連載

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※この記事は取材した2014年のアーカイブです。最新情報ではありません。

セレクション30(東京都)「BOOGIE STOCK」 向山テツ オーナー
TEXT & PHOTO:桂伸也

大人気連載「ロック酒場探訪記」。第30回は東京・世田谷区にあるロックバー「BOOGIE STOCK」をご紹介します。京王井の頭線新代田駅を降り、環状七号線沿いを北に数分歩くと、数件が並んだお店の中に、木彫りの看板を構えたお店があります。このお店がBOOGIE STOCKです。大きな道路沿いで目印らしい建物もないところで、普通に歩いていたら恐らく見過ごしてしまいそうな景観。まさに「隠れ家」的な店構えでもあり、ちょっぴりワクワクするような雰囲気もあります。
 
このロックバーは、プロフェッショナルドラマーとして活躍している向山テツさんのお店。店内は全般的に木目地やブロック地などの内装の上に、向山さん自身のバンドや知人バンドのポスターなどが整然と並び、雑多ではない落ち着いた雰囲気を見せています。オープンしても適度な音量のロックサウンドが、とても居心地の良い空気をただよわせていました。ミュージシャンが経営するバーだけに、そのお店作りには何か自身の持つこだわりもあるように感じられたこの空間。向山さんがどのような経緯でこのバーを営むことになったのか、そしてどんな空間作りを目指したのかをおうかがいしました。
 

Photo向山テツ オーナー プロフィール
 
19歳でプロデビュー後、オフコース矢沢永吉、浜崎あゆみ、SMAPなどのサポートをしながら、mintmintsFOLKROCKSなどのメンバーとして活動を続けている。10年前に世田谷でロックバーBOOGIE STOCK経営を開始。以降場所を現在の住所に移し、現在に至る。時々行われる店内のライブでは、多くの観衆が詰めかけ賑わっている。
 
【向山テツ infomation】
http://blog.livedoor.jp/tetsu_mukaiyama-news/

 
Photo—BOOGIE STOCKというお店を始められたきっかけとは、どのようなものだったのでしょうか?
 
向山:昔、世田谷代田の方に私が常連としてよく飲みに行っていたお店があって、それが「BOOGIE STOCK」という店名でした。店主とも知り合いでしたが、ある日彼が「店をやめる」と言ってきたんです。そこで「自分がやろうか」という話になりました。そしてそこで2年ほどやっていたらお店の場所の契約が切れてしまったので、現在の場所に移って今に至るということですね。
 
—では前任の経営者より、お店の名前ごと引き継がれたということですか?
 
向山:そう。彼から「この名前を使ってほしい」と言われていまして。
 
—その名前自体には、向山さんご自身には深い思い入れはあったのでしょうか?
 
向山:いえ、別に何も(笑)。英語の表記とか、カタカナの表記とかいろいろ言われていますが、それも特にどちらでも構わない(笑)。実はロックバーということにそれほどこだわりもないんですよ。雰囲気が好きなのと、自分がやったらタダ酒が飲めるというだけ(笑)。私は昔、バーの店員をやっていたということもありましたし。だから単に「自分の好きなロックをかけながら飲める」ということだけですね。
 
—お酒が目的というのは、ある意味合理的ですね(笑)。今のお店とその以前あったお店は、雰囲気を似せているのでしょうか?
 
向山:そうですね、雰囲気は似ているかな。ただかなり広くなったので、ライブもやるようになったんです。こういうお店にしたいという具体的なイメージよりは、前のお店の雰囲気をそのまま持ってこようということで考えていました。私はその雰囲気が好きだったので、それをできるだけ壊さないようにという感じ。コンセプトというほどのものではありませんが、ただ「ロックなお店をやりたい、音楽をかけられるような」それが一番強く願っていたイメージですね。
 
Photo—とても自然な考え方ですね。音楽も、ジャンルに分け隔てなく色んなものを流されているのでしょうか?
 
向山:そうですね、これもこだわりはありません。変な話ロックじゃなくてもかけることはあるし、ノンジャンル。
 
—なるほど。ステージの構築は、最初から考えられていたのでしょうか?
 
向山:いや、もともと何も考えていませんでした。最初はスピーカー1個だけを置いていたら、フォークソングのプレーヤーが演奏するというところから始まり、徐々に機材が増えて…成り行きという感じでしたね(笑)
 
—でも、徐々にお店を充実させていく楽しさが見えてくるようですね。お店を引き継がれて何年になりましたか?
 
向山:休んでいた時期があったのですが、その間を含めると10年目。途中ブランクが1~2年くらいありましたが。
 
—現在この場に店を構えたことには、何か意図があったのでしょうか?
 
向山:それも特には。たまたま不動産屋のチラシで「こういう物件がある」という話を聞いて確認したところ、合わせて「ライブも可能」と書いていたんです。ライブはやるつもりはなかったけど、音楽はかけたかったから「大きな音が出せるだろう」と思ってここに決めました。
 
—実際にここにお店を構えて、何か心境の変化というのはあったのでしょうか?
 
向山:まあ続けられて良かったな、というくらいで(笑)。ライブもできるようになったし。
 
—ミュージシャンとバー経営の両立ということには、「両方できるのかな?」と考えられたことはないですか?
 
