さんが「わたしとあなた」ということをよくおっしゃいます。ステージと客席との間には、一人一人、一つ一つの密で自由な関係が無数に存在すると。ライブハウスでは人々が集い時間と空間を共有しますが、お客さんは一人の人間として音楽を聴きに足を運ぶと考えています。お客さん自身にどのような「あなた(わたし)」であるかを決めてもらい、被災を前提としない音楽の場を作ることを信条としています。あえて、それが被災地のライブハウスの使命だと考えます。
これからCOVID-19の時代をどのように経験していくのか、まったくわかりません。音楽のあり方が変容しても、わたしたちはこの姿勢を変えられません。好きな音楽のために生きていたいです。震災後の日本がなし崩しに不寛容な社会になったことを、今回改めて実感しています。COVID-19後の時代が最悪の事態とならないよう切に願っています。
(回答者:安富朋子氏)
宮城県石巻市2-5-2 2F
HP
http://www.la-strada.jp
https://www.facebook.com/LaStradaIshinomaki/
株式会社リヴァーズウェイの設立が2006年8月です。東日本大震災時には仲間の存在、音楽の存在、応援してくれた方々の存在があって乗り越えることができました。震災の影響として感じるポジティブな面は、みんなで復興しようという一つの共有意識を持って一体感が生まれたことです。一方、ネガティブな面はプロアーティスト、特に海外アーティストは「福島」という名前だけで来なくなりました。未だにです。
今回のコロナ禍による公演中止の影響は、対前年売り上げで3月は90%の落ち込み、4、5月はほぼ売り上げありません。もっとも、2020年3月以前からここ数年バンド自体が減ってきていることを実感します。バンドイベントよりも、アイドルイベントやその他イベントが多くなりましたが、それでも全体的にはイベント自体が減っています。その点では、バンド数を増やす取り組みや、配信、音楽以外のイベントも積極的に開催する取り組みをしていくことが課題だと考えます。
新型コロナウイルスのライブハウスでの感染拡大防止については、換気システムで外気循環の設定にしたほか、入り口の扉を常に開放し、入り口でのアルコール消毒とマスク着用の呼びかけをしました。また、部屋の物を減らし、室内のスペースを広くとれるようにもしました。しかし、どんなに予防対策をしても匿名でのバッシングメールや自粛が相次いだのは事実です。特に子供の親御さん方はライブハウスは危険という意識を持ったようです。
今後の公演再開に向けてですが、まず、これから数年でライブハウスのイメージも含めた活動が正常にはならないと思っています。動画配信や配信の決済システムの導入、イメージを回復するような自社の動画コンテンツの制作に力を入れています。営業自粛が続く中で、今までライブスペース内のみで販売していたフードを通信販売したり、以前から行っていた弊社オリジナル商品の拡売を行ったりしています。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問ですが、まず震災とコロナ禍は根本的に違います。震災はみんなで団結して復興しようという物理的な面がありましたが、今回は団結してはいけないため、みんなで自粛しようという精神的な面しかありません。とは言え、未だに風評被害がある福島で震災を乗り越えた自負はあるので、今回も乗り越えようと思います。
「音楽の力」という点では、今までC-moonに出演した演者さんや、関係者の方々が全国各地からうちの商品を購入してくださっていることはとてもありがたいです。それと自粛中にライブハウス内で演奏するドラムは最高です。
(回答者:店長・市川和哉氏)
福島県福島市大町4-24 B1
http://c-moon.net/
Twitterはアイヴィー楽器、C-moon、Samsun Cymbal、Crotalesのアカウントがあります。
Facebookは株式会社リヴァーズウェイ、Crotales、Samsun Cymbals Japanがあります。
インスタグラムはC-moonがあります。
YouTubeアカウント:https://www.youtube.com/channel/UCC910ws7L8LBhjfUZGmDtBA
アイヴィー楽器(楽器店):http://musicheart-ivi.com/
アイヴィーミュージックスクール(レッスン):http://ivi-music-school.com/
Samsun Cymbals Japan(シンバル輸入):http://samsun-cymbals.jp/
スタジオアイヴィー(練習スタジオ):http://s-ivi.com/
Crotales(オリジナルアクセサリー):http://liversway.co.jp/crotales/
