FEATURE丨2025.08.06
【特集】音のチカラ story3「中高生の居場所づくり」
「中高生の居場所づくり」最前線

TEXT & PHOTO:鈴木亮介
「中高生の居場所」というフレーズを一度は聞いたことがあるという人も多いのではないか。こども家庭庁は2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」を策定。少子化や地域とのつながりの希薄化で、子どもが地域コミュニティの中で育つ機会や居場所が減少。児童虐待や不登校、いじめなどの課題が複雑化する中、多様なニーズに応じた居場所づくりが緊急かつ重要であると指摘している。
ただ、この「中高生の居場所」というワード自体は四半世紀前から使用されているもので、目新しいトピックというわけではない。朝日新聞クロスサーチで1985年から2025年6月30日までの記事検索を行うと、初出記事は1999年9月にまで遡る。千葉県佐倉市の銀行跡を改装して作られた「ヤングプラザ」にて、思い思いに過ごす子どもたちの様子を紹介する内容で、そこには以下のような記述がある。
いま、中高生の居場所不足が指摘され、放課後の彼らをいかに呼び込むかが、児童館などの大きな課題になっている。
令和の今、青春ど真ん中を生きる中高生が生まれる前から「不足」が指摘されていた「居場所」づくりは、特にコロナ禍を経た2020年代にどのような課題があり、創意工夫がなされているのか。最前線を取材した。
■文京区青少年プラザ「b-lab」
「文京区青少年プラザb-lab(ビーラボ)」は、東京都文京区から委託を受けて認定NPO法人カタリバが運営する中高生専用施設だ。中高生の「秘密基地」をコンセプトに2015年に開館し、10周年を迎えた。利用対象者は文京区に在住または在学・在勤の中高生世代で、年末年始等を除いて毎日午前9時から午後9時まで(中学生は午後8時まで)開放している。取材に訪れた平日の夕方は40~50人の利用者が思い思いの時を過ごしていたが、土日や夏休みなどは1日に200人ほどの利用者が訪れることもあるといい、2024年度は年間で延べ3万人以上の利用者を記録した。

都営地下鉄大江戸線の本郷三丁目駅から、湯島に向かって歩くこと約10分。東大本郷キャンパスが近く、路地を入って閑静な住宅街を進むと、文京区教育センターと文京区青少年プラザb-labが同居する建物が見えてくる。
「秘密基地」とは言ってもこっそり入る感じや一見さんお断りという雰囲気はなく、開放的な入口だ。受付スタッフに声をかけ、受付をして入場する。b-labの特長はスタッフが多いこと。教育の現場に限らず「人手不足」が深刻化し、「ワンオペ」や無人窓口が増えている現代において、「受付にたくさん人がいて、活気にあふれている」ということだけで、どれだけ子どもたちは心温まるだろう。お気に入りのスタッフを見つけて、スタッフとの会話を目当てに来る中高生も多いという。

入口を経て中に進むと、正面にホワイトボードがあり、イベントのお知らせや利用する中高生たちのアイデアが掲載された掲示板のようなスペース、さらには「フロアキャスト」(大学生ボランティア)の出勤表と写真が掲載されている。1階の中央は様々な形態の机いすやソファーがあり、各々自由に談笑したり、本を読んだり、勉強したり、工作したり…やりたいことがなんでもできるだけでなく、様々な道具が借りられるので「やりたいことを見つける」こともできる、本当に夢のような空間だ。
Nintendo Switchの貸し出しも行っており、ゲーミングスペースも用意されている。当初、指定の場所を作っていなかったが、勉強や読書など静かに過ごしたい利用者に配慮して、コーナーを作ることにしたのだという。利用者とともに空間が進化している。
そして建物を奥に進むと、分厚い扉の向こうには運動やダンス、演劇の練習などに使える広いホールがある。全身が映る大きな鏡はダンスや演劇に取り組む中高生たちにとっては貴重だ。さらに、反対側の奥には防音の音楽スタジオが2部屋完備されている。一般にも一部有料で貸し出しているが、中高生は無料で利用でき、思う存分歌ったり、ギターを弾いたり、ドラムを叩いたりできる。
さらに建物の2階の屋外にはバスケットゴール付きのプレイヤード、3階には卓球台をずらっと並べた軽運動室があり、思う存分動き回って遊べるようになっている。
b-labの「居場所」としての特長は、施設としてハード面が充実しているだけではない。ソフト面、つまり中でのスタッフと利用者の交流や、利用者である中高生同士がサークル活動を通じて新たに交友を深めたり、イベントの企画に携わり、運営にも関わるなど、様々な挑戦ができることも特長だ。
ダンス、アニメ、クイズ、カメラ、折り紙などのサークルは自由に参加できる。イベントはスポーツから料理、キャリア、音楽、ものづくりなど年間300本以上開催されており、その中には年3回実施の「フェス」と呼ばれる文化祭的なイベントがあり、サークルのステージ発表や、各種企画が行われる。
そしてb-labでは「ユース館長」という制度を設けており、大学生や大人のスタッフとともに「b-labをもっとこうしたい」ということを考え、実現に向けて活動をしていく。いわば学校の生徒会に近いイメージだ。フェスはユース館長の活動の集大成ともいえる。
b-labがスタートして10年。コロナ禍を経て、令和を生きる中高生にとって必要な居場所とは。スタッフに話を聞いた。
■NPO法人カタリバ(ユースワーカー)きくっち氏

