コラム
浪漫派宣言
和嶋慎治(人間椅子)
「人間椅子」のギター&ヴォーカルとしてデビュー以来、唯一無二の世界観を貫き、多くのアーティストに影響を与えてきた。そのサウンドの要となるのは、確かな技術に裏づけされた独創的なギタースタイル。2013年8月7日に、通算21枚目(含ベスト盤)のオリジナルアルバム『萬燈籠』をリリースした。

第六回 機材紹介

 先々月、ブルースバンド「和嶋工務店」で京都に行った。場所は京都「磔磔」、いわずもがなのブルースの殿堂だ。磔磔に出たことのある人なら分かると思うけど、楽屋のそこかしこに、ブルースマンを呼んだ当時そのままの看板が飾ってあって、ゲイトマウス・ブラウンにアルバート・キング‥・・誇らしげな手書き文字を見ているだけで、気分も高まってくる。

 さて、そのライブには、ベースの山本君、ドラムの金光君ともどもお世話になっている、地元の楽器店の社長さんに見に来ていただいた。ライブ自体も大いに盛り上がり、翌日その楽器屋にご挨拶にうかがった。「ギター、いい音してたね!」とは社長さん。何といっても、国内はおろか、海外のミュージシャンもそこの機材を愛用しているという、知る人ぞ知る楽器店の社長さんの弁である。僕は相当に嬉しかった。あまりに嬉しかったので、今回は僕の機材とそのセッティングについて、ざっと記してみたいと思う。(ちなみに工務店のライブには、人間椅子とまったく同じ機材で臨んだ)

 ギターは、主にギブソンのSGスタンダードを使用。ほかに、エンドースさせてもらっている神田商会のギター(GZや、SGタイプ等)、友人に作ってもらったギターなど。ほとんどが、ハムバッキング・ピックアップのギブソン系。

 弦のゲージは09~46、ダウン・チューニングでは10~52、ともにアーニーボール。ピックはオムスビ型ヘビー。

 SGは、配線に若干の改造を施してある。ミックスでのクリーントーンを出しやすくするため、1ボリューム、1トーンに変更。が、これではスイッチング奏法が出来なくなるため、on/offスイッチを付加。コンデンサーは、東一電機のビタミンQ(オイル・コンデンサー)。これは値段の割りにしっとりとした音像を感じる、逸品。(たとえトーン全開にしたとしても、コンデンサーを換えただけで音は変わる。セラミックは乾いていなたい感じ、マイラー型は癖がなく、オイルコンは不思議と立体感が出る)

 アンプはマーシャルの1987(50W)。キャビネットは1960TV(よく見かけるマーシャルの1960より、少し背が高い)で、スピーカーはセレッションのグリーンバック。どちらも1stアルバムの印税で買ったもの。それ以来の大切な相棒だ。レコーディング時のみ、たまに1959(100W)を使用。

 アンプのセッティングは、プレゼンス5~8、ベース2~3、ミドル5~6、トレブル10、ボリューム10(チャンネル1)、といったところ。1960TVは低音が出るので、こういうセッティングになったかと思う。チャンネル1と2のリンクはしない。あれをすると、どうも輪郭がぼやける気がする。

 基本的に、アンプ直。特にレコーディングは最短距離のシールド1本で行うので、僕の行動半径は30cm以下となるのだった。

 その大事なシールドだが、神田商会のパワーワイヤーを使っている。パワーワイヤーは中域に独特の癖があるものの、そこがロックっぽくて、好きなシールド。最近のハイエンドなケーブルも、エンジニアから薦められるままに試してみたことがあるが・・・・ちょっとレンジが広すぎて、自分には合わないようだ。

 ライブともなれば、足元にエフェクトボードが必要となる。もうこれには、相当の試行錯誤を費やした。

 ごく初期の頃には、ボリュームペダル(ミュート用)、ワウワウ、チューナーのみであった。が、ボリュームペダルを通しただけで音が悪くなることに気が付き、ミュートスイッチ、ループボックス、その類いのものを探し始める。まだブティックメーカーなんてものが影も形もなかった頃だ。各社製品を試した中で一番良かったのが、BOSSのPSM-5だった。これは1ループのみとはいえ、音漏れは皆無だし、音質も自然。自分で回路も取ったが、オペアンプのバッファーにFETスイッチと、実に無駄のない教科書のような回路。BOSSのフットスイッチは草履であろうと裸足であろうと踏み間違いようがなく、安心なので、現在に至るまでPSM-5を愛用している。

 オリジナル曲が増えるにつれ、足下のエフェクターも必然的に増えていった。

 手に入らないエフェクターがある場合には、自作もした。この自作に関しては書き出すとキリがなく、別項が必要になってくるのではしょるけれども、本格的に自作を始めたのは十年以上前、自作エフェクターブームのちょっと前からだった。(でも、ブームというのは有り難いものだ。今では質のいいケースや部品が、簡単に手に入るようになった)

 なんだかあの頃は取り憑かれたように自作をしていて、トランジスタやオペアンプのことを独学で勉強もしたし、調べ物をしに国会図書館まで行ったりした。凝り出すと止めどがなくなるもので、いつしか僕のエフェクトボードは畳一畳分ほどの大きさにまでなっていた。

 これは本人以外には大変に評判が悪く(邪魔だというのがその主な理由)、半ば意地になって数年間頑張ったものだが、さすがに一人で持ち運べないボードはどうかと思い、またセッティングも段々と面倒臭くなってきた。

 で、二年ほど前、一気にシンプルにした。

EB
※画像をクリックすると拡大します。(編集部)

