連載

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&K Laboratory 近藤 晃司 氏に突撃取材!
TEXT:栗林啓

連載「ロック社会科見学」第17回は、新進気鋭のエフェクターメーター&K Laboratory(アンドケイラボラトリー)をご紹介しましょう。豊かな音色と「和」を感じさせる豪華なデザインで、楽器店に並んでも一際目を引くエフェクターメーカーです。

ギタリストは自分の音を作り上げるのに試行錯誤を繰り返して半端ないこだわりを持っているものですが、そのギタリストたちの足元に並ぶエフェクターのメーカーも同様に半端ないこだわりで試行錯誤を繰り返し、製品を世に生み出しています。そのこだわりの詰まった小さな箱の秘密の一端をみなさまにご紹介しましょう。

&K001近藤 晃司 プロフィール
 
1975年12月30日生まれ。京都出身。20代は普通の社会人アマチュアミュージシャンとして活動。30歳になった頃には、ネットワークエンジニアの仕事に従事。時間に追われて音楽活動もほとんどできない時間を過ごしていたが、突然病気になり退社。このことを切っ掛けに音楽の道に戻り、&K Laboratoryを設立。京都の地で日々エフェクターの製造開発に取り組む。
 

— まず初めに&K Laboratory設立の経緯を教えてください。

近藤:&K Laboratoryは安東信吾(以下:安東)と私、近藤の二人で運営しているのですが、二人とも知り合う以前からそれぞれエフェクターの自作や研究をしておりました。我々のギターの師匠である岡本博文さんの教室で知り合い、「今度一緒にエフェクターを作ってみよう!」という話をキッカケに始まりました。

— いつ頃のお話でしょうか?

近藤:それが2012年の夏頃だったと思います。私一人ならプロとしてやっていく自信はなかったのですが、安東が通天閣のイルミネーションや超大企業のロビーのイルミネーション、高速道路の速度標識、ETCシステムなんかも設計している電気の達人だったので、それから二人でしばらくプロのミュージシャン向けにペダルを作ったりしていました。その後、トーンブルーさんが代理店について下さり、商品が全国に流通するようになりました。私が見た目、サウンドのデザイン、アーティストさんとの窓口、安東が設計、製作と各々の長所を生かしてやっております。あと、京都で活動している後輩たちが展示会などで手伝ってくれて、本当に助かっています。

&K002— ギターの演奏もされていたんですね。

近藤:私のバックボーンは、実はアコースティックギターなんです。高校生の時からお世話になっている京都のプレイヤーの方に戦前マーティンからオールドギブソン、グレーヴェン、ソモギと様々なギターを弾かせていただけてヴィンテージギターの虜になり、私もアルバイトをしてオールドのアコースティックを学生時代から弾いて弾き語りをしていました。当時はまだ一般的にはフォークギターと言っていた時代でしたね。今の方にはわからない感覚だと思うのですが、弾き語りには当時市民権がなかったんです(笑 )。それがEric Claptonがアンプラグドをした途端に今までアコギを馬鹿にしていた エレキの連中がアコースティックにきて・・・なんやねん(笑)という感じで。ちょうどその頃にLed Zeppelinなんかにハマりはじめて、すぐにレスポールを買いに行きました。そこからJimmy PageJeff BeckEric Claptonの3大ギタリストに、Jimi Hendrix…とにかく古いロック、ファンク、ソウル、ジャズなんかの音楽が好きですね。私自身はオリジナルやコピーをするバンドで年に数回ライブをやらせて頂いたり、セッションで弾いたり、私の企画する「博文と愉快な仲間たち」という大セッション大会をやらせていただいてます。岡本博文さんを中心にたくさんのプロの方と様々なジャンルの曲を弾けるセッションにしています。

— &K Laboratoryの製品についてもお伺いしたいのですが、ものづくりにおけるコンセプトはありますか?

