演奏

utahime

TEXT:まことZ(村田誠)

豪華なキャストが“ママさんロックバンド”を演じる!



この「ウタヒメ」は、副題が「彼女たちのスモークオンザウォーター」。原作は「1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター(2007年 五十嵐貴久 双葉社)」という小説である。そう、タイトルにあのロックの定番、バンド活動の定番、セッションの定番、「Smoke On The Water」の名が含まれるのだ。
 
リリース当初のリアルタイムのDEEP PURPLEファンはもとより、40~50代のみならず20~30代のバンドマンまでもがよく知っている、あの名曲だ。決して若くない中年女たちがバンドを組んでステージで「Smoke On The Water」を演奏するまでを、若干コミカルに表現しつつも、人間ドラマとしての完成度を求めた作品。
 
70年代に洋楽ロックが流行、そして80年代がバンドブーム。時を隔てて昨今オヤジバンドブームと言われている。オヤジバンドと言われてはいるが、実際には30~50代の女性も多くいる。もちろんバンドブームの経験者が昔を思い出して…というのも多いとは思うが、昔憧れていて、やってみたかった!という初心者も多い。
 
そんな現実の社会を背景に、この映画では中年女たちがそれぞれ、家庭の不和、離婚、近所付き合い、身内の病気、挫折などの色々な背景を抱えて出会う。そしてバンド活動をするに至るのだが、それを映画の短い時間の中で、よく説明できている点が、この映画の脚本と監督の評価すべき点だと思う。
 
説明的になり過ぎず、かといって飛ばし過ぎて物足りなくなるということもなく、ちょうどいいと感じさせるところに、観せる「上手さ」を感じた。私も音楽活動をしているので、中年女性のアマチュアミュージシャンは数多く知っているのだが、まさか彼女たちがみな、この映画の登場人物の様に色々と問題を抱えているとは思いたくない。
 
ただ、映画としてはその色々な問題を抱えている点が非常に面白い。もしかしたら私の周りにも、何かを抱えている人がいるのかも知れない…と、考えさせられてしまう。

■STORY■
郊外の高級住宅地にある瀟洒なマイホームで暮らす45歳の美恵子(黒木瞳)は、ごくごく平凡な専業主婦。優等生的な性格で、一見、人もうらやむ幸せな奥様だが、その内面はフラストレーションでいっぱいだった。夫(西村雅彦)は美恵子に無関心な上、減給でローン返済も危うくなり、しょっちゅう実家にひきこもっている。姑から「もっといいご縁があったのにねえ」と嫌みを言われ、高校生の娘、沙耶子(栗咲寛子)も不登校のひきこもり状態。家族のためにとがんばればがんばるほどカラ回りする美恵子は、夫に「お前、疲れないのか?」と言われてショック。疲れないはずないじゃない!

そんな美恵子を訪ねてきたのは、昔の職場で後輩だった、40歳のマイペース女、かおり(木村多江)。数日前、乳がん検査を受けに行った病院で偶然、再会したのだ。男にだらしないバツイチのかおりは、ネットで知り合った男に大金を騙し取られた様子。見るに見かねてお金を貸してしまった美恵子は、近所のコンビニ「フォーリバース」でパート勤めを始めることにする。

コンビニで働く美恵子はある日、フリフリワンピを着た大柄な女の万引き現場を目撃。その女、雪見(山崎静代)を居酒屋に呼び出して、理由を問いただす。社宅暮らしの雪見は、意地悪でウワサ好きの奥様連中に悩まされ、友達がいない。そのさびしさから、ついつい万引きをしてしまったのだ。同情した美恵子とかおりは、なぜかその夜、雪見とカラオケで意気投合! そのとき、隣の部屋から聞こえてきたのが、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」だった。高校時代に男子のバンド演奏を聞いて以来、美恵子の大好きな曲だ。「演奏できたら気持ちいいんだろうなぁ」とつぶやく美恵子に、「やっちゃおうよ!」とかおり。雪見も大乗り気で、崖っぷち女たちのロックバンド、結成!?

