たとえばロックバンド外道、カブキロックスなど、日本的、和的なイメージをバンドのコンセプトの中で追求したバンドは、これまでにたくさん登場した。リスナーがアーティストの作品やスタイルに対して「和的だ」と断定することは、本来は難しい。具体的な定義づけが出来ない命題であるからだ。しかし日本で誕生したバンドは、多かれ少なかれ必ずどこかで「和的」の意味を考えることだろう。音楽を作る上で、自らを知り自身のルーツをたどることは、どこかでかならず必要となるからだ。
 
以前、BEEASTの記事『ROCK SAMURAI STORY 快進のICHIGEKI（Part1）Side A』で、バンド快進のICHIGEKIは、彼ら自身が考える「和的」というコンセプトを語っていた。彼らもまた自身のスタイルの中で「和的」を強く表現するバンドの一つだ。彼らがリリースした最新アルバム『Estilo Japonés』、このタイトルはスペイン語で、「日本のスタイル」を意味する。彼らの目指す方向をストレートに表現したキーワードであることはいうまでもない。
 
「べっぴんさん」「接吻ミッション」で見せる切れ味鋭いギターリフとリズムの疾走感は、彼らがルーツとして持つメタルの要素いっぱい。その一方でバラード「祖国 ～la Japonés～」や、インストナンバー「暁」の、アメリカンハードロックのようなメロディ感、雄大さを見せ、オープニング、2曲目にはアルバムリリース前よりライブですっかりファンにはおなじみとなっていた「幸福パンデミック」「ピンポンDAマーチ」と、ポップさとハードさを絶妙に組み合わせたキラーナンバーを盛り込むなど、サウンドも、これまでのアルバムからより一層バラエティ感を見せている。かつバランス感覚も抜群で、ハードロックを聴いたことのないリスナーも、「好きになる」サウンドとして仕上がっている。彼らの代表曲の一つ「さびしんぼクライ」の再録も聴きどころの一つだ。
 
しかしもっともアルバムの性質的な部分を大きく担い、「和的」を強く表現しているのはコータの作り上げた詞の世界観。アルバムタイトルを強く象徴するような「祖国 ～la Japonés～」や、自らの意志を「ピンポン玉、鉛球、風船球」というユニークな比喩で語った「ピンポンDAマーチ」など、日本語を深く見つめさまざまな手法で自らの思いを解釈し作り上げた、彼の世界観は一層広がりを見せたようだ。
 
この世界観を味わわずして、彼らの作り上げたもの、そして彼ら自身を真に理解することは出来ない。逆に「こんな表現方法があったのか」「この手があったのか」と驚嘆せずにはいられない意外性、かつその驚きで余計に体に染み込んでくるメッセージは、新しいロックの魅力をリスナーに与えてくれることだろう。注意が必要なのは、これは「奇襲ではない」ということ。単に奇をてらっただけの試みであれば、染み込んでくるような感動は曲からは生まれない。体に染み入るための最良の表現が、彼の詞では作り込まれている。
 
その活動範囲や知名度を拡大し続け、「快進ソルジャー」（バンドの熱烈なファンの総称）を増殖し続けている快進のICHIGEKI。単に新しいスタイルを追及するだけではなく、自分たちのルーツをしっかりと見つめることで、このアルバムはバンドの「らしさ」を強く感じさせる「彼らにしか出来ないカッコよさ」をしっかりと表現したアルバムとして仕上がっている。快進のICHIGEKIが考える「和」とは？アルバムを聴くことでその真意を探ってみてはいかがだろうか？日本のロックの新たな可能性を見つける手がかりを、そこに見出すかもしれない。