連載

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TEXT:鈴木亮介


ロックはもう終わってる~
 
そういやちょっと前に「いまどき、まだギターロックやってるんだ?」ってインタビューに答えて炎上した人もいたな。
 
とっくに ダサくなってる
テクノかヒップホップをやりなさい
 
吉田何言ってるの?(呼び捨てごめんなさい)
そう思いながらも、何度も何度も噛み締めてしまう。
 
 
個人的な話で恐縮だが、原稿を書くときに「中毒性」という言葉はなるべく使うまい、と思っている。
 
「中毒性あるわー」と表現したくなる音楽のうち、半分は文字通り何百回も繰り返しそればかり聴いちゃう!というもので、もう半分は自分の興味の湧かない音楽に対して「中毒性がある(から、好きな人は好きですよね)(ま、オレは嫌いですけど)」と書くと、ストンと落ち着くのだ。
 
それに味を占めて「中毒性」という言葉を一時期多用していたら、あるとき、本当に好きな音楽を語るときに「中毒性」という言葉でまとめてしまうのが何だか不誠実であるように思ってしまって、それ以来「中毒性」という言葉は自分の中で悪口に置き換わってしまった。
 
そういう言葉って、結構巷間にもあふれていると思う。良いか悪いか分からない「適当」「いい加減」という言葉とか、福田元首相の言った「精々頑張ってください」とか(古っ!)。あと、「賛否両論」も、もはや「否」を和らげるためにしか使われていない気がする。
 
…という長い長い前置きを踏まえて、敢えて言わせていただきたい。トリプルファイヤーというバンド、トリプルファイヤーというジャンル、これに対して自分は「中毒性」という言葉しか思いつかない。
 
冒頭に挙げた「SEXはダサい」の歌詞は一見、どれも説得力がない。吉田靖直自身「人から“したり顔”で言われたらむかつきそうなことを書いた」と語っている通り、けだるい調子で「何言ってんのコイツ?」が極められている。
 
これはしかし、今の世相そのものだ。憲法解釈、エンブレム騒動、試験問題漏洩、職場や学校のコミュニケーションに至るまで…嘘をついてまで成功したい、いや嘘をつかないと成功しない、そんな世の中を吉田靖直はどこまでもストイックに皮肉る。そこに、鳥居真道の究極にストイックに追究された音が乗る。あまりにもカンナ掛けが上手すぎて何も手を掛けていないように思えてしまう…回転が早すぎて止まっているように見えるタイヤ…といったところだろうか。
 
このレベルでOKだったら俺だったら5分で3個できるって
でもトラックに轢かれた

 
真面目にふざけ倒しているから、本当にふざけているように思える彼らの天才性。語尾に「なんちゃって」をつけると信用が全て一瞬で崩れ去る…あの感じがたまらない「トラックに轢かれた」。日本マドンナの「私は脳内殺人犯懲役死刑」にも通じる、イラつく存在への破壊願望。”モノよりハート”というモテ男を一瞬で木っ端微塵にする、圧倒的な非モテ力。サルトルは言う。「実存は本質に先立つ」…
 
俺たちはトラックを変えることができない
俺たちはトラックを変えることができない
俺たちはトラックを変えることができない
俺たちはトラックを変えることができない

 
何十回とリピートしていると次第に、「トラックに轢かれた」のこの「トラック」が、”truck(車)”ではなく”track(音楽)” なのでは?とも思えてくる。商業ロックへの反抗なのか。
 
そういうゲシュタルト崩壊が12曲にわたって続く。MVが公開されている「変なおっさん」もそうだ。「変なおっさんに”なる”」というのは、「なりたい!なる!」という決意表明なのか、「自動的になることが決まっている」という運命の肯定、事実の客観描写なのか。
 
彼らにとって3枚目のアルバムとなる本作。多くの曲のビートメイカーである鳥居真道は、前々作、前作、本作と数を重ねる毎に、より削ぎ落とした、鋭利な音作りを是とする。リズム隊の山本慶幸(Bass)、大垣翔(Drums)の演奏は鳥居真道の求める音に忠実に、やはりシャープで、ソリッドだ。ライブ動画で演奏する姿を観ても、その佇まいに職人然とした重みを年々増している。その地盤の堅さゆえ、綿雲のようにふわふわひょろひょろと落ち着きのないボーカル・吉田靖直が、立ち位置を見失わずにいる。そういう印象だ。
 
クセになる味。トリプルファイヤーに、病み付きだ。
 
ごめん その時はそう思った
その時はそう思った

 

 


 
◆リリース情報
ニューアルバム『エピタフ』
・2015年09月15日(火)発売
定価¥2,000+税 WAVE-03 / アクティブの会
<収録曲>
M01. SEXはダサい
M02. トラックに轢かれた
M03. 変なおっさん
M04. Bの芝生
M05. 戦争の話
M06. 面白いこと言わない人
M07. 今日は寝るのが一番よかった
M08. ゲームしかやってないから
M09. 質問チャンス
M10. なんかしゃべんないと友達になれない
M11. こだわる男
M12. 全国大会

 


 
◆ライブ情報
トリプルファイヤー『エピタフ』発売記念ワンマン “アルティメット パーティー”
・2015年11月24日(火)【東京】渋谷 CLUB QUATTRO
出演:トリプルファイヤー
時間:開場18:30 / 開演19:30
料金:前売¥2,500 / 当日¥3,000(共にドリンク代別)
チケット:
9/27(日)一般発売開始
 ローソンチケット(Lコード:74877)、e+、他
問い合わせ:
渋谷 CLUB QUATTRO(TEL:03-3477-8750)
 
その他ライブ情報
・2015年09月19日(土)【徳島】ライブハウスCROWBAR
・2015年09月20日(日)【高知】CHAOTICNOISE
・2015年11月01日(日)【愛知】名古屋・金山 ブラジルコーヒー
・2015年11月02日(月)【大阪】十三 Fandango
・2015年12月12日(土)【福岡】薬院 UTERO

 


 
◆トリプルファイヤー 公式サイト
http://triplefirefirefire.tumblr.com
 
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