連載

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奥田民生『サボテンミュージアム』
TEXT:鈴木亮介

okudatamio「どこにだって上には上がいる」
「ヘイ上位 眺めはどんな感じよ」

 
驚いた。老眼鏡なんてグッズに出して「今が一番仲良し」なんて言って、ユニコーンの円熟を謳歌している…と見せかけて、フロンティアのパイオニアはやっぱりこんなもんじゃ終わらない。
 
わが国の至宝・MTR&Y奥田民生(Vocal & Guitar)、小原礼(Bass)、湊雅史(Drums)、斎藤有太(Keyboard)>での2008年以来9年ぶりの制作と聞いて、期待と不安で文字通り動揺せずにはいられなかったが、その胸のざわつきは全11曲を聴き終えた今、(家でオーディオで聴いているだけなのに)手に汗握る興奮へと変わり、そして何とも言えない胸騒ぎを覚えている。何なんだOT。まだ上を見て、まだ攻めるのか。
 
「不安」と書いた。それは何かと言ったら、「イナビカリ」を超えるアドレナリン全開ナンバーはもう生み出されないのではないか?という不安だ。以前平山雄一氏が『OT REMASTERS』の解説で「最初に聴こうと決めていたのは『Fantastic OT9』の1曲目「イナビカリ」だった。理由はこの曲のイントロのギターの音が、OTの全楽曲の中でいちばん好きだったからだ。」と書いていたが、小生も全く同じ意見を持つ。2013年のツアー『SPICE BOYS』の初日の新木場STUDIO COASTで終盤、この曲のイントロが鳴り響いた瞬間、あの瞬間、多分人生で初めて、拳が自然に挙がったあの感覚は今でも鮮明に覚えている。
 
そういうわけで「イナビカリ」の残像をどうしても追い求めてしまうし、MTR&Yでやる以上は2013年の『SPICE BOYS』とも、2015年の『秋コレ』とも違う、そんな世界があるのか?と、考えれば考えるほどふわふわしてくるのだが、そんな揺れる思いをそのまま音にしたようなギターリフで、1曲目の冒頭「ドドドドラムは今夜も…」とアルバムはスタートする。思わず笑ってしまう。
 
「バンドは今夜も ちょっぴりずれてる」
 
確かに、ずれてるかもしれない。機械のクリックとはずれてるかもしれない。でも、誰にも合わせられない歯車が、それはそれは絶妙にぴたりと合っている。それがMTR&Yだ。1曲目のタイトル「MTRY」なのか。まんまじゃん。また笑ってしまう。ABEDONはデジタルへの対峙を命題にしているが(参照:ABEDON『Feel Cyber』)、OTもやはり同じ思いはあるのだろう。シンプルなコードの中に、無二の奥深さを表現する。温故知新を地で行く感じだ。
 
「その日は近い その日が近い いよいよ近い 早くいどみたいぜ」
 
攻めるOT。あくまで2017年の音楽シーンに、真っ向から挑む。だからこそこれまでにないほどの多数のメディア露出や、アルバム収録曲のMVを7週連続公開、しかもアルバム収録曲とは別バージョンのサウンドで公開、なんてことをサラッとやってのける。そこまでする動機は、つまりこういうことなのだろう。
 
「さすが俺のギター 俺だけが弾くだけのギター これを他人が弾いてもこうゆう音しない」
「これが俺のギター 弾くためのギター 磨いて飾っとくのでは意味がない」
 
ライブを想起させる音づくり、が本作のコンセプトだという。確かに、いわゆるライブレコーディングとは一線を画しつつ、ライブでしか味わえないあの贅沢な空間がしっかりと作り込まれている。一例を挙げるならば、6曲目「俺のギター」で中盤からオルガンが存在感を見せつつ全体的な勢いを増していく感じや、7曲目「白から黒」のベースが高ーい天井に拡がっていくスケール感(そして、この曲は終盤にかけてのグルーブ、最後のフェードアウトがたまらなく心地良い)。そして9曲目「ゼンブレンタルジャーニー」では歓声すら借りて、いや磁石のように吸引して、キャラバンが歩みを進めていく感じ。これをライブ盤と言うのだろう。「ゼンブレンタルジャーニー」は何度聴き返しても至極。目を閉じれば、そこに拡がる色は暗黒ではなく、至極色(=深紫)。
 
サボテンの花言葉を調べてみた。「秘めた熱意」、「偉大」、「枯れない愛」…色々深読みしたくなるが、当のOT本人は「サボってんねん、ワシ」って言うために付けた、くらいのことを飄々と言ってくれそうだ。情熱とか気合いとか前面に出しちゃうのはダサい、と言いつつ触ったら熱そうな感じ。
 
「ずっと立っているだけと見せかけて 見てないところで歩いてるかもよ」
 
「イナビカリが~」と冒頭に書いたが、この曲が特にどうとか、ここのギターサウンドがどうとか、じゃないのだ。具体でなく、抽象を捉えよ。デジタルかアナログか、売れるか売れないか、とかく0か1かで処理したがる音楽シーンへの挑戦であり、新たな価値観を提示する、貴重な”ミュージアム”。じっくりと鑑賞し、来たる全国ツアーに備えたい。
 
「ヘイ上位 まあ威張っててよ ヘイ上位 余裕こいててよ」
「雲にかじりついてでも そこに行くから待っててよ」

 

 


 
RCMR0007◆リリース情報
ニューアルバム『サボテンミュージアム』
・2017年09月06日(水)発売
 RCMR-0007 3,000円(+税)
<収録曲>
M01. MTRY
M02. いどみたいぜ
M03. サケとブルース
M04. エンジン
M05. ミュージアム
M06. 俺のギター
M07. 白から黒
M08. 歩くサボテン
M09. ゼンブレンタルジャーニー
M10. 明日はどっちかな
M11. ヘイ上位


 
MTRY .Still003◆ライブ情報
奥田民生「MTRY TOUR 2018」
・2017年04月14日(土)【埼 玉】三郷市文化会館 大ホール
・2017年04月19日(木)【千 葉】市川市文化会館 大ホール
・2017年04月21日(土)【宮 城】東京エレクトロンホール宮城
・2017年04月22日(日)【福 島】いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
・2017年04月28日(土)【福 岡】福岡サンパレス
・2017年04月29日(日)【宮 崎】都城市総合文化ホール 大ホール
・2017年05月11日(金)【神奈川】川崎市スポーツ・文化総合センター
・2017年05月12日(土)【神奈川】川崎市スポーツ・文化総合センター
・2017年05月19日(土)【広 島】広島文化学園HBGホール
・2017年05月26日(土)【兵 庫】神戸国際会館こくさいホール
・2017年05月27日(日)【岡 山】岡山市民会館
・2017年06月02日(土)【北海道】わくわくホリデーホール
・2017年06月08日(金)【東 京】中野サンプラザホール
・2017年06月09日(土)【東 京】中野サンプラザホール
・2017年06月12日(火)【大 阪】フェスティバルホール
・2017年06月16日(土)【滋 賀】滋賀県立文化産業交流会館
・2017年06月17日(日)【愛 知】名古屋特殊陶業市民会館フォレストホール
・2017年06月23日(土)【長 野】長野市芸術館 メインホール
・2017年06月24日(日)【石 川】本多の森ホール
・2017年06月30日(土)【沖 縄】ミュージックタウン音市場
 

◆奥田民生 オフィシャルサイト
http://www.okudatamio.jp/
◆RCMR オフィシャルサイト
http://rcmr.jp
 


 
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