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TEXT:水科哲哉 PHOTO:Lee Dong Won
日韓洋楽HM/HRトリビュートイベント『KING OF TRIBUTE』
2016.1.31 ソウル・弘大(ホンデ)@PRISM HALL 韓国Heavy Metal/Hard Rock(以下HM/HR)シーンの黎明期から活動している、BLACK SYNDROMEなるバンドをご存じだろうか。このバンドは、ソウル・オリンピックが開催された1988年にアルバム・デビューを飾った後、いわゆる“韓流ブーム”が影も形もなかった1990年に、日本でもCDデビュー(ライナー解説は音楽評論家の大野祥之)。2002年の日韓共催W杯イヤーより三重県出身の日本人ドラマー、森内“Ninja”秀樹を迎え入れて日韓混成ラインナップになると、翌2003年8月に韓国・大邱(テグ)広域市のロックフェスでBOW WOWと共演。 br> ZIHARD(Yngwie Malmsteen Cover)
ZIHARDは韓国屈指のシュレッド・ギタリスト、パク・ヨンス率いるネオクラシカル・メタルバンド。2008年に国内でもリリースされた1stフル・アルバム『LIFE OF PASSION』で披露した驚異的な速弾きで耳の肥えたマニア筋の度肝を抜かし、一部では“韓国のCONCERTO MOON”とも称されている。来日公演もこれまでに複数回行っており、直近では2015年7月に日本の様式美バンドRachel Mother Gooseの東名阪ツアーにパク・ヨンスがゲスト出演している。本イベントでは、パク・ヨンスが敬愛してやまないYngwie Malmsteenの定番曲を演奏。 キーボード・パートは同期での対応で、ギター以外の全メンバーを刷新した状態での出演だったが、パク・ヨンスいわく「新編成での緒戦にしては上々の仕上がり。このラインナップで通算3枚目の新作の制作に取り掛かるので、期待してほしい」と満足げだった。
◆Official Website
http://cafe.naver.com/zihardfan ◆Setlist M01. Rising Force M02. I Am A Viking M03. Seventh Sign M04. Icarus Dream Suite Op.4~Far Beyond The Sun
◆ZIHARD
パク・ヨンス(Guitar) キム・ジョンミン(Bass) イ・ナムス(Drums) ソ・ジェウォン(Vocals) br> BLACK MEDICINE(BLACK SABBATH Cover)
BLACK MEDICINEはそのバンド名が示すとおり、BLACK SABBATHやLED ZEPPELIN、JIMI HENDRIX EXPERIENCEなど1960~1970年代の古き良きブリティッシュ・ハードロックへの憧憬を強く映し出した4人組。2000年に前身バンド「DUST OLD SOUL」結成後、2005年に現バンド名に改称。韓国のライヴハウス・シーンでの地道な活動を経て、2015年に満を持して1stアルバム『IRREVERSIBLE』を発表。同アルバムで、“韓国のグラミー賞”とも言われる「韓国大衆音楽芸術賞」最優秀ヘヴィネス・アルバム部門にノミネートされた“遅咲きの新人”だ。同作発表後にメンバーの脱退劇が相次いだため、リズム隊をサポートメンバーで補った状態での出演で、2曲のみの演奏にとどまったが、今後の挽回を期待したい。
◆BLACK MEDICINE
キム・チャンユ(Vocals) イ・ミョンヒ (Guitar) “Isaac”チェ・ジェウォン(Support Bass From ISHTAR) ソ・ジョンス(Support Drums) br> METHOD(SEPULTURA Cover)
前出のBLACK MEDICINEを抑え、「韓国大衆音楽芸術賞」最優秀ヘヴィネス・アルバム部門に見事輝いたのが、このMETHOD。現在は4人組で活動しているが、結成当初の5人編成で発表した2006年の1stフル『SURVIVAL OV THE FITTEST』は国内リリースもされており、続く2ndフル『SPIRITUAL REINFORCEMENT』はイギリスのHEAVY METAL専門誌「THRASH METAL GUIDE」でも取り上げられた。来日の経験もあり、HIBRIA、HAUNTED、 DESTRUCTION、ARCH ENEMYら欧米のビッグネームの韓国公演でオープニング・アクトを歴任してきた実力派だ。本イベントではブラジルのSEPULTURAのトリビュートを披露。本家さながらのファストかつ殺傷力抜群のサウンドで、“韓国最凶のデス/スラッシュ・メタルバンド”に相応しい演奏を披露してくれた。
◆Official Website
http://cafe.daum.net/METHOD ◆Setlist M01. Arise M02. Inner Self M03. Beneath The remains M04. Desperate Cry
◆METHOD
ウ・ジョンソン (Vocals & Guitar) キム・ジェハ(Guitar) キム・ヒョウォン(Bass) キム・ワンギュ(Drums) br> WON(IRON MAIDEN Cover)
WONは女性ベース・プレイヤーを擁する5人組で、1990年代後半から活動している正統派のベテラン・メタルバンド。ZIHARDとのカップリングで2013年夏に名古屋と大阪で来日公演も行い、近年は自身のバンド名を冠した音楽スクールを立ち上げ、後進の育成にも励んでいる。本イベントでは、Bruce Dickinsonがボーカリスト時のIRON MAIDEN代表曲をカバー。フロントマンのソン・チャンヒョンいわく、「IRON MAIDENから影響を受けたのは事実だが、日本のLOUDNESSの楽曲も時々カバーしているよ。”Soldier Of Fortune”や”So Lonely”とかね」とのこと。確かに言われてみると、ソン・チャンヒョンはBruce Dickinsonばりの伸びやかなハイトーン・ボイスを聴かせてくれる一方で、LOUDNESS時のMike Vesceraを彷彿させるようなアクの強さを感じさせる。次回機会があれば、彼らによるLOUDNESSのトリビュートも聴いてみたい。