――b-labの意義について、どのように考えていますか?
きくっち氏:家庭や学校にどこか窮屈さを感じて、ありのままの自分を出せていない子もいると考えています。まずは「その窮屈さを感じなくていいんだよ」というのがここ(b-lab)の前提です。自分を開示できるスタッフとの出会いや、興味関心を開示できるような機会になれたらと思います。
――イベントやサークルには音楽にまつわるものも多いようですね。
きくっち氏:実は私が元々バンドでドラムをやっていたこともあって、2年前(2023年)に軽音サークルを作りました。最初はセッションドラマーとしての経験もあって、試しにドラムを教えるというイベントをやったら「なんかすごいスタッフがいる」みたいになってしまって…バンドをやっている高校生たちの中で「学校でやるよりもb-labでやった方が絶対うまくなるよね」と盛り上がってチームができて。ナナメの関係というか、講師っぽくなってしまいましたが。
――元々部活などでバンドを組んでいた経験者が集まったのでしょうか。
きくっち氏:軽音サークルは中高生合わせて15名くらいいましたが、学校もバラバラで、中にはセッションイベントで初めて楽器に触れた子もいます。元々練習場所としてスタジオを借りているバンドはたくさんいて、イベントにも出演するのですが、利用者同士の交流が少なかったので、何とかできないかなと思ったのが軽音サークル立ち上げのきっかけです。メンバー間で横のつながりもできて、教え合うことで自信がついたメンバーもいます。立ち上げメンバーが高校を卒業したのでサークルは解散しましたが、今中学3年生のメンバーが本当にハマってくれて、「なくなったら嫌だ」と言って、その子の自主企画としてドラムレッスンのようなイベントは今でも月1回続いています。
――学校や学年が異なるメンバーが混ざるのもb-labの意義ですね。
きくっち氏:正直に言うと、学力の偏差値帯が全く異なる高校同士がうまく混ざれるか不安でした。理解し合わないんじゃないかと。でも実際は全くそんなことがなくて、それぞれが好きな音楽をちゃんといいねって肯定するし、そこのフィルターは全くなく、人として見るコミュニケーションができていたのが、すごいなって思いました。勉強とはまた違って、音楽に決まった正解はないですからね。
――開設から10年を経て、訪れる中高生に変化はあるのでしょうか。
きくっち氏:コロナ前までは「自分たちがつくる場所」みたいな、前のめりに色々やってみようというムーブがあって、そういう頑張っている先輩に後輩が憧れて…みたいな連鎖が生まれていたようです。2020年にコロナ禍で一度休館を経て、その(ステイホーム、ソーシャルディスタンスなどの)状態が3年ほど続いてしまうと、対面でのコミュニケーションに慣れていない子がすごく多くて、振り出しに戻ってしまった感じです。「ここが君たちで作れる居場所だよ」と言っても伝わらないというか…ようやく最近、スタッフも含めて自分たちで作っていくんだという兆しが見えてきています。
――利用者や、サークル活動も減っていますか?
きくっち氏:利用者は増えています。スタッフが間に入って声掛けをすることで、やってみようという子がちょっと増えており、これからよりサークル活動やb-labで活動する中高生が増えていくと考えています。
――スタッフにはどのような役割があるのでしょうか。
きくっち氏:スタッフはボランティアも含めると40名ほど在籍しています。1人で来る子も含めてなるべく話かけるようにしているのですが、それぞれに合わせた会話の入り方がありますし、年齢の近い大学生スタッフもいるので、距離感についてはしっかり研修をします。
――ユースワーカー(=中高生の成長を支援する専門スタッフ)としてどのようなことを大事にしているのですか。
きくっち氏:どう意図を持って関わるか、ということを大事にしています。意図次第で(中高生への)問いかけも変わると思いますし、「それを言われたときにどう思うか?」「その言葉の背景にどんなことがあるのか」ということは意識してもらっています。ユースワーカーによって中高生に「成長してほしい、何か学んでほしい」とか「自分らしさを発揮してほしい」とか、意図はそれぞれです。中高生にはいろんな大人と話してそこに触れることで、価値観を分かったり一緒にいて居心地が良いスタッフを見つけたりしていってほしいですね。b-labとして「必ずこう成長してほしい」と決めている狙いのようなものはありませんが、ありのままで過ごしてほしいというのが前提にあります。
■インターンスタッフ(大学院生) りゅう氏