向山:そんなに難しくは考えていませんでしたね。基本は音楽こそが自分の仕事、ミュージシャンが本業で、バーは副業だしダメになったらもうしょうがない、というくらいの感じ。だから本当に楽しんでやっているというだけなんですよ。
 
—楽しそうに毎日を過ごされているのが目に浮かぶようですね。お店の内装や外装で気に入っているポイントはありますか?
 
向山:壁には木版を貼っているので、音が優しくなるんです。コンクリートよりは木の方が音を吸ってくれるから。ロックバーって、イメージとしては結構ガヤガヤする感じがあるけど、そんな雰囲気は避けたいと思っていたから、ピッタリでしたね。
 
Photo—一見こだわりがないように見えて、重視するポイントはしっかりと押さえていますね。カウンターにあるイラストは印象的ですが、どなたかに書いてもらったものでしょうか?
 
向山:うん、知り合いの女の子にね。よくライブとか見に来てくれた子なんですよ。最近はあまり会わなくなっちゃったけど。お店にあるドラムセットの、バスドラにも書いてくれたんですよ。
 
—向山さんの人となりが見えてくる気がしますね。そろえられているお酒で特徴的なところはありますかね?
 
向山:まあ焼酎が多いかな?洋酒系は少ない方だと思います。だいたい来られるお客さんが私と同じくらいの歳の方が多いんですよ。だから昔は洋酒だったけど、だんだん焼酎とか日本酒がメインになりましたね。
 
—自慢のフードメニューはどんなものがあるのでしょうか?
 
向山:特に決まったものはなくて、季節のものをよく作って出しています。でも一番よく出るメニューとしては、だし巻き卵ですかね。皆さんおいしそうに食べてもらえていますよ。
 
—おいしそうですね!やはりそれは、「ロックバーとはいえ落ち着いた感じで音楽が聴ける場所」というイメージにこだわったということですね。
 
Photo向山:そうですね。まあお客さんが喜んでくれればそれでいいかな、っていうところもあります。たとえば「自分がお客だったらどんなのがいいかな?」なんてことを考える。そういう点でなかなか私自身が気に入ったお店には入ったことが、あまりありませんでしたから。だから「自分がお客で行っても楽しめる感じのお店にしたい」と思っています。
 
—お店のキャパシティはどのくらいでしょうか?
 
向山:普段はテーブルを置いているんですが、だいたいマックスで20人くらいかな。テーブルを除けば椅子だけ置いて、60人くらい入れてギュウギュウにしてライブをやっています(笑)
 
—アーティストとの密着感がありそうですね(笑)。お店のライフサイクルというのは、夜の20時から朝の5時ということですが…
 
向山:まあ、その日によって若干の時間差はありますけどね。定休日は特になくて、不定休。だからお客さんは電話をかけて空いているのを確認してきてもらう恰好ですかね。20時過ぎくらいにはまず確実にお店にいますので。朝早くまでやっているのは、始発の電車で帰られる方もいらっしゃるということだから。ただお客さんが掃けたらパッと閉めることもあるし、そういうところは結構臨機応変にやっています。
 
—そういうときは、店を閉めた後にお酒を飲みにいかれたりすることはないのでしょうか?(笑)
 
向山:最近はそういうのはないですね。昔はよくやりましたけどね。元気なころは(笑)
 
Photo—なるほど。くれぐれもお体をお大事にしてください。最後に、お店のアピール的なところを語っていただければ。
 
向山:ただ「のんびりと、ロックでも聴きたいという方はいらっしゃい」という感じですね。単純に私の生活の一部、そこに来ていただければ。もうからなくても赤字にならなければいいね、というくらいの気持ちだし。音楽のリクエストも受け付けています。
 
知り合いが他のハコでライブをやるときに、時々昼間はここでリハーサルをやることもあるんです。使ってくれる人もみんな、いい感じで使ってくれるから嬉しいですよね。リハーサルスタジオとしてもバーとしても、くつろいだ雰囲気になれますよ。
 

BOOGIE STOCKは「ロックバー」というより「人がくつろげる場所」というポイントで、大きな特徴を見せているようにも見えます。ストックしている音楽ソフトや酒の種類の多さ、その他の仕掛けなど、局所的な特徴があるわけではありません。しかし、店の入り口を抜けたときにホッとする雰囲気は、多くの人が感じることでしょう。「ここにいることが心地良い」と感じさせる空間がここにはあります。多くのものがあるわけではない、好きな音楽とお酒があれば、この場にいること自体を楽しく感じられる。
 
そんな空気を感じさせるのは、オーナーの向山さんの人柄がそうさせているようにも思います。過大な冒険を試みるよりも、自身の生活に基づいたお店作りを心がける、そんな彼の思いがそのままお店の雰囲気に反映されています。アットホームで居心地が良く、さらに向山さんの存在で何よりも「ロックを感じられる」お店であることは間違いありません。時々行われるライブも、実は他ではなかなか見られないプレミアムなものが行われることもあり、生粋のロックファンも見逃せないスポットであります。気軽にチラッとのぞいてみるだけでもOK、是非一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
 

BOOGIE STOCK

営業:PM8:00~
休日:不定期
住所:〒156-0042
    東京都世田谷区羽根木1-4-18
(京王井の頭線『新代田駅』徒歩2分)
TEL:03-3324-3923
公式Twitter:https://twitter.com/boogie_stock

gedan

東京都世田谷区羽根木1-4-18



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