minnne(カリグラ販売サイト):https://minne.com/
Creema(Crotales販売サイト):https://www.creema.jp/listing?active=pc_home-leftside&mode=keyword&q=Crotales
Iichi(Crotales販売サイト):https://www.iichi.com/listing?q=Crotales
「clubSONICiwaki」は2001年12月に開業しました。東日本大震災発生時には、ライブ自体が不謹慎というムードのなか、避難所に炊き出しにきていたミュージシャンが周りに求められて急遽演奏をしました。会場の雰囲気が本当に幸せな空間となり、たまっていた負の感情が浄化されていくのを感じ音楽の必要性を実感。営業再開に踏み出しました。再開当初はチケット代なし、ドリンク代のみでの営業再開。ギャランティの支払いもできない状況でしたが、たくさんのミュージシャンが演奏をしに訪れてくれました。想像以上のイベント本数となり、フロアではライブ会場で久しぶりに友人と再会した、といった声も多く、普段行っていたライブの意義を知ることができたように思います。
近年の来場者については、2016年ころからイベント本数、集客の減少を感じ始めました。そこに今回起きたコロナ禍による公演中止の影響は計り知れず、対前年売り上げでほぼ0%です。3月以降、ライブハウスでの感染拡大防止について店舗の徹底的な清掃、入場の際の体調確認を行ったほか、マスクと消毒液を準備し、入場時の手洗いや消毒のお願いをしました。転換中には防音扉を開放し、換気をこまめに行いました。「ライブハウスへの世間の冷ややかな目」、「バッシング」ということについては、そのような状況になる前に休業とさせて頂きましたので、何とも言えません。
今後の公演についてですが、質問に回答している4月30日時点で、5月22日までの休業を発表しました。ライブハウスでの公演再開はまだ先ととらえており、配信での公演の設備投資や、配信技術の向上に努めています。その他、休業中の売り上げ確保のためにベネフィットグッズの販売や、YouTubeチャンネルの立ち上げを行いました。さらに、クラウドファンディングも準備中です。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問については、ミュージシャン、オーディエンス、イベンター、プロモーター、仲間のライブハウス、地元の方々等、音楽を必要としている全ての方々との連携だと思います。具体的な方法はまだ見つかっておりませんが、ライブハウスを必要と思っていただける方がいる限り、場所はなくならないと信じております。
この場所をなくしたくない、という想いをお客様、出演者、スタッフから様々な行動として表して頂けております。感謝の気持ちが深まっていく毎日です。
(回答者:店長・三ヶ田圭三氏)
・BENEFIT GOODSの販売
https://sonicproject.thebase.in/
・YouTubeチャンネル立ち上げ
https://www.youtube.com/channel/UCyxqvXm3ut9t6O5OXu699ZQ?fbclid=IwAR1r9zgQpPRfh-CB4PQHx8eMFS9Didli4oNN5AMBqw8_y0X7B_Smz4nVTGE
・クラウドファンディング
CAMPFIREでのクラウドファンディングを検討中
「CLUB#9」が開店したのは2000年3月で、今年20周年を迎えました。
東日本大震災時には、震災発生から2カ月は稼働しませんでしたが、一部のアーティストから「今だからこそライブハウスを助けよう」という動きがあり、決算時の7月には売上げがアップしておりました。
今回のコロナ禍で3月以降の公演は全て延期または中止となりました。同情する声はたくさん聞きましたが、バッシング的なものはありませんでした。ライブハウスでの感染拡大防止に関しては、配信にて無観客ライブを行いましたが、消毒はもちろんのこと、換気のために入口のドアをあけたまま開催しました。
5月以降の公演再開に向けて、現段階ではスタッフとのオンラインミーティングを行っているほか、YouTubeの強化、公式アプリの開発などを新たな取り組みとして行っています。営業自粛中の売り上げ確保のために、クラウドファンディングとオンラインストアでのグッズ販売も行っています。
「東日本大震災を経験したからこその、コロナ禍を乗り越えられるもの(知見・情熱など)があると感じるか」という質問に対してですが、津波で犠牲になった人の多くが「こっちまで来ない」という油断でした。今回はその経験から「勇気をもって怖がること」。「近くに来てると思え」と油断せず過ごせているように思います。
(回答者:代表・福井公伸氏)