近藤:&Kのエフェクターの共通のコンセプトはいくつかあります。1つめは、京都のブランドという事で、美しい和を感じるデザイン。2つめは、決してギター本来の音を損なわない事。3つめは、ノイズレスであること。4つめは、音が音楽的である事、そしてアンサンブルの邪魔をしない。5つめは、ボリューム、ピッキングに対する追従性がいい事です。音に関して言えば、例えば一人で家で弾く分には良い音のペダルというのは無数にあります。ですが、アンサンブルに入ると主張がなくなる、逆に他楽器の音域まで侵してしまうほどにギター本来のトーンから逸脱して増幅してしまうペダルが非常に多いのが実情です。そこで我々は作り手がプレイヤーであるという事を生かした音作りを心掛けております。また、ヴィンテージギター、ヴィンテージアンプ、そして現代の楽器、それぞれに合わせて使える事も考慮して設計しております。

&K004&K003— オススメの商品をご紹介していただけますか?

近藤:新商品の「雷神ディストーション」と「木霊ディレイ」になります。雷神ディストーションはichiroさんから『長渕剛ARENA TOUR 2014 ALL TIME BEST』に向けてオーダーして下さったディストーションが最初の機体で、それはアリーナやドームなどの大会場向けのセッティングにしてあるのですが、それを一般の会場向けにチューニングし直したペダルになります。今年の『長渕剛 10万人オールナイト・ライヴ 2015 in 富士山麓』でもichiroさんのボードに入っています。10万人の方の前で自分たちの音が響くのはビルダー冥利に尽きます。市販版の雷神も既に木霊と共に『安達久美 club PANGAEA 10th anniversary レコ発 LIVEツアー』で安達久美さんの足元で活躍しております。その音はYouTubeでのツアーPVでご確認頂けます!(編集部註:YouTubeリンク)音質としては古いヴィンテージマーシャルをフルアップさせたような味わいのある音から、現代マーシャルのようなスムーズなサウンドまで幅広く作れるペダルになっています。 ディストーションは…という方に是非お試し頂きたいペダルです。また、次に紹介致します木霊との相性を最初から踏まえて設計しておりますので、組み合わせる事であらゆるサウンドメイクが可能になります。木霊ディレイは私近藤がEP-3(編集部註:テープエコーMaestro Echoplex EP-3)のファンでして、あの重い物体をどうにか持ち運ばずに近いサウンドが出せないかと考えてできたディレイです。デジタルでありながらアナログなトーンでアンサンブルを邪魔しない幻想的なトーンにしております。またディレイペダルでありながらプリアンプ効果も狙える設計になっていますので、ディレイを切る事で単体でクリーンブースター的にも使ったり、歪みの後ろに置いてブーストしたりと色々な使い方ができます。

— エフェクターのデザインがどれも非常に個性的ですが、デザインへのこだわりはあるのでしょうか?

近藤:やはり京都のブランドですので、「京都」「和」を感じるデザインを意識しております。足元に格好いいエフェクターを置きたいというのはギタリスト誰しもが考えることだと思うので、やはりデザインはこだわっております。

— やはり「京都」にこだわりがあるのですね。

近藤:地元が京都というのがありますが、古くからブルースなどが盛んで、良いミュージシャンがたくさんいる街という意識があります。ライブハウスやカフェなどの演奏スペースのある場所と人口の比率がこれほど高い街は日本では珍しいのではないでしょうか?

— 製品の製造の行程を教えていただけますか?