はたして翌日、コンビニには、元夫からの慰謝料で楽器を調達してきたかおりの姿が。かおりに惚れたらしい店長の勝田(六角精児)は、すっかり応援モードだ。リードギターは美恵子、キーボードはかおり、ドラムは雪見。ベースはどうする? 「バンドやろうぜ 35歳以上、女性」と貼り紙をした3人の前に登場したのが、バリバリのロックファッションと濃厚メイクをまとった女、新子(真矢みき)だった。元はプロのロッカーだったというが、どこか謎めいた新子の参入が決まり、猛特訓がスタート! バイトの高校生、石川(太田基裕)からの「うちの高校でやるチャリティ・コンサートに出ませんか?」という誘いを受けることにする。

エラそうな新子がカラオケでまさかの音痴ぶり(!)を披露したりと問題も多かったが、楽しく音楽に熱中する4人。ところが、夫とケンカをした雪見が、再び万引きをして捕まってしまう。雪見を迎えに行った帰り道、4人のお互いに対する不満が大爆発! 言いたいことをぶつけ合い、傷つけ合ってしまう4人。バンドは空中分解に……。

しかし、家庭での問題と向き合った美恵子は、家族を「取り戻したい」と切望。そのためにはコンサートに出ることが必要だと感じ、意を決して3人に宣言する。もちろん、3人だってやりたい気持ちは同じ。いよいよコンサート当日を迎えた4人だったが、そこにはとんでもないアクシデントが待っていた……!

 

まず期待していたのが、真矢みきの演技だ。器用な女優で、どんな役でもこなすイメージの彼女は、この映画でもつかみがすごく良かった。彼女ならではの表現力がなければ、興ざめになってしまいそうな設定を、見事に演じきっている。
 
そして、期待を全く裏切らなかったのが、西村雅彦だ。彼のしぐさは至極自然で、演技をしていると感じさせないところが魅力だが、この映画でもその実力を感じることができる。脇役であり決して出番は多くないが、彼の演技が出てくるだけで、この映画の価値が上がると同時に、この映画が本格的な人間ドラマであることを印象づけるのではないだろうか。
 
バンド活動の物語であるにもかかわらず、演奏シーンがほとんどなかったのだが、それが逆にこの映画にとっては良かったのではないかと思う。音楽をやっている人間からすると、演奏シーンのリアリティが非常に気になるところだが、演奏シーンは思い切りよく省いているので、純粋に話の流れを楽しむことができる。
 
最後のライブ演奏シーンも嘘くさい盛り上がりなどもなく、よく簡潔にまとめられている。この辺に星田良子監督の、リアリティを求めるこだわりがあったのではないかと想像する。
 

大人になると色々なことがあり、みんな臆病になる…。主人公がライブ演奏のシーンでそう言っていたが、確かにそうかも知れない。手が震えて止まらない、できるはずだったものができなくなる。周りはそれを笑い、シラケるという残酷さ。少し胸を締め付けられる部分だ。でも、彼女たちを大切に思っている人たちは、最後まで暖かいまなざしを向け続ける。
 
バンドマン的視点で言うと、使われている楽器や機材も気になるところだが、定番だけでまとめることなく、ちょっとマニアックな高級機材があったりもする。そういう楽しみ方もできる映画である。上映中、主人公の持つギターのヘッドストックから、どこのメーカーのものか考えたのだが、エンドロールで協賛企業を見るまで気がつかなかった!それは私も1本持っているメーカー…だった!
 
主題歌がZARDの「あの微笑みを忘れないで」なのは、映画を観るであろう30代以上の女性を意識してのことなのだろうか。「Smoke On The Water」の流れで、70~80年代の“クラシック”かつ“ハード”なロックの主題歌を期待してしまうロッカーもいるかもしれないが、バンド活動がモチーフの人間ドラマがメインなので、これでいいのだ。
 
バンドをやっていない人はもちろんのこと、バンドマンも非常に楽しめる、とても見ごたえのある映画であると断言できる。BEEASTの読者には、是非観てもらいたい!
 
 

■公開情報■

2月11日(土・祝)有楽町スバル座先行ロードショー
2月18日(土)全国ロードショー!
 
■キャスト・スタッフ■

キャスト:黒木瞳木村多江山崎静代真矢みき六角精児栗咲寛子
太田基裕相島一之赤座美代子佐野史郎西村雅彦

監督:星田良子
プロデューサー:井口喜一 宮下史之
原作:五十嵐貴久『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉文庫)
脚本:神山由美子
主題歌:ZARD
「あの微笑みを忘れないで」

◆2/11(土)有楽町スバル座 初日舞台挨拶の詳細のお知らせ
【会場】有楽町スバル座 03-3212-2826 
【日時】2月11日(土・祝) 10:00の回、上映後 (※本編より上映、11:55頃より舞台挨拶)
【登壇者(予定)】黒木瞳木村多江真矢みき栗咲寛子星田良子監督
※登壇者は予告なく変更する場合がございます。予めご了承下さい。
2月11日(土)初日舞台挨拶の回は座席指定券となります。
http://utahime-eiga.com/news/

※入場券はチケットぴあ【ぴあシネマリザーブシート】での販売となります。
購入方法など詳細は こちら


◆公開劇場一覧
http://utahime-eiga.com/theater.html

◆ウタヒメ 公式サイト
http://utahime-eiga.com/