今回、メールインタビューにご協力いただいた8店舗や、その他本誌取材に基づくと、前年同月と比較した売り上げの減少は3月で既に平均5~6割、そして4月は限りなく0%に近い店舗がほとんどとなった。店を閉めたからといって、地代家賃や人件費、機材の維持費などで月数百万円の支出が発生することに変わりはなく、行政による休業補償は必須と言える。
また、「ライブハウスへの冷ややかな視線」を感じるかどうかについては店舗や地域により回答が分かれたが、記者個人的には「差別的、攻撃的な行動を取る人々の暴力の矛先が、たまたまライブハウスに向けられなかった(あるいは向けられた)」という石巻La Strada・安富氏の見解に共感した。一方、芸術を愛し、感受性が豊かな人が集まりやすい場であるからこそ、声援など温かい気持ちを感じることができるのだろうと思うし、これは出演者・観客も含めライブハウスに関わる人々の特権と言えるだろう。
今後の公演再開については楽観的な見方をする店舗はほとんどなく「戻るまでに相当の時間がかかる」という見解、あるいは「以前とは異なる興行形態に変化していく」という見解に二分されている印象を持った。
今回「東北のライブハウス」という枠にくくり、3.11と結び付けた意図としては、事前の想定として「3.11とコロナ禍は別物」と捉える当事者が大半ではないかという予想があり、安易な結び付けに対しては慎重な姿勢を取りたかった、という思いがある。実際に、取材の過程で「震災とは同列に語れない」といった取材不可の回答を頂くことも少なくなかった。とは言え、3.11を通じて「音楽の力、人の力」を現場最前線で体感した方々の経験・知見からは、コロナ禍で音楽から離れかけている人々を救う英知が見出せるのではないかとも考えた。仙台BARTAKE・高橋氏の「ライブをしたいけれども今は難しい、音楽をやっていることを言えない、ということで活動を休止しているミュージシャンが非常に多い」という話は、東北に限ったことではないだろう。
そして、改めて震災から9年を迎えた今年、追悼行事が軒並み中止になってしまったことは、コロナのもたらした負の側面として忘れてはならないように思う。2021年の3月11日は、鎮魂の思いと、音楽を大切にする気持ちが堂々と表明でき、隣同士共感・共鳴できる日になってほしい。
最後に、今回のコロナ禍を通じて改めて感じる「ライブハウスの意義」とはどのようなものか、尋ねた。
・「演者がいないとただの箱。」(仙台 spaceZero)
・「意義なぞ無い。それは一人一人何か考えてもらえればありがたいです。」(福島C-moon)
・「『集まる』ですかね(笑)これが出来なきゃライブハウスじゃないですから。」(仙台 FLYINGSON)
・「音楽ビジネスが先細りしてるなか、ライブハウスが身近なもの・なくてはならない場所であることを痛感しました。」(郡山 CLUB#9)
・「人がその場で出会い何かを一緒に作り上げていく事で、心でつながる事ができる事に意義を感じます。現代では少なくなってしまっている『現場』そのものです。」(いわき clubSONICiwaki)
・「生きる為に必要なものではないかもしれませんが、音楽がないと生きれない方がたくさんいらっしゃいます。また、ライブハウスはミュージシャンを支える根底でもありますので無くしてはいけないし、自分も含め、人と人がつながる大切な場所です。」(仙台 MACANA)
・「ライブハウスが特別だとは思わないです。ただ、自分が人生の半分以上を過ごしてきた場所が、様々な出会いとドラマを生み出して、自分の生き方にも大きな影響を与えてくれた、と感じるように、おそらく全国のライブハウスを愛する人たちもそれぞれの特別な思いがあって、今こうして声をあげたり、行動したりしているんだと思います。そういう多くの人に支えられて成り立っている、素晴らしい場所の一つだと思います。」(仙台 BARTAKE)
・「ライブハウスは、街の肉屋、花屋、魚屋、八百屋、喫茶店、雑貨店、書店と同じように、普段の生活の中にあるものだと思っています。「ムジカジャポニカ」(大阪)の呼びかけによる全国27のライブハウス共同の救済プロジェクト、「God save us ライブハウス」に参加し、たくさんの方からTシャツなどグッズの注文を頂きました。運営資金の援助をありがたく思うと同時に、注文してくださった方たちにとりライブハウスがかけがえのない場所であることを強く感じました。多くの方が、ライブの思い出、音楽への思いを注文メールに書き添えてくれました。中には、「ラ・ストラーダ」がプロジェクトに参加したことで、ライブハウスが苦しんでいる現在の状況に自分自身が参加することができると喜んでくれた方もいました。今回のライブハウスの危機は、音楽を楽しむ人が問題を共有し、悲しみ苦しんでいるのだと思います。」(石巻 La Strada)
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