連載

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吉澤嘉代子『東京絶景』
TEXT:まりな

今回のアルバムの表題曲でもある「東京絶景」は以前からライブでは歌われていて、とくに印象に残っているのが2015年2月14日に東京タワーの展望台で行われたイベントの時のことだ。タワーの展望台からは窓いっぱいに光り輝く東京の夜景が広がり、まさに言葉通り絶景の中で吉澤嘉代子はアコギ1本でこの曲を弾き語った。シチュエーションも相まってその日の東京絶景は特別なものだったが、アルバムを通して聞くと絶景というのはどうやら東京のネオンの光のことだけではないということがわかる。
 
「野良猫が漁るゴミ棄て場に額縁を嵌めてみる」
 
曲中にあるこの歌詞のように、なんでもない日常も見方を変えると絵画のような美しい、またはおぞましい景色に変わったりする。それを吉澤嘉代子は「絶景」と表現したのだ。
 
そんな「日常の中の絶景」を切り取った全12曲が収録された2ndアルバム『東京絶景』が2月17日にリリースされる。
 
1曲目の「movie」は今までにはあまりなかった抽象的な歌詞が夢と現実との狭間の曖昧さを表している。そして編曲もプログラミングが多用され、今までの歌謡曲テイストで懐かしさを感じる編曲にプラスしてどこか新しい風も吹いているように感じる。この曲が1曲目にあることが、また新しく吉澤嘉代子の表現の幅が広がったことを提示していて、アルバムの先を聴くのが楽しみになる。
 
2曲目「ひゅー」は少し恥ずかしがりやで内気な女の子が主人公のラブポップス。吉澤の曲に出てくる女の子はいつだって不器用で人間くさい。3曲目の「胃」も、素直になれなくて壊れてしまった恋愛を歌った曲で「あなたの胃を弱らせた わたしのわがまま」という突拍子もない歌詞から始まる。ラブソングにおいて「胸が痛い」ならまだしも「胃が痛い」と歌ったのは吉澤だけではないだろうか。サビで連発する「キリキリ」という胃が痛む音だったり、1曲目の「ひゅーひゅーひゅー」とはやし立てる声や、9曲目「綺麗」の「きらっきらっきらっ」など、擬音語をリズミカルに曲に取り入れることが巧く、難しいことなしにさらっと一緒に口ずさめてしまうところも吉澤の曲の持ち味である。
 
その後も、吉澤が好きだという寿司のガリに対する愛おしみあふれる歌詞と軽快なバンジョーの音が心地よい楽曲「ガリ」、どんなに寂しい日も平然とした顔で過ごしていきたいという自身の人生のテーマを掲げた「ひょうひょう」、インパクトのあるタイトルとは打って変わって自責の念が込められたミディアムバラード「ジャイアンみたい」などの新曲が収録されている。
 
そして事前にYouTubeでリリックビデオが公開された「手品」はトランペットやアルトサックス、トロンボーンなどのホーンセクションにピアノやストリングスなどいろんな楽器の音が合わさり、アルバムの中でも一番のアップナンバーだが、幻のような儚い恋を「うその魔法」つまり「手品」に例えて綴っていて、悲劇と喜劇が表裏にあることを思わせる切ない曲でもある。
 
前作にも収録されていた人気曲「綺麗」「ユキカ」に続き、廃盤になったインディーズ時代のミニアルバム『魔女図鑑』に収録されている初期の名曲「化粧落とし」も収録。元々は歌謡曲テイストの曲であったが今回、ギターはMarty Friedman、ベースに中尾憲太郎、ドラムスにかみじょうちひろ9mm Parabellum Bullet)と豪華メンバーが参加し、メタル調のゴリゴリの演奏が入ったことによって、よりじわじわと迫る女の狂気を感じさせるアレンジとなっている。アレンジの幅が広がった今だからこそのバージョンで聴けるのもファンにとってはうれしいことだろう。
 