◆Official Website
http://cafe.daum.net/rockwon ◆Setlist M01. 2 Minutes To Midnight M02. The Trooper M03. The Evil That Man Do M04. Fear Of The Dark M05. Wasted Years
◆WON
ソン・チャンヒョン (Vocals) ポク・ミンソン(Guitar) シン・ヌンソプ(Guitar) キム・ソンジュ(Bass) イ・ジノ(Drums) br> Eddie the Great(IRON MAIDEN Cover)
玄界灘を越えて日本から出演したEddie the Greatは、OUTRAGEの丹下と阿部に加えて、BELLFASTのボーカリスト西野幸一郎と、MANIPULATED SLAVESのギタリスト萩智洋、日本代表と名高いIRON MAIDENトリビュート・バントのベーシスト白井勝昭という強力な布陣によるバンド。直前に出演したWONとセットリストが重複(『POWERSLAVE』収録曲の”2 Minutes To Midnight”)してしまうハプニングもあったが、ジャパニーズ・メタル界屈指のベテランによるプレイは説得力抜群で、西野による英語混じりのMCで煽られた韓国のオーディエンスはノリノリで歓声を上げる。またIRON MAIDENのベーシストSteve Harrisと瓜二つの衣裳でステージングも忠実に再現した白井勝昭の徹底ぶり、本家さながらに「Iron Maiden」の演奏中に“Eddie the Head”が出現してステージを徘徊する演出には韓国の音楽関係者もすっかり感心していた。
◆Official Website
http://eddiethegreat.com/ ◆Setlist M01. The Ides Of March~Wrathchild 2. Prowler 3. 2 Minutes To Midnight 4. Hallowed Be Thy Name 5. Iron Maiden 6. Run To The Hills
◆Eddie the Great
西野幸一郎(Vocals){BELLFAST} 阿部洋介(guitar){OUTRAGE} 萩 智洋(Guitar){MANIPULATED SLAVES, DIRTY THIRTY} 白井勝昭(Bass){UNITED EDDIES} 丹下眞也(Drums){OUTRAGE} br> BLACK SYNDROME(AC/DC Cover)
重々しい鐘のSEでお馴染みの「Hell’s Bells」で幕が上がると、大トリのBLACK SYNDROMEが登場。AC/DCのギタリストAngus Youngを彷彿とさせるキム・ジェマンは、ベレー帽にAC/DCのTシャツという出で立ちで、本家ほどではないがステージ上でせわしなく動き回っている。フロントマンのパク・ヨンチョルは現在、WICKED SOLUTIONSなるモダン・ヘヴィネス志向の別プロジェクトも始動させており、そちらでは中~低域のドスを効かせた唱法を駆使しているが、本イベントではAC/DCのボーカリストBrian Johnsonばりの裏声のスクリームを全編にわたり披露。よくよく振り返ると、BLACK SYNDROMEは1990年の日本デビュー盤でもAC/DCの「GIRLS GOT RHYTHM」をカバーしており、彼らのルーツには1970~80年代のClassic Rockがあることをこの日のセッションでも再認識させられた。
◆Official Website
http://cafe.daum.net/blacksyndrome ◆Setlist M01. Hell’s Bells M02. Back In Black M03. You Shook Me All Night Long M04. Highway To Hell M05. Feed The Power Cable Into Me M06. Secret Love
◆BLACK SYNDROME
パク・ヨンチョル (Vocals) キム・ジェマン(Guitar) ムン・ソンス(Support Guitar) チェ・ヨンギル(Bass) 森内”Ninja”秀樹(Drums)
いかがだっただろうか。韓国の冬は非常に寒く、この日の気温はマイナス10度以上だったそうだが、日本の『MEGATON CLUB』に勝るとも劣らない会場の熱気が伝わっただろうか。韓国のロックシーンの第一線で活動するミュージシャン達も、我々日本のロックファンと同じように、欧米のロック界の偉大なる先達に影響を受け、自らの血肉としている。また、日韓の国民感情はとかく政情に左右されがちだが、韓国の国民=すべて反日とは限らず、韓国のミュージシャン達は日本人アーティストに多大なリスペクトの念を抱いている。たとえば、今回2曲のみの演奏にとどまったBLACK MEDICINEのギタリスト、イ・ミョンヒは終演後にこう語っている。「LOUDNESSやOUTRAGEのことは80年代の頃から知っている。俺にとっての彼らはレジェンドで、彼らのLP盤を買い漁ったものだよ。OUTRAGEとは2008年に韓国のイベントで共演したことがあって、俺達が2013年にOUTRAGEの地元・名古屋でライヴした時には、逆に彼らが会場に駆けつけてくれたんだ。とてもありがたかったよ」
また、本記事で紹介した韓国のHM/HRバンドに興味が沸いたら、彼らのオリジナル・スタジオ・アルバムも一聴いただきたい。洋楽偏重型のリスナーの中には、「邦楽ロックでさえ躊躇するのに、なぜアジア諸国のロックまで……」と思う方もいるかもしれない。しかし一度耳にすれば、たとえ歌詞の意味が分からなくても、韓国のロック・ミュージシャンの高度なプレイヤビリティは日本産バンドのそれと遜色ないことが伝わるはずだ。ロックは言葉や国境を越えた共通のコミュニケーション手段となりえる。今回のEddie the Greatの韓国公演は、まさに“音楽は国境を越える”という言葉を実証するよい機会だったのではないだろうか。 br> |