&K005近藤:まず技術者である安東が試作したペダルの中で良いモノを私がスタジオで試して、こうして欲しい、もっとこうするべきだという方針を立てます。その工程では、ギターはヴィンテージのストラトキャスター、テレキャスター、レスポール、ES335、そして現代の楽器、アンプではブラウン、ブラックフェイスなどのフェンダーアンプ、JC120などを基本に色々な相性などを見つつ音色をデザインしていきます。出音の正しさなどを考えると、この段階ではしっかりとメンテナンスされたヴィンテージの楽器を基本にサウンドデザインしていく事になります。そして往年の名器と呼ばれるペダルなどと比較し、どこを現代的に改良するか、ヴィンテージペダルのどこを参考にすべきかを試案します。サウンドの方向が固まったところで、基板材の選定、基板のレイアウトを安東が設計し、電子部品を選択していきます。ここでテスト&トライの繰り返しになります。安東が試作し、私が注文をつけるこの繰り返しですね。そして音的に一応の完成の段階となったところで実際に私や&Kユーザーのプロの方にライブやセッションで使用していただいて、意見を頂いたり、アンサンブルの中でどうなるかを検討します。そこでNGな部分があるようですとまたテスト&トライに戻ります。それと並行して音に相応しいペダルの名前を私がつけてそれに合わせたルックスを与えます。&Kのペダルはデザインが凝っているので塗装もやはり手間がかかってます。製品版のプロトタイプができたところで製品版を安東が製作し、代理店さんへ出荷になります。ここはやはり安東が本業で色々な電気機器を設計、製作しているノウハウが活きますね。

&K006— 苦労する点はありますか?

近藤:苦労は本当にたくさんあります(笑)。量産品ではなく、ハンドメイド、しかも日本製でまじめに作るとやはり定価が高くなってしまいます。私たちの考えでは誰でも買える、特に学生さんの買える価格帯にしたいのですが、それがなかなかに難しいのです。
かと言って、音の部分はもちろんの事、デザインの部分、塗装などの質を落とすと、今星の数ほどエフェクターが溢れる世の中では手にとって見てもらう事すらできない訳です。おそらくどこのビルダーも苦労している部分だとは思うのですが、やはり部品単位での精度が落ちている事ですかね。具体的に言うとスイッチやボリュームポットなどです。エフェクターに使うボリュームというのはやはりそんな高い部品ではないので、今は日本製ではなく台湾製、中国製になってしまう事があり、初期不良が多く選別に困ります。良いモノを作って下さるメーカーさんがあれば助かるのですが、商売ベースで考えるとやはり難しいのでしょうね。安東が普段の仕事で作っている測定器などに使うようなモノは、オーバースペックでコストが高すぎて価格に響いてくるので使えないという…そういう部品は自分たちで作り出す事ができないので難しい部分です。あとはビンテージパーツの入手、部品代の高騰ですね。私たちはできるだけビンテージパーツは使わないようにしているんです。ビンテージパーツはやはり経年変化で元の状態ではなくなっているので、製品として世の中に出すには不安な部分があります。ただどうしてもそれでしかこの音にならないという場合には使用するのですが、そうなると値段が高騰してしまっているという事がありますね。

— 最後に今後の展望をお聞かせください。

近藤:&Kの今後というか私個人の願望なので安東に怒られそうですが、いっぱい売っていっぱい儲けて自分の好きなアーティストだけを集めたウッドストックみたいなお祭りを京都でしたいですね!(笑)あとこんなもの誰が買うねん!という変態系FUZZを作りたいです(笑)。そのために少しずつ積み上げて行きたいと思います。

&K Laboratoryのエフェクターの音色を映像で確認!

実際のライブで&K DRIVE PUREと&K BOOSTERを使われているKay-ta Matsunoさんの動画があります。&K DRIVE PUREはパラシュートの2014年ツアーでも松原正樹さんがメインの歪みでご使用下さったのでパラシュートのDVDでも聴けます。(近藤)
 

木霊ディレイですが三宅庸介さんのこの動画です。ディレイは少な目でプリアンプ効果を存分に生かしてプレイされています。(近藤)
 

雷神ディストーションと木霊のコンビネーションはTimothy Reidさんのこの動画をご覧下さい。(近藤)

&K Laboratory (アンドケイラボラトリー)
公式サイト:
http://www.and-k-lab.com/
 &K LAB ロゴ
 
 
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