そしてアルバムのラストを飾る「東京絶景」では、曽我部恵一が弾くアコギのやさしい音色に、裏声でありながら力強くもある吉澤の歌がのる。早朝、駅へ向かっていく人の群れ、昼間せわしなく道路を行き交う車、遠くの光だけが見える夜の公園、どんな場面で聴いても一瞬にして今見ている景色が何か特別なものに見えてしまう不思議な曲だ。
 
 
全体的にスッキリ聴けるけれど、歌詞は今までにないほどリアルな人間の心の機微を感じさせ、誰もが「これは自分の歌だ」と感じて胸に突き刺さってしまう曲があると思う。
 
これまで吉澤が言われていた「妄想系」や俯瞰した目線ではなく、今回は私たちの日常に寄り添ってくれるようなアルバムになったと感じる。しかしただ日常を描くだけではなくそこには冒頭で言った「野良猫が漁るゴミ棄て場に額縁を嵌めてみる」のように、見方によってはいっそう楽しめる日常の魔法が吉澤の手によってかけられているのだと思う。
 
アルバムのリリースを記念して、4月から全国ツアーも始まり、4月30日のツアーファイナルは自身初の東京国際フォーラムホールCでの公演になる。吉澤のツアー公演はそのたびに印象が全く違うステージになるので今回も絶対見逃さないでほしい。まさに素晴らしい「絶景」を私達にみせてくれるはずだ。
 

 


 
◆リリース情報
2ndフルアルバム『東京絶景』
・2016年02月17日(水)発売

◆ライブ情報
2ndフルアルバム『東京絶景』発売記念イベント
内容:ミニライブ&サイン会
イベント参加方法:
ミニライブ:観覧フリー(※2/27渋谷会場はミニライブ観覧もイベント参加券が必要) サイン会:予約者優先で、対象店にて『東京絶景』(初回限定盤または通常盤)購入者に先着で配布されるイベント参加券が必要
・2016年02月20日(土)【愛 知】名古屋市内某所
 16:00~
・2016年02月21日(日)【東 京】ヴィレッジヴァンガード下北沢店
 21:00~
・2016年02月27日(土)【東 京】タワーレコード渋谷店
 18:00~
・2016年02月28日(日)【大 阪】タワーレコード梅田NU茶屋町店
 15:00~
・2016年02月28日(日)【大 阪】タワーレコード難波店
 19:00~
・2016年03月06日(日)【愛 知】タワーレコード名古屋パルコ店
 ※開始時間調整中(午後予定) 
・2016年03月13日(日)【福 岡】新星堂キャナルシティ博多店
 15:00~
※各会場の詳細・注意事項は、日本クラウンHP/吉澤嘉代子をご参照ください。
http://www.crownrecord.co.jp/artist/yoshizawa/whats.html

絶景ツアー “夢をみているのよ”
・2016年04月09日(土)【北海道】札幌cube garden
・2016年04月16日(土)【岡 山】CRAZYMAMA KINGDOM
・2016年04月17日(日)【福 岡】スカラエスパシオ
・2016年04月23日(土)【宮 城】仙台Rensa
・2016年04月27日(水)【愛 知】名古屋市芸術創造センター
・2016年04月29日(祝)【大 阪】大阪ビジネスパーク円形ホール
・2016年04月30日(土)【東 京】東京国際フォーラム ホールC

その他ライブ出演情報:
「sparkjoy hour ~girls joy~」
・2016年03月01日(火)【東 京】渋谷 TSUTAYA O-WEST
 w/ 南波志帆/Negicco

 
◆吉澤嘉代子 オフィシャルサイト
http://yoshizawakayoko.com/
◆吉澤嘉代子 モバイルファンクラブサイト『ほうきの会』
https://fc.yoshizawakayoko.com/pages/fanclub

 


 
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【レポート】吉澤嘉代子 箒星ツアー’15
http://www.beeast69.com/report/131031
【連載】新譜るLIFEダイアリー 吉澤嘉代子『箒星図鑑』
http://www.beeast69.com/serial/simple/122507