――b-labに関わることになったきっかけを教えてください。
りゅう氏:元々ユースセンターに興味がありました。高校生の頃から若者の政治参加や教育に関心があり、学校外の教育の場に可能性というか価値を感じていて。高校生の頃から別の施設を見学していたのですが、現場で働いてみないとわからないことがたくさんあるなと思って、縁があってここに入りました。
――b-labで働いていて良かったと感じるのはどんなことですか?
りゅう氏:ボランティアや自分たちみたいな学生スタッフに対してもサポートが手厚いことです。研修だけに限らず、スタッフ間の交流も多く情報交換できることで、よく見てもらっているなということをスタッフとしても感じますね。最初の活動でうまく立ち回れない経験から凹んでしまうこともあるようですが、私の場合はこんな楽しい場所があるんだ!というのが最初の感想でした。
――b-labに関わり始めて3年目ということですが、特に印象的な経験を教えてください。
りゅう氏:具体的なエピソードはいくらでもありますが、みんなが自分の思っていた以上にb-labのことを考えているなぁって思った瞬間ですね。特に3月には3年生の卒業を祝うフェスを開催するのですが、最後に卒業する子たち一人ひとりと語れる機会があります。「自分は学校があんまり好きじゃなくて、家にもあんまりいたくなくて、だからここに入り浸っていて、それでここでこういう経験をしたから、将来こういうことをやっていきたいんだ」と、背景がストーリーとして出てきます。この空間でどう過ごしてきて、各々にとってどういう意味付けを行っているのかは人それぞれで、その考えを知れるのが面白いですね。
――活動していく中での難しさ、大変さはありますか?
りゅう氏:中高生と一緒にイベントやプロジェクトを行う中で、本人の熱源がどこにあるのかを見極めるのは難しいですね。たとえば言葉では「イベントをやりたい」と言っているけど、本人にとってはそれを通してスタッフと関係性を持ちたいみたいなことが一番のニーズとしてあるんだろうなと思った場合、それありきでイベントをどんどんやっていくのが必ずしも良いわけではないかもしれません。本人の「こうしたい」とは別に、スタッフ側の想いが絡む場合もあります。
――職員側の想いとは?
りゅう氏:たとえば本人はイベントでわいわい料理とかやりたいということを求めている一方、スタッフとしてはそこで他者に出会ってほしいと考えていて、じゃあみんなで一緒に片付けをした方が仲良くなるかな、とか。でも、本人との関わりの中で形成された想いではなく一方通行で用意された想いだとベターじゃないかも、とは思ってしまいます。想いが固定的であればあるほど、中高生の変化には対応できないし、臨機応変に、しっかり観察し理解することが必要だと思いますが、そこはすごく難しさがありますね。

b-labでは利用する中高生たちに対して、初めは単なる「施設利用」としての来館から、b-labで出会った同世代や大人と会うために来館する「居場所利用」へ、さらには「この人となら何かやってみたい」、「自分自身でb-labを動かしてみたい」といった「主体的利用」へと、来館目的が深化していくことを期待しているといい、そこでキーになるのは「スタッフとのコミュニケーション」だ。そのため、「b-labではスタッフの数を大事にしている」と話してくれた。
多感な中高生が安心して自己開示できる場所。ともすると人の目を気にし、前に出て発言することを躊躇してしまう子どもたちも、たくさんの大人や世代の近いお兄さんお姉さんに囲まれて、気の合う仲間を見つけて自分の可能性をさらに伸ばすことができる。その潤滑油の一つとして、「偏差値」とか「優劣」とかを取り払う音楽の力を感じた。
取材協力:文京区青少年プラザ「b-lab」
https://b-lab.tokyo/