まず、個々のエフェクターの説明。

【右から】

・BOSS PSM-5:全体のループを行う。

・JEN クライベイビー:LED追加、スイッチ交換。JEN特有のコモリ感が好きなので、回路はそのまま。

【上段右から】

・自作 BIG MUFF:エレハモのビッグマフのコピー。あえて日本製の汎用部品で作った。(Tr=2SC1815、Di=1S1588等)MXRサイズに納めるべく、現代の小ぶりのコンデンサーを多用したため、やや硬質な印象の音となった。ビッグマフ系は何台か作っていて、ラムズヘッド期のオリジナルも持っているけれども、レコーディングにおいては、2SC1000で組んだやつをもっぱら使用。

・自作 アッパーオクターブ・ファズ:《ショッカー》と命名してみたものの、なんだか幼稚な名前にしてしまった。つまりは’70年代のテレビドラマの効果音に出てくるような、エグいファズの音を再現したかった。回路的には、エーストーンのファズマスター、FM-2を踏襲。使い勝手がいいように、ゲインとミドルを追加した。

・KORG DT-10:見ての通りのチューナー。

【下段右から】

・自作 オーバードライブ:PEARL OD-05 OVER DRIVE のクローン。オリジナルは高校時代に一時期所有していたが、再び使いたくなり、自作。チューブスクリーマー系オーバードライブ+パラメトリックEQといった回路。マイケル・シェンカー風からサンタナ風まで・・・・。

・自作 トレモロ:中身はカラーサウンドのトレモロ。定数を微妙にいじって、多分本物より扱いやすくなっている。

・自作 フェイザー:エレハモのスモールストーンのコピー。これには特殊なICが使われていて、作った頃はまだネット以前の時代だったから、そのICを探し出すのに半年ほどもかかってしまった。

・Maxon AD-900 Analog Delay:アナログディレイ。無改造。

・自作 LOOP BOX:スイッチは右から、AD-900用ループ(AD-900は、トゥルーバイパスでないため。ほかのエフェクターは、皆トゥルーバイパス)。プリセットボリューム・スイッチ(バッファー内臓の、単純にボリュームを下げるもの。これにより、一瞬でクリーンサウンドになる)。チューナー用ミュートスイッチ。

 パッチケーブルも自作で、線材はモガミ2524。

 信号の流れは、以下のようになる。

・BOSS PSM-5 ノンループ時
 ギター → PSM-5 → アンプ
 つまりは、アンプ直に限りなく近い状態ということ。

・BOSS PSM-5 ループ時
 ギター → PSM-5{ → ビッグマフ → ショッカー → ワウワウ → オーバードライブ →
 トレモロ → フェイザー → ループボックス(ディレイ、チューナー) → } → アンプ

 このシステムの難点は、エフェクトを使う場合、あらかじめ当該エフェクターのスイッチをオン、然るべき後にPSM-5をオン、と、スイッチを踏むのが二段構えになってしまう点である。しかし1ステージでエフェクトを用いるのは実はそれほど多くはなく、ほとんどが生音である。やはりアンプ直の音を大事にしたいので、多少の煩雑さには目をつぶりつつ、これでよしとしている。

 さて、まるで自画自賛のようだが、このエフェクトボードの最も特筆すべき点は、電池駆動というところにある。というのも、マーシャルを電圧を上げて、しかも全開で鳴らしているからなのか、いわゆるACアダプターでエフェクターに電源供給した場合、大なり小なりどうしてもリップルノイズが乗ってしまう。時にそれは精神に悪影響を及ぼしかねないほどになることもあり、それならばと、エフェクターのすべてを電池化することに思い至った。

 裏蓋を開けて毎回電池を交換するのも面倒なので、アダプターを介して電池は外側に出すことにした。アイディア自体は、フランク・マリノからいただいた。(昔そんなライブ写真を見たことがある)

 比較的電池を喰いそうな部分、肝要な部分には、それ専用の9V電池ボックスを付けた。(チューナー、PSM-5等)それ以外は、単三電池6本で複数個を賄っている。当たり前だけど、006P1個より、単三6本の方が多量の電流を取り出せる。

 Maxon AD-900はもともと12VのACアダプター専用なのだが、乗りかかった船だ、とことんまでDC化することにし、単三8本の電池ボックスを付けた。

 感想。
 もうまったく驚くほどに、信じられないほどにノイズがない。むしろシールド一本の時より、間にバッファーが入っている分、ハムノイズすら出ないという状態。不気味なほどの静けさである。ギターのボリュームを絞っている限り、するのはアンプ自体の発するサーッという音のみ。

 僕としては、エフェクトボードの電池化の啓蒙活動を行ないたいぐらいである。特に、真空管アンプを大音量で鳴らす人にはオススメだ。僕はこれらを自作したわけだけれども、最近は外付けの電池ボックスが楽器屋でも売られているようなので(やっぱりおんなじことを考える人はいるものだ)、興味のある方は、ぜひ試してみてください。

〔──あ、でも僕はACアダプターを否定するものではけっしてないです。良質なACアダプターも沢山あります。適度な音量で、適度な電圧でアンプを使う限り、アダプターで何ら問題はないです。電池交換の煩がない、経済的と、ACアダプターの方がはるかに利点は多いのですから〕

※これから人間椅子『疾風怒濤』ツアーに行ってきます!
 今回はライブ録音も兼ねているので、気合が入ります。
 セッティングは、上に述べた通りです!

 
浪漫派宣言
和嶋慎治(人間椅子)

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